嫌々暴れる銀狼になんとかメイクを施して、アマリリスとコハクは選抜へと向かった。
洞窟に残った私たちは千空の発案のもと、とある器具のクラフトを開始したのである。
「ミッション成功の鍵はこの科学のイヤリングだ。唆るぜこれは……‼︎」
千空の手に握られているのはアマリリスが持参した二つのイヤリング。それを使って何をするのかと頭を悩ませる暇などなく、私は千空の指示のもと銅線をぐるぐる巻きにしていく。
「科学のイヤリングって──」
「つけるとカワイくなるとか、そういうこと?」
「でもカワイイ選手権、もう始まっちゃうんだよ……?」
「だから超特急で巻いてんだろが」
「千空くーん、こっちもいっちょ上がったよー」
出来上がったのはイヤリングの飾り、と見せかけた銅線のコイル。
耳にかけるフックにはロッシェル塩を貼り付けて、電波受信用に石を取り付けた。
「それって、もしかして潜入ミッションの司令用に使う……」
「──インカム、かなぁ?」
「クク、大正解百億点やるよ。仕組みとしちゃ鉱石ラジオっつう奴だ。音はアホほど小せぇがな、インカムならむしろおありがてぇ。……一つは茉莉、テメェのだ」
「へ?」
「オメーはここで待機だ。っても何もわからねぇままだと不安だろ、持ってろ」
「……ありがとう」
こういうところだよね、なんでモテないの?いやモテるだろう?
はー、私じゃなかったらベタ惚れだぞ?おん?
作りたてのインカムを受け取り耳に取り付け、私はインカムをコハクに渡すために走り出したみんなの背中を眺めた。身動きの取れないわたしは居残り組だし、そのうち必要な工作があるなら連絡がくるだろう。たとえ一方通行でも、状況が分かるだけで大分精神的に楽でもある。
それから数十分はインカムから音が出ることはなくひたすらぼぅっと海を眺めて過ごし、ザザッと機械音が漏れたと思った矢先にゲンの声が私の鼓膜を振るわせた。
「ぅっわ、これはこれは──」
割と耳元で話しかけられてる感じに近い。
ゲンだったから耐えられた、千空だったら耐えられなかった。
うぐぐっと緩みそうになる頬に力を入れながらゲンの声を聞いていれば、コハクへの指示で思わず私は吹き出して笑ってしまったのである。
だってその要求が、『カワイイポーズして』だったから。
瞬間脳裏に思い出されるスイカポーズのコハク。ウィンクして、お可愛いコハク。
みたかった!とても見たかった!無理だとわかっているけれど。
ここに誰もいないことをいいことに私はニヤニヤと笑い、そしてそのまま彼らの会話を盗み聞きする。
といっても公認されてるから盗み聞きではないけれど。
『あ"ー分かってっと思うがな、科学王国はこっから俺ら科学チームとテメェらスパイチームで二手に別れて戦うことになる!』
「ブフォッ」
あかんて。
駄目だってコレは。
ゲンだから耐えられたと言うのに不意にインカムから聞こえ出したのは千空の声で、私の耳はもれなく死んだ。
推しのイケボを間近で聞いたらもう昇天するしかないじゃない。
両手を顔を押さえて悶えているといつのまにかコハク達への指示出しは終わっていて、不意に呼ばれたのは私の名前。
『茉莉、今から戻っからラボから鉄と銅線出しといてくれ。できる範囲でいいから無茶すんなよ』
「ハイィ」
返事なんか聞こえてないと分かっていても、耳元で聞こえてくる声にうっかり返事をしてしまう。
ヤバい、千空達が戻ってくる前に平常心を取り戻さなくては。このままだとまともに顔が見られない気がする。
私はいまだに悶えながら棒を使いつつラボに向かい、鉄と銅線を一ヶ所に集めておく。そして言われてもいないのにひたすら銅線をグルグルと鉄に巻きつけた。
無心になれ、私。
ニヤけるな、私。
なんつー凶器を渡してくれたんだよ千空さん。私のHPはほぼゼロよ。君の声でな⁉︎
ぐるぐるグルグル。
ひたすらに銅線を巻き付けること十数分。千空達はこの洞窟に帰ってきた。
「おかえりぃ」
「あー、帰った。ってオメェなぁ」
「やることなかったから、つい」
そういって私が差し出したのは二つの部品。
無心でできる作業知っててよかったよねと思う反面、先回りしてやってしまった感があって否めない。
千空はそれを使ってゲン達にモーターの仕組みを説明していき、私もそれに耳を傾けつつも、さらに鉄にグルグルと巻きつけて強力な電磁石を生み出すことに集中した。
「出たー!科学王国恒例超絶地道ドイヒー作業‼︎」
「でもコレがなきゃ科学王国って感じじゃないけどねぇ」
「もう、それ中毒じゃん!茉莉ちゃんはなんでいつもそうなの?」
「んー、単純作業は嫌いじゃないので」
ニコリと笑って私たちはそのドイヒー作業をひたすら続け、それが出来上がると今度はモーターのテストが行われたのであった。
「モーターのテスト用マシン。上手いこと作れてりゃ、強力電池で爆走するはずだ!」
「スイッチ、オン!なんだよ……!」
スイカがにこやかにモーターの電源を入れればそれは動き出し、この原始時代の人間には予測不可能な動きをする物体の完成だ。
「ん……ミニ四駆!コレはコレでなんか使えそうじゃない⁇連絡手段とかに……♪」
「爆走してても、コハクちゃんなら目で追えるだろうしね。ぴったりなのでは?」
ニヤリと私とゲンは目を合わせて笑い、そしてそれをネズミの形にさらに加工していく。
どう見ても顔はゴリラなのだが、戦車の時といい千空はゴリラがお好きなのでしょうか?
私、気になります。
そうして私はまたみんなを見送って、一人寂しくお留守番タイム。
やることない時間だから記憶の整理をしておきたいところだが、生憎記憶をメモしていた羊皮紙は船の上。こんな事になるのならば肌身離さず持っていれば良かったものの、まさか石化から逃れられるなんて思っていなかったのだ。
瞼を閉じて、私はかつての記憶を呼び起こす。
船に乗るつもりがなかったから、ここ数ヶ月はあまり記録を見返してなかった。抜けている部分が多い。
思い出せ、思い出せ。
このあと何があった?
コハクがプラチナを発見して、そして。
それが届けられて。復活液を作り出して龍水を蘇らせて。それから、それから──。
「あ」
銀狼が、死にかける。
「あ、あは──」
私はまた、誰かを見殺しにするのか。
インカムから千空の声が聞こえてくるのに、脳が言葉を拾わない。
だって、その事実に気づいてしまったから。
「なんで、石化させてくれなかったの……?」
こんな思いをするならば、知らないところで全て終わらせて欲しかったのに。
相変わらずこの世界は残酷だ。
そう思ったところで状況は何一つ変わらないのである。