嗚呼、尊死尊死。
推しと推しカプの傍が仲良くしてたら尊くないわけがない。
「トリカブト、誰殺すんだバカ!」
そう言いながらも大樹へ向ける視線は柔らかく、ふざけ合って言い合ってる感じが本当に尊い、ありがとうございます。
うっかり緩みそうになる口角に力を入れて無表情をキープし、野草の仕分け作業をサクサクと進めていく。
やはりというべきか、千空は大樹が起きてから私へ関わる事は少なくなりつつある。簡単な作業な場合は私を頼ることがあるが基本大樹ベースで、最近は革製品をつくることや狩りだけが私個人の仕事だ。今回のように毒性物質を採取してきてしまう大樹だけでは食事がままならないパターンがあるので私も採取に行くが、基本、千空の助手を務めるのは大樹に決まった。
キノコを木に刺して食事の用意を始める二人を他所に私は立ち上がり、荷物を持って狩りに行く準備をする。毎日獲れるわけではないが、罠を仕掛けたところへの様子を見に行くのだ。
「ん? 茉莉はたべないのか?」
「大樹君も肉食べたいでしょ? 取れたら仕留めてくるよ」
「なに! 茉莉は狩りもできるか! じゃあ狩猟は茉莉が担当だな!」
「ん、そういう事。 じゃあまた後で」
そうとだけ言うと投石器と石槍だけ持って二人から離れた。
狩猟担当などと言ってはみるが、実際のところ私が二人から離れたいだけ。私がいるために起きるイレギュラーを避ける為、これ以上の精神負担を避けるため。
私は千空を推しとして大好きだし、勿論大樹や杠、これから起きるであろう司でさえ好きな分類に入る。それは彼等の生き様が、存在が物語が、全て想像上の産物と知っていたから好ましかったからだ。
だが実際今私の目の前にいる千空たちはキャラではなく人間で、記憶がなかったら仲良くしたいほど魅力的な人達なのだ。
己の保身のために、未来を変えないためにと彼等を切り捨てる私が一緒にいるべきではないといつも考えてしまう。
「あー、記憶さえなければ楽しくやれたのかなぁ。 なんて戯言か。 記憶がなかったら目覚める事もなかっただろうし、目覚めてたとしてここまで生きてたとは言い難い。 全くもってきつい世界だわ」
せめて、もしくは、どうしたらなんて願望だけが脳内を埋め尽くす。
どうせ叶えられないと分かっているくせに。
センチメンタルに悩みながら狩りを終えツリーハウスへ帰ると、仲良く山葡萄を潰す二人の姿があった。
その姿を見た瞬間微笑ましくて、少しニヤリとしてしまった気がするがバレてないと思いたい。
「葡萄潰してワインでもつくるの?」
「嗚呼、アルコールがあればナイタール液が作れっからな。 で、だ。 土器名人の茉莉先生には作ってもらいたいもんがあんだが、任せていいか?」
「んー、いいよ、やる。 どんなの作るの?」
「蒸留する用の土器」
「あーあれか、一発で成功するかはわからないからね? あと図面書いといて」
確かめんどくさい形してたやつだと記憶している。普通の陶芸教室では絶対習わない感じのやつ、だったはず。
昔見たであろう漫画のイラストを思い出してみるも、曖昧すぎて怪しい。でもまぁ千空様に頼まれたら全力でやらせていただきますよ、はい。
私に出来るのは土器製作やらの生活基盤初期に関わる事ですので。それにそれくらいなら関わっても問題ないだろう。
むしろ三人しかいないのに嫌がったら確実に嫌われて死ねるわ。
「完璧なワインじゃないなら3、4週間ってあたりかな? それまでに作っておくー」
羊皮紙もどきに描かれた蒸留器を眺めながら、昔読んだ発酵漫画のことを思い出した。あれちゃんと読み込んどけばこのストーンワールドでも醤油とか作れたかななんて。
結局は意味のない世迷言だけど、こんな事を考えるか千空の顔がいいと考えることしか娯楽がないのだから仕方がない。
嗚呼、なんかまたセンチメンタルになってきた。故にお綺麗な神のことでも考えて仕事をしよう。
千空イコール私の精神安定剤となっていて、自分でも笑える事態だ。本当にどうしたもんだか。
脳内を推しで埋め尽くして作業すること3週間、完成した蒸留器は二つ。一個は予備でどちらかが上手くいけばいいと言う考えだ。
出来上がったばかりのワインを試飲させてもらうと、舌にざらつく苦味が残る。アルコールにはなっているが、ワインとしては残念なできとも言える。
「こっから先はちーと骨が折れんぞ。 『はじめようワインの蒸留!! ブランデーの作り方』だ」
そう言って千空が取り出したのは私が作り上げた蒸留器。ミジンコ体力の千空に運ばれるのは不安だが奪い返す訳にはいかず、そのまま運ばれていく。
「なァーに紀元前3000年メソポタミア文明の連中も土器で蒸留してたんだ、やってやれねぇことはねぇ。 唆るぜこれは!!」
ニヤニヤ笑う千空を前に上手くできるか不安だったが、割れることなく進み小さく息を吐く。
すると千空と大樹がよくやったと褒めてくれた。
君たちより3歳も年上なのだから子供扱いするなと言いたいところだが、今は有難くその眼差しを浴びておくとしよう。
それから季節は回り、ふわりと羽が宙を舞う。
何百回と繰り返した実験は最終局面を迎え、漸くソレは完成したのだ。
「教えてやるよデカブツ。科学では分からないこともあるじゃねぇ、わからねぇことにルールを探す。 そのクッソ地道な努力を科学って呼んでるだけだ……!」
大空に飛んでいくツバメを三人で眺めて、大声で叫ぶ大樹を眺め、そしてへたりと座り込む千空を私は見つめる。
「ファンタジーに科学で勝ってやんぞ。 唆るぜこれは……!」
ハイ、美しい横顔ご馳走様です。
私も貴方様に唆られていますごめんなさい。
「大樹、テメーのブドウの手柄だ。 最初に助ける人間くらいテメーが決めろ」
「ありがとう千空! だが茉莉も誰かいるんじゃ──」
「大丈夫、後からだって千空君が助けてくれるから。 だから大樹君先にどうぞ」
そして私に推しカプの需給してください。
釣り上がりそうになる頬を必死に堪え、私は大樹に気を使うそぶりをする。
そして大樹がならば杠をと言い出しことなきを得た。
早速杠の元へ向かおうと私まで大樹に手を引かれるがそれを断り、二人で行ってきて欲しい私は言葉を綴る。何故という大樹の問いには杠の復活パーティーをしようと、嘘をついた。
実際に分厚い肉でも焼こうとは思っているが、杠は復活しない。代わりに復活を果たすのは私の推しの死因を作る人間だ。
それを思うとちょっと胸が苦しくなって泣きたくなるが、避ける術を私は知らない。
私が一緒に行って獣を倒してしまえばその出来事は無くなるかもしれないが、私程度の人間が倒せるはずもないわけで、もし倒せたとしても今後の物語が全て崩れる可能性しかない。結局私にできることなんてないだろう。
「私はここで持ってるから、いってらっしゃい」
そう言ってにっこりと笑っては見たが、私は上手く笑えていただろうか。
こちらに手を振り杠の元へ向かう二人に私も手を振り、見えなくなったところで木下に丸まって固まる。
「どんなに頑張ったって、私にできることは限られてる。 むしろもうできることはない。 なんで私はここにいるんだろうね」
私の存在理由はなんですかなんて空に問いかけても、何一つ返ってくることはない。
主人公のメンタルは豆腐です。