凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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千空パイセンのターン。


70 彼女は笑みを張り付けて。

 

 

 

 千空にとって茉莉が無事にそこに存在していたこと、それはある意味幸運でもあった。何故ならば彼女はカセキと同じ技術者であり、クロムと同様に千空のサポートに徹することができる人間であったからだ。故に彼女が石化していないと知ったときは安堵の息を漏らしたものである。

 

 しかしながらようやく合流した茉莉は右足を引きづり歩き、あたかも平気そうに笑う。革靴を引き裂き出てきたその肌の色はどす黒く、折れていると理解しながらも弱音一つすら吐くことはない。

 千空は茉莉の頬がやや赤く染まっていると認識するや否や首元に手を置き、体温を測った。

 

「テメェ、やっぱり熱出てんな?」

「免疫反応ですかねぇ?でもまぁ動けないわけではないよ」

 

 そんなあたり前のことを聞くなというように茉莉は答え、千空は思わず眉を顰めた。

 別に動けるかどうかを確認したかったわけではなかった。ただ単に、熱が出ているのを黙っていた事に憤りを感じていただけで。

 それ何より、千空の知る茉莉であったのならば怪我をした段階で大泣きをする女の子だったのだ。気にしてしまうのも無理はない。

 

「ったく、現状に問題なけりゃ寝てろっていうところなんだがな。手が無事ならなんとかなんだろ」

「うっす、お役に立ちますー」

 

 細い足の曲線も、かつては小さくて柔らかだった足の甲も今はなく、目の前にあるのは程よく筋肉のついた記憶と異なる女の足。

 心配していた幼馴染の面影はいつしか無くなって、今あるのは見知らぬところで成長しきってしまったその姿形だけ。

 

 今更ながら幼き日々を共にした少女はもう過去でしかないのだと、そう気づいたところで何も変わりやしない。

 ただそれでも、千空としては心配していたかったのである。

 

 別に思ってもいないことを言いたかったわけでもない。手伝えればどんな怪我をしててもいいと思っていたわけではない。

 むしろこんな状況でなければ無理をするなと寝かせて様子を見ていたはずだ。

 でも今はそんな簡単な事すらできるかどうか怪しい。

 船に乗ったメンバーが石化してしまった以上、茉莉の器用さは必要不可欠だと千空は認識している。

 故に彼女にそう伝えるしかなかったと自分に言い聞かせた。

 

 案の定茉莉は千空の言いたいことを理解し手早くインカムを作り上げたし、千空不在の時であっても僅かな指示で電磁石を準備した。その結果、彼女の知る未来より早くミニ四駆は完成している。

 たとえ足が使えなくとも、茉莉という人間は充分に役に立っていた存在であったのである。

 

 

 けれども彼女はそれを知らないし認めない。

 この先どんなに茉莉が千空の役に立とうとも、彼女は自分の能力について認めることはないのかもしれない。

 それ故に、単純なところでその精神は崩れてしまうものなのである。

 

「おかえりー」

 

 ミニ四駆を走らせそれを連絡手段とし、直様コハクから返事を預かった千空達が洞窟に戻ればいつものように和かに笑う茉莉がそこにいた。

 

 何ら変わらない、いつもの張り付けた笑顔で彼女はそこにいた。

 

 きっとその表情の変化に気づいたのは千空とゲンの二人だけであっただろう。ソユーズは茉莉と話す機会はペルセウスに乗るまであまりなかっただろうし、スイカに至っては純粋に茉莉の変化に気づくことはない。

 ゲンはメンタリストとして人の表情の変化には気を遣って過ごしてきたから気がつくことができたし、千空に至っては無意識にソレは違うものだと断言できた。

 茉莉はここ一年ほど、作り笑いをあまりしてこなかった。自分が船に乗るとは思っていない彼女は一人のモブとしてのんびりと暮らしていたから、わざわざ作り笑顔を見せるほど自分の考えを隠そうとはしていなかったのだ。

 それ故に久々に見た目が笑っていない笑みが鼻につく。

 

 たった数十分で一体何があったのか。

 そんな顔をさせる何かがあったのかと問おうにも、彼女は千空達と目を合わせることない。

 それになによりコハクからの返信を見ない事には石化装置を奪うことはできないと、茉莉がそうなった理由を気にしながらもやるべき事に意識を向けた。

 

「こ、これは……?暗号⁇」

「バラエティ番組のパズルかよ‼︎」

「いやでもこれしかないんじゃない、ジーマーで。誰も文字知らないからね〜」

 

 コハクから届けられたそれには、四つのイラストが描いてあった。ゲンは推理していこうと提案し、コハクの気持ちに寄り添ってそれらの意味を考えだしていく。

 

「これ超〜分かりやすい⁇」

「超〜分かりづらい」

「で、しょ〜?ってことは分かりやすくできなかった。伝えたい単語の音自体がそもそも村人にとって耳慣れない。つまり科学用語」

 

 そこから推理すると最初の棒つきアイスのようなイラストは科学アイテムのプラスチックに。

 次の血文字の汚れは擦り付けたことから察して『ち』そのものを意味し、氷月のイラストは槍から発想を飛ばして『強い、長い、怖い』。

 ラストはエンジンのように見えるものだが、村人の印象にのっていたものとしては暖炉の方の可能性が高く、『だんろ、あつい、あったかい、ぽかぽか』の単語が割り出せた。

 そこから頭文字の一文字か二文字をとりつつ文章を考えていくと、自ずと答えは見えてくる。

 

 プラチナがあった、と。

 

「ククク、スパイチームが見つけやがったぞ。究極のお宝、プラチナをよ……‼︎」

 

 プラチナさえみつかれば復活液の量産は容易くなり、石化された科学王国総員の復活は約束されたものとなる。けれどプラチナが見つかったとしてそれがどんな状況で残っているかを考えると、思いつく保存方法はただ一つ。

 

「だとしたら、プラチナ保管されてんのはコンクリートの球んなかだろうな」

「コンクリートの、球……?」

「あ"ぁ、もし無事残ってんならな、ブッチ切りでお手軽確実な長期保存方法だ」

 

 それを叩き割りレコードを見つけた時のように中から出てくるだろう。

 とそこまで考え新たな問題が出てくる。

 レコードを見つけた際は力ずくて叩いて石を開けたが、敵陣のど真ん中でそんな事をすればすぐに気付かれる。かといってチマチマやってる時間はない。

 

「あ"ー、サイレントボムみてぇなもんがありゃな……」

「あはは、そうね。そんな都合のいい中二病の暗殺兵器みたいなモノあればねぇ〜」

「ん?」

「ん?」

「いやだから、実際リアルであるぞ、サイレントボム」

「あるのサイレントボム‼︎?んなまんまの名前のモノ⁉︎」

 

 正式名称、静的破壊剤。主に住宅街等で騒音を出さずにコンクリートを壊すモノである。

 

「となりゃ作るっきゃねぇか。──茉莉、手伝えっか?」

「んー、オッケー」

 

 そうして、漸く千空の意識が茉莉へと向かった。彼女はいまの今までおかえり以外の言葉を発することなく、彼らのやりとりをただ聞いていたのだが流石に呼ばれれば返事をするくらいの対応はできたらしい。

 けれど茉莉の視線はいまだ千空に向くことはなく、言われたままに作業はこなしていく。

 

 別にその対応に不備があるわけではない。

 視線が合おうと合わなかろうと、作業効率は変わらない。だというのに、無駄口ひとつ叩かない茉莉に対して千空の不満は募っていった。

 

「茉莉、なんかあったか」

「んー、何も」

 

 さも当たり前のように返された返事に、千空は奥歯を噛み締めた。

 

「じゃなんで、そんな顔してやがる」

「もともとこんな顔ですが」

「そうじゃねぇ」

 

 言いたいことが何一つ伝わらず、相手は聞く耳すら持たず。

 

「──茉莉」

「んー」

「俺を見ろ」

「んー?」

 

 やっと千空へと向けられた黒檀の瞳に、光を感じる事はなかった。

 

「なにか、あったのか?」

「何にもないよ」

 

 にっこりと茉莉は笑い、その後は千空の問いにも笑みでしか返さなくなってしまった。

 一体何があったのか分からないが、ただ一つだけ理解できた事はある。

 

 俺はコイツに信用されてねぇ。

 

 何も語られないほどに、心配すらさせてもらえないほどに。

 千空は茉莉に信頼されていないから話してもらえないのだと、ほんの僅かな痛みをその心に抱いてしまったのである。

 

 

 

 




このままやり気が続けば、八月中には宝島編終わりそう?
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