凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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72 凡人、呆れる。

 

 

 人の脳とは実に繊細なもので、相当のストレスがかかった場合はその記憶ごと抹消してしまうことがあるそうな。

 所謂解離性健忘と呼ばれるそれは、どうしようもない辛い体験を忘れて心を守ってくれる防衛本能。そしてどうやら私の場合は選択的健忘と言われる部分的な記憶の欠如があったらしい。

 

 でもさ、こんな時にそんな事思い出さなくてもいいじゃない。

 

 なんでさ今更思い出すんだよ、割れた石像(母親の顔)なんて。

 

 思い出したくなかったわ、そんなこと。

 クソみたいなことが続くと一周回ってある意味冷静になってくるようで、私はそれに気づいても取り乱すことはなかった。

 

 

「んっあ。……どれくらい、寝てた?」

「半日程度だ。で、体調は平気なんか?」

「──まぁ、ねぇ」

 

 思い出したくないものを思い出しちゃったけれど。多分コレは百夜から勝手に脳が連想ゲームした結果だと思う。

 もういない百夜さん。もう会えない親。砕けてしまって、風化したお母さん。そうなってしまったのは何のせい?と最悪の負の連想ゲームの完成。

 少なくとも守ろうとしなかった私のせいでもあって、子供の戯言だとしてもお母さんは信じてくれただろうにそんな事すら考えになかったのは私なのだ。

 アレを見つけてしまった時、私の脳は都合よく記憶を抹消したのだろうけれど。

 

 しかし最悪の連想ゲームの結果ここにきてようやく、私の脳みそは身内の命の上に立って生きていることを認めたのだと思う。

 だから思い出した、というわけで。

 思い出してしまったというわけで。

 

 うっかり泣きそうになるのを堪え、私は笑顔を作り千空に指示を願った。

 こんな時は体を動かすのが吉。何も考えずにできる単純作業が好ましい。

 

「……本当は休んでろっていいてぇところなんだがな。テメェ働いてた方がいいっつーんだろ。龍水、組み立てっぞ」

「──ワー、バラバラダァ」

 

 今、この心情にキッツイ作業がやってきた。けれどもやらなければ進まない。

 役に立てない私は、何でもこなさなければならないのだ。弱音なんか吐いてる暇はない。

 

「ちなみにコレで全部で?」

「今ゲンとソユーズが残りを運んでる。スイカはほれ、あそこだ」

「おー、なるほど」

 

 スイカはラボの中で何かを必死に作っていた。多分それは龍水の帽子であったり服であったり。

 私は健気なスイカを眺めながら移動し、龍水を組み立てる千空の隣に座る。そしてなぜか震えている手で石像を掴み取り、見慣れてしまったパズルに意識を向けた。

 嫌なことを思い出してしまったせいかぎゅっと心臓を掴まれたような痛みを感じたが、多分それは気のせいだ。

 気のせいということにしなければ、まともに石像と向き合えなくなるに決まっている。

 大丈夫と心の中で唱えておこう。

 

 カチャカチャと石同士を正しく組み合わせ、ゲンとソユーズが持ち帰ってきたモノも更に繋ぎ合わせていく。最終的には五人で組み立て、コレで完成とスイカが服を着せ帽子を被せた。

 

 プラチナを手に入れたことで量産できるようになった復活液の記念すべき一本目は、そのまま龍水に注がれる。そして石像は光を放ち、表面の石が砕けることなく素肌が現れていく。

 

「あれ、何コレ⁉︎いつものピシシシィじゃないの⁉︎」

「あ"ぁ、数千年たった石像はな、風化した表面だけ細胞が戻れねぇで剥がれ落ちんだ」

 

 石化して数日ならば、今回目の前で見ているこの反応こそが正しい石化解除の反応というわけなのである。

 龍水はそのまま順調に石化が解除され、数秒後にはパチリと瞬きをして高らかに声を張り上げた。

 

「はっはー‼︎感謝するぞ貴様ら。おかげで俺は!人類初の二回目復活者というトロフィーを手に入れたぞ!」

「龍水ー!」

 

 龍水に助けられたスイカは嬉しそうに跳ね上がり、私は龍水と目が合うと頭を下げる。

 心にも思っていないが、逃がしてもらったというのにヘマって怪我をしてしまったこととスイカを守れなかったことを謝罪した。

 

「面目ない」

「いや、あの状況で海に投げ込まれたんだ。怪我をしてしまっても致し方ないだろう。こちらこそレディにする扱いではなかったな」

「んー、怪我したのはそこじゃないんだけどなぁ。まぁ、投げられたのは驚いたけど」

 

 別に龍水は悪くなかったと握手をして仲直り?を果たし、私たちは次の行動を開始する。

 それは精密機器であるドローン制作だ。そのために必要なのが職人カセキであり、一同は一旦海へ繰り出した。

 勿論私はここでお留守番で、復活液の番をしながら彼らのお昼の準備を開始。

 

 案外思い出したくないこと思い出しても普通にできるんだなと思ったが、コレはきっと脳が未だに現実逃避している故の行動なのだろう。そのうちちゃんと理解したら、本気で泣き喚きそうで今から怖い。このままポンコツな脳であってほしいものだ。

 

 出来上がった硝酸にアルコールを混ぜつつ同時に貝を煮て、それからぼぅっとみんなが帰ってくるのを待って。

 みんなが帰ってきたらスイカにさきにご飯をあげたら、私も酸素ボンベ作りに精を出す。

 はんだ付けならやったことあると千空に伝えれば、手袋を渡されてラボカーの配管から千空と共にボンベ二本を同時に作っていく。

 

「まさかと思うが、それをボンベにするのか⁉︎空気圧に耐えるのか……?」

「あ"ー、試したことあんだよ。意外といけんだこれが。フリンジ留めて隙間にビッチリはんだ付けしとくだけでも100気圧くらいまでならギリ耐える」

「良くわかんないけど、そっか。千空ちゃんロケットエンジンとか工作してたんだもんね……。ってか、何でそれに茉莉ちゃんがついてけるのかも不思議だけど」

「んー、千空君ができるっていうならできるだろうし。はんだ付けはまぁ、やったことあったから」

 

 今世でやった記憶はないけど、あると認識しているし前の人生で何かしらやってたのだろう。詳しいことは気にしたら負けだと思うので気にしない。

 

 それからまたラボカーを解体し部品を集め、空気入れを作り出したら今度はひたすらシュコシュコと空気を入れていく。

 最初のうちは私とスイカで行い、徐々に男性陣に入れ替わる。そして十気圧程度からソユーズ一人でやるのも限界になりつつあり、五十気圧で男四人の全体重をかけるようになった。

 空気を溜めることは熱を溜めるということになるのでスイカはひたすボンベに水をかけ、私はその間に竹を加工したり足ヒレを作ったりと割と忙しなくはたらいた。

 

 そして私達は約十時間かけて二本の酸素ボンベを作り上げたのである。

 

 




アンケートのご協力、ありがとうございます!
本日夜には締めて、コネコネして書いていきます。
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