私は翌る日も必死に石像パズルに精を出す。そしてとある石像をキチンと元に戻した後に大量の布を隣に用意し、くるくるっとワカメを巻いていく。
準備が整うと少し遠くにいた大樹を呼んで、復活液を渡して頷いて見せた。
「やっぱり大樹くんでないと」
「──うむ!じゃあいくぞ!」
パシャリと復活液を頭からかけていけばたちまちその石像、杠の石化は解けていき、抱きつこうとした大樹はぴたりと動きを止めて握手を求めた。
「親しき中にも礼儀ありだからなー‼︎」
「ホバーハンドの中学生かよテメェは」
「ちゃんと目を逸らしてるところも大樹くんぽいけどねぇ」
久々の大杠の供給に内心ハスハスしながらも杠へ針と糸を渡し、復活したてで悪いが服を繕ってもらうこととなる。
私が作るよりもずっと早く綺麗にできた衣類を纏った杠は、その後も復活メンバーの衣類を量産していってくれる。やはりというべきか杠がいるお陰で服を奪い取られた人たちのワカメ復活率は下がり、その中にはソナーマン羽京の姿もあった。スイカの手によって作られた紙の帽子もなかなか素敵だが、流石に服まで紙では作れない。
それ故に、事前に布を杠の元へ集めておいたのである。
「ヤベー‼︎石化初体験だぜ!こんな感じだったんだな!」
一際嬉しそうに復活したのはクロムで、彼の周りにはハートが飛んでいるように私の目には見えた。その反応に是非ルリと共にいる時にもハートを撒き散らして欲しいと願ってしまうが、千空と同じで恋愛脳がバグってそうなクロムだもの。そう上手くはいかないのだろう。
クロムと羽京の復活を喜ぶ私たちであったが状況は淡々と変わっていき、復活者が集まるその洞窟に訪問者が訪れた。
それは後宮にいるはずであったアマリリスで、その口からはコハクと銀狼に何があったかが語られることとなったのである。
後宮に侵入したスパイチームの中で最初に声がかかったのは銀狼であった。
銀狼は嫌がってはいたが千空から預かった兵器を使い、色んな意味でギリギリのところで秘密を暴くことに成功。またほぼ同時刻にコハクとモズの乱闘が始まり、モズの戦闘能力の高さをコハクとアマリリスはその身を持って理解させられた。
この状況をどうにかしようと考えたところで非戦闘員のアマリリス一人で出来ることなどなく、そのままイバラに襲われて怪我をし落ちていく銀狼とそれを追うコハクの姿を見送ることしかできなかった。
アマリリスはその後すぐさま戦士達の目を盗んで二人の元へ行くことはできたが、コハクから頼まれたことは傷の手当てでもなければ仲間を呼ぶ事でもなく、銀狼が文字通り命がけで暴き出した真実を千空達へと伝える事。
銀狼を抱えて木を駆け上るコハクを目で追って、今度はイバラを騙すために目を伏せて。
石化された二人が作ってくれた僅かな隙をついて、この洞窟までその事実を伝えにきたのだと。
「銀狼は頭首様の石像とソユーズが似ていると言っていたみたい……」
「じゃあソユーズって、頭首様の一族の人とかだったんだよ……⁇」
「似てるというのも銀狼の見立てだがな」
「あ"ー、んなこた今とやかく想像しててもしゃあねぇ。それよか知りてぇのは敵の戦力&内情だ!」
私達にできることといえば、アマリリスの持ってきた情報から頭脳戦で勝機を掴み取るしかないのだ。
ありがたい事に五知将と呼ばれた五人がそこにいて、わかっている情報もある。
例えば連続して石化武器を使わないことからソレは一つだけしかないと推測できる。またそれを投げられるのもキリサメただ一人。
「すごく大事なことを確認したいな、アマリリス。キリサメが投げた石化武器はコハクちゃんたちの上から炸裂した、だよね?」
「?そうだけど……」
「──そっか、キリサメちゃん。わざわざ頭首様を避けて投げたってことは……」
「あ"〜、これもアホほど重要な情報のピースだ。キリサメは頭首が石像だと知らねぇ……!」
そうそれな。
キリサメは知らないから従ってるだけなんだよなと考えたところで、私の脳はとある場面を思い起こした。
「んーそうなんだけどさ、良くわかったね。なんで?」
「あ」
そういえば、こんな場面ありましたよね。
思い出すのがいつも遅いな、私の脳みそは。使い物になんねぇじゃんよ!
「…モ、ズ……‼︎」
海を背にしていたアマリリスと、その横に座っていた私の背後から現れたのは長身の男、モズ。
羽京の耳でもこの至近距離まで気付かれないように近づけるあたり、手練れと言っていいほどの実力者なのだろう。
皆を庇おうとした大樹はあっさりとモズの槍捌きで後方へ飛ばされ、たまたま掴みやすそうな位置にいた私はグイッと肘で首を抑えられて動きを封じられる。
足の怪我の代償が人質とか、ほんとうに笑えないのだが?
もっといえば、若干体浮いてて苦しいし心臓があり得ないほど恐怖で脈を打っているので早急に離していただきたい。
「──っ、ケホ」
「茉莉っ──」
「大樹くん……っ‼︎」
吹き飛ばされた大樹はそれでもなおモズと皆の間に立ち塞がり、私はなす術無く捕えられたまま。モズは大樹の耐久力を褒めたが、そんなモノ無意味だと、ここからどうするつもりなのと言い放った。
そして私ただ己の無力さと、結局は足手纏いにしかなってないのだと認識せざるを得なくなっているのである。
「ゴメンなさいっ、私がきっと尾けられちゃったから……」
アマリリスは素で泣き出すし、私はそれを見てさらに顔の筋肉が強張っていくのを感じる。本来ならば人質なんていなかったはずなのだ。だというのに私が存在していて、そのせいで不利な状況になる事もないとは言いきれなくて。
考えて、怯えるのをやめて、どうにかして。この状況を打破しなければならない。
私がいたせいで誰かが傷つく未来だけは避けなくてはならない。
考えろ考えろ、脳を働かせろ。
コソコソとクロムと話すゲンに視線を向けたり、こちりを睨んでいる千空をみたりするが良い案は浮かばないし、助けを求めるのも違う。
この状況で助けて欲しそうにすれば、こちら側に不利な条件を出されるかもしれない。
とりあえず、ニコッと笑っておこう。
大丈夫、大丈夫。私は平気、平気。
今まで生きてきてもっとやばいことなんて山ほどあったじゃないか。木から落ちて救急車で運ばれたり、自分で作った干し肉に当たって腹下したり。三年間肉食動物もいる森でサバイバル生活とか。本気で死にかけたことはギリギリないけれど、それ相応の恐怖は体験している。
モズだって人質をとってはいるが、まだ殺そうとしてる訳でもないのだ。
だから大丈夫、大丈夫。
あ、でも流石に苦しいのは辛いので首は緩めていただきたいです。
「──くる、しい。ゆるめッ」
ポンポンとモズの腕を叩き不安を表せば、案の定まだ殺す気はないだろうモズは腕の力をゆるめてくれた。
よく出来る人質ならばその隙を見て逃げ出すのだろうが私に出来るはずもなく、息を整えてことの成り行きに合わせるしかない。
自信なんか、ないけれど。
「ね〜ぇ、ちょーとだけ!ちょびっとだけ待ってよモズちゃん♪悪い話じゃないのよコレ‼︎俺たち科学王国とモズちゃんで手ぇ組んじゃうって唆らない……?」
目の前で始まったゲンの交渉術と
「モズちゃんとオレら妖術使いが組んじゃえば、この島の支配権だって後宮だってぜ〜んぶゲットできちゃう♪そう思わな〜い?ね、茉莉ちゃんも思うよねぇ?」
「そうだねぇ、できちゃうカモー」
これでいいですかね、メンタリスト。
私に交渉術を求めないでください。
「だってホラゴイスーに強いじゃない?モズちゃんってば。イバラちゃんとかその辺の兵士が強さ100としたら、モズちゃんなんてもう150くらいあったりとするんじゃないの……⁉︎」
「え、スゴーイ!頼りにナルー」
「……んーもう少し、差あるかもね」
「え〜、そんなに最強なんだったらその気にならばイバラちゃんなんかすぐ倒せちゃったり……」
出来る訳ではないんだよなぁ。
「君らを皆殺しにするか、イバラを殺すか。んー、どっちかな。まぁ、殺すなら殺すで話聞かせても問題ないのか」
モズ曰く、頭首を石化させた黒幕はもちろんイバラ。でももう年だしそろそろくたばっていただいて、自分の園を作りたいと。
何だろな。
あんなに優秀な人たちの遺伝子から出来ているというのに、イバラとかモズとかのちょいちょい欲に従順な人が生まれるもんなんだね。
いや、知りたいの欲で宇宙に行った人らの子孫だもん。そりゃあ欲深いか。
「ククク、じゃあ何でとっととイバラをブチ殺さねぇんだ」
「あの石化光線さえなきゃとっくにやってる。石化武器預かってるキリサメちゃんは結構強いからね」
つまりはジャンケンのような関係性。
イバラにモズは勝つけど、モズは石化させられるキリサメには勝てない。キリサメはイバラが頭首様の為に石化させてると思ってるのでイバラには逆らわない。つまりは勝てない。
頭はいいんですね、イバラさん。
「つまりモズ、テメェは石化光線が邪魔。俺らは石化光線が欲しい。100億%一致してんじゃねぇか利害はよ」
「そーなの!俺らが欲しいのは石化武器♪取引って対等にすべきでしょ?モズちゃんは島牛耳って後宮ゲットすればいいじゃない♪」
モズが後宮を手に入れる為に妖術は提供するけど、石化武器だけは絶対に欲しいとゲンは強調しながらモズにいいより、私も腕の中でウンウンと頷いておく。
ソロソロ抜け出してもバレないかなとは思ったがへんに行動してややこしくなっても困るし、私はもう少しだけこの場で我慢する事に決めた。
「対等?んー、いらないよね条件なんて。武力で優位なのは俺なんだから、君らは俺のために妖術で働く。石化武器も俺に渡す」
「サスガー!絶対的強者の権限ってやつですネ。ステキー」
「……君、なかなか分かってるね。名前なんていうの?」
「茉莉デス。ハジメマシテ、戦闘センスマシマシのお兄さん。挨拶のついでに苦しいのでもうちょい緩めていただいても?」
「……ま、いいよ」
「アリガトウゴザイマス」
じとっと私を上から下まで眺めたモズは、人質として役割はもう終わりだと呆気ないくらい簡単に解放してくれた。
ゲンの話術のおかげで殺すかどうかではなく、手を組むか組まないかの話になったからこの程度で済んだと安堵の息を漏らし、ぴょこぴょこと移動して大樹の後ろに隠れて座り込んだ。
頑張って平気そうに取り繕ってはいるが心臓は破裂しそうなほど早く脈打っているし、ぶっちゃけ恐ろしくはあったのだ。
何せあの氷月たんと一時的だが対等に戦う相手だぞ?
私なんて瞬コロっすよ。
あとはゲンと千空に話し合いを任せておけば間違いないと、私は杠の手を借りてさらに後方に移動する。そして右耳につけてあったインカムを千空に渡して欲しいと頼んだ。
「手を組むなら連絡手段必要でしょ。一から作るよりは使ってもらって?」
「うん、渡しておくね」
私に気を遣ってか杠は無理やり取り繕った笑みを見せ、千空の元へと戻っていく。
それと同時に今度は羽京が私の隣に現れて、相変わらず肝が据わってるねと、多分褒めて?くれたのである。
「怪我をした状態で人質になってるのに、笑って、それも相手を褒めてやり過ごすとか普通できないよ?よく頑張ったね」
「──出来る女はサ行で転がすものだっておば様から教わったし」
「おばさま?サ行……?」
「サスガー、シラナカッター、スゴーイ、センスアルー、ソウナンダー」
「──合コンかな?」
「さぁ?……ま、私がうっかりブチ殺されたら同盟もクソもなかっただろうし、なけなしのプライドも捨ててたわけですよ。全く」
困ったものです。
そう言って無理やり震えている両腕を押さえ込んだ。
モズに拘束されている時は震えなかったというのに、今更震えるとはなんたる不覚。
「──茉莉、本当に頑張ったんだね」
「頑張らなきゃ、ダメでしょ」
頑張ることしか、取り柄なんてない凡人ですもの。みんなが不利にならないように頑張りますとも。
それだけはちゃんとしておかないと、本当にここにいるのが辛くなっちゃうじゃないか。