凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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78 凡人、量産する。

 

 

 あんだけ泣いたお陰か、その日私は珍しく熟睡することができた。夢を見たかどうかもわからないレベルの熟睡なんていつぶりだっただろう。

 それにちまちま目覚めることなく長時間寝るなんてここ数ヶ月なかった気もする。認めたくはないが、やはり泣くことは人にとって必要な事だったらしい。特に私のような弱い人間にとっては尚更だ。

 

 だがしかし、これはコレそれはそれ。そう簡単に泣いてはやらぬ。今回泣いてしまった分涙腺が緩んでいる気もするし、なるべくギュッと結んで今後も泣かないように努めていかなくては。

 

「──あ"」

「ん?なんかあった?」

「あ"ぁ、テメェの言ってたことが今わかったわ」

 

 私がギャン泣きした翌る日の朝食中、千空はインカムを取り外しながら眉を細めた。その様子から察するに、定期連絡的なやつが飛んできたのだろう。

 

「茉莉、テメェはコレをどう考える?」

「あー、よく出来てるなと思ったよ。わざわざセンクウの声に似せてくるって事は声のサンプルはひとつしかないのかなとか思えるし、今まではソレがないから対話できなかったともとれるしねぇ」

「……テメェにはコレが俺の声を似せたもんだって思えたんだな?──ビビんだろ普通、知ってるやつの声でんな事言われたら気色悪りぃ」

「まービビリましたが?でもまぁ、アレだよアレ。ボカロっぽいじゃん。変な機械音っての?人ではないのはなんとなくわかるでしょ」

 

 どんなに神調教であったとしても、ボカロって独特なもんがあるもの。気づく人は気づくもんだよ。羽京だって気づいてたわけだし、現代のバーチャル歌姫を知ってる人間が聞けばなんとなく分かりそうなものだ。

 それに何より私が推しの声を間違えるとでも?間違えませんよ。むしろホワイマンさんはそのセンクウポイドでなんか歌ってくんねぇかなぁ。無駄に電波に流してくれ。

 

 まぁ、それはともかく。

 

「──それ、私が預かっておいていい?定期的に電波飛んでくる可能性があるなら聞いておくよ。その方が規則性とかわかって合理的でしょ?」

「まぁそうだが、平気か?」

「問題ないよ、別に始終声が聞こえるわけじゃないんだし合成音だとわかってるわけだし」

「じゃあ任せるわ」

 

 すちゃっと千空によって右耳にインカムは設置され、私はホワイマンの監視員?になったわけである。

 コレで合法的に推しの声聞き放題だぜ!とテンションが若干上がっているが、それがバレると碌な事はないだろうし真顔をキープしておく。変に顔を作ると千空パイセンにはすぐにバレるのだもの、真顔が一番なのだ。

 

 

 その後私達は当初の予定通りにクロムやカセキを起こしに向かった。

 ぱしゃっと復活液をかければクロムはガッツポーズをしながらイバラに千空が勝ったことを喜びハイタッチを交わし、私はその隙にカセキに復活液をかける。約一日ぶりにあったカセキにもご苦労さまと声をかけて、そのまま次の人へと向かった。

 感動的な再会は全部千空に任せておけば問題ないと金狼とマグマ、ゲンを起こして千空の元へと向かわせて、私はそのまま復活作業を続行していく。石像を集めておいたためわりかし簡単に進んだが、ある程度進んだところで復活液がなくなり一旦作業は終了。

 その時点でのメンバーは私と千空を含めた十名。ニッキーと私、多分フランソワもアンモニア採取からは外されるとして、これだけいれば順調に復活液作りも進むだろう。

 

「茉莉!アンタ、足治ったんだね!」

「石化のおかげでね。だから働けなかった分働くからよろしくねぇ」

「ご無事で何よりです。それでは私たちは何を──」

「私とフランソワさんは当分みんなの食事係かなぁ。ニッキーちゃんはパワーチームとして船の修理に回ってもらうかもしれないけど平気そう?」

「任しときな!」

 

 ドンと胸を張るニッキーを頼もしく思いながら千空の元へ戻れば、そっちもそっちで話が終わったようである。

 

 私たちは二手に分かれその後の仕事をこなしていく。勿論私はフランソワと共に皆の食事面のサポートに周り海に潜って魚を捕ったり貝を採ったり、誰もいない村に潜入して悪くなりそうな食べ物を率先して集めていく。

 一度どうせ腐らすなら食べた方が合理的でしょと笑ってみれば、ゲンが若干引き攣った顔をした。解せぬ。

 

「にしても、茉莉ちゃんはもう復活液のエキスパートだねぇ」

「ま、任されてるからね。って事でアンモニア頂戴」

「……茉莉ちゃん、俺的にはもう少し恥じらいが欲しいかなぁなんて」

「恥じらっても誰も復活しないんだなコレが」

 

 さっさとよこして下さる?とゲン達にアンモニアを催促して恥ずかしそうにしているゲンからまとめられたブツを受け取り、そのまま硝酸作りを続行。

 フランソワと一緒に食事を作ってはいるが、杠やスイカを復活させたあたりから私の仕事はほぼほぼ復活液作りに時間が当てられるようになったのだ。流石に島人全員復活させるのだから復活液は大量に必要になるわけで、船の修繕と共に同時進行しなければどうやって時間が足りない。そのため復活液作りが仕事となったのである。

 しかしながら復活液はまだまだ足りないので、当分睡眠時間減らすかと頭を悩ませているとゲンが私をじっと見つめていた。

 

「なーんか茉莉ちゃん、顔色良くなったね?何かあった?」

「んーまぁ、色々とあったよ」

「もう大丈夫そう?」

「それなりに。働けなかった分、働くからね」

「……無理しないでね?」

 

 何がどうなったとは言わないが、メンタリストであるゲンには石化前の私の不調がバレていたのだろう。それが石化復活後なくなれば気になりもして、でも直接どうしたって聞くわけでもなく。

 そういうとこがみんなに好かれるんだろうなと思わずにいられない。

 私は千空推しではあるが、まぁ、ゲン推しでもあるというか所謂箱推しで。

 そういうところいっぱいしゅき。

 

 そんなこんなでみんなの無事を確認しつつ、改めてみんなが好きだなと思いつつも数週間かけて乗組員全員を起こし船の復旧作業を進めていった。

 そうしてようやくペルセウス号の勝利の凱旋航海までありついたのである。

 

「千空ー!海の底に沈んでいた彼女はどうするんだー⁉︎」

「あ"ー、一旦引き上げておけー」

 

 大樹によって引き上げられたのはイバラの被害者であるキリサメだ。

 彼女の衣類はなぜ透けないのだろうかと疑問点はあるが、今はそこに突っ込んでいる場合ではない。

 私は千空にお好きにどうぞと復活液を一本差し出した。

 

「テメェからしたら知らねぇ奴だが、使って問題ねぇのか?」

「乗組員はほぼ復活したし、残りは後宮に行った二人だけなんだよ。だからこっからは島人にわりきってかないとね」

 

 とそこまでいえば私の言いたい事を理解した千空は喉を鳴らして笑い、石化したキリサメの元へ向かった。

 本当に、察しの良いリーダーでお有難い。

 

「敵だろ?どうするよ復活させるかさせな──」

「んじゃブチ殺しとくぞ」

「人殺しに迷いがなさすぎない⁉︎──ってこっちはこっちで迷いゼロ‼︎」

 

 キリサメを復活させるかどうか迷っているクロムとぶち壊そうとするマグマ。それを止めたゲンを他所に千空は復活液をかけていき、彼女に対して後宮の石像をどこに捨てたかを問うた。

 勿論それは怪我をして石化させられた銀狼とコハクのことである。

 キリサメの答えを聞くや否や私達は二人が待つ場所へと足を運び、怪我をしていた銀狼に新しい服を着せて石化解除に挑んだ。

 

「一か八かの賭けだったのに変わりはないのだ!」

「この銀狼の傷、本当に治るのか?」

「ククク、復活液の修復力なめんじゃねぇぞ。そこに完全復活した茉莉がいんだから問題ねぇだろ」

「石化解除と共に足の骨くっついてたよー」

 

 先に石化が解かれこうするしかなかったのだとコハクは言い、金狼は銀狼の怪我が本当に治るのか心配している。

 しかしながらそんな心配は無用だ。何せちょびっとだけ石化が残っていた千空は生き返った経験があるし、見ての通り私の足は自由に動いている。千空が自分で行った実験を知らないとしても、目の前に怪我が治った私がいるのだから心配はいらないと私は二人に声をかけた。

 

 ぱしゃっと復活液をかければあっという間に銀狼は復活を果たし、お腹にあった傷も綺麗に治っている。安心して泣きそうな金狼から私はそっと目を逸らし、コハクに抱きつこうとする銀狼を呆れた顔で眺めた。

 

「ありがとぉぉおおお!コハクちゃぁぁぁぁいん」

 

 ドゴっと綺麗なゲンコツが決まり、銀狼の頭にはタンコブの山が出来上がる。

 石化しようがしなかろうが銀狼はいつも通りだったと安心して、私達は互いに視線を合わせた。

 

 そして──。

 

「あぁぁあああ!ずるいぃぃい!千空だけなんでェェエエ⁉︎」

 

 千空とコハクの抱擁、まじで尊い。ご馳走様です。

 キリサメが二人から恥ずかしそうに視線を外し、アマリリスは二人はそういった意味でのハグではないと意味深げにつぶやいた。

 いやね、それでも尊いからいいと思うのよ私は。

 

 てぇてぇ。まじてぇてぇ。

 

 ニヤニヤとしそうな顔を必死に耐えながら微笑みに変えているとうっかり千空と視線が合わさり、そのままコハクに何かを耳打ちしてニヤリと笑われた。

 

「茉莉ー!」

「はぎゃっ」

 

 そうしていきなりコハクは私に抱きつき、頬ずりをしたのである。

 

「足が治ったようで何よりだ!もう痛みはないか?」

「問題ないよ。って事で離れてクダサイ」

「千空が茉莉も頑張ったのだから抱きしめてやれと頼んできてな。全く、自分でやればいいものを」

「多分、そういうのじゃないと思うヨ」

 

 クソゥ、あの顔は楽しんでやがる。

 やっぱり真顔じゃないとニヤけ面は隠せなくなりつつあるのか。最近の推しが察しが良すぎて困る。このオタ心だけは隠し通さなければ。

 

「ま、そんなことよりコハクちゃんが無事で良かったよ。お帰りなさい」

「あぁ、ただいま茉莉」

 

 ニコッとコハクが笑えばスイカとニッキーまでもが加わり、それを羨ましそうに銀狼が見ていたのはいうまでもないだろう。

 

 だがしかし、それを微笑ましそうに見ないでくれますかねぇ⁉︎

 そういうとこだぞ千空!私はもうバブじゃないからな!

 

 

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