凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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79 凡人、告白する。

 

 

 

 ペルセウスの修復がほぼほぼ終わったその日の夜、乗組員が船の上で楽しそうに歌い踊ってる最中何故か私を含めた主要メンバーは通信室へと集まっていた。

 

「来たァア!来たぜ電波!」

「直っちゃったわーい!通信装置!」

 

 破壊されていた通信装置を直し終えると千空はそのまま本土へと連絡をとり、私達が石化中にきた通信の理由を問いかける。

 

「あ"ー、聞こえてっかルリ?楽しい思いで話は後だ。用件あんだろ言え。まぁ、なんとなく察してはいるがな」

『千空、あなたが不思議な通信を──』

 

 ルリと会話を始めるや否やそれを阻むかのような雑音が入り、私と千空以外は皆不安そうに顔を歪めた。

 その正体を知っているものはもちろん私だけで、私がほぼ毎日聞いているもの。

 そして、千空もすでに理解できてしまっているものでもあった。

 

「通信が遮断された⁉︎別の強力な電波で……」

「別のって!俺ら以外人間いないはずなんだから、それってもう……!」

「ホワイマン、さんからなんですよねぇこれが」

 

 ボソリと呟いたはずの私の声が、やけにその場に響いた。

 

『12800000m 1second』

 

 それは石化を発動させる魔法の呪文。

 地球全体を覆える数値。

 

「ダメ‼︎ 石化装置を──」

「あ"ー、わかってる。死んでもスピーカーに近づけやしねぇよ。しかしまぁ"いつも"と違う時間に電波飛ばしてくんじゃねぇか」

「まぁ、こっちが通信してきたからそこに被せてきたって感じじゃないかな。盗み聞きし放題なのかねぇ?」

「違ぇねぇな」

 

 周りがホワイマンの意図を考える中、千空と私は淡々と会話を続けていく。

 もうどうにでもなれと千空の思考に私の意見を乗せていけばぎょっとした顔でゲンは見てくるし、羽京も龍水も何故それを知っているのかと問い出したそうな顔をしているではないか。

 故に私は右耳に付けてあるインカムをトントンと触り、その意味を教えたのである。

 

「復活してからずっと聞いてんだよね、この声」

「ちなみに12800000mは地球の直径な」

「んでもってセンクウそっくりの声で真似してくるんだよ、ウケるよね?」

 

 ハハっと笑って見せるとコハク達はさらに驚き、何故今の今まで教えてくれなかったのだと声を荒らげた。

 千空は一人一人に知らせたところで時間がかかるだけだし面倒だから通信のくる時間に合わせて全員に聞かせちまえばよかったと答え、私はそれに同意しつつ今回のコレは予定外でもあったとも伝える。

 

「ルリからの通信はこの事じゃねぇ可能性もあったから繋げたが、上手い具合にアチラさんが盗み聞きしてくれたおかげで無駄な労力がさけたしお有難てぇこったろ」

「でもまぁ、みんなを混乱させるつもりはなかったんだよ本当に。ホワイマンさんがついつい予定外に出てきちゃっただけで、私達も想定外だったからね?」

 

 本当に驚かせるつもりはなかったんだよと謝ればなら仕方ないとコハクは納得したが、それは一部の反応でしかない。

 羽京に至ってはじぃっと私のインカムを睨んでいるし、龍水はホワイマンが敵意を持ってやっているとするならば更にボロが出るのではとさらに思考する。

 

「……もし平気だったら、僕にもそのインカムを貸してくれないだろうか。茉莉は千空の真似をしていると言っていたけれど、一応僕の耳でも確認したい」

「んー、どうぞ。あ、でも確認し終わったら返してもらってもいいかな?」

「それは、どうしてだい?」

「規則性があるから、いい時計がわりなので」

「っはは!茉莉らしい考えだね。──普通なら、怖がるでしょ」

「もうなれたので?」

 

 本音を言えば千空から貰ったものだから手元に置いておきたいし、センクウポイドの声もまぁ気に入ってる。故に手放しにくいのである。

 

 私は羽京にインカムを渡すとそろそろお暇してもいいものかと千空に許可をもらい、そのまま誰もいないであろう寝台部屋まで向かった。

 殆どの乗組員は甲板で騒いでいるし主要メンバーは通信室にいるわけで、一人なれる時間があるとしたら今しかない。

 足早に寝台まで向かい私のベッドの底をガサゴソと漁れば誰にも手をつけられていないであろう記録の束が残っており、周りに誰もいないことを確認してそれを開く。

 宝島編は怪我をしてほぼ関わりがなかったから変な改変はされてないと思うが、一応記憶がまばらだし確かめておいた方が良いだろう。

 

 左から右へと文字を追いながら記憶を照らし合わせてみると、今の段階でそれほどまでの相違点はないが通信の件は若干違う。これはまぁ、あの時知らんぷりしていたらそれはそれで勘の良い人には何故言わなかったと攻められそうだから致し方ないと諦めておこう。

 ホワイマンの場所まではインカムでわからなかったわけだし、そこらへんで帳尻を合わせていけば問題ないだろう。

 

「って、やけにプラスに考えられてるなぁ。やっぱり泣いたから?」

 

 泣く前だったらここが違う!と狼狽えてそうだが、なんとなく今はしょうがない事だったと諦めがついている。何せ千空が一番初めに私を起こしたことから違っていたのだから、私にはどうしようもないだろう。

 

「んー、となると問題は……」

 

 私が知る未来が、後わずかであるということ。

 宝島から本土へと戻れば司は復活するし、そのあとはアメリカへ向かうこととなる。そうなると千空の師であるゼノと軍人さんにも会うわけで。

 

 つまりは、千空が撃たれるわけで。

 

 なんやかんやでアメリカ居残り組と軍人から逃げる組に別れた記憶はある。

 だがしかし記録として残っているものにも私の記憶にも、あまり詳しく書かれてはいないのだ。

 何せ私は娯楽として読んでいただけで記憶しようと思ってこの世界の出来事を読んではいなかった。読み返しの少ない出来事に関しては記憶しておくのが難しかったのだろう。

 故にわたしが知り得る未来で重要となる出来事は『千空が撃たれる』ということだけ。

 それ以外はワニバーガーしか覚えていない。

 

「むー、これは、ヤバい」

 

 覚えていないということは、知らないということは。

 私という存在がこの世界に関与してしまう可能性があるということだ。

 

 今更ながら本土に残りたいなぁっと千空に伝えたところで許可してくれる気もしないし、なんなら復活液も作れるようになってしまった故にアメリカを復興するぞと助手として連行される気もする。

 つまりは逃げ場は用意されていないのでは?

 

「あー、どう足掻いても、ヤバイ」

「何がヤベェんだ?」

「っ!──いつからそこに?」

「あ"ー、今さっきだ。で、何がヤベェんだ」

 

 いつの間にかそこにいた千空に驚きながらもゴソゴソとベッドにソレを隠し、私はこちらに向けられた視線に愛想笑いを向ける。

 

「色々と、考えることがあっただけで。なんでもないよ」

「──はぁ、なんでもねぇならそれでいいが、一人で抱え込むじゃねぇぞ。無理だったら言え」

「あざざす。んで、センクウはなぜここに?」

「どうせ飯食ってねぇだろ、行くぞ。後テメェに頼みたいこともあっからその相談だ」

「なるほどー?」

 

 私に向けられた左手を無意識に掴み取り、そのまま甲板までの廊下を進んでいく。

 なんとなく千空はあの"記録"を気にしてもいるようだが、無理に聞く気はないようだ。なので私も知らないふりして隠し通しさせてもらう。

 

「んで、頼みたいこととは?」

「島の全員を起こすまでここにいるわけにもいかねぇからな、アマリリスか誰かしらに復活液の作り方を教えておきてぇ」

「あー、そゆことね。ってことはソユーズ君がいいんじゃない?一応後継者なんでしょ?」

「そこは本人の意思次第だな」

「そだね」

 

 宝島の正式な後継者はソユーズで、彼がここを統べることとなるはず。とならば残っているプラチナを加工して装置をもう一台作れば島での復活液の量産も可能で、順次復活させていけば──。

 

「あ、」

「あ"?」

 

 ぎゅっと繋いだ手を握りしめて、それに気づいてしまった。

 ソユーズの父親もまた、復活できないのだと。私の母と同じく頭が割れて、もう戻ることがないのだと。

 

「ありゃー?」

「ったく、涙腺が元通りになったもんだな泣き虫」

「面目ない」

 

 うっかり私とソユーズの状況を重ねてしまえばバグってしまった涙腺からはポロポロと涙が溢れ出て、一旦手を離した千空は当たり前のようにそれを拭う。ただ前のように号泣するわけではなく、1.2分で涙は止まったので問題はない。

 何を考えた結果泣いたんだと千空に問われたが、そこは素直に人に戻れない石像もいるんだろうなと思ってと答えておく。その答えは間違いではないし、私だけではなくいずれ誰しもが通る道なのだ。

 別におかしい事はない。おかしい事など、ない。

 

「──センクウ」

「あ"?なんだ」

「……おかぁさん、もう戻れないんだ」

「は?」

「もう、戻らないんだ」

「──そうか」

「うん」

 

 いきなりの意味不明なカミングアウトだったというのに千空は動じる事なく私の頭を撫でた。

 私はと言えば口に出して事実を認めた事で、漸く折り合いがついたようなそんな気がする。母だけではなく、今後はそういった石像と沢山出会うことになるだろう。

 その度に後悔してももう遅く、私はもう進むことしかできないのだがら。

 

「……今なら誰もいねぇしな、肩貸してやんぞ」

「んー、じゃあ少しだけお借りしマス」

 

 ぎゅうっと手を握りしめながら千空の肩に頭を埋めて目を閉じる。瞼を閉じると嫌でも思い出してしまうあの日の風景。

 

「……もう会えないのは、寂しいね」

「そうだな」

「一人でも、救えるといいね」

「あ"ぁ」

 

 そんなことを言いながらも私は、君をまた見捨てるのだろうか。会えなくなるかもしれない寂しさと苦しさに、耐えられるだろうか。

 

 私にはもう、どうするべきかわからなかった。

 

 

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