凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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80 凡人、欲もある。

 

 

 まぁ分かってはいたものの、ソユーズさん。あなた記憶力チートすぎではありませんかね?

 

「えっと?覚えたって本当に?」

「?覚えたよ、本当に」

「……アマリリスちゃんは?」

「一回で覚えられるわけないでしょ⁉︎」

 

 ふんすと顔を背けるアマリリスに私は安堵の息を漏らし、やはり記憶力チートは一人だけだったと天を仰いだ。

 

 千空に頼まれてソユーズとアマリリスに復活液作りを教えることとなった私であるが、蓋を開けてみればソユーズの独壇場でアマリリスが出てくる幕はない。だって彼、一回見せただけであのややこしい工程覚えちゃったんだもん。今までの私の苦労を返して?いや、無理だろうけど。

 

 ソユーズがこれを覚えたという事は本土帰還組は島全体の復活を待たず出航できるのだが、その前にコレ用の器具も作らなくてはなるまい。

 ありがたい事に百夜が残してくれたプラチナはまだあったような気もするし、千空に交渉してもう一台作ってもらわなくてはならないだろう。

 

 作業を覚えたという事で私たちは一旦お勉強会を中断しソユーズとアマリリスは大樹の元へ、私は千空達の元へと戻る。帰って早々オハナシアイをしている千空に硝酸量産機をもう一台作ってもらえるかと打診すると、少し驚きながらも了承してくれた。

 

「っても、作るにしちゃあ早すぎねぇか?」

「いやね、ソユーズさんの物覚えがパなかったんだよ。一回で覚えられる脳みそ、私も欲しかったなぁ」

 

 そうすれば幼少期はもっと楽に過ごせたと思うのに、なんて夢のような世界を思い描く。

 どんなに足掻いたところで私は凡人なので、そんなの無理な話だと分かり切ってはいるが夢ぐらい見たっていいじゃない。

 

「んで、そっちはどうなりまして?」

「あ"ぁ、ソナーマンの耳でもこれが合成音声だっつーお墨付きをもらったところだ。てことでオメェに返すから引き続き頼むわ」

「ウッス」

 

 当たり前のように千空の手によって右耳にインカムをセットされ、そのまま私とカセキはラボへ直行し量産機のクラフトを開始した。といっても面倒なのはプラチナの加工くらいであとはラボにある備品を使えばなんとかなるものである。ビーカーやらなんやらを取り付けて、あっという間に装置の完成。本当にカセキのお爺ちゃまの腕も素晴らしい。私も将来はこんな風になれたらいいななんて思ってしまうほどに、カセキには憧れを抱いているのである。

 

「オッホー!これでバンバン復活できちゃうんじゃないの!」

「復活できちゃうんですよね、コレが」

 

 にっこりと互いに笑いあっていると別行動していたクロムと千空がラボに訪れ、対司軍用に使っていたショックキャノンを用いてパラボラアンテナを制作する。そして船に取り付ける為にペルセウスに戻ったのだが、多分コレでホワイマンとの距離を測るんだろうなとなんとなくの展開を察知した。

 

『12800000m 1second』

 

 船のスピーカーから出てくる音声にワクテカしつつ、ソナーが揺れるのをその目で確認。どんな原理で距離を測っているのか私にはさっぱりわからないが、千空が分かるっていうなら分かるモンなのだからと安心して任せているわけだ。

 

「計測の基線長が短すぎて差が見えねぇ」

「相手は地上や大気圏ってレベルの距離じゃないね」

「ん、サッパリだけどどゆこと?敵さんめっっつちゃ遠いってこと⁇」

「とりあえず地球にはいないって事だよ、カセキのおじいちゃん」

「そうなの!?じゃあメチャクチャ遠いじゃないの⁉︎」

 

「ククク、ところが地球の自転で俺らが動いて数千キロの基線長を確保すりゃなんとか見える」

「つまり無限の彼方とかでもない──」

「めっちゃ近いってこと?」

「どっちだよ⁉︎」

「場所によりけりってことなのでは?」

 

 キレッキレのクロムのツッコミにむふふとしかけながらも夜になるまで逆探知を続けていれば、ホワイマンの発信源は千空たちの手によってあっという間に判明してしまったのである。

 楽しい楽しい逆探知で判明したのは数十万キロ上空からその声は降り注いでおり、地球の自転と共に近づいたり離れたりもしているという事。

 すなわち。

 

「ホワイマンは月面にいる」

「つ、き……⁉︎」

「月の動きとリンクして動いている。まぁ、間違いないね……」

 

 冷や汗をかいている羽京の後ろで千空はモグモグとご飯を食べており、私からするとそのお可愛らしい顔に意識がいってしまうのだが他のみんなはそうではないようなのだ。

 そんなことがあり得るのかと声を荒げる金狼に、手足も出ないと宣言するコハク。龍水はだからといって放置すれば滅ぼされるだけと正論でつく。

 ご飯を食べ終えた千空はコトリと静かに皿を置き、そしてその神妙な面持ちをした彼に気づいたゲンは目を泳がせ始めた。

 

「待って待って待って!いやもうそれ悪い予感する。たぶ〜んぜったい当たるやつよコレ。この原始のストーンワールドで──」

「俺らは月に行く‼︎‼︎」

 

 ま、そうなりますよね!

 知ってたけど、そうなるかぁって思いますよねマジで。はわわ、めっちゃ楽しみにしてるお顔良き。

 

「もぉ〜う何作るとか言い出しても驚かないつもりだったのに、ストーンワールドにガチで月ね……」

「おおお月様なんてどうやってなんだよ……⁉︎」

「ククク、科学王国毎度おなじみじゃねぇか。地道に一歩一歩だ」

「おなじみじゃあないよ、これまでとまるで違うじゃないか!無謀さの次元がさ‼︎」

「無謀でもないでしょ、別に」

「茉莉ちゃん……?」

 

 フランソワのご飯うまーとそっぽを向いていた私の声を拾ったのは、ゲンであった。

 

「茉莉ちゃんは相変わらず驚かないねぇ」

「ん?いやだって、驚くことじゃないし?」

「普通驚くだろう?茉莉は本当に月に行けると思ってるのかい?」

「え、だって行くんでしょ月に?そうでしょセンクウ」

「あ"ぁ、行く」

「ほらー、行くっていってんじゃん」

「そういう問題じゃないでしょ茉莉ちゃん⁉︎」

 

 じゃあ何が問題だというのだと私は首を傾げた。

 ゲンとニッキー曰く、今までの比じゃないほど無謀な挑戦だとか自分達だけでどうにかなるとは思えないだとか。ま、そんなことだ。

 確かに何も知らない私だったらそっち側の意見だっただろうが、私はどうしようもないくらい石神千空を信頼してしまっているし、信用しかしてないのだ。

 

「でもさ、そんなこと言ったら人類石化だってどうにもならなかった問題なのでは?今は復活液出来たから特に問題はないけど、それ以外だってこんな世界でサルファ剤作ったり機帆船作ったり、出来ないと思ってきたものを山ほど作ってきたのでは?」

「そりゃ、そうだけども」

「どれもかしこも地道にやってきたものだもの、規模がデカくなるだけだよ。一度人類が滅んだとしても一度は成功したクラフトだしセンクウならやってのけるでしょ」

 

 何せ我らの千空パイセンだぞ?やってのけるに決まっている。

 それだけは推し云々を差し置いても理解し、私は信じてる。

 

「だから無謀でも何でもないよ、這いずってでもやり遂げる。ただそれだけ。それにこのまま何もしないでいる訳にはいかないって分かってるのでは?」

「はっ、確かに茉莉の言うとおりだ!敵が月にいると分かった今、再び殺られる日を天命と待つほど私たちは無欲でもあるまい……⁉︎」

「はっはー!俺たちは新世界で空の星までも欲しがろうと言うわけだ‼︎」

「……ヤベェ!科学マジでヤベェー……⁉︎」

 

 コハクが同意してくれた事によりプラス思考に支配されている龍水やクロム、大樹はロケット作りに乗り気になっている。それと共にその様子に呆れながらもゲン達も顔を見合わせてそれもそうだったと納得してくれたようであった。

 

「世界中から素材かき集めんぞ‼︎ 新世界月旅行プロジェクトスタートだ‼︎」

 

 嬉しそうにそう宣言する千空の笑顔、思わず頬が弛む。

 本当に科学が好きなんだなと再確認しつつ、あの時の少年の夢が叶う日が必ずくるのだろうと私は夜空に目を向けた。

 

 あの三日月に、いつしか千空が行く。

 

 もしかしたら、私が知らない危険な旅路になるかもしれない。ならばその時が来るまで出来るだけ千空の役にたってみせよう。

 知っている未来はもうすぐ終わるのだから、そしたら自分で考えてこの世界で生きていくしか無いのだから。

 

 その時まで、役に立つ人間として隣に居れる努力はしてみよう。

 

 

 それくらい望んでも、バチは当たるまい。

 

 

 

 

 

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