凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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83 凡人、海へ。

 

 

 ちらっと誰かと目を合わせれば逸らされて、ニコッと笑いかければ避けられて。

 一体何が起こっているのだと感じた積み込み作業、アイツらに話したわと告白された船の中。

 私はだからかぁと納得して頷いた。

 

「──勝手に話して悪かったとは思ってる。だがこれから先、誰がオメェと同じ状況になるとは限らねぇからな。伝えとくのが最善だと判断した」

「んー、そっか。センクウがそういうならそうなんでしょ。別に気にしてないよ」

「……ちったぁ気にしろよ」

「んなの無駄なことでしょ?気にしようがしまいが、変わらないことなんだからさ。今後は身内がいないなんてマイノリティじゃなくなるだろうし、早めの決断は大事ダイジ」

 

 たとえ生きていようと死んでいようとも、そのどちらか分からなくても。私みたいな人間は珍しくなくなる。

 現に千空だってこの現象で親を亡くした人間の一人な訳だし、この時点で復活組の中に身内を亡くした人間は二人もいるのだ。誰もが追求してこなかった現実の視野を少しばかり広げたに過ぎやしない。

 けれどもきっと、これはこの先どんなに復興が進んだとしても解決できない問題にもなるだろう。

 

 父の職場があった場所らへんは地殻変動で崖になっていたし、3700年前には日本にはなかったはずのナイアガラの滝のようなものも出来上がってしまっている。それを踏まえれば五体満足で残っている人間の方がもしかしたら少ないのかもしれない。

 復興が進めばどこかしら欠如している石像でも復活させたいと願う人もいるだろうし、早い段階から先を見据えるのは必要なことだ。

 今までは千空について行って復興しようと思っていた人間も、それが意味するものが少なからず見えたはず。いや、私のように見ようとしていなかったものを、見なくてはならなくなるのだから。

 

 どんなに世界が時の針を進めたとて、止まったままの人間もいるということに。

 それが親しい人だと理解したとき、直様それを肯定できる人間がいるというのならばあってみたいものである。

 

 あ、ソユーズは除き。あれはもう頭首としてそうするしかなかったともいえるので。

 

「そういえば行き先はアメリカだっけ?」

「あ"ぁ、コーンさえ手に入れられりゃあジャブジャブアルコールつくれっからな。ついでに食糧にもなっから人類復活も前より見えてくる」

「となると、海路を決めないとねぇ。龍水君に相談だー」

「ま、そうなるわな」

 

 にへらと笑って私は視線を下に向けて歩き出した。

 

 大丈夫、もう手は震えていない。

 もう、大丈夫。大丈夫。

 

 

 

 

 

 

「ッおっうぇ」

 

 現代を生きてきた人間で、龍水以上に荒波に耐えられる人間がいるのだろうかと私はしみじみ思う。だって私、荒れた海とか初めてですが。むしろ船旅なんて宝島に行くのが初めてでしたが。

 つまり何が言いたいかというと、私の体は荒波に耐えられない作りのようなのだ。

 操舵室で舵を取っている龍水やその他諸々の作業を頑張ってくれているみんなには悪いが、私はひたすら胃の中身を吐き出すことに勤しんだ。

 そういえば南極に高校生が行くアニメもゲェゲェ吐く描写があった気がするが、あれは大袈裟ではなく正しいものだったと今更ながら理解する。

 確かにこれは吐く。どう足掻いても吐くしかない。

 

「ウッゲェ──、みな、みちゃんも、吐いたら、楽なのに」

「アンタみたいにっ、吐けないわよっ!ップ」

 

 桶に顔を突っ込んだ状態の私と、必死に耐える南。

 こんなとこに気を使うなんて女の子は大変だなぁと哀れみの視線を向けていたのがバレたのか、アンタも少しは恥じらいなさい!と怒られた。解せぬ。

 それから私たちが仲良く桶を抱えて嵐が過ぎるのを待つこと二時間弱、ようやく天候も体調も落ち着いたところでのそのそと南が動き出した。

 

「──治ったことだし、操舵室に向かうわよ茉莉」

「え、南ちゃん一人で行けばいいのでは?」

「見て分からないの?足が震えてるから一緒に来て!」

「あー、なるぅ」

 

 あんなに揺れてましたものね、生まれたての子鹿みたいですね私たちの足。

 カクカクとする膝を抑えながら二人で支え合って船内を歩き、ようやく辿り着いた操舵室では龍水と千空が揉めている。70や40との声が聞こえるし、海路の相談、なのだろう。

 

 掴み合いの喧嘩になり始めた時に大樹が来たお陰で殴り合いにはならなかったが、もし暴力可の喧嘩であったら負けるのは千空だと思うのだがそこまで考えていなかったのだろうか?

 

 もしかしてどうにかなると思っていた?細身なのに?

 まぁ、男の子だからそういう面もあるよねとほっこりさせて頂こう。ご馳走様です。

 

「……アメリカまでの船のルートの話だね?」

「ククク、さすが潜水艦乗り様だ話が早ぇ」

「俺たちのスタートは東京!」

「ゴールは……」

「アメリカだな?」

「──そうここだ、サンフランシスコまで最短ルートはどう走る?」

 

 テーブルの上に広げられ世界地図を見ながら大樹は真っ直ぐ進むといい、龍水は大樹の答えに満足気に笑いながらその等角航路を選択すべきだと意見する。

 けれども千空の意見は異なり、飛行機などで使われていた大圏航路で40日でアメリカに向かうと言い切った。

 

「70日、等角航路で行く!!大圏航路は現在地に応じて舵の切り方が変わり続ける。難易度マックスのルートだぞ、水夫の負担がケタ違いだ!」

「40日、大圏航路で行く!!こちとら科学の船だ、ショボくてもGPS大先生があんだよ!本土のルリ達と連携とってきゃ百億パーセントたどれんじゃねぇか」

 

「うっわ白熱」

「ちょっと茉莉、アンタ止められないのコレ?」

「無茶言わないでよ。頭いい人の会話なんて聞いてるようで聞いてないよ私」

 

 なんてったって今世はまともに学校行ってませんので。

 そう言いつつ相変わらず真剣な顔のビジュが良いと千空の顔を見ていると、バチリと目があった。

 こうなると嫌な予感しかいないものです。

 

「茉莉、テメェならどっちを選ぶ」

「んー、40日かなぁ」

「何故だ!」

「海が荒れたら脱水になりかけるので。主に口から水分放出しまくってね、辛い。──それに何より一年は無駄にできないでしょう?」

 

 たった一年と思うこと勿れ。この文明が去って行った世界の一年は長すぎるのだ。

 

「日本ならともかく、アメリカで一年だよ?70日で着いたとして住居作って食料集めて加工して。やれることがあるならまだしも、知らない場所で何もできない一年は普通の人には苦痛なのでは?」

 

 人数が多いから住居を作るのも多分問題ない。狩りをすれば食べ物には困らないが、日本にはいないワニがいるからそこには注意しないとならないだろう。娯楽もろくにない状況で(まぁ作れるかもしれないが)、知らない場所で過ごすのはストレスにもなる。コレは私の体験談。理解できない世界でのボッチの三年間は辛かったんだよ本当に。

 

 それに、私しか知らないがあちらにも科学者がいるのだ。それも硝酸たっぷり抱えた科学者が。

 もし仮に70日になってしまったら、負け戦になる気しかしない。

 

「なので私はセンクウに賛成」

「ならば私も千空を支持するぞ!到着は1日でも早い方が良いからな!」

「コハクちゃんはでしょうねぇ、いつでもソッコーマンだから……。にしても相変わらず茉莉ちゃんは千空ちゃん贔屓じゃない?」

「?だって合理的だもの」

「ソウダヨネェ、茉莉ちゃんはソウダッタ」

 

 私たちがそんなやりとりをしていれば龍水は少し考え込んで、船員の食料配給を倍にすることでマイナス十日の60日で手を打とうとする。が、それに頷かないのが我らがリーダー様なのだ。

 

 

「40日だ、そこがタイムリミットだ」

「ならば闘るしかないな!」

 

 この時代にまさかの決闘が起こるとは思っていなかったメンバーは驚いて、私は一人真顔で二人を見つめる。

 

 闘うと言ってもポーカーですよ。

 そう、ポーカーです。

 

 スーツ着て。

 

 

 滾ってまいりました!

 是非とも南には写真を撮っておいてもらわなくてはっ!

 

 そして左藤家の家宝にしてみせる!

 

 

 

 

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