「こちら、シャーリーテンプルブラックでございます。ほんの少しのコーラの風味で遊び心を加えた、何事にも『用心深い』茉莉様をイメージさせていただきました」
「わー、ありがとうございます。──うま」
ジンジャーエールかと思いきやコーラの風味、添えられたレモンの酸味もまたいいお味です。
にしても用心深い、か。
ただ知っている事があるから注意してるだけなんだけど、誰にもわからないものね。そう思われても仕方ないのかもしれない。
ちまちまとカクテルを飲みつつお酒も飲みたいななんて考えながら、私は辺りをぐるっと見渡した。コハクやスイカ、司までも楽しそうだし本当にうちのリーダー達は人の上に立つ才能があるようだ。
福利厚生もさることながら娯楽施設もあって、やや現代には劣るがこの石世界では充分に楽しんで生きられる。
にしても。
「……酒が飲みたい」
「飲ませねぇからな」
「っふぁ!」
「飲むなよ?」
「──ハイ」
いつの間に隣にいたんですが、千空さん。
そして私はそんなに酒癖悪いですか、千空さん。
私もビールが飲みたいです。近々できるビールが飲みたいです。
駄目かなぁっとチラチラと懇願するように視線を向けていれば盛大にため息を吐かれ、あの時何をしたかしらねぇだろと責められた。
確かに氷月に何をしたか全然覚えていないけど、もうそれは過去と割り切ってくれないだろうか。多分量を飲まなければ大丈夫だと私は信じたい。
「ちょっとも、駄目?」
「ダメだ」
「ダメかぁ。なめるのは?」
「だからダメだって言ってんだろ」
「──成人してるよ?」
「そういう問題じゃねぇ」
「ダメかぁ。ひとくち?」
「──そんなに飲みてぇってことは、茉莉テメェ、飲んだことあんな?」
「……センクウもワイン飲んでたので責められないと思うのですが?」
「人の揚げ足とんじゃねぇ」
「すいません」
説得を試みたが駄目らしい。
しょんぼりと首を垂れていれば、代わりにこれをやると手渡された千空のイメージカクテル。生憎混ぜられていて三層にはなっていなかったが、これはこれで美味しそう。
代わりに私のシャーリーテンプルを差し出し飲み比べをしてみれば、ティーラテの方が甘くて優しいお味。お優しい千空にはピッタリなカクテルです、フランソワバンザイ。
「あ、ここまで出来るのならばエナドリでも作ってもらったら?好きでしょ、エナドリ。味だけでも真似できるんじゃないかな、フランソワさんなら」
「確かにな、頼んでみっか」
「私も飲みたいし、お願いしてみよ」
翼を授ける効能がなくとも、似せたものならできなくもないだろう。
コクコクと容赦なくラテを飲んでいると、そういえばこれは千空のだったと気づき返そうとするが時すでに遅く、千空の手にあったドリンクもすでに空になっている。つまりのところ二人して気にせず飲んでしまったようである。
ヘマったな。
「──明日にでも、氷月を起こす」
「んー、戦力はあったに越したことないしね」
「まぁな、司が必要っつーならそうなんだろ。テメェは知らねぇだろうが宝島でも手ぇ借りてっからな」
「……そっかぁ」
月明かりに照らされた千空の顔は何処か強張っていて、そりゃそうだよなと一人で納得する。
いくら司が必要だと言ったところで氷月は人を殺せるタイプの人間でしかない。何より司は氷月のせいで一度死んだとも言えるし、千空だってそれなりの恐怖を味わったはずだ。
怖くないわけがない。
下に落とした視線の先にある千空の拳には力が入っていて、いくらそれが必要不可欠な決定した事柄であったとしても抑えきれない感情もあるわけで。
私が恐怖に押しつぶされそうでも泣かなかったように、千空はこの世界を復興させる為に恐怖を抑え込むのが合理的と考えたのだろう。
「──センクウ」
「あ"?」
たぶん、千空が欲しい言葉を私は言えない。
だからどうでも良いことを私は告げるしかないのだ。
「氷月くんって名前だと思う?それとも苗字?」
「……名前だろ」
「冬生まれなのかな?」
なんてどうでもいい事を言えば千空は呆れたような顔をして笑った。
絶対におバカな子だと思いましたね?私もそう思います。
でも私は今更ながら気づいてしまったのです。だからそんな事しか考え付かなかったのです。
私、間接◯ッスしてません!?
推しと!?
全力で土下座して謝りたいし、ご褒美すぎて死ねる。
そんなことで喜ぶ変態でごめんなさい。
内心ハワハワと焦っていれば千空は面白い顔してんぞと私の頬を掴み、その痛みにハッとし無表情を作る。さもなんでもありませんよというように無を張り付けて、そしてまた千空に怒られるのだ。
全くもって、察しの良いパイセンには困ったものです。
そんな事をして過ごして迎えた翌る日、朝から龍水は片手にジョッキを掲げて生き返るぞと叫んだ。
そりゃあ成人組からしたらビールは命の水だもの、羨ましい。
じとぉっと成人組を眺めながら私は炭酸を煽り、皆の話に耳を傾ける。陽は私と同じように酔うとふわふわするタイプらしく昔話を始め、銀狼は私的に成人前だけど容赦なく酒を飲んで松風に絡んでいるし。
松風も銀狼がほろ酔いながら"僕"について語って欲しいと願えばそんなことすらかなえてしまう。本人にしてみれば語りたくないこともあるだろうに、全くもって忠誠心が高いものである。
松風はある程度頭首様について語るとフランソワに出されたカクテルを躊躇いなく飲み、バタンと倒れた。どうやらアルコールに弱いらしくその後は酔った勢いで司に武稽古を頼み込んでいる。私と違った悪酔いタイプにうっかり頬が緩んでしまったが致し方ないだろう。
にしても飲むものがあるのに飲めないは辛いなと海を眺めていれば、顔の真横に並々にビールが注がれたジョッキが現れた。
いったい誰がこんな嫌がらせをとジョッキの持つ手を辿れば、そこには若干機嫌の良さそうなマグマがいた。
「ほら、飲むだろテメェも」
「……飲みたいけど、センクウに怒られるし」
「はっ、そんなのバレなきゃ問題ねぇだろうが!」
「──ソレもそっかぁ!いただきます」
流石マグマの兄貴だぜとジョッキを受け取り、アルコールの誘惑に負けてビールで喉を潤した。
久々に飲むお酒は美味く、石神村の酒ともまた違いそれがいい。
「うっまぁぁあ!」
「……飲んだな?」
「ん?飲みましたが?」
「──ガハハっ!ヨシ、飲んだんだから余興でもやれ!お前ならできんだろ!!」
「ふぁっ!?」
「辛気臭ぇ話なんか聞いてても仕方ねぇ!」
「ソユコト!?」
そりゃあマグマが優しさだけでビールを持ってくるわけないよねと頷き、さらにアルコールを流し込む。
マグマに引きずられながらどんちゃん騒ぎしているメンバーの中に放り込まれればそこには悪酔いした陽やその他復活組メンバーも陽気に笑っていてほんのりと顔が赤く染まっていた。
私は既にポヤポヤしてきた頭をフル稼働させながら、復活組がいるならラブドっ◯ゅんも知ってる人がいるのではと張り切ってみせたのである。
「しょーがないなぁ、へへ、げんだいにはやったうたでもうたってあげるよー」
茉莉ちゃん、全然酔ってないから大丈夫。
そう意気込んで、歌った。
そして千空にはがいじめにされて怒られた。
解せぬ。
あ、マグマもニッキーに怒られた。
どんまい。