昨日の夜、氷月とその取り巻き二人は無事復活を果たし武力チームは過去最高の戦力を手に入れたわけなのだが、どうやら彼らと私は合わないらしい。
ちょろっとすれ違うだけで氷月たんの眉間に皺が寄るし、何故かモズには物分かりのいいアホな子と認識されてる。唯一ほむらだけが私をそこそこ対等に扱ってくれてるような気はするが、まぁ、仲良くする気はないと態度に出されている。
百歩譲ってモズにアホな子認定されてるのは認めよう。『さしすせそ』を使い自ら人質解放に動いたし、その時のノリじゃあアホな子と思われていても致し方がない。
でもさ、氷月たん。私と貴方、ろくに話していないのにどうしてそこまで嫌われるのでしょうか?いい加減にその他大勢の一員にしておくれ。
そのせいでほむらちゃんにも好かれていないのは確かなんですよね。
「はぁ……」
「人の顔を見てため息とは、キミは本当にいい度胸してますね」
「だって目があっただけで邪険にするじゃないですか、氷月さん。私だって気が滅入るもんですよ?」
「そんな繊細な人じゃないでしょう」
「なるほど、氷月さんは私がすこぶる鈍感に見えると。繊細ですが?」
「繊細な人が私と平然と話したりしないでしょうに……」
馬鹿なんですかと言いたげに薄目で私を見下してくる氷月に若干ビビリながらも、平然としてるしかないのではと告げる。
いくら彼が千空や司を殺そうとしたとしても、私の事も嫌いで消えればいいと思っていたとしても、アメリカに向かうのに必要と願われた正規のメンバーだ。
恐怖など、捨て置いた方が得策なのである。
「氷月さんを怖がる人はそりゃいると思うよ?ならその人らに私は恐怖心を預けるわ。今はそんなこと言ってる場合じゃないし、法の整備が整ったら裁かれればいい話だし、それまでは同胞でいた方が合理的でしょうに」
そうでしょうと投げ掛ければ、氷月は私をじぃっと睨んだ後深々と息を吐く。そのあからさまな態度に若干傷つきながらも、次に彼が吐いた言葉にわずかながら自尊心が回復した。
「──本当に、そういうところは"ちゃんとしてる"んですね。まったく、ただの使えない人間だったら切り捨てられたんですが……」
「──ちゃんとしてる?私が?」
「認めたくはないですが、認めるしかないでしょう?少なくともキミは、状況を察して切り替えられる人間です。千空クンたちのように」
「それは買い被りすぎでは?」
「だったらよかったんですけどねぇ」
イラついた口調と本当は認めたくはないのだと態度で表して、氷月は私を横目にすれ違い去っていく。
少なくとも今の言葉で好かれてはいないが認められている、ということがわかった。これで一安心だと思い込みたいが、今後何らかの行動一つでちゃんとしてないと判断された場合どうなるのでしょうか。
それはそれで怖い。
まぁ相当酷い行動をしないかぎりうっかり槍で刺されることはないだろうと安易に考え、私は仕事に戻るのであった。
約四十日の船旅はまだ始まったばかりだが、何らかの不安はでるものだと私は考えている。
千空と龍水が話し合って食事事情と娯楽は当初の予定よりも良くなったが、私のような人間にはそれ以上に求めてしまうものがあり、夜中にも近い時間甲板の隅っこで月を眺めていた。
別に船旅が辛いわけではない。ただ一人の時間が取れないことに少々気が滅入るもので。テントなんて張れない今、人間が纏まった場所で睡眠をとることが若干のストレスになっていたのである。
故に毛布片手に甲板で寝ること二日、今のところまだ誰にもバレていない。
月を眺めながら鼻歌を歌っていれば、真夜中だというのに見知った西瓜がコロコロと転がってきて私の目の前で止まる。そこからにゅっと手足を出して現れたのは、みんなのアイドルスイカであった。
「茉莉も寝れないんだよー?」
「ってことはスイカちゃんも?なんか、珍しいね」
どんなとこでもぐっすり寝そうなスイカでも寝れない日があるのかと考えつつ被っていた毛布をめくり、トントンと隣を床を叩いて彼女を呼ぶ。そしてそこに座ったスイカに毛布を巻いて、どうしたのと尋ねた。
「怖い夢でも見た?」
「見てないんだよ!でも、寝れないんだよ……」
「それはどうして?理由はわかる?」
私のように悪夢を見るから寝たくないとか、そのせいで睡眠障害を起こしているとかだったら早めに千空に相談した方が良いだろう。
そう思いスイカに問いかけると、私の考えとは裏腹にスイカはにっこりと笑って見せた。
「これから知らない場所へ行くんだと思ったら、楽しみで仕方がないんだよ!」
「あぁー、そっちかぁ」
遠足の前日に寝れなくなるやつ。
つまりはそういうことね?
宝島の時と違い、スイカも今回はちゃんとした乗組員だ。そのため仕事を割り振られ体力だって毎日ギリギリだろうに、それでも寝れないほどまだ見ぬ世界に憧れている。その目で見たいと思っているのだろう。
そりゃあ寝れなくなるねとニコッと笑って同意し背中を撫でれば、スイカは嬉しそうに頷いた。
「アメリカってどんなところで、石神村とはなにがちがうんだよ?」
「んー、まず言語が違う、かな?」
「げんご?」
「そ、言葉が違う。私たちが話してるのは日本語で、アメリカは英語。つまりは何言ってるかわからない!」
「じゃああっちの石像を起こしたら、話せないってことなんだよ?どうやってお喋りすればいいか、スイカはわからないんだよ!」
「んまぁ、それはこっちの復活組にもいえることだからなぁ。センクウやゲン君、龍水君なんかはペラペラだろうけど。──私も無理だから安心していいよ?」
「安心できないんだよっ⁉︎」
「でもなるようにしかならないからねぇ。それに言葉も違ければ信念や思考回路も違うし、本当にいろんなこと違うから。だから、色々頑張んないとね」
千空のように世界を救いたいと考えない科学者がいるあたり、アメリカ組の方が現実的な思考を持っているのは確かだ。
普通に考えればこんな世界で目覚めて、生きるのに精一杯なのに他者を助けようなんて考えやしない。何より銃社会で生きてきた彼からすれば、人を撃ち殺すことも想定の範囲内でもある。ペルセウスに乗っているメンバーの大半は十代で、命を奪うことについての覚悟すら違うのだ。
この先どう転がろうと、いやでもその違いを見せつけられるだろう。
「……茉莉?」
「んあ?ごめんごめん、ボォっとしてただけだよ、眠いのかもねぇ。──だからスイカちゃんも寝ようか?」
「うーん、寝れるかわからないんだよ」
「……じゃあ子守唄を歌ってあげる?」
「──うん!」
別に歌を歌うのは嫌いじゃない。
上手いかどうか聞かれたら可もなく不可もない歌唱力だと思うけれど、たまに奏でるメロディーを知っている人がいれば安心するし。まぁ、その反面いないと辛くもあるんだけど。
すぅっと息をすって、今日もまた私の知る歌を歌う。
どごぞの超時空シンデレラガールが歌った、愛の歌。暖かな海と、宇宙。優しい緑の子。
アナタ、アナタと呼びかける求愛の歌。
「……寝た?」
ゆっくりと歌い終わればいつのまにかスピスピとスイカは夢の世界へと旅立っていて、私は彼女を抱き抱えて寝台へと向かう。
流石に甲板で寝かせていたら風邪を引いてしまうかもしれないし、それは避けなければならないだろう。
そおっと足を動かしていればまだ寝ていなかった悪い大人と出会い、見つめあってにっこりと笑った。
「ちゃんと体を休めないと倒れるぞ。スイカはオレが預かろう」
「それは助かるよ龍水君。そしてその言葉はそっくりそのままキミに返すー」
女の細腕よりは龍水の腕のほうが寝やすかろうとスイカを任せ、私は踵を返す。
「茉莉、貴様も早く寝るんだぞ」
「んー!」
わかった、とは言ってないからセーフ。
なんて屁理屈を捏ねて、私は今日もまた甲板で夜を過ごす。
早めに寝床探さないと、パイセンにもバレる気がするしなんとかしよう。