翌日、杠を復活させるべく大樹と共に彼女に服を着せている最中に千空は打つべき手を打った。
「なんだこりゃ、復活液一名様ぶんにギリ足りねぇじゃねぇか。 司と茉莉と三人で愉快にしりとりでもしながら待っててやっから超高速で行ってこいデカブツ」
すまんと言い洞窟へ向かう大樹を引き止めたのは司で、俺が一番早いからと場所を聞いて司は一人で洞窟へと向かう。姿が見えなくったことを確認し千空へとアイコンタクトを行うと、勢いよく立ち上がった千空は復活液の調合へと取り掛かった。
「どういう事だ千空? さっき復活液がギリ足りないとかー」
「んな微妙なサイズのツボ置いとくわけねぇだろが」
「たしかに!ってじゃあなんで司に行かせたんだー?」
「諸刃のエサだ、洞窟の場所をバラしてでも杠復活前に司を排除しておきたかった」
何故と、良いやつじゃないかと叫ぶ大樹の方に手を置き、私は『手に負えないからだと思う』と言い聞かせる。
「それにね大樹君、千空君は無意味なことはしない、そうでしょ? だから今は空気を読め」
「……わかった、説明はいらん。 千空お前がそういうならそうなんだろう。 何かあったんだな!俺がいない時に!」
「ああ、獅子王司は善い奴で人殺しだ…!」
善い奴で人殺し。……なんて非道な現実だろうか。
無差別殺人者とかなら誰も罪悪感なく始末できたかもしれないが、世界のためにと思っている司は偽善者であり独裁者であり簡単に始末することが出来るとは言い難い。
過去の出来事がそうさせているのだろうが、司はもう少し現実を見るべきだ。今のままではきっといつか出る綻びや裏切りを考慮に入れていない、自分一人で成り立つわけもない理想郷を語ってるだけの子供に過ぎないのだから。
私の思考など知らない千空はさっさと復活液を作り上げ、ついにこのときが来たかと感極まる大樹を押し除け杠へ液をふりかけた。すぐには変化は起こらなかったが徐々に石像にヒビが入り、杠は大樹は抱き抱えられるようにその体と意思を復活させる。
3700年ぶりに逢う両片想いの二人。大の男は涙を流し、女は男の腕の中でお礼を言い愛らしい笑みを浮かべる。
おい誰かここに白米どんぶりで持ってこい。推しカプの復活だぞ!キューピット連れてきてラッパを吹き鳴らせ!
状況に不釣り合いな思考を隠すように頬に力を入れ、私はおはようと言い杠へと手を差し伸べた。
「司が戻る前に即決めろ! 道は二つしかねぇどっちか選べ! プランA、大樹と杠、茉莉テメーら3人で今すぐ逃げてどこか遠くで生きていく。プランB、全員で戦って司の殺人を止める、文明の武器の力で──!」
「即答だー!俺たちを見損なうな千空!」
「うんうん、全然わかんないけど私も何か手伝う!」
「わかりきった結果だよね千空くん、諦めよ」
「あー、熱意はわかったから少しは説明聞け似たもん夫婦。茉莉テメーは諦めんのがはえーんだよ」
似たもん夫婦だ、と。
もしや千空、君もこの二人が推しカプか。ならば白米片手に語り明かそう。
なんて思っては見たものの白米なんてありゃしないし、うっすら見えてしまった司の影に無意識に体が震えた。
大樹が人を殺しているのならと叫ぶも被せるように司は言葉を放ち、霊長類最強の名に相応しい威圧を放つ。
「殺しているっていうのは、うん、捉え方の問題だね。間引いているんだ、新しい世界のために」
一歩一歩こちらに近づく司の手からは砕けた石像の破片がこぼれ落ち、それを見た大樹は目を見開らくと自分が司を止めると言葉をこぼして走り出す。同時に千空も大樹を守るため隠し持っていたクロスボウを射るも霊長類最強の前では役に立たず只の棒へと変わった。そして司は迫るくる大樹へと蹴りをいれ、逆に大樹の動きを止めようと試みた。
だがしかし、体が人一倍丈夫な大樹にはあまり効果はなかったようである。
「俺の蹴りを受けて倒れなかった人間は初めてだ。──うん、それ以前に君は今攻撃ができなかったんじゃなくてする気がなかった、どうしてだ?」
「俺は人を殴らん!だが俺をいくら殴っても蹴っても構わん、そのかわり!石像を壊すのはやめろ司!人を殺すのは悪いことだー!」
これでもかと胸元を広げる大樹に驚きを隠せないのは皆一緒だろう。
でも私は違う。
なんだこのバカ。バカ可愛いとか新しいジャンル作ってどうすんだよバカ。
大樹=馬鹿可愛いで私の頭が追いつかないじゃないか!
「……大樹、君の主張を整理すると自分は手を出さず殴られ続ける。よって石像は壊すな、そういうことかい?」
「そういう事だー!!」
「────意味がわからない、なんの取引にもなってない」
うん、そうだよね。なってないよね取引に。
でもそこが馬鹿可愛い大樹さんなんですよと胸を張って私が主張したい。まぁできないけれど!
うっかり崩壊しそうになる口角に力を込め、私は一度深く息を吐き心と顔を整える。
司が杠を人質にすると言った瞬間大樹は彼女の元へ駆け寄ったが、司の攻撃が後からきたのかそのまま血を出して倒れ込んだ。
「大樹くん……!」
「出血がひでぇ、何日か寝かしておくしかねぇな」
「うん、仲間割れはよそう。 大樹、君は杠を守ってやれ、赤の他人の石像なんかよりも。 俺と自分のやるべき事をやる、邪魔はさせない」
そう言った司に、なんとなく共感した。
彼の言っていることを私に例えるのならば、私がやるべき事は私が生き残ること、私というモブが存在していながら物語を崩壊させないよう過ごすこと。
司がどこかの誰かの命を自分の理想のために壊すように、私も誰かの命を見捨ててここに存在して、それを阻害されるのを酷く嫌う。
多分きっと、私に何かしらの才能があったら力があったのならば司を止められたのかも知らないが、これはいわゆるたらればの話。現実ではない。
「司を止める手はもうたった一つだ。人類史上最大の発明品、火薬をつくる!」
火薬を作るため大樹を蹴り起こす千空に、目をぱっちりと開けそれに同意する大樹。
そのコンビがすごく羨ましくて尊くて、保身ばかり考えている自分に嫌になった。
けれど時は待ってはくれない。
千空と共にツリーハウスや研究室のものを大雑把に壊し、旅立つための演出を作り出す。手塩にかけた陶芸品が壊されていくにつれて表情が死んでいくのが自分でもわかったが、また作ればいいかと心を持ち直した。
この時のためにすでにまとめて置いた食料とちょっとした実用品、私がどうしても手放すことができない羊皮紙もどきの塊を入れた鞄を肩から下げる。
一人で三年、千空と大樹と一年過ごしたこの家ともお別れかと小さく笑うと、いつの間にか隣に立っていた千空が私をまっすぐと見ていた。
「──司を止めたらまたここに帰ってくんぞ」
「んー、ソウダネ」
帰ってこれないと、知っている。
止められないことを、知っている。
千空が殺されるのを、知っている。
思わず力の入った拳。ぎりりと歯を食いしばり、思わず俯いた。
「……茉莉、いくぞ。 感傷に浸るなんて非合理的なことしてる暇はねぇ」
「言ってくれるねぇ。 でも確かにそうだわ、さっさといこう」
この家を捨てることに迷いがないかと言われればないわけがない。この先に起きることに不安がないのかと言われれば不安しかない。
でも、でも。
推しがいい顔と声で私の背中を叩くんだからいくっきゃないだろう!?
守りたい、この笑顔。
なんて言いたきゃないが、今はただこのいい顔を見ていたい。後、ゲス顔も!
くそ、私の全ての行動が推しに支配されている!
まぁそのおかげで精神が死なずに済んでるんだけどね!