小型ボートとラボカーはサクラメント川を登り、私達コーン探索チームはコーン帯と呼ばれていた地域を探していく。3700年前にあったものがいまだに残っているかは謎だと云う千空の顔を目でおいつつ、私はひっそりとため息をついた。
「要はこの川のぼりゃあコーンあんじゃね?ってことだろ、とっとと行こうぜ!」
「クロムちゃん、なんとかなるなるの場慣れ感ゴイス〜。流石探索リーダー……」
「伊達に素材王と名乗っていないもん、致し方がないのでは?」
「……茉莉ちゃんも場慣れしてると思うけどねぇ」
そんな事ないよと一回笑っておいて、内心場慣れというよりは諦めの境地だけどと毒を吐く。なんとかなる、ではなく、なんとかなってくれないと困るのだ。私の知る未来でいてくれなきゃ、本当に困ってしまうのだから。
なるべく表情を変えぬままコーンの枯れてしまう時期を心配している羽京の話にも耳を傾けて、ラボカーの窓から川を眺める。
ぶっちゃけさ、何にも知りません平気ですって顔保ってるけど怖いもんは怖い。普通に考えてこの後大型のワニが出てきたような気がするな、なんて考えつつ平常心を保っていられる私を誰か褒めてくれ。
そんなことを考えていれば千空は猛獣に襲われなきゃ平気だと発言し、つまりはその運の悪さから逆のことが起こってしまうわけで──。
「……また、千空ちゃんが言った側から。でも俺わかっちゃったジーマーで!運が悪いとかじゃないの、運なんてないもんそんなもの!科学屋の千空ちゃんは最悪のケースまで毎回考え口に出してるだけ──」
「ワー、巨大ワニイパイダー」
ドンっとラボカーに強い衝撃を与えたワニの集団と、ボートごと宙をまい久々の肉に目を見光らせる戦闘員。
「うん、感謝するよ。自然の輪廻に」
「これは、ゴイス〜……」
「最強オールスター……!!」
「ワー、一網打尽ダァー」
大型ワニは容赦なく叩きのめされ一匹は食糧として確保し、逃げる個体は見逃して。
狩ってしまった個体をラボカーで岸まで運び、私は刃物セットから大きめのナイフを取り出す。ま、食べるとなれば解体するしかないですよねとにっこりと笑い血抜きをし、いつもとなんら変わりなく捌いていく。流石にワニの皮は丈夫で、皮を剥ぐ作業は輪切りにしてからの方が楽だった。
「──あの、なにか?」
「……うん、君があまりにも淡々と作業をするからつい見入ってしまったよ。俺も手伝おうか?」
「あー、じゃぁお願いします?」
じぃっとこちらを見つめてきた司にワニを切り分け使いやすいであろう中華包丁を渡し、そのあとは捌いた肉をフランソワに渡しておく。
そうしておけばワニ肉はチタタプと挽肉にされて、あっという間にワニバーガーの出来上がりである。
やったね、これで肉が食べられるよコハクちゃん。
「俺が後はやっておくから、茉莉、君は先に食べてくるといい」
「そう?……じゃあお言葉に甘えて」
後の処理は司に任せフランソワからワニバーガーを受け取り、パクりとかぶりつく。
パンが美味しいのは当たり前だが、濃厚なタレの効いたお肉で涎の分泌がやばい。
モグモグと咀嚼し飲み込もうとしたところで、私は自分の体の異変に気がついた。
どんなに頑張っても、飲み込む事ができないのである。
「──?」
モグモグと口を動かし、んっと喉を動かそうにも動かずにドロドロとなったそれが口内に残ってしまう。さてどうしたものかと必死に考えながら何度か挑戦して、ようやく一口目が飲み込めたところですでに皆は一つ目を食べ終えていた。
「──茉莉様、お口に合いませんでしたか?」
「ん、美味しいよ?ただお腹が減ってないのと昔食べたワニ肉は美味しくなかったと気づいちゃって、カルチャーショックを受けてる」
「え"、茉莉ちゃん、ワニ食べたことあるの?」
「特殊なスーパーで売ってたからね、ワニとカエルと、後カンガルーかな?」
「意外とチャレンジャーだね、茉莉って」
若干引いた目で見てくる羽京とゲンに、ジビエ肉だと思えば変じゃないと反抗しておく。別に変なものを食べたわけでもないし、私だって芋虫とかは本当に飢餓状態じゃないと無理なので。
話がハンバーガーから逸れたはいいが、この手に持っているものをどうしようかと私は頭を悩ませた。流石に一口食べてもういっぱいと残すのは忍びないし、はたまた食いかけを誰かに頼むのも悪いと考えて。
作ってくれたフランソワに悪いが、味云々は関係なく意地で食そうと口を開いた。
「──無理して食うなら寄越せ」
「……?」
「ソレ、食えねぇんだろ?」
さも当たり前かのように私の持つワニバーガーを指さしたの千空で、食べさしだが問題ないかと問えば今更だろうと返されてしまう。確かによくよく考えれば同じものを飲み食いした事は多々あるし、パイセンは気にしないタイプかと頭を下げて残りをお願いした。
「んで、手に持ってるのはコーンで?」
「あ"ぁ、ワニの胃の中に入ってたやつな。これで問題なくコーンシティーは作れる」
「それはよかったねぇ」
ハンバーガーをパクつく千空に眺めて、そして視線をずらすと喜んでいるクロムや大樹がいて。この状況を素直に喜べないのはやはり私だけなのだろう。
「シャァアア!見つけたぜ生命のコーン!」
「あ"ー、アメリカ大陸ご自慢のチートウモロコシ、イエローデント大先生だ」
「チートウモロコシ……」
「ククク、まぁ味は酷ぇがな。アルコール搾り取る効率だけは死ぬほど高ぇ」
「え"、不味いのソレ。みんなに美味しいお酒作ろって言っちゃったのに」
「後で謝っときゃいいだろ、どっちみち飲む分は作る気ねぇし大量のエタノールがいんだ。んな暇ねぇわ」
「あ、そっすね」
千空がそういうならばそうなのだろうと頷いて、私はバーボンが作れるよと喜ばせてしまったことを謝ろうと心に誓った。ぬか喜びさせて申し訳ない。
食事を済ませたら先に進むぞと千空は言い放ち、それから一時間もしないうちに私たちはコーンが生息しているであろう場所へ向かうこととなった。量がどれだけ確保できるかわからないと千空はいうが、大樹はならば育てて増やしまくればいいと自信ありげで。龍水は結局時間との闘いになると言いながらも、その顔つきは凛々しいままで。
上流からコーンの粒が次々と流れてくれば、私たちの想像していたコーン畑よりも大きいものがそこにあるのだろうと察することはできたのである。
「んな川にご都合良〜くドンブラコしてくるもんか、コーンて?」
千空のその読みが当たっているなんて、今の状況じゃ誰もわかっちゃいない。
私以外の誰も、わかるはずもなく。
「おっつ〜、こちら探索チーム。川にコーン発見しちゃったよ〜♪」
日が暮れてペルセウス本船と連絡を取るゲンの声を聞きながら、私はキリキリと痛むお腹と口元を押さえた。
この時にはすでに、唾液すら飲み込めなくなっていたのだがどうすることもできなかった。