早くゼノ先生出したいっ
ストーンワールドの夜はいつだって暗い。たとえ電気ができたとて、明るくなるのは電球がある部分だけで、森はいつだって暗闇に包まれている。
私はその暗闇を怖いと思うことをとうの昔に克服したはずなのに、ここにきてから無性にゾワゾワとした恐怖が纏わりついている。どうにかしなきゃ行けないのに、どうにもそれを退ける術を持ち得ていないのだ。
「なに千空ちゃん、着くなりライトに……、白い布?」
千空は岸につくなりラボカーから様々な道具を取り出して、灯りで虫を呼び寄せていく。
「走光性ある虫の何が集まるかで付近にあるもんが読める。俺の読みが正しけりゃ──」
ブンブンと虫取り網を振り回して捕まえたのは何匹もの蛾であった。それはヨーロッパアワノメイガといい、コーンが主食の蛾でありすぐ近くに大量のコーンがあることを示している。光に集まってくる蛾は何十匹にもなり、私でなくともその異常性は理解することはできる。無論、それに気付いたのは千空でこの短時間でこの数が集まるのならばコーンの大規模農園があってもおかしくないと考えてしまうもので……。
「なんだ千空、深刻な顔をして。こんなに大勢復活させるんだから、コーンが大量ならば最高にいい知らせじゃないか──!」
そりゃあ人類復活を掲げている以上、コーンが大量にあることは喜ぶべきことなのだ。
何も悪いことを考えなければ、それはただの吉報となる。しかしそうとはならないのが現実でもある。
司をはじめとした戦闘員は何処からともなく発せられる殺気に気付き身を構え、それに伴い私はひと足先にラボカー内へ避難する。
無情とも思えるその行為だが、他の人は助かることは"知っている"。だがそこにいるはずのない私が死なない保証なんてないのだ。我が身を一番に考えて何が悪い。
ギリっと奥歯を噛み締めてラボカーの端に座り込み、ただ外のやりとりに耳を傾ける。司と氷月の話し声を聞き、そして──。
「総員ボートへ!伏せるんだ……‼︎‼︎」
司の大声と連続して放たれた弾の音。
間一髪で難を逃れたメンバーがラボカーに乗り込み、怯えながら身を潜めた。
「マシンガンだ……‼︎」
「いぃいい!なんなのそれぇええ!!?」
いまだに放たれる銃弾は止まることなく装甲に打ち付けられ、それがうち破かれる前に龍水が舵をとり銃弾と装甲の間に水の防壁を生み出す。一瞬の隙をつき逃げ出すことに成功した私たちであるが、新たにできてしまった問題が思ってもいないほど重いものでしかない。
「全員大した怪我はないか!」
「なんで……誰がマシンガンなんか!やっぱしアメリカは無事だったってこと!?」
「人間ひとりといねーんじゃねーのかよ」
「それはないな、この惨状のままの説明がつかん」
「ありうるとすれば、千空と茉莉と同じ、自力復活者」
羽京の言葉に、チラリと私に視線が向く。
だがしかし、私に何か求められても何も答えられるものはない。
「ならコーン栽培もそいつか!」
「だとすりゃ死ぬほどおありがてぇがな。──ククク、最悪、ダークサイドの科学使いとガチ対決か。負けらんねぇなァ、そんだけは……‼︎」
千空の言葉に、私はグッと唇を噛み締める。
いつもだったら大丈夫だよと軽々しく言えたものだが、私はもうその先を知らない。千空がどうやってゼノに勝ったかなんて知らないし勝てたかもしらないのだ。
ただ一つ言えるのは、何があっても千空は無事であろうということだけ。その過程でどんなことが起きるのかはもう知らないし、私には信じることしかもうできないということ。
ふぅ、と小さく息を吐き心臓を落ち着かせることに集中する。この中で誰よりも動揺していないのはきっと私なはずだ、だから落ち着かなければ。いつも通りに笑って、心配ないような顔をして。いつも通りの私をやりきらなければ。
今此処で、無能を晒すわけにはいかない。
「──センクウ、夜は寝ずの番する感じ?」
「まぁ、そうなるな。いつどこでやってくっかわかんねぇし、警戒しとくべきだろ」
「ん、じゃあそれなりにラボカー動かしときゃこっちはオケ?」
「……あ"?まさかと思うがテメェが寝ずの番するきか?」
「一日二日ぐらい寝ないのはデフォだし、慣れてる人がした方がいいでしょ?それに次があるとしたら戦闘員は寝かせておきたい、命綱だしね。あ、運転の心配なら問題ないよ?じぃちゃんの敷地内で農耕車運転してたからモーマンタイ」
任せておけとグーサインを送るも呆れたような顔をされ、ゲンと羽京にはそれはダメだとギャン拒否される。かと言ってラボカーを運転できるメンバーは決まっているし、ボート操縦にも人数は取られる。今回のような場面で操縦できる龍水は休めたいし、やはり寝ずの番は私が適任だろう。
「私はいざという時状況を判断できないよ。だから頭を使う人間も休んでおいた方がいい。私だけじゃ不安ならば私プラス一人でいいんでない?ラボカーは」
「オメェなぁ……」
「逆に聞くけどねセンクウ、この状況で、私が、寝れると思う?」
「──そっちか」
「そうそっち」
ビビリを舐めんなよ。銃乱射された後で寝れるような精神だったらとうの昔に睡眠障害になんかなってないんだよ。
私の言いたいことが理解できたのであろう千空は盛大にため息をついた後、私以外の数人は代わり代わりに寝ながら見張りをこなすと決定つけた。もちろん不満の声は上がったが、私が寝れないと理解している千空は頷くことはない。
「茉莉ちゃんも寝てた方がいいんじゃないの?」
「寝れんなら寝かしてるわ。こいつは寝ないんじゃねぇ、寝れねぇだけだ?」
「……寝れないって」
「睡眠障害持ちなんだよ茉莉は」
「かれこれ十年は。あ、プラス3700年ね。ちょっとした精神のブレで寝れなくなるの、ゲン君は知ってると思ったのだけど?」
「あー……」
「え、何それ。僕知らないんだけど。ショートスリーパーとかじゃなくて?」
「寝れないだけだけど?」
石神村勢は割と知ってるよねと銀狼に問い掛ければすごい勢いで頷かれ、知らなかったであろうメンバーには唖然とした顔を向けられた。
なんだよ、寝れなくて悪いかよ。
鋼の精神はもちいてないんだよ私は。
「ボートの運転もまぁ、できなくはないけどそれはやったことある人に任せるとして。ラボカーは主に私でいいね。戦力と睡眠は大事だからねれる人は寝とこ」
はい、この話終わり。
と手を叩いて話を強制終了させて早速龍水と運転を変わる。千空はラボカー上部から頭を出し、ボートに乗っているメンバーにも代わり代わりに寝るようにと指示を出した。
ってか、氷月たんボートの運転できたのね。ワォ!
「もし何からあったら誰かしら起こすし、なるべく寝ておきなよー」
なんて、私はニコッと笑っておくことも忘れない。
本当は、笑う余裕なんてないんだけどね。作り笑いなんてもうお手の物である。