くぁっと欠伸を一つこぼし、龍水とラボカーの運転を代わる。とは言ったものの、欠伸をしていたから眠いわけでもなく目は嫌になる程冴えていた。生あくびはストレスに晒された身体を守るための防衛反応だとか、昔どこぞの精神科医に言われた記憶がある故に、多分今回もそうなのであろう。
千空をはじめとしたメンバー達に寝ておけと声をかけられてしまったため、仕方なく毛布にくるまり目を瞑る。エンジンの音や波の音、皆の会話を聴いていても心が休まることはなく。
「つまり地球の裏側にもう一人千空みたいな科学者がいて、自力復活したってことかー!?」
「ククク、んなもん俺の特権でもなんでもねぇだろ。現に茉莉は科学者じゃなくても俺より早く目覚めたわけだしな。ま、相手が俺と違った方に文明を進めていったのは確かだろうがな」
それな。
ゼノ先生が平和主義者だったら私もこんな思いしてないわけで、仲良くしてくれれば越したことはない。
けど、そううまくいくわけもないのだ。
「茉莉ちゃんみたいに石斧からコツコツ作って、それで千空ちゃんより早くマシンガンまで辿り着いちゃったってこと⁇ 好きだけで出来るレベルと違うでしょ……」
好きだけでできちゃうってか、本職みたいなものだものゼノ先生。私しか知らないってことはわかっているのだが、ため息を漏らさないようにするのも嫌になる。
ペルセウスに残っていたらこんな事も考えなくて済んだかななんて思いつつ、それでもなお聞き耳を立てた。千空も多分ゲンも私が寝てないのはわかっているだろうが突っ込んでこないし、聞いていても問題はない話だし船に戻ったら皆にも知らせなきゃなりない事柄でもある。寝てないことに文句は言われそうだが、それはまぁ置いとこう。
俺らよか科学が進んでると千空が公言すると共に、龍水はそれ故に自分たちを攻撃する気満々だと理解してしまったらしい。
私はそれを聞いて床に丸くなり耳を塞いだ。
だって、この後の展開は嫌でもわかっているのだから。
「────エンジン、音?後ろから……」
羽京の耳が拾ってしまった微かな音。
コハクの目に見えず、船の気配も感じないそれはラボカーの頭上に不意に現れてしまった。
千空のことだがらソレに唆られてしまうのは分かる。だってこの世界に船を作るのだって一苦労だったのに、飛行機があるんですよ唆これになるに決まってる。
ですがね千空さん、それ、敵対機です。
「……空!千空!!」
大樹の声で我に帰る千空だが言葉を発することはなく、代わりに高度を下げてきた機体に対して羽京は友好性を感じられないと叫ぶ。龍水はならばとラボカーを加速させ、追い付かれないようにするのに必死になっている。
だがしかし、船と飛行機とじゃ加速スピードが違いすぎた。こちらがどんなに必死にエンジンを回したところで、いともあっけなく追いつかれ空中から銃弾の雨が降る。
ラボカーに乗っていた私達は川に投げ出されなかったが、コハクや銀狼たちの声から察するにボートの上にはいないのだろう。私は一度千空の方へ視線を移すも、何をするために行動を起こすことはしない。
内心どうせ何もできないしと、諦めているのだ。否、それ以上にここで出張って何かが起こってしまうのが怖いのだ。
私が銃弾を受けて死ぬのはまだいい。だがそのせいでタイムラグができて何かが変わってしまったら?誰かが死んでしまったら?飛行機を手に入れられなかったら?
そう考え出したらキリがない。
「キリサメ、テメーの投擲術頼みなんだ!必要なもんを言え!!」
私がそんなことをうだうだ思考している間に千空は飛行機を落とす手筈を整え、それをキリサメに投げ渡す。彼女はそれが何を意味するかを瞬時に理解し、大樹たちの作った足場に乗って頭上に投げた。
それは上空で爆発すると千空の思惑通りに飛行機に害を与えたようで、煙を上げて墜落していく。
これで脱出して生き残るスタンリーさんも、これまた人間離れしてるよな。うん、マジでそう。パラシュートとかないですよね?
みんなが超人すぎて、一旦思考が落ち着いてさえくるわ。
みんなが喜ぶ中、私は機体が落ちた方角を眺めて小さくため息をついた。
少しずつだがまた私が知り得る未来に近づいて、もうそこまで何も知らない未来が訪れきているのを嫌でも理解させられてしまう。いくら怖がろうと嫌がろうと逃げ場なんてどこにもないのだと、無情なまでに、残酷なほどに、全てが私に語りかけてくるようにさえ感じてしまうのである。
「仲間連れて戻ってくるかもしれないよ⁉︎すぐ逃げよう急いで!」
ボートに乗り込んだ銀狼がそう千空達に意見するも、それはあっけなく否定された。
「逃げる?」
「何言ってやがる、逆だ逆!!」
理解できていない金狼と、碌なことを考えていないとわかってしまうコハク。私も頭にハテナを浮かべるクロムの横でウンウンとただ頷いた。
「見てただろ、飛行機の墜落地点。お仲間呼ばれる前にソッコー俺らで向かうんだよ……!!」
そうして川を登り森に立ち入り、見つかったのは木々の間に挟まる形で発見される飛行機。コハクがトントンと木に登り中を確認すれば当たり前だが誰もいない。
とならば千空が考えそうなことはただ一つ。
「じゃあ落とし物だね!」
「ああ、落とし物だ!」
「落ちてはいないけど、落とし物だねぇ」
使えるものはなんでも使う合理的主義の千空が、それを手に入れないわけがない。
「茉莉ちゃんまでこれを落とし物って言っちゃうぅ?」
「だって、使えるもんは使わないと勿体無いじゃない?」
「そういう問題かなぁ」
「そういう問題だよ、多分」
今後この機体は役にたつ。
とても、とっても役に立つ。
そうなる前に胃が痛くなる展開があることを理解しているけれど、そうなって欲しくないと願ってしまうけれど。
私の願いなんて叶いやしないし、どうする気もないのだから目を瞑るしかないのだ。