凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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94 凡人、望んでしまう。

 

 

 飛行機を手に入れた私達はその後、二手に分かれることとなった。何故ならばそれにコーンの葉とツブが付着しており、尚且つ敵側には飛行機で追ってくるために必要となるであろう滑走路ができるほどの平野があるのでは予測されたからだ。

 

「本来奇襲をうけたら一旦退避がセオリーなんだけどね、こうなると多少リスクを取ってでも追跡するメリットが大き過ぎる」

「追跡って誰……」

「決まってんだろが。飛行機乗ってた敵尾けるんだよ」

 

 追跡した結果コーン畑があれば開墾増産の数年スパンの工程がなくなるし、全人類復活の日もまぁ近くなる。となると追跡しない手はない。

 故に私はそうそうと探索セットをコハクに背負わせ、クロムにケータイを担がせた。無論、私を名指しされないための行動なのだが、千空から"三人に"とゴーサインが出てるため問題はない。

 

「いや、その追跡って誰が……⁇」

 

 ゲンが疑問を言葉に出すと同時に"誰が“向かうのかを理解し、私はにっこりと笑って手を振った。

 

「いってらっしゃい」

「うん、知ってた。知ってたけど聞いた♩」

 

 探索屋のクロムにメンタリストのゲン、護衛のコハク。若干嫌そうな顔をするゲンにもう一度手を振り見送り、残りのメンバーでペルセウスへ向かう。戦利品というには大き過ぎるお土産が手に入ったわけだが、こっから先、私はさらに気が抜けなくなるに違いないだろう。

 キリリと痛む腹を一撫でし、ひっそりと息を吐く。もういっそのこと船に篭りたい。何もしないで見ないふりして引きこもりたい。

 体調不良と嘘をつけば表に立つ事ないだろうが、違う意味でさらにお腹は痛くなりそうだ。

 

「──ま、なんとかなるかぁ」

「あ"?何がだよ」

「んにゃ、コーン畑の話?」

 

 独り言に返事をしてくれた千空ににへらと笑顔を返すと顰めっ面が帰ってきたが、眉間に皺がよっててもイケメンはイケメンなんだね、うん知ってた!

 千空は顰めっ面のまま私には寝てろと指示を飛ばし、今のところできることがない私は素直にそれに従いラボカーの隅で丸くなる。追跡に行った三人に健闘を祈りつつ、私はペルセウスに着くまでただ目を閉じて時が過ぎるのを待ったのである。

 

 ペルセウスに帰ったところとて、私のするべき事は何ら変わりない。千空の指示に従ってできることをただこなす、ただそれだけ。それ以上にできる事はないし、やろうと思えることもない。ぶっちゃけ飯炊要因(フランソワの手伝い)くらいしか私の需要はないと思っているのだ。アメリカの植物?知りません。アメリカの生態?知りません。私が知ってる知識は主に日本でしか役に立たないものばかり。まぁ狩った動物を捌いたり調理したりは応用でできるけど、それだけなんですよ。

 事実私は昨日とれたばっかりの新鮮なワニ、もとい肉を調理場へ移動させるくらいで何が起こったかの報告会には入らなかった。操舵室に顔を出してはいるが、必要以上の会話にはいることなく、追跡隊からの連絡が来たところでそれは何一つ変わらない。

 

『おぅ、聞こえてっかペルセウス!実はちょい予定が変わっちまって今……』

「あ"ー、それ以上喋んな!!」

 

 無線での連絡の取り合いは敵側に盗聴される可能性が高い故に、千空はできるだけ情報を与えないためにクロムの口を閉ざさせた。そして少ない言葉のやり取りで追跡隊の情報を受け取らなければならない。しかしまぁペルセウスには千空や勘の鋭い龍水がいるのだから、大体のことは推測できてしまうのがこの科学王国の強みといえよう。

 連絡してきたメンバーがコハクとクロムの二人だけという少ない情報でゲンが敵陣に潜入したと予測し、千空はそれ以上何も聞かずに通信を切る。もちろんそれは相手側にこちらの位置を特定されないためであるが、何ともまぁ潔いものだ。

 

「まるで違うよ、これまでの戦いと。ずっと科学が僕らのアドバンテージだった。今回は敵がそれを上回ってくるかもしれないんだ」

 

 ストーンウォーズも宝島も千空のもつ科学知識で勝ってきたようなもので、それが使えない状況など誰しも想定していなかっただろう。

 

「ククク、科学使いガチ対決か。唆るぜこれは……‼︎」

 

 うぐっ、カオガイイ。

 こんな時でさえ悪っるいヴィランのような顔をする千空に心臓を掴まれるのは誰だ?私だ!

 もうカオガヨイ、お布施させて。銀行がこい、わたしがATMになる。

 くそぅ、千空の顔が良すぎて今までと違った意味で心臓が痛いのだが?責任とって隠し撮りされてください。

 

 なんて真顔で悶えていればジリリと通信を告げる音が鳴り、マグマがそれを受ければ見知らぬ人の声がそこから響いた。

 

『やぁ、こんにちは。なるほどこの周波数だね、君たちの連絡網は』

 

 敵からの接触に周りが目を見開いて驚く中、千空だけは鋭い視線のままこの声をただ聞いている。

 

『つたない日本語ですまないが、馬鹿にわかるような話でもないのでね。僕はDr.ゼノ。そちらの科学リーダーと話がしたい──Dr.大樹と繋いでくれ』

 

 あえて言葉にするのならばテンテンテン。どうしようもなく、理解できないが故の無言。知っていた私でさえもゼノの口からDr.大樹とのあまりにも似合わない単語を聞いて頭を傾げてしまうほどに、それは即座に理解できるものではなかった。しかしほんの少し考えれば何故そうなったかは分かり易い。あちら側に潜入したのは蝙蝠男と名高いメンタリストのゲン。嘘をつくなんてお手のもの。

 大樹ならば千空の代わりに戦うぞ!っと深く考えず作戦に乗ってくれるだろうと理解して、ゼノへと嘘をついたはず。

 その意図を汲み取るや否や杠は何故か着替えを用意し、そして大樹も疑問なくそれに袖を通して科学者スタイルに早変わり。

 このカプてぇてぇと拝みそうになる両手を組み直すことで押さえ込み、私はいつも通りにことの成り行きを見守った。

 

「俺が大樹‼︎Dr.大樹だ!Dr.ゼノさんと言ったか、まず言いたいことがある!聞いてくれ!人をいきなりマシンガンで撃つのは、悪いことだ‼︎‼︎」

 

 それはそう。

 みんなの心が一つになった瞬間である。

 けれどもいくらこちら側が一般的な正論を言ったところとて、ゼノ達にそれが通じるわけがないのだ。

 彼らの狙いは私達、すべての人員、その全てを労働力とすること。

 そして何より"どうやって目覚めたか"の原因を突き止める事なのだから、いささか手荒な手を使っても致し方ないと考えているのだろう。

 

 大樹がボロを出さないように気をつけながらも会話は進み、相手側はすでにアンモニアの科学工場を、無限に大量に火薬を作れるシステムを完成させてるのだと無理にでも理解させられる。つまりのところ、勝ち目はないよ?ってゼノは伝えたいのだろう。

 

『こちらは大人のプロ集団だ、君たち仲良し少年チームの科学ごっことはわけが違う。素直に投降して僕達に仕えてほしい、それだけなんだ。何せ人手不足でね』

 

 仲良し科学チームだったら私の精神はここまで病んでないのだが?不眠に陥ってないのだが?仲良しチームが殺し合いしないって思ってらして?してるよこのメンバー。と脳内で突っ込むことを忘れない。

 

 千空達はゼノが復活液の存在を知らないとその会話で推測するも、唯一のアドバンテージを渡すわけにはいかない。もしそれがバレたらゼノ側で復活液の量産は可能で私たちは反逆組織として全滅パターンもありえる。それ故にレシピは教えられるわけがないのだ。

 

「硝酸はプラントで、アルコールはコーンで。つまり逆に言やそれさえイタダきゃいきなりコーンシティ完成!復活液ウン十億人分ゲット!っつうわけだ……!!」

 

 龍水の言葉を借りるならば欲しいは正義。

 その正義のために起こるであろう争いなんて、千空の中では最初から理解できていたのかもしれない。だって人間は、そうやって進化をし続けてきたのだから。

 

 操舵室にいても聞こえてくるエンジン音は空を駆ける飛行機のもので、わざわざ外に出てそれを眺めてしまえばこちらとアチラの科学力の差を思い知らされる。

 人を助けるために復活液を生み出した千空と、選別された世界を作るために科学を進めてきたゼノ。

 

 どちらも正義だ。

 どちらも正義なのだ。

 掲げる意思が違うだけで、どちらも正しい。だからこそ、どうしても敵対しなきゃダメなのかな、なんてらしくもなく思ってしまう。

 この先を知らない不安からか、それとも師弟同士手を取り合う道を探して欲しいからか。

 珍しく、知り得た未来じゃない世界を私は望んでいる。

 

 だってそうでなければ千空は──。

 

「ッ──」

 

 誰にもバレぬようにひっそりと、私は胃液を吐き出すしかなかった。

 

 

 

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