凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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95 凡人、  。

 

 

 ゼノとの交渉は決裂し、私達はまたしてもセコセコと働き出した。

 マグマと陽は銃を持ち出して正面特攻しようとしたがニッキーに止められ、あちら側と火力が違いすぎると説明すれば一応その考えを改めてはくれた。しかしながら戦闘を控えペルセウスを空母に改造するとしても、一度戦況を整理しなければ身動きは取れないだろう。

 ボードゲームのような図面を使い、敵陣とクロム達の位置を把握していく。ゼノ達にこちらの場所がバレてるのだからペルセウスごと逃げてしまった方がいいと銀狼が不安げに発言したが、羽京がそれを否定した。

 

「敵に哨戒機がいちゃ無意味だよ。逆に陸地っていう逃げ場を失うだけだ」

「氷月、君が敵軍Dr.ゼノの立場ならばどうする?」

「海賊船を作りますね」

 

 どちらかと言えば敵側の思考よりの氷月は火器の差が明白ならば、高速の小型ボートで接近して一気に制圧すると。それならば大型船のペルセウスでは逃げようがないと意見を述べる。それは近代の、石化前にいた海賊と同じやり方故に確かな戦法なのだろう。

 

「私たちが接近戦でどれだけ強かろうと、空は飛べません」

「制空権を一方的に握られた戦闘に勝ち目はないよ」

「はっはー!その通りだ!つまりvs飛行機にはドッグファイト!飛行機で闘う‼︎」

 

 ありがたいことに千空率いる科学王国には人手がある。ゼノ達が何かを仕掛けてくる前に突貫工事とは言え空母を作り終えたいところだ。

 

「茉莉、テメェ木の選別くれぇはできるよな?」

「んー、日本に生えてるもんとちょっと違うけど、まぁ出来なくはない」

「じゃあ頼むわ」

「はーい」

 

 私に仕分けられた仕事は木の選別、と言ってもそんなに難しいものではない。なるべく同じ太さで歪みがないものを選ぶとかそんなところだ。

 船からなるべく近場の木々を選び木炭で印をつけていく。そうしておけば大樹やら力自慢達が伐採してくれるのである。切り倒す時人を巻き込まないようにと注意を施しながら森を練り歩き、たまに動物も狩っておくのも忘れない。工事は体力勝負なところもあるから、食料調達も仕事の一部なのだ。

 

 出来ることを淡々と、何も考えずに着々と。

 むずかしい構造は千空と龍水に任せ、私はただ空母作りと飛行機の魔改造に手を貸すのみ。

 飛行機に元からついていたグラススキーは竹編み車輪に付け替えて、ふぅっと一度息を吐く。

 全くもって重労働なのだが、嫌にならない自分の性格を褒め称えたい。物作り好きで良かったと、夢中になれるおかげで嫌なことを考えずに済むと足りない脳で思考する。

 視線の先に映る龍水が何かに気づいたように空を睨みつけていたが、見て見ぬふりをさせてくれ。

 

「──茉莉!一旦作業を止めて操舵室に来るようにって!」

「……私、行かなきゃダメ?」

「呼ばれるんだから行きなさい!」

「んー」

 

 南に怒られながら渋々操舵室に向かえば千空を始めとした面々が集まっており、なんとなく居づらく感じる。

 私は知識チートでも武力チートでもないのだから、決定事項を教えてくれるだけでいいものを。

 

「Dr.ゼノは俺たちをここに釘付けにして、何かを仕掛けようとしているに違いない」

「ならゲン君にクロム君にコハク君。全員を見捨てコーンも諦め、はるばる外洋まで逃げれば助かります」

「そんなことするわけがないだろー!」

「ってか逃げたところで逃がしてくれるとも思わないしねぇ」

「でしょうね、そういう話です」

 

 たとえ偵察部隊を見捨てて逃げたところで、復活液のレシピを知る人間をみすみす見逃すはずもない。だってゼノさんは氷月と同じ選別思考の持ち主なのだ。千空の全人類復活計画も良しとしないだろう。

 アチラさんがこちらを逃す気がないのなら速攻をかけてくるだろうと司は予測し、千空は逆にこちらから速攻をかけてやろうと提案というなの決定事項を私たちに告げた。

 

「少人数の特殊部隊で敵の科学の源、Dr.ゼノの身柄を拘束する‼︎」

「メンバーは司、氷月、羽京、スイカ‼︎ お互い敵本陣の科学リーダーをチェックメイトすれば勝ちの速攻戦といこうじゃねぇか!」

 

 千空のその言葉に、思わず眩暈がした。

 もうそこまできてしまったのだと、どうしようもないのだと。

 

 一瞬だけ開いた唇から音が漏れることはなく、私は視線を下へと向ける。ここで異変を感じ取れるであろう武力チームの一人でも残ってくれさえすれば千空が撃たれることはないのかもしれない。司と氷月だったら微かな殺気とか、羽京であったならばスタンリーが接近した音だとか。たらればだが、その可能性はなくはない。だがここで彼らを引き止めてしまえば、ゼノを拘束できない未来もあるかもで。

 結局のところ私は未来をかえようとはせずに、彼らの背中を眺めることしかできなかった。

 

 私の知ってる未来は、ページ数にしてみれば十数ページ。時間の進み方は分からないが、彼女が訪れてしまったらその日に全てが終わってしまうのだろう。

 相手方がここにくるまでに数日かかるとは思えないし、多分多くて二、三日ってところだろう。

 

「──っぅえ」

 

 このところ酷い吐き気を抑える事ができず思わず甲板から身を出し、胃液を吐き出す。本日何度目か分からない胃酸の逆流のせいで、口の中はずっと気持ちが悪い。今までだってなんとか過ごしてきたというのに、なんで今回はこんなに酷いのだろうか。

 

「うー……」

「──ほれ、水でも飲んでろ。で、いつから体調悪ぃんだ?」

「んー、あー、うん。悪い、わけではないんだろどねぇ」

「あ"?四六時中吐いてるやつが何言ってやがる」

 

 バレテーラ。

 渡されたコップで口を濯いでから水を飲み干し、少し考えるそぶりを見せる。

 まだ体調が悪いと思われているのならば、それはそれで良し。精神的なもんだとバレたら、それこそ根掘り葉掘りきかれる可能性大なのでは?何せ最近の千空は、主に宝島あたりから私をバブちゃんだと思っている節がある故に。

 

「私、アメリカの気候と相性悪いのかもしれない」

「……で、本音は」

「────」

 

 あ、精神的なものだともバレていらっしゃったのですね?流石千空パイセン。

 

「──無理に聞こうとは思っちゃいねぇが、倒れる前に言いやがれ。もしくは泣いとけ」

「んー、善処シマス」

 

 今回は泣いたところで解決しないんだけどね。しかしまぁ、精神的なものだから吐き出せれば楽にはなるのだろう。誰にも吐き出せない事柄だけど。

 

「無理だけはすんなよ」

 

 そう言って私に仕事を寄越してくるのは、こんな私でさえ休ませておく余裕がないからだろう。最年少のスイカさえも危険のある仕事に就いた今、理由さえ言わない私を休ませる暇なんてないのである。

 

 故に私は自分の感情にも蓋をして、時折溢れるものを吐き出して。

 私はその時まで働いたのだ。

 

 

 

 薄汚れた、金髪美女が現れるその時まで。

 

 

 

 あーぁ。

 

 

 

 

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