凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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97 生み出されたチャンス。

 

 

 

「銃の音!?」

「飛んでくるよぉぉおおお!タマが!!」

「違う!音よりも着弾の方が早い!!」

 

 聞き慣れない音が鼓膜を振るわせあたりがより一層騒がしくなる中、千空は目の前で起こってしまったそれを現実とは捉えられなかった。

 自分の知り得る少女は怖がりで泣き虫で、自身から危険に身を置こうとしない。むしろ徹底的に危険な事柄を事前に察知し近づこうとしない、そんな人間だったはずなのだ。

 

 だというのにコレはなんだ?

 目の前に倒れているのは紛れもない幼馴染で、今度こそ側で守ろうと決めた少女。

 彼女から流れ出たであろう血液は月に照らされ場違いなほどに輝き、今でもそれは甲板に広がっていく。

 

「──っ!」

 

 茉莉と名前を呼ぼうにも声が出ることがなく、空気だけが漏れた。

 

「千空──!!」

 

 そんな中誰よりも先に千空に駆け寄ったのは大樹だ。大樹の目に最初に映ったのは身動き一つしない千空で、撃たれたのが千空だと勘違いした。大樹の声で辺りにいた乗組員も千空が撃たれたのだと勘違いをし騒がしくなるのだが、これが功を成し、狙撃者に狙いが外れたとバレなかったのは不幸中の幸いだろう。

 

「うぁあぁあ!千空が!殺されちゃったぁぁあ!」

「──っ違ぇ、俺じゃねぇ」

 

 銀狼の叫び声に反応し、ようやく喉を震わせて声を放つ。そして茉莉に近づき呼吸がまだある事を確認し、大樹とマグマの力を借りて茉莉を室内へと運ばせる。フランソワが用意したのであろう簡易的なベッドに彼女を寝かせ、いまだに騒ぐ乗組員の声など聞かずに撃たれた跡に目を向けた。

 

 右上半身に綺麗に開いた五つの穴。

 しかしながら血が出ているのは肩を貫いたであろう一箇所のみで、その他からは血が出ていない。こんな時に構っていられないと人目も気にせず彼女の衣類を剥ぎ取れば、そこには懐かしいものが忍ばせてあった。

 

「……はっ、誰よりも分かってんじゃねぇか」

 

 ぐるぐると上半身中心に布で巻き止められていたのはかつての戦いで生み出したカーボン。まさかこんな事に使われるなんて千空すら考えてやしなかった。

 けれども納得はできる。

 茉莉はすでに銃の存在も、敵が容赦なく撃ち込んでくるのも身をもって理解していたのだ。ならばと自衛策としてこれを利用したのだろう。

 それ故に撃たれても死にはしないと、千空を庇ったのだと自ずと理解してしまったけれど。

 

 千空が自身を守ろうとして即座に生み出したダイラタンシー流体を使ったソレと、かつて生み出したカーボンの端切。その二つがあったからこそ茉莉が千空を押しのけ代わりに銃弾を受けたとて、ソレが身体を貫くことはなかった。かといっても砕けた銃弾の一つは肩を抜け、残りの四箇所には弾の破片がめり込んでいる。防弾できたとしてその衝撃をモロに受けるのは骨や肉。何事もなかったでは済まされないのは目に見えていた。

 

「龍水!一旦茉莉の状態をみっから他の奴らに指示を頼む!」

「あぁ!フランソワ、千空を手伝ってくれ!」

「勿論です!」

 

 嫌な汗を拭い茉莉の体に巻き付いていた布を取り、カーボンを退けてみれば銃弾がめり込んでいた場所の肌は赤黒く変化している。内出血していることは間違いなく、単純に考えても肋骨はヒビがはいってるに違いない。もしくは折れている可能性すらある。ヒビだけならまだしも骨が折れ砕け、それが肺を傷つけていたとしたら笑い事じゃ済まされないだろう。

 

「──ッ」

 

 柄にもなく舌打ちをしながら怪我の状況を確認していき、必要になるであろうものを頭の中で整理していく。肩の出血も少なくはなく危険な血管が傷付いていなくとも、縫合と輸血の準備も必要になるだろう。

 それとあとは──。

 

「──空さま、千空様!」

「あ"」

「顔色が良くありません。応急処置が済みましたら、一度体をお休めください」

「んな暇ねぇだろ」

「……手が震えております。そんな状態で縫合など任せられません!指示を下されば私が行います」

「……あ"ぁ、頼む」

 

 何度だって命の危険に晒されてきた。むしろ一度は殺されてもいる。

 そんな時でさえ"合理的に"恐怖を押さえつけてきたというのに、自分を庇って死にかけた茉莉を目の前に手が震え、呼吸が乱れる。いつものように"合理的"に考え行動しなければならない事は頭では分かっているはずなのに、身体が思うように動かない。

 どうしようもない憤りの中千空は頭を抱え、一度深く息を吐いた。

 

 

 千空とフランソワが応急処置に取り掛かっている一方で、龍水は一度、船員全員を船内へと避難させた。何せ相手は躊躇いなくこちら側を殺す選択をした輩だ、狙って撃ったはずの千空が無傷だとバレてしまえばまた撃ってくる可能性もある。動きが見える場所へ止まるのはあまりにも危険すぎるのだ。

 いまだに千空が撃たれたと騒ぐメンバーに聞こえるように、ただ外には漏れない声量で龍水は千空は無事だと声を上げる。

 

「千空は無事だが茉莉が千空を庇って撃たれた!どんな状況かまだわからんが、少なくとも無傷ではない!出血も見られた!」

「そ、そんな……」

「狼狽えるな!あの茉莉が無謀な事をすると思うか?きちんと防弾済みだ!治療は千空とフランソワに任せれておけば問題ないだろう。俺たちが今しなければならないのは茉莉が生み出したこの反撃のチャンスを無駄にしないことだ、違うか!?」

 

 千空を狙ってきた敵は誰かが庇って撃たれたとはまず考えてはいないだろう。何せあの瞬間、茉莉以外の誰もが自分の命を優先していた。瞬時に誰が狙われているかなんて考えつくわけもなく、音が聞こえてからようやく誰が狙われたかを知ったのだから。

 

「きっと奴らは『リーダーの千空は消した、もう戦力差は埋まらない。あとは少年たちに降伏を促すだけ』そう考えるに違いない!」

「いや、そーだろうけどよ。分かっけど、チャンスとか言ってる場合じゃ」

「このまま何もしなければ、茉莉がただ傷ついただけになる!相手が油断している今だからこそ、俺たちは動かなければならない。そうでなければ報われない!違うか!?」

 

 龍水の力強い言葉に誰しもが息を呑み、彼女の姿を思い浮かべた。

 こんな時に茉莉ならばなんというだろう。きっと彼女ならば簡単に『できるよ』とそういうに違いない。何せいつだってそうだったから。

 茉莉はいつだって前を向いて突き進む。千空をただ信じて諦めることなく前を見て、自分たちを引っ張ってきたじゃないか。

 そんな彼女がそれこそ命を張って千空を守り、反撃のチャンスを与えてくれたのだ。

 ならば今度は自分達が諦めずに進むしかない。

 いつも笑顔で千空を信じて進んできた茉莉のように。

 

「私達が、諦めちゃいけない!」

「そうだ!千空がいるんだ!茉莉はきっと大丈夫に違いない!」

「ならば俺たちは何をすればいい!?」

 

 最初に声を上げた杠に大樹が続き、金狼が何をすべきかと考えだす。その連鎖は止まることなく続き、皆が生み出されたチャンスのためにすべき事は何かと思考し始めた。

 

 

 その姿を後方で見ていたルーナは一人目を見開いて小さな声でどうしてと呟いたが、その声を拾ったものは誰もいなかったのである。

 

 

 




みんな違う、茉莉ちゃんそんな事考えて行動したわけやない。
と思っていますがはたからみればそうなのかもしれない?
そして一番前向けてないのは千空パイセンです。

ついでにイメソンが見つかりました。想像が膨らむー!
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