凡人は石世界で推しを推す   作:燈葱

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99 凡人、過ち。

 

 

 どうして今更、こんな事をしでかしてしまったのだろう。情に流されたと言われればそうかもしれないが、私がしてしまった行動は今までの私自身を否定するだけじゃないか。

 

 息をするたび痛む胸も霞む視界も何もかも、私がやらかしてしまった結果でしかない。

 

「────ッ」

 

 こんな痛みを負うくらいならば最初から何もかも諦めて千空の隣に並んでいればよかったのに。こんな苦痛を味わうくらいなら、未来も過去も投げ捨てて千空と一緒に生きていてもよかったじゃないか。

 

「──ッ」

 

 こんな中途半端な行動をするくらいなら、最初から諦めてしまったものを。

 だというのに、私は。そんな事を脳裏に思い浮かべてしまうのに私は──。

 

「……っ茉莉様!目覚めたのですね!今、千空様をお呼びします!」

 

 ゆっくりと瞳を開ければそこにフランソワがいて、珍しく焦った顔をして駆け出していった。

 私が千空の代わりに撃たれてどれだけの時間が経ったかわからないが、フランソワの言葉から察するに千空は無事で、ゼノ達に対抗するべく行動しているのだろう。私が代わりになろうがそうでなかろうが、結局の道筋は変わっていない。と、思いたい。

 浅く息を吐き瞳を動かせば頭上に点滴らしきものが設備されており、本来ならば必要なかった科学製品を作らせてしまったのだと理解する。面倒かけて申し訳ないなと思っていると、ふと私の左手に何かが触れた。そちらに視線を向ければそこにはルーナがいて、小さな声で何かを呟いた。残念なことに何を言ったのが理解できないが、まぁ、良かったとかなんかだと思う。

 

「──あ、とう」

 

 看護してくれた彼女にお礼を言いたいが、息を吐くたびに胸の骨が軋むせいで声がない。

 ルーナに伝わらなかったかなと思っていたが、彼女の頬が少し緩んだように見えたし、多分なんとなく伝わったのかもしれない。

 

 フランソワが出ていって幾分もしないうちに少し息を荒げた千空が室内へ駆け込んできて、私と目を合わせるように跪いた。

 

「……起きんのが遅ぇんだよ」

「──ご、め」

「無理に喋んな、見事に肋骨が折れてやがるんだ。息するのも辛ぇだろ。一応鎮静剤は射ってあっからいくらかマシかもしれねぇがな」

 

 そう言って千空は眉を下げだが、それよりもその目の下にある隈の方が気になってしまう。

 千空のことだから忙しなく働いているのだろうけれど、コスパが下がるから睡眠の質は下げないはずでは?どうして隈なんて作っているのだろうと考えて、そりゃあ自分の命が狙われたんだからおちおち寝てられないだろうと思い直す。

 うっかり私が撃たれてしまったがそれが相手側に伝われば、再度命の危機に晒される。そんなこと考えなくてもわかりきったことで、流石の千空さんもストレスが半端ないのだろう。

 

「──った」

「あ"?」

「よか──。せ、く、……ぶ、じ」

 

 ぱっと見隈以外には変わったところは見られなくてにへらと笑うと、千空は何やら険しい顔で下唇を噛んだ。

 もしかして撃たれた事気にしてるのかなと考えてもみたが、私と千空だったら合理的に考えてコレが正しい選択だったはずだし、千空もそれをわかってくれているだろう。何せ千空こそ科学王国の要なのだ、誰がどう言おうと、誰がどう考えようとそれが正しいに決まっている。

 ま、以前の私からしたら間違えでしかないのだが。どうせそれは私しか知らないし。

 

「──テメェは」

「……ん」

 

 何か千空が言いたそうにしているのだけれど、どうやら私の体は休息を求めているようで眠気が襲ってくる。

 そういえば何も考えず魘されず寝れるなんていつぶりだろうか。なんとなく心地よく沈んでいく意識の中、ガーネットの瞳の鮮やかさだけが印象的であった。

 

 

 

 

 それからまたどれだけ眠っていたのか分からないが、次に目を覚ました時に隣にいたのはまたフランソワだった。

 ぼんやりとしたランプの光だけが揺らめいていて、今が夜だとわかる。右手はなんだか上手く動かせなくて左手で物音を立ればフランソワは私が目覚めた事に気づき、またしても千空を呼ぼうとする。

 だがしかし、今は千空よりも呼んでもらいたい人がいるのだ。

 

「──ナ、はな、す」

「……ルーナ様、ですか?」

「ん、そ」

「──分かりました。お連れいたします」

 

 私が自己中心的に行動して撃たれた結果、変わってしまった未来がある。千空がお元気いっぱいなのはいい事だが、コレから先を考えれば知っていれば、ルーナには千空と共に先へ進んでもらわなければならないのだ。

 一応ルーナは医学生でうっかり私のせいでペルセウスに残ることがあっちゃいけなくて、千空の"治療目的"で側にいた未来に出来るだけ沿わなければならない。

 

 フランソワは私が何故ルーナを呼ぶ理由なんて聞かず彼女を連れてきてくれて、私がゆっくりと話す言葉を訳して伝えてくれた。

 

 千空が無事だと知られればまた狙われる。

 その時医学生であるルーナには側にいてもらいたい。

 私は生きてるし、万が一のことがあるとしたら千空の命を守ってほしい。

 仮に千空に何か言われたとしても、私の事なんか忘れて未来のために進んでほしい。

 きっと私は側に居れないから、もう一度は代われないから。だからもしもの時の予防線として千空の側にいてほしい。

 決して身代わりになれといってる訳ではない。千空とみんなの命を手の届く範囲で守ってほしい。

 

「おね、──い、ね?」

 

 本当にフランソワがいてくれて助かったよ、こんな事千空に訳してなんていえないもの。

 きっとルーナからしたら何言ってんだコイツ状態だ。

 私はルーナが千空に惚れた隙に漬け込んで千空を守らせようとしているにすぎないのだ。だって私はこの先の未来を知らないし、けれどそこにはルーナはいることだけが確かで。何がなんでも千空達と此処を発ってもらわなければならないのだから。

 

「フラ、ソワ、も。せん、くと。い、しょに──。ひ、よう、だか、ら。ふた、り。ぜ、たい。お、がい、ね?」

 

 きっとお優しい千空さんのことだ、足手纏いの私がペルセウスにいるからとルーナかそのサポートができるフランソワを此処に残す選択をしてしまうかもしれない。

 けれどそれは間違いなのだ。だからそれはあってはいけない未来。

 ただでさえ私の自己満足で今が変わってしまったのだから、何がなんでも変えちゃいけない未来。

 

「──茉莉、様」

「や、そく、ね?」

 

 守ってくれなきゃ恨んじゃうぞ。なんてらしくない言葉も吐き出して、なんだが悔しくて虚しくて苦しくて出てくる涙を止められなくて。

 

 側にいたい、でもいれないな。

 だって私はこの先の未来が怖くて怖くて仕方がないから。

 

 何より私が変えてしまったせいで何かが起こってしまったらと考えたら、怖くて、気持ち悪い。

 

 バタフライエフェクトなんてないって信じたくないけど、もし誰かが怪我をしてしまったら死ぬことになってしまったら。

 それが私のせいじゃないと、私はもういえやしない。だって私はもう知らないのだ、この先の未来を。

 

 それが正しい未来かなんて知る術もなければ、良い結果となったか悪い結果になったかも分からなくて。どんな未来であったとしても、私はずっとこの先うだうだとこの事を思い出して後悔するに決まってる。

 

 自分の行動が未来を変えたなんて自惚れる気はないが、万が一があったらそれを私が馬鹿をやった所為だと思わずにいられない。

 

 モブのくせに此処にいない人間のくせに、一丁前に守りたいなんて思ってしまって。動いてしまって。

 

 だというのに私は。私の自分勝手で苦しんでいるというのに私は。

 こんな思いするのならば、こんな思いをしなきゃならないのならば私は──。

 

 千空を助けなきゃ良かったと、考えてしまったクソ野郎でしかない。

 

 

 あぁ、気持ち悪い。

 大切に思ってしまったくせに、守りたいと思ったくせに。

 この先が怖くて辛くて。

 当たり前のように千空が撃たれていればと一瞬だけれども考えてしまった。思ってしまった。間違えたと、悔やんでしまった。

 

「おね、がい、ね」

 

 お願いだから、どうか二人が千空と共に此処を去りますように。

 これ以上今が変わりませんように。

 

 どうか、どうか。

 これ以上未来が逸脱しませんように。

 私という存在を、この世界がなかったことにしてくれますように。

 私がやらかした過ちを、世界がなかったことにしてくれますように。

 

 私なんかが、いなかったことになりますように。

 

「まも、て。せんく、と、せかい」

 

 世界が私の存在を、なかったことにしてくれますように。

 

 愚かにも私はそう願わずにいられなかった。

 全くもって私は、クソみたいな人間の煮凝りでしかない。

 

 

 

 

 

 

 




マシュマロにて素晴らしいセリフのリクエストがありましたので、それを少し変えて組み込ませていただきました。
もとより考えたいた内容とぴったりだったので問題なし!
助けたからって吹っ切れるタイプだった、もっと楽に生きれただろうね!

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