【FE風花雪月】クロード×イングリット外伝 双極の比翼【SS】 作:いりぼう
しかし、暗殺計画は囮だった。
真の狙いは、聖廟への襲撃――――――
そして、そこに眠るかつて解放王が振るったと言われる英雄の遺産【天帝の剣】。
さらにはその首謀者が、聖セイロス教の西方教会であった。
大聖堂を騎士団と青獅子の学級の面々が守っていたおかげで、自由に動き回れたベレスとクロード率いる学級は、あらゆる可能性から聖廟の防衛という選択を導き出す。
そして【天帝の剣】は、何かの導きがあったかのように、ベレスの手に収められた。
彼女たちの活躍の元、無事に【天帝の剣】を守り切った。
しかしその裏で、またしても【英雄の遺産】が関わる事件が動いていた――――――
「――――――という訳です。すいません、うちの実家がご面倒をかけちまいまして。」
シルヴァンが、申し訳なさそうに――――――
半分は、面倒くさそうに、頭を掻きながらレアにそう告げた。
「貴方の所為ではありません。ですが…。」
彼を慰めるような言葉を投げかけたあと、レアはセテスと顔を見合わせる。
そして、何かを示し合わせたようにお互いに頷いた。
「すいません、お待たせしました。」
そこに、ベレスがやってくる。
どうやら彼女を呼んだ主は、ここにいる面々なのだろう。
少し神妙な表情をしていたレアの表情が、どこか和らいだように見える。
「お待ちしておりました、ベレス。貴女に依頼したい事があるのです。」
「依頼?」
「えぇ。生徒たちと共に王国領へ赴き、ある賊を征討してもらいたいのです。」
それに続けるように、セテスも口を開く。
「彼らはファーガス貴族のゴーティエ家から、
英雄の遺産【破裂の槍】を盗み出した。頭目の名は…。」
そう言いかけたところで、隣でずっと聞いていたシルヴァンが口を挟んだ。
「マイクラン。ゴーティエ家の廃嫡された息子…つまり、俺の兄上さ。」
「シルヴァンの…。」
迷惑な家族がいたもんだろ、と伝えるような小難しい表情を見せた彼は、レアとセテスに向けてこう続けた。
「しかしこの話、ベレス先生にお願いする話でもないでしょうよ。ゴーティエ家の問題でもあるし、ましてや金鹿の学級にはマグドレドの一件でもファーガスの尻を拭いてもらってる。今度こそ、俺たちで片づけるべきだと思うんですが…?」
しかし、二人は首を横に振った。
「これは遺産絡みの問題だ。一領主の力で解決できる問題の範疇を超えている。」
「そりゃそうかもしれませんが…。」
「紋章なき者に、女神の力は振るえません。ですが、武器を振るうだけならば可能です。」
「【英雄の遺産】は、人の手に余る強力な武器。相応の戦力をもって臨まねばならない。だが今、西方教会の背教者どもを粛清すべく騎士団の主戦力は修道院を離れている。だからこそ英雄の遺産に対応しうる適任者が必要だと考えたのだ。」
それを聞いたベレスは、自分の手のひらを見つめながら昨晩の事を思い返していた。
(【天帝の剣】か…。あの感覚は、一体…。)
その様子を見たシルヴァンは、
(なるほど…金鹿のみんな、ってよりはむしろベレス先生にうちの兄上を何とかしてもらおう、って感じか…。これは昨晩何かあったな…?)
…と、考える。
そして、言葉を返した。
「わかりました。大司教様のご意思、ゴーティエ家を代表して深く感謝申し上げます。ただ、一つお願い事がございまして…よろしいですか?」
「なんだろうか?」
セテスがそう聞き返すと、不敵にもシルヴァンは笑みを浮かべた。
「仰る通り、遺産絡みである以上は色んな人に助けは乞うべきでしょう。それは仕方ない。…が、それでも俺の家の問題でもある以上、指を咥えてるわけにもいかないんですよね、これが。アッシュの真似みたいになっちまうのは少々カッコ悪さもあるが、まぁこの際、それはしょうがないでしょ。」
そう言いながら、彼はベレスの方を向き、言葉を続けた。
「先生、今回の課題、俺も連れてってくださいよ。そこそこ力になりますよ?」
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「ふぅ…。課題には十分間に合うタイミングで帰ってこられたな。」
ガルグ=マク大修道院の正門をくぐりながら、クロードがそう呟いた。
自信の祖父であるリーガン公爵の代理としてレスター諸侯同盟の円卓会議に出席し、ようやっとガルグ=マクに帰還したところだったのだ。
(相変わらず揉め事の絶えない同盟だぜ…。久しぶりに出ると、どっと疲れる…。)
首や肩を捻りつつ、怠そうな顔をしながら、彼は大修道院の中を歩きベレスの元へと向かう。
そんな彼を呼び止める声が響いた。
「クロード!待って!」
「ん?」
彼は声のする方に視線を送る。
声の主は、イングリットだった。
「はぁ、はぁ…。よかった…見つかった…!」
よほど急いでいたのか、呼吸が乱れる。
「どうした、イングリット?そんなに急いで…。」
「探していたのよ、貴方もベレス先生も…!でも二人ともいないから…。」
「俺と先生を…?なんでまた…?」
クロードの質問を整理するように、イングリットは一旦呼吸を落ち着ける。
深く呼吸をとった後、イングリットは言葉を続けた。
「次の課題の事、聞きました…。また、ファーガスに関わる揉め事に巻き込んでしまい…。」
「あぁ、なるほど…その話か。まぁ、あれはどちらかというと…。」
…と、言いかけたところで、クロードは言葉を飲み込んだ。
「どちらかというと…?」
「いや、まぁ…それはこっちの話だ。それより、マイクラン…だっけ。シルヴァンの兄さんなんだってな。どんな奴なんだ?」
「私は正直、あまり接点はありませんでしたが…自己中心的だとか、高慢だとか、正直、あまり良い噂は聞いていませんでした。シルヴァンもあまり話したがらなかったですし…。」
「ふむ…。その【自分勝手】が行くところまで行った、って感じなんだろうな、今回の一件は。しかも、どうも紋章絡みっぽいし、【英雄の遺産】まで出てきたとなると…派手な兄弟喧嘩になりそうだぜ。」
「兄弟喧嘩?」
イングリットは、クロードが言ったその単語にキョトンとした。
「おや、聞いてないのか?今回の課題、シルヴァンが先生に自ら同行を依頼したらしいぜ。」
その言葉に驚くイングリット。
「えっ!?そんな話はなにも…!」
「なるほど…。誰にも言わずに自分だけでケリつけようと思ったのかもな。しかし、青獅子の学級にも課題があるだろうし、ディミトリにも言わずに、ってことはないと思うが…。」
「シルヴァン…。」
少し悲しそうな表情をする彼女に、クロードは言葉を続けた。
「それで?俺を探してた理由、ってのは?」
イングリットはそう聞かれてハッとした。
「そうです!その話…!貴方と先生に、お願いがあるのです。」
「お願い?珍しいな、お前から俺になんて。」
「はい。先日の一件もある手前、本当はこういうお願いをするのは不躾なのですが…シルヴァンが課題に同行するというなら、尚更お願いしないわけにはいきません。」
そう言うと、クロードはすべてを悟ったかのように、少し笑みを見せた。
そして、
「…ついてきて大丈夫なのかな?マグドレドの時は、家族がどうとか散々俺の事叱り散らしてたお嬢さんが、それこそ【家族絡み】の一件で。」
…と、意地悪っぽく聞いた。
「う…。そ、その件があるから頼みにくいとも申し上げたでしょう!」
イングリットが反論する。
それに対してクロードは、
「そうじゃない。」
…と、珍しく真面目な声色と表情で答えた。
突然の反応に、彼女はビクッと強張ってしまった。
「お前が言ってた事…そしてアッシュが経験した事。今度はお前やシルヴァンが味わうことになるかもしれない。覚悟はあるのか、その現実を受け入れるだけの…何が起きても受け止められる覚悟が。」
いつになく強い眼差しで自分を見てくるクロードに少したじろぐイングリットだったが、自身の拳をグッと握りしめ、睨み返した。
「…覚悟、しています!彼は…シルヴァンはいつだって、一人で面倒事を解決しようとするのです。報せが来た時にも、本当は大丈夫じゃないのに「大丈夫。」って言ってみんなに心配かけないようにしてた…。私も、彼に助けられた事がたくさんあります。今こそ、その恩返しの時じゃないかと思うのです!だから…!」
彼女の強い言葉を聞き、クロードは微笑んだ。
「じゃ、行くか。」
「え…?」
「先生のところだよ。俺も丁度向かうところだったんだ。一緒に行こうぜ。」
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「――――――で、なんでコイツもいるんすか、先生。」
シルヴァンは呆れたように、ベレスに問いかけた。
「コイツとはなんです、シルヴァン。私はあくまで監視です。女癖の悪い貴方が先生に変な事をしないようにね。」
イングリットは、少しきつめの口調で彼に言い放つ。
「いや…というかお前にはこの同行の話言ってないだろ…。どこから聞いたんだよ…。」
「どこからだっていいでしょう?隠し事って言うのは、すぐにバレるのよ。」
口喧嘩を始める二人に、【張本人】が割って入る。
「まぁまぁ、お二人さん。このあとは激戦が待ってるかもしれないんだし、ここで元気つかっちまうのはもったいない。ここは俺の顔に免じて収めてくれよ。」
クロードがそう言うと、二人は納得こそしないものの言い争いを止めた。
「…どの口が言うんだ…君の仕業のくせに。」
「【英雄の遺産】が相手だ。戦力は少しでも多い方がいいだろ?それに勝手知ったる相手の方が、何かと有利に事が進む。【用意周到】と言ってほしいぐらいだねぇ。」
ベレスが彼の耳元でそう呟いたのに対し、自慢気に持論を展開するクロード。
それを聞いて彼女は、呆れたような表情を返し、ため息を一つついた。
「先生、そろそろ準備はよろしいですかな。」
二人の後ろから、厳格な低い声が聞こえる。
ギルベルト=プロスニラフ。
セイロス騎士団が今回の課題に派遣した騎士の一人だ。
ファーガス神聖王国出身であり、地の利に詳しい彼が補佐には適任だと、教団から派遣されたのである。
「数百年前、この辺りは攻め寄せる北方の民を迎え撃つ要所の一つだった。このコナン塔は当時、監視と防衛のため建てられたもの…。ここを拠点に選ぶ辺り、敵は戦術にも長けている可能性があるでしょう。気を引き締めてください。」
ギルベルトの助言に、ベレスは頷いた。
すると隣にいたクロードが、一つ質問を投げかけた。
「そうだ、ギルベルトさん。質問してもいいですかね?」
「ああ…構わない。私に答えられることであればな。」
「ギルベルトさんは、今回の原因となってる【破滅の槍】…。見たことはあるんですか?」
質問を聞いたギルベルトは、コナン塔の上の方を見上げながら返答した。
「…かつて、現物を見たことがある。立派だが、どこか禍々しい槍だった…。ゴーティエ辺境伯によれば、マイクランはその槍で多数の追手を返り討ちにした、と…。」
返答の内容がしっくりこなかったのか、クロードは少し難しい顔をした。
(…たしか、マイクランは紋章がなくて廃嫡された、って話だったよな…?紋章がなくても遺産が使える…?聞いてる話と少し違うが、あくまで武器として振るって、武力で勝った、ってことなのか…?)
彼が考え事をしていると、小雨だった雨脚がだんだんと強まっていった。
「おっと、雨が強くなってきましたな。」
「そうですね、さっさと片づけてしまいましょう!」
一行がコナン塔に突入していく中、先程のギルベルト同様に、シルヴァンは塔の頂上を眺める。
(――――――兄上…。)
それに気づいたイングリットが、
「シルヴァン?何をしているの?置いていくわよ?」
…と、声をかけた。
ハッとなったシルヴァンは、
「っと、悪い悪い、今いくぜ!」
…と、すぐに後を追いかけた。
――――――彼に走る、妙な胸騒ぎを皆に隠しながら。