【FE風花雪月】クロード×イングリット外伝 双極の比翼【SS】 作:いりぼう
当然、盗賊団が襲撃してきた課外活動。
三人の級長が逃げた先は、ガルグ=マク郊外からほど近くにある小さな村・ルミールだった。
そこで出逢ったのは、元・セイロス騎士団団長のジェラルトと、その娘のベレスという傭兵の親子。
二人の力も助力もあり、何とか盗賊団を退けることに成功したクロードたちは、セイロス騎士団、そしてこの傭兵の親子と共にガルグ=マクへと帰還する。
前途多難な学校生活の始まりから、また新しい一日が始まる。
しかしこの夜明けが、フォドラの運命を大きく変えることになるとは、まだ誰も知る由もなかった…。
第2章 1節:正しき姿勢
「ふあああっ…。」
クロードは身体を伸ばしながら大きな欠伸をした。
もうすっかり陽が昇り、麗らかな日差しがガルグ=マク修道院に差し込んでくる。
課外活動の野営にて過ごす予定だった昨晩だったが、盗賊の襲撃、逃亡先での傭兵稼業の親子との出逢い、そしてその親子をこのガルグ=マクまで騎士団と共に案内をした時には、もうすっかり夜は開けていた。
すっかり徹夜仕事となってしまい、彼の眠気も限界だったのだろう。
欠伸をしてもなお、眠気眼は戻らず、どこはかとなく倦怠感を纏った雰囲気を醸し出す。
「昨日は参ったな…。まさかただの課外活動があんなことになるとは…。」
気だるそうにブツブツと独り言を呟きながら、クロードは金鹿の学級の教室へ戻った。
(本当は自室でゆっくりしたいところだが…まぁ、示しはつけておかないとな…。)
…と、本心を押し殺しながらも、教室の扉を開けた。
「あ!帰ってきたよ!」
「おかえりなさい!ずいぶんと遅かったですね…。」
「どっかで腹でも減って倒れてたのか?クロード君、食が細そうだしなぁ。」
「あんたじゃないんだから、それはないでしょう…。」
教室には同学級の生徒がすでに揃っていた。
結局昨晩から姿が見えないままだった級長の帰還を受け、各生徒が各々に彼の身を案ずる。
個性が強い面々が揃う同級生達だが、長い夜を経て疲弊したクロードにとって彼らの存在が安らぎであることを実感する。
それまでどんよりとしていた顔が、ふと綻んで安堵の表情になったのも自身でわかった。
そこへ、課外活動でも同じ班だったレオニーが声をかける。
「大変だったな、クロード。例の件は大丈夫だったのか?」
「あぁ、なんとかね。三人で行きついた村にさ、たまたま駐在してた傭兵の親子がいてさ…。まぁ結局戦闘にはなっちまったんだが…おかげで助かったぜ。」
「おいおい、ずいぶんと物騒な事になってたんだな。」
「物騒どころか、あの夜は驚きの連続だぜ…!その傭兵ってのが、またとんでもない大物…いや大物の中でも大物でな。」
「へぇ、どんなヤツだったんだ?」
「聞いて驚くなよ…元セイロス騎士団長・【壊刃】のジェラルトと、その娘だ。」
クロードがその名前を口にした途端、教室内に妙な緊張感が走り、ざわついた。
「ジェラルトだって…?」
「あの【壊刃】が、ガルグ=マクに帰ってきたのか…!?」
「すげぇ…俺、憧れてたんだよ…!色々教われるかな…!?」
一瞬で空気が一変した。
ジェラルト=アイスナー。
精強で名高いセイロス騎士団の中でもその実力は群を抜いており、ついた異名は【壊刃】。
歴代でも最強と謳われる元・騎士団長として名を馳せた人物だ。
騎士団を脱退してからは歳月は経っている今日だが、それでも尚、これだけの影響力を与える辺りはさすがか、と、クロードは不敵な笑みを浮かべた。
(でも、俺が気になってるのはむしろ…)
彼が何か別のことを思い浮かべていると、先ほどとは打って変わった表情を見せるレオニーが詰め寄ってきた。
「ジェラルト!?その名前は本当か!?本当にジェラルト師匠なのか!?」
詰め寄るレオニーは、玩具を与えられた少年少女のように瞳を輝かせた。
あまりの熱量に負けたクロードは、たじろぎながら答える。
「あ、あぁ、間違いないと思うぜ。騎士団のアロイスさんもそう言ってたし、今のお前と同じように目を輝かせてたよ。」
「くぅ~!師匠とこんなところで再会できるなんて…村のみんなに借金してまで入学した甲斐があったなぁ!」
「そういやレオニーは、ジェラルトさんに憧れて傭兵目指してる、って言ってたっけか。」
「そうなんだよ!村にいるときに色々教えてもらってさぁ…。」
語りだした途中で、レオニーはハッと何かを思い出し、真面目な表情に変わった。
「そうだクロード。お前、青獅子の学級に顔出しとけよ?」
レオニーからの思いもよらない言葉に、クロードは目を丸くした。
「は?青獅子?なんでまた急に青獅子の学級なんだ?」
「イングリットだよ。アイツ、例の盗賊騒ぎの件でのお前の行動にカンカンだったぞ?」
「…あぁ、そういうことか…。」
「他のみんなは急な事態だし仕方ない、とは言ってたけど、あいつはそうもいかない性格だろ?一言謝りにでも言ったらどうだ?ディミトリもいるなら事情も伝わるだろ。」
確かに、傍から見れば今回の騒動の一連の流れは、クロードがただただ逃亡したように見えてもおかしくはないだろう。
加えて真面目が服を着て歩いているようなイングリットのことだ。
そう見えれば怒るに違いない。
ましてや、自分の学級の級長が危険にさらされているともなればなおの事だろう。
学校行事とはいえ、活動を共にした仲間である以上、何の言葉もないのはさすがに非道だ。
それにレオニーの言う通り、ディミトリがいるなら多少なりともフォローしてもらえるだろう。
そう思ったクロードは、
「そうだな。次の講義の後にでもちょっと行ってくるか。」
…と、答えた。
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講義後、クロードが向かったのは訓練室だった。
予定していた通り、青獅子の学級の教室には向かった。
レオニーからの進言通り、級長のディミトリもいて、謝りを入れるにはこれ以上ない好条件。
しかし、当のイングリット本人がいないのだ。
聞くと、次の講義まで時間があるからと、自主訓練に向かったのだと言う。
(どこまで真面目なんだか…。)
そうクロードが半分呆れたように、訓練室の扉を開く。
扉を開けた先は紛れもなく訓練室で間違いない。
しかしどうしたことか、地味な佇まいと武骨に並ぶ武具や訓練器具が醸し出す汗臭い雰囲気はそこに一切なかった。
いや、あるにはある。
佇まいも並んだ器具も何も変わらないからだ。
ただし、一つだけ違うこと。
少女が一人、槍の型の訓練をしている。
たったそれだけで、そこがまるで華やかな歌劇や舞踊の舞台のようにさえも見える。
それぐらい、彼女の槍さばきが美しかった。
洗練された動きにはまったく無駄がなく、滑らかかつしなやか。
無駄なく動くだけでなく、実戦を想定した力強さも伝わってくる。
だからこそ美しいと思った。
見かけだけではなく、根拠がある美しさ。
クロードは目的も忘れ、その動きに目を奪われてしまっていた。
「…臆病者の級長殿がこんなところに何のようかしら…?」
急に言葉をかけられ、クロードはハッとした。
イングリットは槍を下げ、汗を拭う。
そして、冷たい視線をクロードに向けた。
「ははっ、【臆病者】ってのはとんだご挨拶だな。」
クロードは、彼女の槍さばきに見とれてしまっていた事を悟られぬよう、いつものような態度で応対した。
「これから金鹿の学級が訓練の時間の訳でもなさそうですし、貴方がここに来る理由もないように思いますが?」
投げかける言葉もどこか冷めている様子を感じられる。
どうやら昨夜の件に対して予想以上に怒りを募らせているようだ。
「別に訓練ってわけじゃないんだが、ちょっと野暮用でね。」
「では、早々に終わらせてご退室していただけませんか?…目障りで訓練に集中できませんので。」
怒りの原因は、当然ながら自分の事なのだろう。
本人もそう言ってるし、早々に済ませよう。
そう思ったクロードは、
「そう言うんなら、早々に済ませてもらうぜ。すまなかったな、イングリット。」
と、簡単に【例の件】の事を謝罪した。
「…一体、何のことでしょうか?」
「課外活動の事だよ。レオニーからだいたいの事は聞いたぜ。まぁ俺だけ逃げた、みたいな感じの伝わり方で聞いたらお前が怒るのもわけないよな、って。だから、すまない、ってね。それだけさ。じゃあな。」
そう伝えると、クロードは振り返って訓練室を後にしようとしたが、
「…待ちなさい。」
…と、イングリットが引き留めた。
そして、今まで堪えてたのか、一気に怒りが爆発する。
「クロード!貴方は本当に何もわかっていない!貴方があの場でとった行動、いかに無責任だったかわかってますか!?」
「あ、あぁ…。」
「他の生徒もいる中、自分だけが逃亡し、難を逃れようとした…。級長…そして次期盟主のとる行動とはとても思えません!これを【臆病者】と言わず、何と称すれば適切なのです!」
「そ、それは…。」
「それに!謝るべきは私ではなく、貴方の学級の者や、殿下とエーデルガルト…他の級長ではないのですか!?お二人には特に迷惑もかけてますし、貴方に何かあった時には金鹿の学級の皆さんを困らせることになる。それをわかってのあの行動ですか!?どちらにせよ無責任が過ぎます!」
「あ、あのなぁ、イングリット…」
「それになんです、あの態度は!私が早々に立ち去れと言ったのをいいことに、謝罪はあんな一言で簡単に済ませてしまって…!反省の色がまるで見えません!本当は悪いと思っていないのではないですか!?」
クロードが間に言葉を挟もうとするが、イングリットが苦言を止める気配は全くない。
「わかったわかった!落ち着けって!」
クロードは気圧されながらも、彼女を制止した。
「意図をちゃんと伝えずに動いたことに関しては反省しているさ。エーデルガルトとディミトリ、それにうちの学級のみんなにも、すでにちゃんと謝りはいれてある。」
しかし、この発言がさらに火に油を注ぐ形になってしまった。
「関しては、とはなんです!?それ以外は反省していない、ということですか!?」
「え、いや、それはちが…。」
クロードが言いかけたところで、イングリットは詰め寄るのをやめた。
「…もう結構です。呆れてもう怒る気にもなりません。」
ため息を一つつき、イングリットは訓練用の槍を片付け始めながら話を続ける。
「例の昨日の騒ぎで、金鹿の学級は担任の先生も逃げてしまわれたそうですね。」
「あぁ、聞いてたか。そうなんだよ、次もまだ決まってないみたいでな。課外活動の件といい、前途多難だよ本当に…。」
「…それは貴方のせいではないのですか?」
「は?」
イングリットが片付け終わり、振り返る。
呆れた表情をしながら、出入り口に、そしてその前にいるクロードに近づいていく。
「他の学級をごらんなさい。あの騒動の中でも、担任の先生や級長は生徒を守る動きをし、決して逃げ出すことはなかった。ところがどうです?金鹿の学級だけは、級長だけにとどまらず、担任まで逃げ出した。つまり貴方達が守るに値しない、ということでは?」
そう言われたクロードは、不敵な笑みを浮かべる。
「…ほほぅ、言うねぇお嬢さん。」
「貴方がそうやって適当で無責任だから、担任も無責任になり、諦めて逃亡もする…。教える側も正しき姿勢であるべきでしょうけれど、教わる側もまた、正しき姿勢であるべきではないでしょうか。」
そして目の前に来たところで一度立ち止まり、彼を睨みつける。
「…次の担任教師の方が、貴方を正しく導ける…そんな先生であることを願ってます。」
そう言うとイングリットは、失礼します、と残し、何も言わない彼の横を抜け、訓練室を後にした。
「正しき姿勢、ね…。」
一人残った訓練室で、呟いた。
振り返った先に、もう彼女の姿は見えなくなっていた。
首を傾げながら、頭を少し掻く。
(お前の理想はわかるが…それが本当に【正しい】かは、わからないぜ…?)
彼はそう思いながら、彼女が先ほどまで振るっていた訓練用の槍を見た。
それまで神妙な面持ちだったのが、フッといつもの表情に戻り、
「ま、それは俺も同じか。」
…と、また一つ呟いた。