【FE風花雪月】クロード×イングリット外伝 双極の比翼【SS】 作:いりぼう
「お、戻ったのか、イングリット。」
一人の赤い髪の青年が、教室に戻ってきたイングリットに声をかけた。
シルヴァン=ジョゼ=ゴーティエ。
彼女の幼馴染で、ファーガス神聖王国の貴族・ゴーティエ家の嫡子でもある。
馴染みの間柄ということもあってか、彼女は幼馴染の声掛けにも
「ただいま。」
…と、怪訝そうな表情のまま一言だけ返した。
「おいおいどうしたどうした?今日はいつにも増して素っ気ないな。いつもなら訓練後はもうちょっと清々しい表情をしてるじゃないか。」
「別に。そういう日もあるわよ、私だって人間なんだから。」
どことなく不貞腐れているようにも見える彼女の態度から何かを読み取ったのか、シルヴァンは少しニヤリとしながら、
「はは〜ん。さては訓練室で何か嫌なことがありましたな?」
…と、したり顔をしながら聞いた。
しかし、これがかえって彼女の神経を逆撫でする。
「五月蝿いわね!ええそうよ!訓練中にとっても機嫌を損ねる邪魔が入ったからイライラしてるの!悪いかしら!?」
怒りのまま正直に打ち明ける彼女に、まぁまぁ、となだめるような仕草をとったシルヴァンだったが、
「…だから放っておいて!考え事もしたいし!」
…と、突き放される。
さすがにそこまで言われてさらにちょっかいを出したものなら、この幼馴染の逆鱗に触れ、どんな目に合うか…。
彼女の事をよく知っているがゆえに、シルヴァンはそれ以上はさすがに声をかけなかった。
しかし、ただでは転ばない。
(…真面目なコイツのことだ。きっと理由はあの件かな…。)
頭の中で予想を立てる。
シルヴァンにも、昨夜の事件のことは当然耳に入っている。
そして、この生真面目な幼馴染をここまで苛立たせる理由も理解できる。
(…とはいえ相手は次期お偉いさん。どんな顔か拝みつつ、尻尾振ってコイツのフォローだけしときましょうかいね。)
シルヴァンは少し不敵な笑みを浮かべながら、そう考えた。
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「たしかここだよな…。」
しばらく日付が経ったある日。
シルヴァンが向かったのは、クロード達がいる金鹿の学級の教室だった。
イングリットを怒らせたのはクロード。
その理由は、課外活動の一件。
こう推理するのは難しくない。
では実際にどんな人間なのか。
敵に回しておくとゆくゆく面倒なのか。
それとも、放っておいて大丈夫なのか。
シルヴァンは、クロードという男を幼馴染の一件を起点に推し測ろうとしていたのだ。
「さ~て、お邪魔しま…ん?何か教室内が騒がしいな。」
教室の扉に手をかけ、中へと入ろうとしたが、何やら教室内が騒がしい。
予定のように勢いよく開けず、恐る恐る扉同士の隙間だけを少し開け教室内を覗き見た。
(一体何が…!?あ、あれは…!?)
教室にいたのは、当然、金鹿の学級の面々。
そしてその傍らに立っていたのは、3人の級長を救った女傭兵。
(あれはたしか、ベレスさん…だったよな?【壊刃】ジェラルトの娘の。なんで金鹿に…?)
後ろ姿のため、シルヴァンからは顔などは確認できないが、暗めの色で時折光に当たると翠に輝く長い髪と、黒色が基調の装束が印象的だ。
「もしかして、俺のことを気に入って、この学級を選んでくれたのか?…おっと、教師になったんなら、口の利き方は改めた方がいいよな。」
「いや、構わないよ。」
「そうか?まぁ、俺たちとさして年も変わらないようだし、堅苦しいのもな。」
彼女と、級長のクロードや他の生徒との会話が扉の隙間から聴こえてくる。
どうやら先の騒ぎで逃げ出した教師の代わりに、彼女が金鹿の学級の担任となるようだ。
(おいおいマジかよ…。てっきり騎士団に配属されるとばかり思っていたが…。)
シルヴァンのその予想は、他の多くの生徒もそう考えるに難しくない。
ベレスの父であるジェラルトが騎士団へ復帰し、彼女もまた傭兵としての実績、級長を救った成果と実の娘という立場での連携力を見れば、騎士団への配属どころか小隊長クラスでの待遇も決しておかしくない。
しかし、その予想に反しての配属。
ましてや後任の教師として任命されるには期間が短すぎる。
(どういう風の吹き回しか知らないが、大司教様も何考えてるのやら…。)
突然知ってしまった状況に、シルヴァンは困惑しつつも扉の隙間から再度教室を覗き見る。
その瞬間だった。
ベレスが急にこちらへ振り返った。
一瞬、目が合う。
(まずいっ!!)
シルヴァンは即座に扉の裏に身を隠した。
しばらく扉の方を見つめるベレス。
彼の気配を感じるのか、しばらく睨みつけていたが、
「…先生?大丈夫か?」
…と、クロードに声をかけられ、
「あぁ、大丈夫。すまない、気のせいだったようだ。」
…と、返した。
心臓が止まるかと思った。
これから【元】と肩書がつくとは言え、つい先日まで傭兵だった女の視線が自分を襲う。
見つかれば、始末される。
士官学校内で、教師になる相手からそんなことされるわけないとわかっていても、それだけの殺意に似た物を感じた。
そして、理由はもう一つ。
女性が大好きな彼らしい理由で、心臓が止まる思いをしていた。
(…めちゃくちゃ美人だった…。)
一目惚れに近い感覚だろうか。
胸の鼓動が速くなっていくのが、彼自身もわかっていた。
(と、とにかくみんなにも知らせないとな…!)
シルヴァンは立ち上がって一呼吸置き、自身の学級の教室へと足早に向かっていった。
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「ジェラルト殿の娘が金鹿の学級の担任?」
青獅子の学級の教室に戻ったシルヴァンからそう告げられたイングリットは、聞き直した。
「あぁ、金鹿の連中と教室で話してるの見て聞いたから間違いないと思うぜ。」
「見て聞いた、って…貴方、金鹿の学級じゃないのにどうやって教室で…。」
…と、話を続けたイングリットはとあることに気づいてしまい、シルヴァンを軽蔑の目で見つめる。
「…悪趣味ね。」
「違う違う!扉の隙間が開いてて聴こえてきたから、ちょっとだけ近くに行っただけだ!」
図星を突かれているだけに、ごまかす方便もかなり苦しい。
「まぁ、いいわ…貴方のことだから、何の理由もなく金鹿の学級の教室に向かうことはないだろうし。」
「お、さすが幼馴染!わかってるじゃん?」
「ベレス殿が美人だから、教室に入る前からコソコソ後ろをつけてたんでしょ?女性絡みの貴方の行動パターンなんかわかるわよ。」
「なっ!?それは違うっての!…たしかに美人なのは間違いないが…。」
…と、言葉を返しながら先程の鼓動の感覚を、シルヴァンは思い出していた。
イングリットは、相変わらず冷ややかな視線を彼に向け、ため息を一つついた。
「まぁ、そういうことにしておいてあげるわ。それに…。」
「それに…?」
イングリットはおもむろに立ち上がった。
そして、
「彼に【正しい姿】がどういうものが、思い知らせる機会をいただいた。思い知らせてあげるわ…。」
と、言い残し、その場を去った。
「…なんだアイツ?よくわからんが…とりあえず誰との因縁か、ってのだけはわかったが…。」
「殿下!」
イングリットが級長のディミトリを呼び止めた。
「イングリットか。どうした?」
「聞きましたか、金鹿の新担任の話。」
「あぁ、ベレス殿だろ。傭兵でかなりの経験を積んだ人物だ。マヌエラ先生やハンネマン先生とは、また違う切り口で…」
…と、ディミトリが言いかけたところで、
「殿下!」
イングリットは声を上げた。
「ど、どうしたイングリット?」
「お願いがあります。かなり身勝手ではあると思いますが、聞いては頂けませんか?」
「あ、あぁ…。どんな願いだろうか?」
イングリットは、ごくりと唾を飲んだ。
そして、ハッキリと伝えた。
「今節の対抗戦…私を選抜してください!倒したい人がいるんです!」