【FE風花雪月】クロード×イングリット外伝 双極の比翼【SS】   作:いりぼう

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第2章 3節:三つ巴の対抗戦・前編〜清廉の一撃

大樹の節も、下旬を迎えた。

士官学校の生徒達にとって、一つの大事な課題がやってくる。

イングリットがディミトリに言っていた【対抗戦】の事である。

3つの学級が、訓練用の武具を用いて行う、所謂【模擬戦】を行い、これまでの課題で培った物を発揮しつつ、現在の力量を測るのが目的。

また、各学級の担任も指揮官として出撃する決まりとなっており、それは担任になって間がないベレスも例外ではない。

 

クロードはベレスに向かって、

「やらかしてくれるなよ、先生。」

…と、不敵な笑みを向ける。

それに対してベレスも、

「他学級の子達も実に優秀だが…問題ない。任せて。」

…と、冷静に回答する。

まったく動じないあたりに、幾百、幾千もの戦闘で培った実践経験と、それに裏づけされた自信が窺える。

クロードは軽く口笛を鳴らし、

「さてと、それじゃ俺は俺でやれることをやるか。例えば…。」

そう言いかけた所で、

「例えば、何をする気かしら?」

…と、遮る声が聞こえてきた。

イングリットだ。

「おやおや、誰かと思えば。まだ何か言い足りなかったのか?」

クロードは、やれやれというような表情と仕草をしながら、イングリットに返事を返した。

「…相変わらず質問には答えないのね。まぁ、いいわ。今は別に貴方に用があるわけではないし。」

「あら、そうかい。じゃあどういう用件ですかいね。」

そう言われたイングリットは、視線をベレスに向けた。

「先生。金鹿の学級の担任になられた、というのは間違いなかったようですね。」

「あぁ、そうだよ。」

ベレスが質問に一言だけ肯定する。

イングリットは少し悲しい表情を見せ、

「残念です。殿下をお救いくださった貴女ほどの御仁が、金鹿の学級を導かねばならないなんて…。」

…と、呟いた。

「どういう意味?」

「それは対抗戦で、すべて証明されることでしょう。【正しい姿】がどういうものか、そこの級長にご覧いただいた後、改めて先生がそこにいるべきか否か判断していただいてもよいかと思います。」

イングリットは、クロードを睨みつけながら言葉尻を強くする。

視線を向けられたクロードは、どこ吹く風という態度でその視線を無視していた。

「…言っている意味がよくわからないが、とりあえず【この模擬戦で生徒たちの実力と才能を見極める】という意味で受け取っておくよ。ありがとう。」

会話が少し噛み合わなかったためか、はたまた肩透かしをされていると感じたのか。

イングリットは、少し不機嫌そうな表情になった。

「…楽しみにしております。では。」

そう一言残すと振り返り、彼女は足早にその場を立ち去った。

絶対に、この人たちに負けない。

誰にも聞こえないように、そう呟きながら。

 

「…彼女と何かあった?他学級なのに。」

自分にはまったく理解できない話をされたものだから、ベレスはついクロードに質問してしまう。

「別にな~んも。勝手に因縁ふっかけてきてるだけだよ。」

クロードは呆れかえったような声で、返事を返す。

「…しかしまぁ、青獅子の学級の選抜にアイツが出てくるのは少々面倒かもな。どれ、相手の飯に、こっそり腹痛になる薬を…。」

「…そういうところが日頃滲み出てるのが、真面目な彼女の気を害してるんじゃないのかな。とりあえず、今回はやめておけ。」

クロードが悪い顔をしながらそんなことを企むものだから、ベレスも即座に止めようとする。

それを聞いてもクロードは、不敵な笑みを浮かべるだけで、

「わかってるわかってる。先生は何も知らない、そういうことだな?もし当日、他の学級の生徒たちが医務室に駆け込むことになったって…ちょっと性質の悪い病が流行っただけってことになるさ。」

ベレスは、やれやれ、わかってないな、というようなガッカリした表情を見せた。

それを見ながら笑うクロードだったが、

(アイツの言う【正しい姿】ってのがどういうもんか知らないが…俺は俺で、やり方もあるんでな…!)

ふと、イングリットの言葉を思い返していた。

「あら、面白そうな話をしているのね。私たちも交ぜてくれるかしら?」

また別の女性の声が聞こえた。

エーデルガルトとディミトリ。

2人の級長のお出ましだ。

(あらあら、またいいタイミングですこと…。)

対抗戦本番前に、3級長の睨み合い。

引っ搔き回すにはいい機会か。

クロードは不敵な笑みを浮かべながら、返事をした。

「あっはは、本当にやるならこんなところで話さない。策は戦場でのお楽しみさ。だろ、先生?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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対抗戦の舞台はガルグ=マク郊外の高原だ。

見晴らしは良好だが、茂みが深い場所や点在する森や大地の起伏が、実戦を想定させるのに丁度いい。

「ここが模擬戦の舞台ってわけか。」

クロードは一面を眺めながら、呟いた。

金鹿の学級の選抜メンバーはクロードの他に、ローレンツ、ヒルダ、そしてレオニー。

「フッ…この僕の実力を示すには相応しい…。先生、貴女のために、このローレンツ=ヘルマン=グロスタール、華麗に相手を倒してきてみせましょう。」

「いいや、ここは私にいかせてくれよ!なんてったってジェラルト師匠も見てるんだ!成長したところ見てもらうんだ!」

「二人がやる気満々だし、私は後ろで応援しておこっかな~。っていうか先生、私は選抜メンバーから外してください、って言ったじゃないですか~!」

各々が重い思いにベレスに言葉を放つ。

わかったわかった、と、なだめるように制止するベレスだが、一人冷静なクロードを見て声をかけた。

「クロード?」

「ん?どうかしたか先生?」

キョトンとした表情で自分を見てくる彼女に、彼自身が聞き返す。

「いや、初めての実戦形式の課題と聞いているのに…君はやたらと落ち着いているんだな、って思って。他のみんながこうだって言うのに。」

どういうことですか!…と聞こえてくる他の生徒たちを脇目に、クロードは笑みをこぼした。

「ははっ。いや、先生。俺だって浮足立ってるさ。」

「そう?」

「あぁ。相手は戦闘に自信がある。でもここは訓練室のような狭い箱じゃない。地の利を上手く使うこともできるんじゃないか、こちらに動けば動作が制限できるんじゃないか、他にも…って、俺たちにできて、かつ出し抜いて、勝つ。そんな策が泉から湧き出す水のように頭の中に浮かんできて、今、めちゃくちゃ楽しいんだよ。」

日頃は目の奥底に、どこか輝きがないというか、何か別の物を見ているようなクロードの瞳が、ほんの少し、少年のような輝きをもっているようにも見えた。

「それに、傭兵として経験を積んでる先生の指揮でそれを具現化できるんだ。もしかしたら、今日は俺の野望にグッと近づく日になるかもしれない、と思うと、心も踊るさ。」

「野望?」

ベレスにそう聞かれた彼は、

「おっと、少しおしゃべりが過ぎたかな。」

…と、いつものように軽くウィンクをして誤魔化した。

「しかし、どうする先生。策があるとはいえ、相手は単騎戦闘では分の悪い皇女様と王子様…。正面激突では、正直言って先生以外敵わない。何か勝算はあるのか?」

クロードがそう聞くと、ベレスは自身あり気に頷く。

そして、彼にその【勝算】を耳打ちした。

聞くや否や、クロードはみるみる笑顔になっていく。

「…おもしろい!さすが、元傭兵は着眼点が違うねぇ。」

「できそうかな?」

ベレスは、彼に問いかける。

実戦を知る自分と、知らない彼ら。

同じ感覚でないことはわかっているからこその心配。

 

しかしそんな心配は無用だった。

彼は自信満々にこう返す。

「仕上げは御覧じろ、ってね。なんとかするさ。その代わり、指揮は任せたぜ!」

 

「それでは、これより三学級対抗戦を開始する!各自、所定の位置より出撃準備をしろ!」

今回の取り纏めを行うベレスの父・ジェラルトが、大きな声を張り上げて告げた。

黒鷲、青獅子、金鹿の各学級が、それぞれ散り散りになり戦闘準備を始める。

「…わかったな、みんな。あとの事は現場で臨機応変に対応ってことで頼む。」

金鹿の学級の選抜メンバーが小さく固まって作戦会議をする中、統率を担うクロードはそう依頼した。

「上手くいくのかわかんないけど、別に無理な注文じゃなさそうだし、楽できるならいいかな〜。」

「個人的にはどうかと思うけど…師匠の技や思考を一番身近で見てきた先生のことだ。勉強だと思って、今回は賛成するよ。」

「俄には信じ難い策だが…逆にこの僕でも思いつかなかった策だ。いいだろう、この僕に任せたまえ。」

ベレスの【勝算】。

クロードをはじめ、ローレンツも、ヒルダも、レオニーも。

誰ひとりとして思いつかなかった奇策。

しかし、それでも元・傭兵であること、そして父が【壊刃】のジェラルトであることで、一定の信頼を得て、実行に移る。

持ち得る武器は、訓練だろうがすべて使う。

この感覚が、クロードにはたまらない。

軽く武者震いのような身体のざわつきを感じながらも、軽く微笑んで、

「それじゃ、やるとしますか…!」

…と、瞳の色を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「それでは…はじめッ!」

ジェラルトの号令と同時に、対抗戦ははじまった。

「まずは私が先陣を切り開くッ!!」

…と、黒鷲の学級のある生徒が意気込めば、

「ドゥドゥー!アッシュ!所定位置で迎撃だ!」

…と、ディミトリが他の生徒に指示を出す。

「…ちぃ。主に許可なく隊列を乱すとは…!」

「ヒューベルト…悪いけど、援護頼むわね!」

「おまかせください…。」

エーデルガルトも状況に合わせて指示を送る。

二人の戦闘における指揮能力の高さ、状況分析の上手さがいかんなく発揮され、2学級の戦況は均衡していた。

しかし、ここで二人は違和感に気づく。

 

(そういえば…クロードはどこに?)

(クロードだけじゃないわ…。金鹿の学級…全員いない?)

ハッとなった二人は、金鹿の学級の拠点を見た。

「ローレンツ、どっちが勝つと思う?」

「武力的には青獅子の学級だろう…特にディミトリの戦闘力は恐ろしいという噂だ。一人でも戦況をひっくり返す可能性もあるだろうな。」

「へぇ、ローレンツ君意外〜。てっきり歴史ある黒鷲の学級に分がある、とか言うと思ったのに〜。」

「そういうヒルダは、黒鷲の方が分がある、って思ってるのか?」

「う〜ん、どうだろうね〜。戦いにあんまり興味ないからわかんないかも〜。」

なんとあろうことか、金鹿の学級の出撃者達は進軍をしないどころか、拠点から一歩も動かす雑談しているのである。

まさに戦闘が繰り広げられている場所から、少し離れているとはいえ、かなりの余裕…どころか気が入っていない、とも見受けられる行為だ。

見る者によっては、かなり扇動的な行為といってもおかしくない。

そして、この戦場にひとり、そういう捉え方する者が一人いた。

 

(…この期に及んでその態度…それが作戦だとでも言うのかしら…?もはや一刻の猶予もなし、思い知らせてあげる必要があるようね…!!)

彼女の槍を握る力が、一層強くなる。

歯を食いしばり、表情もだんだんと怒りのそれに変わっていく。

「殿下!金鹿の学級、動いてません!私が切り崩します!」

イングリットはそう言いながら、力強く駆け出す。

「イングリット!罠かもしれない!深追いするな!」

ディミトリがそう叫ぶが、もう彼女に声は届かない。

 

狙うのは、クロード。

不真面目な彼をあのままでいさせる取り巻きなんて、そう大したことはない。

彼さえ撤退させれば、金鹿の学級は簡単に機能不全に陥るはずだ。

そう考えるイングリットは、一気に金鹿の学級の拠点への距離を詰めていく。

しかし、その彼女を電撃が襲う。

交戦中だった黒鷲の学級の他の生徒からの魔法攻撃。

間一髪のところで電撃を回避した彼女に、その生徒が立ちはだかった。

「お嬢さん、そんなに慌ててどちらへ向かわれるんです?」

キャスケット帽を被った髪の長い女子生徒は、ウィンクしながら尋ねる。

「さっきまでのお相手をすっぽかすだなんて、そんな野暮なことしないでくださいよ。」

フランクにそう話しながらも、第二撃を放たんと魔道書を構える。

「貴女には申し訳ないけど…。」

小さくそう呟いたイングリットは、槍を構えたかと思うと、放たれた電撃を軽やかに躱し、

「邪魔をするのなら、突破します!!」

素早く、そして力強く槍を捌く。

訓練室で、彼に見せたあの型。

流れるような美しい連撃に、女子生徒は圧倒され即座に戦闘不能となった。

「…すいません、急いでるので。」

そう言い残し、標的をまた睨みつける。

 

標的はもう目の前。

数尺近づけば、あとは止めを刺すだけ。

イングリットの眼には、もう彼しか映っていない。

クロードは近づいてくる彼女に気付く。

「お、イングリットか。すごいねぇ、今の槍さばき。言うならば、お前の【正義】をすべて込めた渾身の…いや、【清廉】の一撃、ってとこかな?いやぁ、惚れ惚れしちまったよ。」

自身の首を討ちに来たというのに、彼はまだ、余裕そうな表情で語る。

「私の槍で、貴方に【正しき姿】はこうあるべきと叩き込む…クロード、覚悟!!」

先ほどと同じように攻撃態勢をとったイングリットに対し、クロードはこう呟き返した。

 

「…残念。」

彼のその一言は、聞こえた。

しかしその刹那、彼女は地に伏せた。

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