【FE風花雪月】クロード×イングリット外伝 双極の比翼【SS】 作:いりぼう
――――――何が起きた…?
あまりに突然の出来事に、イングリットは、自身の身に何が起きたのか解らなかった。
解るのは、自分の脇腹辺りに物理的な痛みを伴う衝撃があったこと。
そして、それによって体制を崩され、地に伏せていること。
(私…一体…?)
彼女は、伏せたまま周囲を見渡す。
すると、近くの林の中を移動するレオニーの姿を、辛うじて確認することができた。
クロード達の一連の行動は、あくまで陽動。
レオニーの動きを隠蔽し、視野が狭くなって突撃してきた彼女に、弓矢での一撃。
人間というものは脆い構造で、不意を突かれるといとも簡単に倒れてしまうのだ。
日々鍛錬を欠かさない彼女であっても、それは同じ。
(は、早く立ち上がってクロードを…!)
起き上がろうとしたところに、ヒルダが斧の刃を向ける。
「ごめんね~。あんまり手荒な事はしたくないんだけど~、これも作戦だから。」
「くっ…!」
対抗戦はあくまで【模擬戦】である為、気絶するところまで戦闘はしない。
残念ながら、彼女はこれで戦闘不能。
地に伏せたイングリットに、ベレスが近づいていく。
イングリットは彼女を睨みつけ、
「これは貴女の作戦ですか…?それとも彼の…?」
…と、聞いた。
「彼はあくまで実行したまでだ。これは私が教えた作戦だよ。」
淡々と言葉を返すベレスは、更に、
「イングリット。これが、君の言う【正しい姿】なの?」
…と、続けて言った。
イングリットは、ぐっ、と苦虫を嚙み潰した様な表情をする事しかできなかった。
「さ~て、それじゃ第2段階へと移らせていただきますかねぇ。」
クロードは高らかにそう言うと、それに呼応してヒルダやローレンツも、レオニー同様に林や森に姿を眩ませる。
「じゃあ、先に動く。」
…と、二人の動きを見届けた後、ベレスも進軍を開始する。
「おう、先生はほどほどにな。」
「善処するよ。」
二人はお互いにニヤリと、不敵な笑みを浮かべた。
「よし、じゃあ俺も…。」
クロードも、自身の行動を開始しようと思ったところで、ふと立ち止まり、イングリットを見た。
「なぁ、イングリット。俺達は、お前の掲げる【正しい姿】…高潔で勇敢な人間ではないだろうなぁ。」
ゆっくりと近づきながら、語りかける。
「えぇ、そうね。丸っきりかけ離れている、と言っても過言ではないわ。」
イングリットは彼を睨みつけながら、そう言葉を返す。
クロードは、この状況でもまだ言えるのか、と、少し呆れたような表情をした後に、言葉を続けた。
「まぁ、確かに俺達は勇敢な、それこそ騎士や勇者って感じの連中ではないだろうな。だが、武力で負けると思っている相手に対して、真正面から突撃することが【正しい姿】なのか?相手の策や罠も見極められなくて、本当に【正しい姿】なのか?」
「そ、それは…。」
「お前の中では正しいかもしれないし、それがお前の理想だって事を、俺は別に否定はしないさ。ただ…。」
そう言うと、クロードは戦場の方に身体を向け、出撃態勢をとった。
「俺にも俺の【理想の姿】ってのがあるんでね!」
ウィンクを一つ、彼女にすると、彼は一目散に他の生徒達同様に茂みの深い方へ駆け出して行った。
「理想の…姿…。」
一人残された彼女は、彼の言った言葉を思い返していた。
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その後も対抗戦は終始、金鹿の学級のペースだった。
イングリットが撤退したことで前衛が手薄になった青獅子の学級は、それまで指揮に徹していたディミトリも出撃することで態勢を整えようと試みたが、死角からの攻撃で妨害される。
クロードとレオニーによる、暗中からの狙撃だ。
上手く攻めに転じれない所を見て、黒鷲の学級は一気に攻め立てる。
しかし、前衛を担当する生徒が前のめりになったところで、ヒルダとローレンツが背後から急襲。
魔法攻撃の用意をしていた、ヒューベルトと呼ばれた生徒と、黒鷲の学級の担任教師、一気に二人を攻め落とす事に成功した。
「…!!しまった…!」
エーデルガルトが一瞬視界を後ろに向けるが、刹那に襲い掛かるディミトリの槍。
彼女は僅かに反応こそ遅れたものの、なんとか斧で受け、ダメージを最小限に抑えた。
「余所見をしている場合か、エーデルガルト。」
「くっ…貴方と真正面からぶつかるなんて、本当はしたくないのだけれど…!」
激しく対峙する二人。
お互いの訓練用の武器がぶつかり合う音が、強く響く。
(殿下を援護しなきゃ…!)
灰色の髪をした青獅子の学級の生徒が、エーデルガルトを狙撃しようと弓を引く。
一撃いれれば、態勢を崩し、それをディミトリが仕留める。
――――――が、しかし、一歩遅かった。
「楽しそうな事してるなぁ。俺も混ぜてくれよ。」
彼の背後に立ったのは、訓練用の剣を向けたクロードだった。
(しまった…後ろを…!)
しかし、そのクロードを倒さんと、大柄な生徒が斧を振るう。
「もらったぞ…!」
完全に不意を突いた攻撃だった…はずだった。
斧が彼にまさに振り下ろされる、というところで、その生徒は倒れた。
「君もまだまだ詰めが甘いぞ。」
ベレスの一撃だ。
「いいや~。俺は先生のその一撃も算段済みだぜ?」
クロードは、ニヤリとしながら言葉を返す。
「レオニーのおかげで、ハンネマン先生への対応もスムーズにいった。これで…。」
「あぁ、青獅子はあの大将ひとりだな。」
「そして、黒鷲も…。」
…と、ベレスが言いかけたところで、
「あと一人だよ~!」
ヒルダの明るい声が聞こえてきた。
「フッ…この僕がいて、さらに2対1に持ち込んだんだ。当然だね。」
ローレンツも自信満々に言うが、苦戦したのか二人の傷も目立つ。
「よし、完璧だな先生!」
「あぁ、みんなよくがんばった。だが…あと二人いる。」
「あぁ。あの二人はひとりでも全然状況をひっくり返せるだろうからな…。油断するなよ、みんな!」
二人の激しい一騎討ちは、一進一退の展開だった。
ディミトリが押し込んでは、エーデルガルトが切り返し、
逆に彼女が攻め立てては、彼が捌く。
均衡状態、とでも言うのだろうか、なかなか決着が着かない。
「そろそろ退いたらどうかしら?槍に疲れが見えるようだけれど?」
「それはこっちの台詞だな。引き際を見極めるのも、立派な統治者の力なんじゃないか?」
激化する打ち合いの中で、言葉でも牽制し合う二人。
しかし、【均衡】というものは、些細な事で崩れるものである。
「よう、お二人さん。仲間はずれは…よくないぜ!?」
クロードが、矢を放つ。
背後からの殺気に気付いたのか、ディミトリが紙一重で回避すると、彼が死角で矢が見えなかったエーデルガルトがかわし切れず態勢を崩す。
そこからは一瞬だった。
ディミトリは身体をぶつけて彼女を転倒させ、倒れたところに矛先を突き付ける。
「勝負あり、だな。」
見下ろすディミトリがそう告げると、エーデルガルトは悔しそうな表情をしながら顔を下げた。
「こっちもな。」
一騎討ちに勝ち慢心したのか、彼の存在がディミトリの意識から消えていた。
首元に突き付けられる刃と静かな殺気。
「クロード…それに、ベレス先生か…。」
ディミトリはゆっくりと視線だけを背後に送る。
冷静に剣を向けるベレスと、その隣で不敵に笑うクロード。
「これで本当に、【勝負あり】だな。」
「あぁ…参った。これはもうどうしようもできないな。」
ディミトリが両手を挙げ、降参の意思表示をすると、
「そこまで!対抗戦勝者は、金鹿の学級!!」
…と、ジェラルトが高らかに宣言し、学級対抗戦は幕を閉じた。
「殿下…申し訳ありません。私の不注意でした…殿下がお止めになられていたというのに…。」
イングリットは、ディミトリに申し訳なさそうに言った。
事の始まりは、自分が撃退されてから。
自軍の指揮官に、深追いするな、と言われていたにも関わらず、感情的になって突撃した結果。
彼女が負い目を感じるのは、ごく自然なことだろう。
しかし、ディミトリはそんな彼女を決して責めず、一つだけ問いかけた。
「【倒したい相手】だったのだろう?どうだった、強かったか?」
その問いに、イングリットは強く頷いた。
「はい、とても。私達のような正攻法ではありませんが…的確に、相手に一番効果的な攻撃を、次々と。撤退者なしでの勝利、という結果がその強さを物語っているかと。」
イングリットがそう言うと、ディミトリはこう言葉を返した。
「イングリット。【強さ】って何なんだろうな。」
「え…?」
目を丸くする彼女に、彼は言葉を続けた。
「ただ単に個人の戦闘能力が高いことだろうか?それとも、どんなことにも真摯に取り組み、勇敢に立ち向かうことだろうか?それとも、柔軟な発想でその場に応じた動きができることだろうか?」
「それは…。」
「俺は全部当てはまると思う。そして俺はこの戦いで、そもそも【強い】とはそういうことではない、と気づかされた。自分達には自らに適応したそれぞれの型があって、相手にももちろんそれがあって、それを理解する。自分達ならどう戦うのが正解か…きちんと理解できてたから、クロード達が圧倒した。そういう事じゃないかと、俺は思うんだ。」
「それぞれの…型…。」
ディミトリは、遠くで勝利を称え合うクロード達を見ながら、更に言葉を続ける。
「まだまだ学ぶべき事は多いな、イングリット。不真面目だから、といって邪険に扱うと、得る物も少ないかもしれない。彼はそれぐらい…【強い】。」
「そう…かもしれませんね。」
彼女もまた、彼らを見て思った。
「せっかく課外活動でも同じ班だったんだ。接点もある。交流戦で一杯食わされたわけだし、あの晩の事は水に流して色々と話してみるといいんじゃないか?」
「う…。殿下がそう…仰られるのであれば…。」
そう言われたイングリットは、難しい顔をした。
そしてもう一度、彼を見る。
(クロード=フォン=リーガンか…。ますます解らない男ね…。)