【FE風花雪月】クロード×イングリット外伝 双極の比翼【SS】 作:いりぼう
クロードが思い描いた【和解】、という解決ができなかったどころか、彼らは更なる真実を目の当たりにする。
それは、ロナートが所持していた密書――――――
【女神生誕の儀】での、大司教レア・暗殺計画。
謎が謎を呼び、真実が真実を導く。
混沌が渦巻く中、ガルグ=マクではその【女神生誕の儀】を迎えようとしていた。
「――――――というわけだ。」
「報告、ありがとう。」
「いや、礼を言うのはこっちの方さ。…あと、すまないが…。」
「あぁ、俺の方でも声をかけておくよ。事情が事情なだけに彼がすぐに立ち直るのは難しいかもしれないが、出来る限りのことをさせてもらうよ。」
ディミトリにそう言われたクロードは、教室を後にする。
作戦は失敗に終わった。
アッシュに協力してもらいつつ、自分の話術で説き伏せての和解。
これが彼の描いていた理想。
しかし、ロナートの抱いていた恨みや、その裏に隠れていた衝撃の事実。
この二つの大きさに対抗するには、手札が少なく、弱すぎた。
その結果、イングリットの言う通りアッシュの目の前でロナートを討伐することになり、信じ難い事実と家族の死の両方を目の当たりにすることとなった。
彼がふさぎ込むのも無理はない。
クロードが難しい顔をしながら戻っていると、向かい側からイングリットがやってくるのが見えた。
(げっ…このタイミングは厄介だな…。絶対にまた説教だろ…。)
余計に難しい顔になってしまった彼は、別の道から戻ろう、と思ってその場を引き返す。
…が、彼女にはしっかりと見つかってしまった。
「クロード。」
彼女の呼び止める声にビクッと反応してしまうが、動揺を見せない様にいつも通りを装う。
「お、イングリットか。どうした?」
「いえ、姿を見かけたので…先日の件、私からも礼を言っておかなければと。」
予想とは違う彼女からの言葉に、クロードはキョトンと目を丸くした。
「礼…?俺、お前に何かしたか?」
普通に考えれば、ロナートの反乱の事であることを推測することなど、彼にとって造作もない。
だが、あまりに虚を突かれたのか、不用意に口から自然と言葉が出てしまう。
「何って…先日のマグドレドの一件よ!」
「あぁ、それか!まぁ俺達は課題だったし、ほとんど騎士団が片付けてたからな。」
「それでも、これはファーガス領内の問題です。それをレスターやセイロス騎士団の皆様に対処していただいたのに御礼もしないなど、不躾極まりありません。」
そう言い切るイングリットは、彼に深く頭を下げ、
「この度はありがとうございました。」
…と、謝辞を述べた。
「いやいや、そこまでしなくても…!困った時はお互い様だろ?それに…。」
「それに?」
クロードは、少し間を開けてから、言葉を続ける。
「結局、アッシュの目の前で仕留めないといけない状況になった。彼には申し訳ないことをしたな。」
その言葉を聞いたイングリットは、静かに驚いた。
彼の事を甘く見ていた。
以前の野営での一件のせいで、悪い印象でしか見れていなかった。
だから今回も、アッシュを呼んだことも手札の一つ程度にしか見ていない。
そう思っていた。
でも、違った。
彼は、人の事をちゃんと見ている。
それでいて、その場その場での最適解を生み出しているんだと。
(そうか…。だから私はあの時、彼の策にまんまと嵌ったんだ。)
イングリットはじっと、彼を見つめていた。
「…?どうした、イングリット?俺の顔に何かついてるか?」
そう彼に問いかけられ、ハッとしたように彼女は言葉を返す。
「い、いえ、別に。」
「そうか?ならいいんだが…。」
イングリットはひとつ、軽い咳ばらいをして、話を元に戻す。
「アッシュの事を貴方が気にするとは意外でした。そうなることも織り込み済みだと思ってたので。」
「もちろん、想定内さ。ただ、いざそうなると、ね。想定してた中で、もっとも望んでなかった結末だしな。」
「とはいえ、アッシュも覚悟の上だったのでしょう?私もこうなることがあるから、と言って止めはしましたが、彼が協力に応じて真実を知る事を望んだのです。貴方があまり自身を責める必要もないかと思いますが。」
彼女がそう言ったのを聞いたクロードは、へぇ、と少し不敵な笑みを浮かべながら彼女を見る。
「な、なんですかその顔は…!?」
「いやぁ、あんなに俺の事毛嫌いしてたお前に、そこまで庇ってもらえるなんて思ってなかったからなぁ。ひょっとして俺の株も少し上がってたりするのかな、って思ってね。」
ニヤニヤとしながら彼がそんな事を言うものだから、彼女はムッとしてしまい、
「そんな事は決してありません!勘違いも甚だしい!」
…と、突き放した。
「おっと、手厳しいねぇ。」
「あくまで今回のも、アッシュが望んだからです!彼がどっちつかずな返答をしていて、貴方のお得意の話術で引き込んでいたなら、当然叱り飛ばしていたでしょうね!」
「だから悪かったって言ってるだろ?…ったく、説教し出したら止まらんな、お前は。」
「なんですってぇ…!!」
彼女の表情が、修羅の如き怒りに溢れたものに変わっていく。
クロードは思わず、
(やべっ、今のは失言だった…!)
…と、思いながら、ハッとして口を塞ぐ。
時、すでに遅し。
彼女の怒りは、収まらない。
「対抗戦での戦術といい、今回のアッシュへの配慮といい、少し見直すべき点があるかと思いましたが…撤回します!やっぱり貴方は信用なりません!」
「おいおい、それとこれとは話が別じゃ…。」
クロードがそう言おうとしたが、イングリットがキッと睨みつけるものだから、
「…別じゃなさそうだな、ははは。」
…と、方向修正する。
「とにかく、私の目が黒いうちは今回のような事は許しませんので。課題協力も全力で止めさせていただきますし、学級への出入りも控えていただきたいところです。殿下にも、よく言っておきますので。」
「それはお前ひとりで決められることじゃないだろ…。」
「何か文句でも…!?」
彼女が睨みながら言う事に、クロードは納得いっていないが、この場で平行線な会話を続けていても無駄。
ましてや、【女神生誕の儀】の警備に向け、準備に時間が惜しい。
そう思った彼は、荒げる前に事を済ませてしまおうと思った。
「…まぁ、いいや。ほどほどにさせていただきますとも。じゃあな。」
そう簡単に告げて、彼はその場から去った。
(ほどほどに、って…!あの人、本当にわかってるのかしら…!!)
イングリットは行き場のない怒りに震えながら、心の中でそう呟いた。
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かくして、【女神生誕の儀】が始まった。
青獅子の学級が警備を任されたのは、まさに儀式が行われる大聖堂周辺。
大司教レアの暗殺計画――――――
これが本当ならば、襲撃される可能性が一番高い所はここだ、というのが教団側の大方の予想なのだろう。
セイロス騎士団の兵士の多くもここに配置されているが、一人でも多くの兵が欲しいと思うのが正直なところ。
そこで白羽の矢が立ったのが、ディミトリ達。
先日の対抗戦でも、武力という面では光るものがあったようで、騎士団の中でも彼らを高く評価する声が多いようだ。
しかし、その予想は外れる事となった。
【暗殺】と称されているゆえに、正面からの襲撃もないとは安易に予想できる。
とはいえ、やはり標的にされている本人を守らないといけない、という思考になるがゆえの配置だったが、驚くほどに静かな夜を迎えているのだ。
「あの暗殺計画は、やはり出鱈目だったんでしょうか…?」
今回の計画書を握っていたロナートの養子であるアッシュが、ディミトリに聞く。
「わからない…。だが、儀式が完全に終わり、明朝まで大司教様の無事が確認できるまでは油断ならない。常に気を引き締めておかないとな。」
ディミトリは警戒を怠らない様子を見せるが、まだまだ実戦慣れしていない青獅子の学級の生徒達は、徐々に緊張の糸が緩み始めている。
「殿下はあぁ言ってるけど、これだけ何もないんだとここからの襲撃ってのはないんじゃないのかねぇ。」
シルヴァンが軽く欠伸をしながら、そう呟く。
「シルヴァン、だらしないわよ…任務中に欠伸だなんて、はしたない…。」
「あぁ、すまんすまん。でも、こう退屈だとなぁ。」
うん、と自身の身体を伸ばしているところに、一人の兵士が駆け寄ってくる。
「シルヴァン様!こちらにおいででしたか!」
どうやらゴーティエ家からの使いの者のようだ。
「おや、どうしたこんな所へこんな時間に。何かあったのか?」
「…今は大司教様の御身が危うい時ゆえ、余計な騒ぎになってはいけません。こちらに。」
使いの物はそう言うと、シルヴァンに封書を手渡した。
「密書?しかも、また俺に?」
「伯爵からは、「大司教様が明朝も御存命ならば、倅が読んだ後、大司教様、および教団にこの旨を報告するように。」と、預かっております。」
シルヴァンはそう聞いたあとに、少し考え込むようにその封書を見つめた。
「了解したよ。わざわざありがとな。」
使いの者を見送った後、シルヴァンはもう一度、自分宛に渡された封書を見返す。
(わざわざ俺宛にね…。しかもレア様やセイロス教団に報告するって事は結構な事書かれてんじゃねぇのか…?)
暇つぶしには丁度いいか、と思ったのか、彼は課題任務中にも関わらず封書を開いてみた。
そして、彼の表情がみるみるうちに青ざめていくのがわかった。
(これは…!!)
彼の手が、震える。
滝のように冷や汗が流れる。
そんな様子に気付いたイングリットが声をかけた。
「シルヴァン…?どうかした…?」
しかし、彼女の声にまったく気が付いていない。
それぐらい、シルヴァンが動転しているのが、彼女にも手に取るようにわかった。
「シルヴァン!大丈夫!?」
先ほどより大きな声で呼びかけるイングリットに、びっくりしてしまい、
「うわっ!!」
…と、彼が声を上げる。
「お、脅かすなよ、イングリット…。」
いつも飄々としている彼には珍しい、慌てた表情。
「どうしたの?何が書いてあったのかしら?それを読んでから、貴方なんだか変よ?」
「い、いや、なんでもないさ。ちょっと野暮な事が書かれてただけだ、ははは…。」
「嘘が見え見えよ。教えてもらえないかしら、何があったのか。」
「いや、それは…。」
言葉を濁すシルヴァンだったが、少し間を開ける。
明日になれば、レアの耳にも届き、きっと教団が動き出す。
そうなれば、否が応でもイングリットだけでなく、士官学校の生徒全員の耳に届くことになるだろう。
遅かれ早かれ、か。
そう思ったシルヴァンは、彼女に封書に書かれていたすべてを打ち明けた。