おねショタ短編集   作:彩守 露水

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栄養満点のシズク

 僕にはひとり、ヘンな先輩がいる。俗に奇人変人と言うと性格や言動に問題があるような印象を持ちがちだが、先輩の特異な点はその外見だった。

 身体的な特徴をとやかく言うのが、褒められた行為じゃないというのはわかっている。わかってはいるのだが、どうかあの人に関してだけは止む無しだとしてほしい。

 ――いったい誰が、人間の頭頂部からまるで角のように伸びる木を無視することができるだろうか。少なくとも僕には不可能だったし、同級生の皆もまたそうだった。

 初めて彼女を目にしたのは入学式の時。高校生にしてはやけに低い身長だとか、キツくつり上がった両目だとか、本来は真っ先に記憶に刻まれるべき特徴は、雑多なものとして瞬時に押し流されていった。式典中とは思えないようなどよめきが起こり、しかし教師陣は、苦笑をするか頷くばかりで注意をする様子がなかった。

 初めて彼女と顔を合わせたのはその少し後。教科書の受け取りや自己紹介などを終えていざ帰ろうかというその時に、勢いよく扉を開けて、教室に単身飛び込んできたのだ。頭のソレを抜きにしても、新入生である僕たちにとってその人物は、少し前まで壇上で言葉を紡いでいた生徒会長。当然、辺りは騒然とした。しかも彼女は、一度の面識もなかったはずの僕のもとまでやって来て、一言「よし!」と口にするとすぐに去って行ったしまったのだ。周囲から今のは何だったのかと口々に尋ねられたが、そんなのは僕の方こそ知りたかった。

 次の日から、先輩は何かにつけて僕の前に現れるようになった。学年も、部活も、性別もすべてが異なるというのにだ。

 当時の僕はその理由が予想すらできずただただ困惑していたが、今ならわかる。僕の持つ多くの要素のうち、ただ一つ身長だけが彼女の興味を引いていたのだと。

 生まれてからずっと、周りと比べて身体が小さかった。幼稚園でも小学校でも、自分より身長の低い人はいなかったと思う。僕がそれを悲観的に捉えることはなかったけれど、対照的に先輩は背丈のなさをとても気にしていた。

 だからって、下級生に自分より小さい人を見つけてご満悦なのは正直どうかと思う。きっと泣いてしまうだろうから、直接言うつもりはないけれど。

 

「あの人、泣き虫だからなぁ」

「ほう、それはいったい誰のことだ?」

 

 意識の外から、声が耳を叩く。

 思考が口から漏れていた事と待ち人がいつの間にか傍まで来ていた事、二つの驚きが重なってびくりと肩が跳ねた。

 声の方へ振り向くと、まさにいま思い浮かべていた人物の姿が目に入る。その頭上では葉も花もつけぬ寒そうな木が、平生通り存在を主張していた。

 問う形式の言葉とは裏腹に、それが誰を指し示したものなのかはしっかりと理解しているようで、表情はどこか不満げだった。

 

「学校中の生徒に尋ねてまわっても、お前に同意をする奴はいないだろうな」

「……そりゃあ、そうですよ。僕の言ってる『泣く』はみんなのとはちょっと違いますから」

 

 先輩は涙を流さない。我慢強いだとか感情の制御がうまいだとか、そういった次元の話ではなく、文字通りに涙を流すことができないのだ。

 だから、どちらが間違っているかと訊かれれば間違いなく僕になるのだが、その体質のことくらいずっと前から知っている。その上で、ああ言ったのだ。

 辞書に喧嘩を売るような持論になるけれど、『泣く』と『涙を流す』はまったく異なる概念だと思っている。たとえば、とても泣き虫な人がいるとしよう。その涙腺を弄って涙が作られないようにしたら、その人は泣き虫ではなくなるだろうか。これにイエスと答えられる人は、きっとあまりいない。これだけでも、『泣く』の中に『涙を流す』以外のニュアンスが含められていることがわかる。

 つまり先輩は涙を流さずに泣くということなのだが、泣いているかどうかを判断するのは、意外にも簡単だったりする。そもそも、どうして先輩は泣くことができないのか、流れるはずだった涙はどこに行ってしまったのか、という話だ。

 

「それで、こんな所に呼び出して何の用だ?」

「何の用、ですか……。伝えたいことがあったんです。先輩が卒業して、いなくなってしまう前に」

 

 あぁ、今だってほら。

 

「先輩、僕は――」

 

 花開くような笑顔なんて、そんなのは目じゃない。

 花開かせる泣き顔が、僕を魅了した。

 今日もやっぱり、桜は綺麗だ。




関係性がそうってだけで、おねショタ感あんましない(でも投稿する)
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