メインヒロイン面した謎の美少女ごっこがしたい!   作:バリ茶

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ライかいちょ〜

 

 

 

 

『ごめんね、紀依』

 

 

 ──白髪の少女が一人の少年と、手を繋いでこちらに微笑みかけている。

 

 藤宮衣月と、レッカ・ファイア。

 二人がまるで恋人のように振る舞いながら、俺の前で笑っているのだ。

 目の前の顔面偏差値が高すぎて眩しい。

 いきなりイケメンと美少女を並べるのはやめてください。

 

 衣月とレッカがくっ付いている光景はあまりにも非現実的で、しかし心のどこかで納得できると思えてしまう自分もいた。おかしな話だ。

 オイ待てどうなってんだ──そう声を掛けるつもりだったのだが、不思議と喉から音が出てこない。

 まるで息を止めているような感覚だ。

 苦しくはないものの、一声も発する事ができない違和感はとても不快だった。うぐぐ。

 

 ……なにこれ。

 何この光景。

 

『わたし、レッカと結ばれたの』

 

 純白の髪を揺らす彼女が──衣月が俺の親友である少年の腕に抱き着き、見たこともないような満面の笑みでそう言い放つ。

 いきなり頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が俺を襲った。

 何言ってんだあの女……。

 そう思いつつ、脂汗が額から滴り落ちる。

 いったいどういう事なんだこれは。

 何で衣月がレッカといい感じになってるんだ。

 冗談も休み休み言えって。

 

『本来はこうなる運命だったんだから、何もおかしくはないでしょ。……ふふっ♪』

『その通りさ。僕たちが結ばれる未来こそが、この世界の紛れもないグランドルートだったんだ。……一体いつから衣月がポッキーのヒロインだと錯覚していた?』

 

 え、違うの。俺が見てたのって幻影だったの? 鏡花水月されてた? 

 あ……ありのまま今起こったことを話すぜ!

 俺は衣月が俺のことを好きだと思っていたら、いつの間にかレッカとイチャついている様を見せつけられていた。

 何を言っているか分からねーと思うが俺も分からない。

 催眠術だとかそんなチャチなもんじゃない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

 

 もし俺が見ていたものが妄想だったとしたら、とんだ夢オチだ。

 今までの頑張りとか全部錯覚だったってことになるじゃん。

 急に泣きそうになってきたわ。

 ラブリーマイ後輩音無ちゃんどこ……たすけて……。

 

『いつまで経っても帰ってこないポッキーが悪いんだよ?』

 

 とんだ責任転嫁じゃねぇか! いい加減にしろ!

 お前もしかして王道ラノベ主人公じゃなくて、成人向けNTRゲー主人公だったのか……?

 失望しましたヒーロー部やめます。

 

『もう紀依なんて知らないわ。……レッカ♡』

『ふふっ、衣月ちゃんの心の穴を埋められるのは僕だけさ』

 

 待て待て待て。

 ヤバいぞ。

 何がやばいってお前、特にレッカは本当にここで手を引かないとヤバいぞ。

 勘違いしてるようだが衣月はお前がお付き合いしていい年齢じゃないからな。

 確かにエロゲのロリっ娘キャラは『※登場人物はすべて18歳以上です』という倫理バリアによって守られてるから、主人公とちゅっちゅしても何ら問題ないが、お前の隣にいるその純白ロリはエロゲのキャラじゃねぇんだぞ。

 

 藤宮衣月:十一歳(推定小学5~6年生)

 

 はい、見てこれ。

 ガチ幼女です。

 手を出したら犯罪者になります。

 衣月本人に幼女って言ったら怒られそうだから一応少女って認識だけど、それでも成人じゃないのは確かだ。

 お前ホントに小学生のロリとお付き合いできるとでも思ってんの?

 イカレてんのか俺の親友。

 倫理観世紀末だ。

 

 ……ぁ。

 やばい。

 しまった、大事なこと忘れてたぞ。

 

 俺が変身した少女形態であるコクが気になってたってことは、レッカくん──ロリコンじゃん。

 

『それじゃあデートしようか衣月♡ どこに行きたい?』

『ディ〇ニーランド♡ ホテルにも泊まりたいかも♡』

『夢の国で僕たちの夢を作るつもりなのかい♡ まったく欲張りさんだな♡』

『野球チーム作れるくらい頑張ってね♡♡』

 

 地獄だ……地獄じゃあァ……ッ!

 たとえれっちゃんがロリコンだったとしても、ハーレムを築き上げたその手腕は間違いなく本物だ。

 そんなやつが本気を出して一人の少女を攻略しにかかったら、それはもう当然のごとく堕ちるに決まってる。

 俺なんかの説得じゃ無力だ。

 

 どうしてなんですか、二人とも。

 

『わたしを置いて行ったのは紀依でしょ?』

『親友のくせに相談の一つもせずに僕の前から消えたのはポッキーだろ?』

 

 そ、それは……そのぅ……。

 

『行こうか衣月♡ って、おいおいあんまりちっぱいを押し付けるなよ♡ 僕のロリコンパワーが充填されちゃうだろ♡♡ ムキムキッ』

『きゃ~♡ 大人の威厳わからされちゃう♡♡ 勇者の遺伝子で一族繁栄させて世を平穏に導いちゃう~♡♡♡』

 

 

 ……ぅうっ、うわああぁぁぁぁ──ッ!!!

 

 

 

 

 レッカと衣月が夢の国で不純異性交遊するクソ最悪な悪夢を見てから数時間後のお昼ごろ。

 俺は匿ってもらっていた隠れ家の外で、ライ会長にポコポコにされていた。

 

 ここ最近は悪夢にうなされて起きることが多かったせいか、ヒーロー部の皆からもかなり心配されていた。

 これまでの酷い体験が尾を引いているのは確かに事実で、彼女たちは何とか俺を支えようとサポートしてくれたりもした。

 非常にありがたい話だ。

 しかしそれでも一向に改善されることなく時間だけが過ぎ去ってしまったのが、この一週間の現状である。

 

 そんな芳しくない状況をもどかしく思ったのか、ライ会長は俺たちと合流した次の日──つまり今日、俺をどうにかしようと考えたらしい。

 会長は昨日まで色々とやる事が山積みだったようでまともに寝てすらいない。

 どうやら世界中でネットの晒し者にされている俺の情報をどうにかしたり、人類を救った英雄チームのリーダーとしてメディアに関わる仕事が重なっていたりなどで、彼女は一学生とは思えないほどに多忙なのだ。

 くじけている俺なんかに構っている暇など本当は無い。

 だからこそ自分以外のヒーロー部の面々に俺を任せたわけなのだが──我慢の限界、とのことで。

 

 メンタルケアを理由に隠れ家で少女たちに対して甘えきりだった俺の首根っこを引っ掴み、誰もいない森の奥に放り投げ、会長は俺をポコポコにし始めた。

 名目上はリハビリトレーニングなのだが、どう考えても普通のリハビリなんかじゃない。

 あまりにもスパルタ過ぎる彼女に指導に耐えかねて、俺はついに弱音を挙げて地面に寝っ転がってしまったのだった。

 

「もうむり」

「……まあいい、少し休憩にしよう」

 

 俺に水を手渡し、木にもたれかかる会長。

 呆れたような顔にも見えたが彼女の表情に疲れは見えない。

 体力無限なのか、この人。

 

「……会長」

「ん?」

 

 そう言えば少し気になっていたことがあった。

 俺は上半身を起こし、胡坐をかいて座ったまま会長の方へ体を向けた。

 

「俺のこと、どうやって見つけたんですか。スマホは捨ててきたし、誰にもバレないように日本を発ったと思うんですけど」

「部室から音無の予備クナイを持っていっただろう。彼女の忍具にはほぼ全て位置情報を発信するGPSが搭載されていてな。その反応を追ってここまで来たんだ」

 

 最終決戦で警視監の男を倒すために使った武器のことだ。

 やつを撃破した後、俺がこれまで戦ってきた唯一の証明ということで後生大事に抱え持っていたあのクナイが、まさかヒーロー部にだけ情報が筒抜けになる珍アイテムだとは思わなかった。

 彼女たちの平和な日常の為を想うなら捨てておくべきだったかもしれないが、それによって俺の命が救われたこともまた事実。

 複雑な気持ちです。

 

「……アポロ」

「は、はい」

 

 まっすぐに俺の目を見て語り掛けてくるライ会長。

 そんなに見つめられたら照れる。

 会長は自分も美少女なんだってこともう少し自覚してください。

 俺と激しいトレーニング(そのままの意味)をしたせいで、彼女も多少は汗をかいているのだ。

 で、ライ会長は現在学園の運動着。

 汗ばんで湿った彼女の胸元が凄い事になってます。

 桃色のブラが薄っすらと透けてるって意味ですよ会長。

 元からアイドル顔負けなスタイルの持ち主だし、そんな人が体のラインが出やすい体操着を着たらこうなるに決まってる。

 体育の時間に男子の劣情を煽るなんて生徒会長の風上にも置けないな?

 ちなみに胸部装甲だけで言えばヒーロー部は会長の完全なる独壇場だ。

 ヒカリや音無もいい線いってるので今後の成長に期待ですね!

 

「いま、ヒーロー部がどんな状況になっているか、きみには予想できるかい?」

「えっ。……ぁ、なんだろう。……わかんないッス」

 

 思わず彼女のおっきなお胸に吸い寄せられているところで声を掛けられたため、びっくりして肩が跳ねてしまった。

 ついでに話も聞いてなかった。

 ここ最近、ヒーロー部の少女たちのメンタルケアの甲斐あって、立ち直れてはいないものの性欲だけは元通りになりつつあるのだ。

 加えて彼女たちも異常に距離感が近いせいで、隠れ家にいる間はずっとドキドキしっぱなしだ。

 レッカは部室にいるときいつもこんな気分だったのかな。

 そしてこれを耐えていたのか。

 流石はれっちゃんだ。

 余程のロリコンじゃなければとっくに彼女たちに対して手を出している事だろう。

 ……い、いや、衣月にも手は出しちゃダメなんだけどな! 夢オチでよかったわホント。

 

「きみが姿を消して以降、レッカはずっと心ここにあらず、だ。そしてそんな彼を見て、部員の少女たちも気が気でない」

「……それは、どういう……」

「平和じゃないってことさ、今のヒーロー部は」

 

 マジで?

 あれだけやってまだ平和な日常に戻ってないの?

 俺がいなくなってようやく大団円なんじゃなかったのかよ。

 

「……アポロ。きみは少し誤解しているな」

 

 誤解……?

 

「我々にとってきみは勝手に消えていいほど軽い存在ではないんだよ。ヒーロー部の少女たちにとってレッカが必要なように、レッカにとっても親友であるアポロが必要不可欠だ」

「えぇ……」

 

 会長の深刻そうな表情から察するに、レッカが落ち込んでいるというのは俺を連れ戻すための口実ではなく紛れもない真実だ。

 マジかよ。

 れっちゃんどんだけ俺のこと好きなの。

 ……いや、必要なのはコクか?

 どちらにせよ、俺とコクが同時に消えたのはマズかったようだ。

 ヒーロー部の全員が落ち込んでるってことは、エピローグはまだ始まってすらいないという事になる。

 ラスボス倒したあとなのに。

 

「……私にとっても、きみは大切な存在だ」

 

 そうなんだ。

 いや、まぁ一応部員だもんな。

 俺の説得をしようとするなら当然出てくるフレーズだ。

 こんなどうしようもないカス野郎が相手であっても、彼女は部員やレッカの為にわざわざ気を遣って優しく接してやらないといけない。

 『部員を守る』『英雄として関わりたくない人々とも関わる』。

 両方やらなくっちゃあならないってのが『ヒーロー部のリーダー』のつらいところだな。

 さすがライ先輩、覚悟ガン決まりである。

 

「……」

「か、会長?」

「……うぅん、これは伝わってないな……」

 

 肩を落とした会長は立ち上がり、俺の方へ近づいてくる。

 あなたの覚悟ならしっかり伝わってるんだよなぁ……。

 もしかしてライ会長もレッカと同じくらい鈍感だったりするのかしら。

 属性被りは死活問題なので気をつけて欲しいところだ。

 

「……えっ、え? 会長?」

 

 なんて呑気な事を考えていたら、会長が俺の目の前に座り──抱きしめてきた。

 

「……アポロ」

「はいっ!」

 

 訳の分からないまま名前を呼ばれ、ほぼ反射的に返事の声をあげた。単にビビっただけとも言う。

 

 まて、何だこれは。

 どうして俺はいきなり抱擁されている?

 話の脈絡がないしこんないきなりやられても驚くだけってうわ待っておっぱいでっか……。

 抱きしめられてるせいで俺の胸板にマシュマロもびっくりな柔らかいナニかが押し付けられてる。

 綺麗な円球から潰れるように形を変えてて大変にセンシティブです。

 

「……」

「……っ」

 

 十秒か、一分か。

 時間の感覚が把握できなくなってしまう程に、俺の心臓は高鳴っている。

 まずい。

 非常に危ない。

 このままだと俺の心の中の息子がうまぴょいしてしまう。

 自分の親友のことが好きな美少女に抱きしめられてメンタルがズキュンドキュン。

 罪悪感とか緊張で脳のキャパシティが容量オーバーしちゃうぞ。

 ……これ、抱き返すのとかはダメだよな?

 何かしたら罪に問われるのは俺だよな!?

 こんなチキンレースは初めて……!

 

「……悪の組織でみんなが洗脳された時のこと、覚えてるかい?」

「へっ? ……え、えぇ。まぁ……」

 

 ペンダントが奪われたり仲間たちに襲われたり散々だった。

 きっと一生忘れる事のないトラウマ体験だ。

 アレめっちゃ怖かったな……。

 

「あの時、私は心が折れてしまった。君が見ていた通り、諦めたくなってしまったんだ」

 

 そういえばそうだったっけ。

 会長が『もう勝てるわけない! 足手まといな私のことは置いてけ〜!』とか何とか言ってた気がする。

 今思うとすごい光景だ。

 あんなに弱々しい会長を生で見たのは、ヒーロー部はおろか学園の全生徒を含めても俺一人だけに違いない。

 ……そう考えたらちょっと優越感湧いてきた。

 ダメだ反省しよう。

 

「そんな私を奮い立たせてくれたのは──他でもない、君だ」

 

 そ、そうなの……。

 いや俺、あの時は会長に対して『会長は頑張り過ぎだからもう戦わなくていいよ(笑)』みたいなニュアンスの事しか言わなかった気がするんだけど。

 そんな心が奮い立つようなカッコいいセリフ言ったっけ。

 

「あの場にいれば誰であっても私に対して強く、もしくは冷たく当たるだろう。そうされて当然なタイミングで私は塞ぎ込んでしまったのだから」

 

 ヒーロー部のみんななら全員優しく接してくれると思った(小学生並の感想)

 

「しかし君は私を置いていくでもなく励ますでもなく……必ず守ると、そう言ってくれたね。あのありきたりじゃない、君なりの優しさが……私の折れた心を救ってくれたんだよ」

「ぉ、大袈裟ですって……」

「それでも事実さ。あれ以来、私の中にはずっと君の言葉が残響している。守ると言ってくれた君のことを……忘れられない」

 

 えっ。

 待ってまって。

 それって……部長が俺に恋をしてる……ってコト!?(早とちり)

 

「だ、だから私は部員としてではなく、ひとりの人間として……アポロ・キィとして君に戻ってきてほしいんだ。ヒーロー部は辞めてもいいし、組織の手先だって私がやっつけるし……えぇと」

 

 パッと俺から離れて、赤面しながらしどろもどろ。

 いきなり抱擁だなんて思い切った行動をするなぁと感心していたのだが、どうやらライ会長本人も自分のやった行為がかなり恥ずかしいものだったことに気がついたらしい。

 

「……ほ、本当は君に早く立ち直ってほしくて、連れ出したんだ。……す、すまない、やはり君のことは音無や風菜に任せるべきで──」

 

 ああでも無いこうでも無いとあわあわ狼狽える会長は端的に言って普通の少女だった。

 英雄でもなくカリスマ生徒会長でもなく、言葉に詰まって緊張してしまう普通の──

 

 ……かわいい。

 途端に会長が可愛く見えてきた。

 何だよこのポンコツっぷりは……この人俺より年上だよな……?

 

「俺会長のこと好きかもしれません」

「うぇぇエッ!!? き、急に何を言い出すんだ!?」

 

 かなり弄りがいがありそうでワクワクしてきました!

 

 


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