メインヒロイン面した謎の美少女ごっこがしたい!   作:バリ茶

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阿井 上夫さんより純白と漆黒(衣月とポッキー)のイラストを頂きました! とってもありがとうございます
鏡合わせの演出が美しすぎて失明してしまいました 家宝にします
ゲームの製品パッケージみたい(小学生並の感想)
やっぱり髪ロングのロリっ娘にはワンピースがとても似合いますね スイカに塩 マシュにチャラ男 ロリにワンピ


分裂

 

 

 

 

 ふと、目を覚ました。

 

 ゆっくりと瞼が上がっていく。

 最初に抱いた感想としては──暗い。

 室内だろうか。

 首を横に向けると、窓の外から月が見えた。

 明かりがついていない為周囲の確認に手こずったが、次第に目が暗闇に慣れてくる。

 月の光も相まって視界が良好になってきた。

 俺はベッドにいて、周りには椅子やテーブル。

 上を見ればよく分からない配線やコンセントがあり、手元には何やらボタンらしきものも転がっている。

 

 ──病院だ。

 俺がいるのは病室に違いない。

 不思議なほど意識がハッキリしていて、寝起きだというのに既に眠気も霧散している。

 

「……っ」

 

 口元に違和感を覚えた。

 呼吸器だか酸素マスクだかよく分からないが変な器具が付いている。

 鬱陶しく感じたので剥ぎ取った。

 ……特に苦しくはない。

 外しても問題はなかったようだ。

 昏睡状態の時にのみ必要なものだったんだろう。

 

「……はぁ」

 

 溜息を吐き、少しだけ目をつぶる。

 声は思ったよりもガラガラにはなっていなかった。

 いつも通りのハスキーな低い声だ。

 

 ──ん?

 

「えっ。……おれ、もどってる……?」

 

 声で気がついた。

 いつの間にか男に戻っている。

 コクではなくアポロの声音だった。

 首元を触ってみてもペンダントは無い。

 壊れたか、没収されたか、紛失してしまったのか。

 何にせよ大切なアイテムが手元に無くてかつ男に戻ってるとあらば一大事だ。

 

 早急に情報確認をするため、体を起こそうとして──しかし動かない。

 

「何だ……?」

 

 上半身がいやに重い。

 痛みがあるわけではないのだが、何故だか体が上がらない。

 ここまで筋肉が衰えてしまう程の長い期間眠りについていたのか、と思った矢先に気づいた事があった。

 

 ──体の上に()()()()()()()()。 

 

 

「あっ、起きた」

 

 

 入院患者用の清潔で真っ白な掛け布団を退かしてみると、妙に聞き覚えのある甲高い声が鼓膜に響いた。

 近い。

 声の主は目と鼻の先というかほぼゼロ距離だ。

 ベッドで寝ている俺の身体の上に、なぜか一人の少女が()()()乗っかっている。

 

「……」

「……」

 

 固まった。

 意味が分からない。

 

 もう一度言おう。

 寝てる俺の身体の上に。

 一人の少女が乗っている。

 全裸で。

 

 そう。

 全裸で。

 

「アポロ?」

「……ちょっと待ってね」

 

 受けた衝撃があまりにも大きすぎた場合、俺はどうも悲鳴を上げたりだとか派手なリアクションを取れるようなタイプの人間ではなく、ただただ無言になってしまうらしい。

 いいだろう。

 俺の上に少女が──どう見ても『コク』にしか見えない女の子が乗っていることは認めよう。

 意味わかんねぇが目の前にあるこの状況自体は本物だ。

 現実逃避はしない。

 

 前後の記憶が曖昧で、目が覚めたらやけにデカい病室にいて、ペンダントは手元に無くオマケに俺自身が男に戻っていて、最後のトドメと言わんばかりに全裸のコクが引っ付いている……が、これらは全て俺がたった今観測した覆しようのない事実だ。

 

 認める。

 おかしな場面に陥っている事は認める。

 ここでモノローグ語りがちなラノベの主人公みたいに『間違いないコレは夢だ』なんてくだらない言葉は口に出さないし考えたりもしない。

 俺はしっかりと全て受け入れる。

 

 ……ただ。

 

「アポロ。どうして目を閉じるの?」

「少し休憩させて……」

 

 心と頭の整理をする時間ぐらいは欲しいです……。

 

 

 

 

 最初に目覚めた時刻は深夜の三時を回った頃だった。

 

 裸のコクとくっ付きながら起きるという摩訶不思議な意味不明体験をした俺は、とりあえず病室のクローゼットにかけてあったパーカーを彼女に着せ、まずナースコールを押した。

 看護師さんに体が男に戻った言い訳をしつつ、自分の怪我の具合を一緒に確認してもらうためだ。

 その間コクは見つからないよう一旦ベッドの下に隠れさせておいた。

 

 俺の容態自体は至って正常。

 なんかとんでもない超天才スーパードクターや光魔法のおかげもあって、傷跡こそ残ってはいるもののほぼ完治した状態になっているとのことだ。

 ブチ抜かれた胸や内臓も何とかなっており、担当医の判断次第だがうまくいけば二週間もしない内に退院できるかも──と諸々の説明をされたところで、ようやく俺はこれまでの事の顛末を思い出したのであった。

 

 そういえばそうだ。

 群青とかいう少年の攻撃から衣月を庇って死にかけたんだった。

 ちゃんと記憶を掘り返してみれば案外鮮明に覚えているもので、俺を助けようと必死に抗ってくれていたヒーロー部のセリフなんかもポンと頭に浮かぶ。

 

 あの後に意識を失って──そこからが曖昧だ。

 看護師さんが退室し、ベッドの下から這い出てきたコクを持ち上げてベッド上で対面すると、彼女は分かりやすく首を傾げた。

 

「覚えてないの?」

「最後らへんを覚えてないんだよ。またあの夢の世界に落ちた事は分かるんだけども」

 

 夢の中での出来事ということもあって、しっかりと記憶に残っているワケではない。

 なんか魔王の残滓だとか何とかよく分からない固有名詞をいっぱい言ってた気がする。

 

「そんなに難しい事はしなかったよ」

「じゃあ事の顛末を三行で纏めてくれ」

 

 そう言うとコクはこほんと一つ咳払いをしてから再び口を開いた。

 

「アポロを蝕む魔王の残滓

 討ち祓ったのは勇者の(つるぎ)

 なんやかんやで私も分離」

 

 出てきたのは変なラップだった。

 あと全然分からんかった。

 

「……ごめん、俺が悪かった。やっぱちゃんと説明してくれ」

「えー。ワガママだなぁ」

 

 ワガママ低スペックなんです。ゆるして。

 あの三行で『なるほど!』って納得できるほど頭は良くないんだよ。

 

「なら今度はちゃんと聞いてね? まず、アポロは魔王の残滓に体を侵されてたでしょ」

「うん」

「ソレをどうにかする為に外のレッカたちが何か色々やってたらしくて」

「はい」

「体の中に勇者の力の一部が入ってきました。それを使って魔王の残滓をやっつけました。覚醒の妨げになっていた問題の原因は解決したけど、勇者と魔王の力が両方体内に混在したことで体がバグりました」

「……ん?」

 

 流れ変わったな。

 

「で、現在」

「……」

 

 いや待て待て。

 

「あの、端折りすぎてないか?」

「そんなことないよ」

「今ので全部?」

「私が覚えてる限りでは」

「マジかよ……」

 

 これもう一回頭の中を整理する時間必要じゃない?

 さっきの説明かなり大雑把だったし、何から何まで急展開のジェットコースター状態でまったく口が挟めなかった。

 

 ……落ち着け。

 もっと理解しようとしないとダメだ。

 一気に全部飲みこもうとするから良くない。

 細かく一つずつ情報を処理していけば混乱する事も無いはずだ。

 

「えっと……まず、俺の目覚めを阻害していた『魔王の残滓』とやらは完全に消えたんだな?」

「分かんない。勇者の力は借りたけどアポロは勇者じゃないし、ちゃんと力を行使できていたかは不明。もしかしたら残滓も少しは残ってるかも」

 

 なるほど。

 最初に大前提として、魔王の力を得た群青の攻撃で俺は倒れた。

 彼の攻撃にはやべぇパワーの一部が宿っていて、それが体内に侵入して、その影響で俺は目を覚ます事が出来なくなっていた。

 

 恐らくだが『魔王』だとか『勇者』だとか、よくわからん超常の力は医術じゃどうにもならなかったのだろう。

 

 魔王や勇者というのは、800年以上前の歴史に出てくる、もはやおとぎ話に近い存在の名だ。

 その血を引くレッカや現世に現れた不完全な魔王などからして、彼らの存在自体は創作でも何でもなく本物の歴史だったのだろう──が、やはりどう考えても火や風を行使する一般的な魔法や化学の域を逸脱した“ファンタジー”の話だ。

 

 製造工程が未だに解明されない古代遺跡なんかと同じ部類の話である。

 現代の技術や情報を以てしても多くは引き出せない、未知のパワー。

 そんな魔王というファンタジーをどうにかする為には、同格のファンタジーである勇者の力を使うしかなかったわけだ。

 

 で、最終決戦で主人公らしく、太古の力である勇者ぱわ~を現代に呼び戻したレッカが、いろいろな人の協力を得て再びその力を行使した。

 ファンタジーを注入された結果として、アポロ・キィの中にあった魔王の力は、少なくとも意識を取り戻せる程度には取り除かれた──と。

 

 

 よしよし、少しは情報を咀嚼できたな。

 とりあえずレッカ達のおかげで命拾いした、という事実だけ覚えておけば良さそうだ。

 

「じゃあ次だ。……何で俺、男に戻ってんの?」

「知らない。私が分離したからじゃないかな」

「分離……」

 

 はい、一番ワケ分からない部分に直面しましたね。

 これからコク先生による講義の時間ですよ。

 

 この際俺が男に戻った理屈はどうでもいい。

 もともとペンダントがバグって戻れなくなってたんだから、何かの拍子にあれが直って、今みたいにペンダントを外された結果男に戻ったとかそういうのでいい。

 そこは気にしないことにした。

 もっと気になる情報が出てきたから。

 

 まず何だよ分離って

 おまえ誰?

 夢の中にいたコク張本人なの?

 いや、でもアレは俺の妄想のはずなんだ。

 もしかして本当にコクっていう別人格がいたのかしら。

 流石にそれは都合が良すぎるような気がするんだが……うん、やっぱ分からない。

 

 本人に聞くのが一番手っ取り早いか。

 

「お前は何者なんだ。コクなのか?」

「コクはあなたが演じるキャラの事でしょ。そんな人間は実在しないよ?」

「そ、それは……そうなんですけども……」

 

 なんかすごい真顔で当たり前の事を言われてしまった。ちょっと凹む。

 今のは俺の質問の仕方も 悪かったかな。

 

「じゃあ、分離したってのはどういう事だ? お前……俺の妄想だったはずだよな」

「私もそう思ってたんだけどね。まぁ、正直に言うとよくわかんない」

 

 分からないって、そんな無茶苦茶な。

 

「アポロ。そこの机の引き出し」

「えっ? ……これか」

 

 コクが指差したのはベッドの真横にある机だった。

 引き出しが三つほどあり、上には花瓶が飾られている。

 言われた通りに机の引き出しを開けると、そこには見慣れた俺のペンダントが入っていた。

 

「ペンダント、ここにあったのか」

「使ってみて」

「あ、あぁ。……おっ、変身できるな。しかも戻れる」

「ほら、コクはアポロでしょ」

 

 まさしくその通りだった。

 コレで俺が無表情ヒロインっぽく振る舞えばそれが『コク』という存在になるわけだ。

 ペンダントが直っているのは不可解だが、元はといえば会長とレッカの力で壊れたのだから、再びレッカのパワーを注がれたのなら逆に故障した部分が直っても不思議ではない。

 そもそも俺が眠っている間に父さんが修理してくれた可能性もあるし。

 とりあえずペンダントを首にかけて、男に戻っておく。

 するとコクが説明を始めた。

 

「ペンダントは使用時にほんの少しだけ装着者の魔力を吸う。その影響でペンダントの中にはアポロ・アポロのパパ・レッカの三人の魔力が入ってた」

「確かにそうだな。……何なら悪の組織の本部から逃げ出すときにライ部長の魔力も入ったかもしれない」

 

 れっちゃんと部長が取っ組み合いをした時のことだ。

 あの時はその彼の炎と彼女の電撃魔法が原因でペンダントが壊れて男に戻れなくなってしまったわけだが。

 

「人間を女の子にするペンダントの中でいろんな人の魔力が合わさって、そこに勇者の力と魔王ぱわ~も加わったら、どうなると思う?」

「……想像もつかないな」

「そういう事。勇者と魔王の力が合体するなんてきっと人類史上初めてのことだし、何が起きても不思議じゃないと思うよ。いつの間にか私はアポロの中に()()し、勇者だの魔王だのって話が解決した頃には、私は現実世界にいて裸でアポロにくっ付いてた」

 

 彼女は自分の胸や頬をペタペタと触りながら話を続ける。

 

「ペンダントが由来の存在なんだとは思う。アポロの記憶も多少は持っていて、でも知らない事もあるから私は確実にアポロじゃない」

「……別人格、ってことか?」

「別人格じゃなくて“別人”なんじゃないかな。ペンダントから生まれたからコクの姿をしているだけで、きっと私はコクですらない。いろんな人の魔力の集合体が、なーんやかんやあって勇者と魔王の力を受けて現実世界に顕現した──とか、多分そんな感じ。人間じゃなくてバケモノだね」

 

 あっけらかんと言い放ち、コクは俺の膝の上にこてんっと頭を乗せて寝転がった。

 

 

 ──正直に言えば、今の話は何一つ理解できなかった。

 

 いつの間にかコクの姿をした誰かが存在していて、またいつの間にか目の前にいて。

 こんなの一種のホラー体験じゃん。普通に怖いんだけど。

 確かに他人の力が介在する機会は多くあったから、何かしらの奇跡が起きて黒髪美少女爆誕! ってなってもおかしくは……いやおかしいな。

 

 

 あー、ダメだ。

 考えるのやめた。

 脳細胞がローギアです。

 

 こういう小難しいのはレッカとか母さんに考えてもらおう。

 多分どうにかこうにか理屈つけて結論出してくれるだろ。

 考えるべきはコイツがどう生まれたかじゃなくて、これからどうやって生きていくかだ。

 

 

「……名前、どうするんだ?」

 

 まず呼び名が無いと不便だ。

 こいつがこのままコクって呼ばれ続けるのが苦痛なら新しい名前を考えないと。

 

「コクでいいよ。面倒くさいし」

「でもお前はコクじゃないだろ」

「同じ名前の人なんていくらでもいるでしょ。てかこの姿で現実世界へ出てきた私に名前を付けるならコクしかないと思うし。それでいいってばよ」

 

 俺の膝上でゴロゴロしながらそう言う彼女はあっけらかんとしていた。

 フットワークが軽いというか、自分への関心が薄いというか。

 

「……とりあえず、お前はペンダントから生まれたペンダント太郎ってことでいいんだな?」

「概ねその認識で合ってる」

 

 ダメだこいつ自分の事ですらもツッコミ入れねぇ。

 天性のボケ担当だ。絶対扱いづらいな。

 

「ハッ。もしかしたら私、ペンダントの付喪神なのかも」

「少なくとも神様ではなさそうだけどな……」

「そう考えたらアポロよりペンダントの方が誕生したの早いから、私がお姉ちゃんってことなるね」

「発想の飛躍がすごい」

 

 想像力が豊かなロリっ娘ですね本当に。

 

 

 ……まぁ、こんな奴だが少なくとも恩があるのは事実だ。

 

 最初は夢の中で脳内会議に付き合ってくれて、鈍感なフリして主人公ぶってる俺に自分の本性を改めて自覚させてくれたりもした。

 発破をかけて応援してくれたし、未来のシミュレーションも見せてくれて、終いには精神世界で一緒に魔王と戦ってくれてたみたいだ。

 俺はもっとこの少女に感謝をしなければならないのかもしれない。

 

 戸籍も無く存在の出自も証明もあやふやで、それなのにしっかり自己を持って協力してくれたのだ。

 ほぼ俺と同じ記憶を持っているとはいえ、精神面だけで見れば彼女は俺よりもずっと強い人間なのかもしれない。少なくともバケモノなんかではない筈だ。

 きっとレッカに攻略してもらったら幸せになれるよ。知らんけど。

 

 ──これからの美少女ごっこ、どうしようかなぁ……。

 

「ほっぺにチューをしろ弟よ~」

「まてコク。お前はペンダントから生まれたのであってペンダントそのものじゃない。生まれたのはつい最近だ。というわけで俺の方が年上な」

「あっ、そうなるんだ」

 

 ともかくコイツが俺の姉になる事だけは許可できない。

 誰がどう見てもお前の方が年下だろうが。

 

「兄、おにい、お兄様、お兄ちゃん……アポロは何がいい?」

「それ俺が決めていいんだ……」

 

 個人的にはおにい呼びが熱いな──なんて考えつつ窓の方を向く。

 

 いつの間にやらすっかり明るくなっていた。

 立てかけられた時計を見ればもう十時過ぎだ。

 看護師さんに色々と説明して貰ったり、コクと話し合っているうちに結構時間が経過していたらしい。

 

「コク」

「なに? お兄ちゃん」

「名前呼びでお願いします」

「分かった、兄上」

「人の話きいてた?」

 

 どっちが年上かはともかく、兄妹になるかどうかなんて話はしてなかったと思うんですけど。

 まず家族ですらなくない?

 

「私たちは二人とも紀依夫婦から生まれてるんだから、それはもう兄妹みたいなもんでしょ」

「大いに間違ってると思います」

 

 だいたい血も繋がってねぇし。

 

「……血の繋がりが無い兄妹って、なんかエロゲっぽいね」

「あれ、もしかしてコクちゃんって俺より頭わるかったりする?」

「ねぇお兄ちゃん……兄妹による禁断の恋を始めちゃお……」

「ァひんっ♡ てめっ、耳元で囁くな!」

 

 話が通じないし変な妹ムーブしてきやがるし、もしかしたら俺とこいつは相容れない存在なのかもしれない。

 とんでもないヤツが誕生してしまったわね。

 コクの姿って犯罪者としてネットで拡散されてたはずだし、この女が近くに居たら美少女ごっこはおろか日常生活すら脅かされかねん。

 

「おいコク、お前とりあえず今日一日は俺のベッドの下にいろ。誰かに見つかったらマズい事になる」

「えぇー、やだ。パーカーだけ羽織ってベッドの下にいるの寒いもん」

「……言い方が悪かったな、頼むよコク。今のところお前の存在を明かせるのは両親くらいしかいないんだ。看護師さんは俺が起きたことを家族に連絡するって言ってたし、きっと今日はヒーロー部の連中も集まる。バレるわけにはいかないんだ」

 

 この女は一番近くにいた俺ですら飲み込みきれてない程の謎の新キャラクターだ。

 しかも俺にとってめちゃくちゃ都合の悪い爆弾まで抱えていやがる。

 コクが見つかるだけで俺の美少女ごっこは呆気なく終焉を迎えてしまうし、そうでなくとも悪の組織の残党に狙われているのだから油断できない。

 俺が制御、もとい守護らねばならない。

 

「それアポロの都合だよね。私は寒いのやだよ。ていうか今も寒いし」

「服はそれしかないんだからしょうがないだろ……」

「私隠しヒロインなんだからもっと優しくして」

 

 お前をヒロインとして迎え入れた覚えはないんだよ。

 ていうか本物の隠しヒロインはこの俺なんだが?

 まさかこれまで俺が美少女ごっこで培ってきたコクとしての功績をかすめ取るつもりか? ゆるせねぇ……。

 

「寒いからアポロが温めて」

「掛け布団やるよ」

「ダメ。人肌恋しいからこうします」

「ちょっ! 抱き着くなバカ!」

 

 正面から膝の上に座ってきたかと思いきや、そのまま後ろに手を回して密着してきやがった。油断も隙も無い。

 

「……これ、はたから見たら対面座位してるように見えない?」

「子守りにしか見えないだろ」

「むっ。ロリコンのくせに私を対象外とみなすか」

 

 ロリコンはれっちゃんなんだよなぁ……。

 

「おまえの言う兄妹ならそれこそ対象外だろうが」

「禁断の恋」

「おい黙れよ」

 

 ──と、こんな感じでコクと言い争いをしていたせいで、気がつかなかったのだろう。

 

 迫りくる()()()()()()に。

 

 

「先輩っ! 意識が戻ったってほん──」

 

 

 病室の扉を開けた音無の目には、俺たちはどう映ったのだろうか。

 昏睡状態にあった先輩が起きたと言う一報を受けて病院に駆けつけたら、ベッドの上でパーカーしか着ていない下半身裸の黒髪少女を対面座位のような形で抱き締めていたのだ。

 

「…………」

 

 おまけに音無は俺とコクが同一人物だということを知ってる。

 なのに何故か分離していて、いかがわしい事をしているようにしか見えない体勢で出迎えられたら、彼女は一体どんなリアクションを取ってくれるのか。

 情報量の暴力に殴られた後輩の第一声は──

 

「…………すみません、部屋まちがえました」

「ちょ、まっ」

 

 ピシャン。

 無常にも部屋の扉は閉じられ、彼女が病室に足を踏み入れる未来は終ぞ訪れなかった。

 

 ……泣いていい?

 

「アポロ涙目になってる」

「誰のせいだと思ってるんですか?」

「ごめんね。音無に謝ってくる」

 

 今あいつに謝ったらただの煽りにしかならないから本当にやめて。

 病室で下半身露出させた状態で抱き合ってたら言い訳なんて出来無いに決まってる。

 俺の人生はもう終わったんだ。無駄な抵抗するな。

 

 

「ぽ、ポッキー? 音無が病室の外でブツブツ呟いてるんだけど、何かあったの? 起きてるんだろ……?」

 

 

 はいれっちゃん来ましたタイミング最悪です。

 もう逆に神がかってるよね。

 

「は、入るよ? いったい何が──」

 

 ぜひ音無の様子を見てその場で踏みとどまって欲しかったな。

 

「……え。……ぇっ、え?」

「あ、レッカだ。やっほ」

「こっ、コク……? ……っ?? え? ど、どういう……?」

「待てれっちゃん。頼むから早とちりしないでくれ。一から説明するから」

「早とちりも何も意味がわからないんだけど……」

 

 そうだよな、みんなそうなるよな。

 俺もコイツを前にした時は同じ様になったから気持ち分かるよ。

 だから今すぐ説明してあげるね。コイツのことぶん投げて退かすからちょっと待ってね。

 お前がコクを好きなのは知ってるから。別にNTRじゃないしコイツそもそもコクですらないから。

 

「実は──」

「ん……っ♡」

 

 おい変な声を出すな。

 

「だめ……♡ そろそろ出ちゃう……っ♡」

「なにが!?」

「おしっこ……」

「ァひんっ♡ テメェおまえコラァ!?」

 

 不必要に耳元で囁くんじゃねぇよバカ! 

 レッカに聞かれるのが恥ずかしかったのか!? 

 なんでこんな時に人並みの羞恥心発揮してんだよキャラ変やめて……!

 

「ポッキー……!?」

「違う誤解だ安心しろ!! こいつはコクじゃない!」

「じゃあ誰なんだよ!?」

「妹だ!!」

「えぇっ!!?」

 


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