メインヒロイン面した謎の美少女ごっこがしたい!   作:バリ茶

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次回はあらすじ紹介とキャラ紹介と頂いた支援絵紹介です


Q.私は死んだ方がいいですか? A.お黙りなさい

 

 

 

 突然の奇行に走ったイカレ女を助ける為に、彼女を追って病院の最上階から飛び降りた俺だったが、風菜に教えてもらった得意の風魔法を駆使することでギリギリ間に合うことが出来た。

 

 コクを抱きしめ、魔法でなんとか勢いを殺しながら落下していき、そのまま茂みに突っ込んでいく。

 まさかパラシュートを着けたスカイダイビングの様な完璧な対処ができるわけもなく、不格好にも尻餅をついて悶絶。

 涙目になりながらコクの様子を見ると、彼女は相も変わらず無表情だった。

 

 落ちた場所は病院の敷地内にある院内庭園の茂みの中だ。

 俺たちがいる草木の外には美麗な花々が植えられており、ヒーリング・ガーデンと呼ばれるだけの事はあるようで、陽の無い夜でも心を安らげることが出来そうな雰囲気がそこにはあった。

 傷心してるのか情緒がバグったのかは知らないが、この穏やかな場所であればコクの精神の回復には丁度いいかもしれない。落ちた場所がここで良かった。

 痛む腰をさすりつつ、俺は彼女の手を引いて茂みの外へ歩き出し──

 

「……おい、コク?」

「…………」

 

 ──て行こうと思ったのだが、彼女は俺の手を掴んだまま、辺りの雑草を踏みつぶして座り込んでしまった。

 ぐっ、と引っ張ってもビクともしない。

 置物かな?

 

「あそこにベンチがあるだろ。お互い言いたい事は一旦飲み込んでさ、あそこに座ってから話さないか?」

「…………」

「……急にガチ無表情キャラになったな」

 

 俺の手は離さず、しかし花壇に鎮座したまま一言も発さずに黙りこくる彼女に、ベッドの上で俺をからかうようなコミュニケーションを取っていたあの少女の面影は見えない。

 突然のキャラ変更には流石の俺も困ってしまうな。

 完全に『無表情だけどその分テンションが高い』みたいな性格だと思ってたんだが、どうやら違ったようだ。

 高低差というか、感情の起伏が激しすぎる。

 

「あぁ……もう、分かったよ。動きたく無いんならしょうがない」

 

 観念し、ドカッと腰を下ろした。

 座っている場所は雑草が生え散らかった花壇の上だ。

 庭園の端っこにある、手入れをサボられた、癒しの欠片も無い土に座って、俺たちは向かい合うことになった。

 

「……んっ」

 

 ポツリ、と。

 

 頬が水滴を弾く。

 上を見上げても、真っ暗なので空模様は窺えない。

 

 しかし降ってくる水滴は勢いを増していき、それはあっという間に雨粒になっていった。

 頭上から無数の水が全身を襲ってくる。

 まるで冷たいシャワーを浴びているのかと錯覚する程の勢いだ。

 明らかに本降り。

 しばらくは止みそうにない。

 早いところ屋内に避難したいところではある……のだが。

 

「コク」

「……」

「聞いてんのか、おい」

「むぃっ……」

 

 無視され続けてむかっ腹が立ったため、試しに空いた腕で彼女の頬を引っ張ってみた。

 抵抗はしてこない。

 ぐにぐに。

 もみもみ。

 

「……」

 

 されるがままだ。

 どうやらコレを続けたところで意味は無いらしい。

 何コイツ、どうして突然本物の無表情ヒロインになってんの。

 

「はぁ……」

 

 困り果てて手を離した。

 ざぁざぁと雨は強くなる一方で、俺たちが座っている土も泥と化し、濡れて肌に張り付く服と同様に微妙な不快感を覚えさせてくる。

 

「寒くないか?」

「……寒くない」

 

 ようやく会話をしてくれたのは嬉しい──が、やはり俺の手は離さない。

 ずぶ濡れになったまま俺を引き留めるその手は分かりやすく冷たかった。

 寒くない、などという彼女の言葉は嘘だ。

 肩が震えている。

 指先の力が弱まっていく。

 水を吸った漆黒の長髪が顔の前に垂れ、コクの表情が見えなくなってしまった。

 

「痛くない。苦しくない」

 

 雨音が耳朶を打つ。

 空から降り注ぐ轟音に、彼女のか細い声は今にも搔き消されてしまいそうだ。

 ふと、前髪の隙間から彼女の瞳が見えた。

 頭のてっぺんからつま先まで水浸しで、力なくこちらを見上げるその姿は、初めて出会ったときの衣月を彷彿とさせる。

 

 異様な雰囲気。

 意味深なセリフ。

 常軌を逸した立ち振る舞い。

 それはまるで、メインヒロイン面した謎の美少女のようで──

 

 

 

 は?

 

 いや、え?

 待て待て、ちょっと一旦落ち着いてもらおうか。

 

 ……おかしいだろ。

 メインヒロイン面した謎の美少女は、他でもないこの俺なんだぞ。

 何で急にぽっと出の新キャラにアイデンティティを喰われなきゃならねぇんだ。危うくアイデンティティクライシスするところだったわ。

 このままこの女のヒロインムーブを許すわけにはいかない。

 

 無表情メインヒロインはただ一人、この俺なのだから。

 

 

「……見て、私の手」

 

 言いながらコクが片手を俺の目の前に差し出してきた。

 その手の中指と薬指に該当する部分が──ひん曲がっている。

 本来ならあり得ない方向に折れてしまっているのだ。

 明らかに重度の骨折だった。

 おそらくあの不格好な着地をした際に、どこかへ指をぶつけてしまったのだろう。

 

「この指は折れてるけど、すぐに治る。私は人間じゃないから」

 

 そう言うとコクの折れた指の部分が、どこからともなく発生した光の粒子に包まれた。

 まるで蛍が一斉に集まってきたかのような光景だ。

 ほんの数十秒ほどそのまま待っていると、次第に光の粒子が霧散していく。

 

 そして完全に光が無くなった頃には──彼女の指は元通りに治っていた。

 

「ほらね。普通の人なら大変な大怪我も、私にとっては意味が無い。バケモノみたいに肉体が再生されていくんだ。気味が悪いでしょ? 屋上から飛び降りた時だって、アポロが助けてくれなくても……きっと、私は死ななかった」

「……いや、あの高さは流石に死ぬだろ」

「…………」

 

 沈黙しやがった。

 どうやら俺がこういう反応をしてくるのは予想していなかったらしい。

 

 ていうか、よく見たら目が少し赤くなってるな。

 言ってしまえば泣いた後のような瞼の色だ。

 雨を浴びただけではこんな風にはならないだろう。

 きっと先ほどまで黙ってたのは口を利かなかったんじゃなくて、単に折れた指の痛みで悶絶してただけだったんだな。

 何だよ、ちゃんと痛覚もあるじゃない。

 指が痛すぎて喋れずに泣いちゃうとか人間じゃなくて何なんだよって話だ。

 

「そりゃ治りはしたが、指も本当は痛かったんだろ? めっちゃ人間じゃん」

「……うるさい」

 

 あまりにもレスバが弱すぎないか、この女。

 これなら激しい口論には発展しなさそうだ。よかった。

 

 

 ──うん、分かる。

 

 わかるぞ、コイツ人外系のヒロインなんだな。

 確かに今までガチで人間をやめた系の女の子は一人もいなかったから、しっかり新しい属性で他とも被ってない。

 この上ないタイミングでの登場だ。

 改造人間だったり経歴に殺人がある少女だったりと、ヒーロー部や俺の仲間もなかなかに濃い属性を兼ね備えていたが、物理的にデフォで一般人を超越した存在が出てきたのはこれが初めてだ。

 こいつが噂に聞く逸般人ってやつなんだろう。

 

 数十秒で骨折を治すヤツが果たして人間なのかという話だが、コクの言葉を聞いた限り彼女自身は人間でありたいっぽいので、俺はこの少女を人間扱いする事に決めた。

 普通に考えても本人が望む方向に肯定してやるのが一番いいはずだ。

 もちろん時間は掛かるだろうけど、俺に最も近しい存在の為なら、どれだけ頑張る事になろうと別に苦ではない。一周回って自分の為にもなるのだから当然だ。

 

「アポロだってこんな、得体のしれないバケモノとなんて一緒に居たくないでしょ」

「俺はそうは思わないぞ」

「う、嘘ばっかり。それにアポロがどう思おうと、私が死ぬのは決定事項だから」

「何でそんな結論になるの……?」

 

 ──なにより。

 

「私だって悩んだよ。いっぱい、いっぱい悩んだ。でも、何をどう考えても、アポロの前から姿を消す以外に……私自身が消える以外に、私が生まれた意味を果たす方法が無かったの」

 

 このあからさまに悲劇のヒロインぶった彼女のムーブを無視するワケにはいかないのだ。

 俺がヒロインごっこを続ける都合上、絶対に。

 早急に対処しなければならない事案だ。

 

 いやまぁ、事実この少女は悲劇のヒロインではあるんだろう。

 自分の意思に関係なくいつの間にか他人の姿を模した生を受けてしまい、尚且つ一般人に見られたら非人間だと揶揄されそうな力を持っていたのだから、彼女はコレが悲劇のヒロインじゃなかったら何なんだよってレベルの悲ヒロ(悲劇のヒロインの略)度数をお持ちの少女なのだ。

 

 しかし彼女を悲ヒロ扱いすることは出来ない。してはならない。

 その理由は至ってシンプルだ。

 目の前にいるこの少女が、レッカが自ら救わなければならない程の不幸なヒロインになってしまった場合、俺の演じる『コク』の存在感が、それはもうハチャメチャに薄まってしまうからである。

 

 もしもこれを誰かが聞いたら、そんなくだらない事が理由なのかよ、と思われるかもしれない。

 

 それは違う。

 断じて違うのだ。

 は?

 くだらなくなんか無いが?

 

 俺は世界が滅びそうになった時や、自分自身の命が潰えそうになった時ですらも、美少女ごっこを辞めなかった男だ。

 痛くても苦しくても我慢してきた!

 世界中から命を狙われても、右目を潰されても、すごい痛いのを我慢してた!

 俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった。

 

 コクの存在意義を守るためなら本気になるに決まっている。

 これまで耐えてきた我慢を、無かった事になんてさせてたまるか。

 たとえ相手が本物の悲ヒロだろうが、俺は怯まず立ち向かって彼女を一般人の女の子として周囲に認めさせてやる。

 TS変身することで幕を開けたこの物語のメインヒロインはただ一人、この俺だ。

 

 謎の美少女を続けるためには、どうしても他の謎の美少女が弊害となる。

 言ってしまえば壁だ。

 コク本人が、ではなくコクの纏う悲劇のヒロインパワー全力全開のオーラが、である。

 今まで培ってきた非常時に強いこの俺の対応力を用いて、彼女の問題をすべて平穏に解消してオールオッケーにしなければ。

 場当たりパワー、ポッキー!

 

「コク。そこまでして悩んだんなら、逆にどうしてその『死ぬしかない』って結論に至ったんだ?」

「……私にはアポロしかいないけど、アポロには沢山の仲間や理解者がいる」

 

 たとえコクがどんな心境や理由で仕掛けて来ようとも、彼女が醸し出すシリアスムードは全て破壊する。

 見とけ、シリアスなヒロイン扱いなんて絶対してやらないからな。

 すぐに病室のベッドの上でワチャワチャしてたあの生意気ロリっ娘に戻してやるから覚悟しろよ。

 

「仲間も親友も、相棒も一番の理解者も、アポロにとって必要な存在の枠は、既に全部埋まってる。病室にヒーロー部が来てたあの光景を見てて、気づいたんだ。私はいらないんだって。だから消えようと思ったの」

「いや、俺の美少女ごっこの真実を知ってるのはお前だけだろ」

「…………音無も知ってるよ」

「違うな、間違っているぞ。お前も本当はわかってるはずだ」

「む、むぅ……」

 

 コクの言った言葉は少し的外れだ。

 確かにアイツは察しがいい方だが、彼女の認識は『衣月を守るためにTSし、変身しているうちにだんだんTSが楽しくなっちゃった』みたいな感じだ。

 

 そうじゃない。

 日々の退屈。

 ヒーロー部に対する僅かな劣等感。

 そんなくだらない感情で始まったのが美少女ごっこなのだ。

 誰かを守るためだとか、世界を救うためだとか、そんな高尚な理由などありはしない。

 レッカをからかいたくて、部員のヒロインたちよりも特別な位置に立って──とにかく気持ち良くなりたかっただけだ。

 それで親友を騙しているのだから、もはや悪役染みた思考である。主人公には程遠い。

 

 そして、それをこの少女は知っている。

 誰にも明かしていない真実を、彼女だけが唯一共有している。

 

「絶対の秘密を脳内で話し合ったのも、夢の中で一緒に戦ってくれたのも、俺を不幸ぶったエセ鈍感主人公から美少女ごっこが大好きな変態に戻してくれたのも、すべてお前だ。コクのおかげで、いま俺はここにいる。俺にとって誰にも代われない、唯一無二の特別な位置にお前はいるんだよ」

「……なにそれ、口説き文句? アポロ、きもい」

 

 うるせぇな、無言で屋上から飛び降りようとする方がきもいだろ。お互い様だ。

 お前が自分をいらない存在だとかのたまったからこう言ったのに、本当にワガママなやつだ。さすが半分くらい俺なだけある。俺ってワガママだもんね。

 

「ねぇアポロ、気づいてる? 失明した片目、ちゃんと見えてるでしょ」

「んっ……あぁ、そういえばそうだな。なんか治ってら」

 

 改めて意識すると気がついた。

 両方の視力が戻っていて、視界がとても良好だ。

 

「私ね、右目が見えないの。これとコクの姿といい、これからアポロが生きていく中で不必要な部分をまとめて引き受けたんだよ。しょせん私はアポロの復活の際に出たゴミ。捨てるだけだった不必要な部分に意識が混じっちゃっただけのバグってこと。分かった? このまま消えるのが当然の流れなんだ」

 

 おっ、だんだん早口になってきた。

 焦りの感情が手に取るように伝わってくる。

 そんな状態のお前が何を言ったところで、今の俺を納得させられるわけがないんだよな。

 

「コク、その右目……多分治るぞ」

「適当な事ばっかり」

「さっきの指を治した時と同じ要領でさ、目の治療を意識してみてくれ」

「そんなんで治るワケ──」

 

 恐らく回復する。

 骨折した指だって治ったタイミングは、コクがわざわざ俺に見せつけて『治そう』と考えた時だ。

 意識するまではあの指も折れたままだった。

 

「……治った。見える」

「だろ?」

「うざい」

 

 口が悪すぎるだろ……失明が完治したやつのセリフじゃないよ……。まぁでも治ってよかった。

 どうやらコクは俺の思い通りに事が進んだのが気に食わないらしい。

 

「何も死のうとする必要はないんじゃないか。お前はバケモノなんかじゃないし、俺以外の仲間だってこれからどんどん増えていくはずだ。まだ生まれてから一日しか経ってないんだから」

「……わかんないよ」

 

 コクが小さく呟く。

 ばしゃばしゃと激しく跳ねていた雨音は、いつの間にか弱まっていた。

 強く降り注いでいた空の涙も、そろそろ在庫切れで晴れようとしている。

 同じくして、彼女が自分を否定する言葉のバリエーションの在庫も、品切れ間近なようだった。

 

「バケモノじゃないなら、私はいったい何者なの? 気がついたら()()にいた。勇者だか魔王だか知らないけれど、人知を超えた力も持っていた。何のために? どうして生まれたの?」

 

 どんなシリアスっぽいセリフを吐こうが、無表情ヒロインぶって付けてた仮面が剥がれつつあるのは隠せやしない。

 元気が戻りつつある。

 少なくとも今すぐ死のうとはしない程度に。

 

「私は……アポロの邪魔をしたくて生まれてきたわけじゃない。……でも、現状アポロの邪魔になってしまっているのなら、やっぱり私は消えるしかないよ」

「──ふっ、甘いな」

「な、なに……? ドヤ顔きもい……」

 

 鼻で笑い、彼女の言葉を一蹴する。

 ていうかさっきからお前一言余計だぞおい。

 

「分からないのか。俺のこれからの美少女ごっこに、お前の存在は必要不可欠だという事を」

「そうなの」

「あぁそうだ。きっとすぐに分かるさ」

 

 すっかり雨も上がり、暗雲に包まれていた空を見上げると、そこは満天の星々で埋め尽くされていた。

 涙を流して感情を吐露する時間はたった今をもちまして終了いたしました。残念でしたね。

 俺はすっと立ち上がり、未だに呆けたままこちらを見上げるコクに、手を差し伸べた。

 

「コク。お前、私にはアポロしかいない、って言ったよな?」

「……その通りでしょ」

「どうかな。少なくともお前はまだ俺としか会話をしてない。自分は余計な存在だとか、俺と違って孤独だとか、そういう答えを出すにはまだ早すぎると俺は思ってる」

「なにそれ。……わっ」

 

 いつまで経っても俺の手を握ってこないため、痺れを切らして無理やり彼女の手を掴んで立ち上がらせた。時には強引な方法も必要なのだ。

 

「確かに答えは自分で出すものだ。でも、お前にはまだ答えを出すに足る経験が不足している。もう少しだけ俺と一緒に生きてみて、それから答えを出してみてほしいんだよ。……まぁ、それでまだ死にたいだなんて結論が出てきたのなら、その時は俺も止めないからさ」

「……たぶん変わんないよ」

「変われるって。たぶん」

 

 こいつを更生するための算段は既に考えついている。

 俺が考えたこの作戦を決行すれば、必ずコクの中の考え方も変わるはずだ。

 もう自殺未遂とかそういう面倒なシリアスはお腹いっぱいです。

 

 シリアスな欠片も無い世界へ投げ入れてやるから覚悟しとけよ、謎の美少女め。

 

 

 

 

 

 

「というわけでレッカ。アポロを返して欲しかったら、私()()を捕まえてね」

 

 数日後。

 俺はコクの姿に変身した状態で、コクと一緒に二人で学園に赴いて、レッカたちヒーロー部の前に姿を現した。

 コクにはあのフードが付いた制服っぽい衣装を着せ、俺は沖縄で使ったワンピースの上にカーディガンを羽織った状態で、風魔法で宙に浮いて校庭にいる彼らを見下ろしている。

 

「どういうこと?」

「この学園都市全体を使ってかくれんぼをします。いざ勝負」

「分からない……何でアポロを人質に取られてる……? そもそもどうしてコクが二人に……?」

 

 ブツブツと呟くれっちゃん。そりゃ分かんないよな、ごめんな。

 

 でもこうするしかなかったのだ。

 コクの存在意義を肯定するなら、こうして『コクを二人にする』という新展開の美少女ごっこをする必要があった。

 お前の存在は無駄なんかじゃないのだと証明する必要があった。

 あと単純にこのシチュをやってみたかった。

 

 ただ、これではまだ足りないから、もう一つ。

 

「カゼコ、氷織。……それからヒカリも、手伝ってくれる?」

 

 俺がそう言うと、名前を呼ばれた彼女らは一歩前に出てから俺たちに手を振ってくれた。

 一番最初に反応してくれたのは氷織だ。

 

「はーい、今行くね。カゼコちゃん頼んだ!」

「あぁ、そういう事。しょうがないわね……ほら、あたしの風魔法で浮かせるから、ヒカリもこっち来なさい」

「お待ちになってくださる!? あのっ、このまま飛んでしまったらレッカさんにスカートの中が見られ──ぎゃあっ!!」

 

 おおよそ令嬢とは思えない悲鳴をあげながら、他の二人と同じくして俺たちの方へ飛んでくるヒカリは、分かりやすく涙目だった。かわいそう。

 彼女たちには事前に『協力してほしい』とだけメッセージで送っておいたのだが、流石はヒーロー部。飲み込みの早さと洞察力は並じゃない。

 

 そう、コクにとってもう一つの必要な事とは、俺以外の人間との交流だ。

 このかくれんぼを通して、ヒーローの部の中でも特にコミュ力と癒しパワーが高いあの三人と仲良くなって貰おう、って算段である。

 

 傷心気味な人間のメンタルケアであればあの三人が適任、という事は俺が身をもって体験して知った。

 コクが自分なりの答えや理解者を得る為にはこの方法が一番優れているに違いない。

 ふふふ、我ながら天才すぎる発想だぜ。自分が怖い。

 

「ちょっ、待ってくれ三人とも! なんでそっち側に!?」

「はいはい、レッカ先輩はウチらと一緒に鬼をやるッスよ」

「ふふっ、頑張ろうなレッカ。勝手にいなくなった部員たちを私たちでとっ捕まえなければ」

「ぉ、オトナシに部長まで……なんだコレ……!?」

 

 俺の考えをうまく察してくれるあの二人には、コクがヒーロー部と打ち解けるまで逆にレッカに付いて彼をうまくコントロールしてもらう。

 直接何をやるかは伝えていなかったのだが……やっぱり音無と会長は頼りになるな。

 

「あの、アポロ。これ大丈夫なの……?」

「心配すんなって。さ、かくれんぼの始まりだ」

 

 踵を返し、ちょっとだけパンチラをサービスしつつレッカくんに向けて、一言。

 こういう時こそ頑張ってくれよな、主人公くん。

 

「さよなら〜」

「まっ、待てコラーッ!!」

 


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