『──そっか。兄さん、しばらく帰ってこないんだね』
放課後の魔法学園へ訪れ、こ~っそりとヒーロー部の部室前まで訪れたところ、中かられっちゃんの声が聞こえてきた。
なにやら電話をしているようだったが、特に声音が早まったり電話を切ったりなどもしなかったため、俺の存在には気づいていないらしい。
やったぞポッキー、潜入は成功だ!
ここまで抜き足差し足が得意だったなら、ニンジャである音無に弟子入りして、最後の忍び足をマスターするのもありかもしれない。
あとで後輩にメッセージ送っとこう。にんにん。
『群青くんを連れて二人旅、か。……んっ? あぁ、いや。そういえば僕の親友も似たような事をしていたなって』
何だ何だ。
会話の中に俺が出てきたぞ。
レッカのお兄さんがしばらく帰ってこなくて、且つ群青くんを連れて二人旅?
群青くん、ってのは確か衣月と同じで、以前まで悪の組織に実験体として捕らえられてた子供の事だったっけか。
ついでに俺が瀕死になる原因を作った男の子でもあったはず。
歳も衣月と一緒の十一だ。
まだまだ成長途中の年齢だし、諸々の事情があってまだ小学校にも通わせてあげられないから、世間を知ってもらうための二人旅──って感じなのかもしれない。
『うん、何かあったら連絡して。アポロに大怪我を負わせてしまって、心を塞ぎこんでしまっている彼を立ち直らせるのは難しいだろうけど……えっ、そんなことないよ! 兄さんならきっと出来るさ』
あぁ、そういえば群青くん、いまめちゃくちゃ落ち込んでるんだった。
俺が死にかけたことで衣月が泣いちゃったから、罪悪感がヤバ谷園のマジ卍って感じなんだよな。
『へ? ……アポロに? え、えと……やめといた方がいいと思うよ? ほら、衣月ちゃんの時とはかなり状況が違うわけだし……』
なんだろう。
レッカのお兄さん、もしかして俺のことを頼ろうとしたのかな。
純白として大変な立場にあった衣月を何とかした人間ならワンチャン、的な。
いやぁ……無理だと思うけどなぁ。
とてもむつかしい。
だって俺、群青少年から見たら純白を奪った張本人だし。
衣月を悪の組織から連れ出した本当の犯人はウチの両親なんだが、そういう細かいのもあの子からすればどうでもいいに違いない。
せいぜい俺が出来るのは、衣月の時と同じで本当の名前を聞いてあげる事ぐらいだろう。
『……うん、気をつけて。それじゃ』
あっ、電話終わったな?
『ふぅー』
レッカが一息ついている間に、ちょっとだけ扉から離れておく。
それからわざと足音を立てて部屋の前までくれば、あたかも今さっき来ましたよ~って感じの雰囲気になるため、電話を盗み聞きしていたとも思われない筈だ。
何も聞いてなかったから安心してくださいね。
……電話終了から一分くらい経ったし、そろそろ入るか。
「開けろっ! デトロイト市警だッ!!」
「わぁっ!?」
めっちゃ勢いよく扉を開けて部室内へ突入すると、れっちゃんが驚いて椅子から転げ落ちた。
百点満点のリアクションだな。
俺の行動にここまで大げさな反応をしてくれる人間は、世界中どこを探してもお前だけだよ親友。
「いたた……──えっ」
「こんにちは」
「ぽ、ポッキー?」
「ポッキーだよ」
言いながら手を差し伸べると、れっちゃんは数瞬迷った末に、俺の手を取って立ち上がった。
はい、いつぶりの再会でしょうかね。
病院で目覚めた時の『こいつは妹だっ!』って言ったアレの後は、他のメンバーや両親がいたから、あまり話せていなかった。
その後はマユの行動でひと悶着あって、レッカが改めてお見舞いに来る前に鬼ごっこが始まったから──うん、まともに会話をしたのは組織との最終決戦以来だな。
実に三ヵ月ぶりくらいの再会だ。
会いたかったぞ、ジョジョ。
「……人質はもう終わったの」
「うん」
「鬼ごっこは?」
「レッカがもうやらないっぽいから終わり」
「……うぅん」
こめかみを押さえるれっちゃん。
文字通り頭が痛いらしい。
上手い!
「れっちゃん大丈夫?」
「誰のせいだと──」
呆れた声音で呟きながら顔を上げ、俺の顔を見たレッカは、小さくため息を吐いて椅子にもたれ掛かった。
「はぁ、もういいや。……おかえり、ポッキー」
「へへっ、ただいま」
何だか以前の、いい加減な俺を相手する時の
「ほんっっとに呑気なヤツだな。僕らがどれ程心配してたと……まったく」
そして同じく仕方なさそうながらも笑みを浮かべる親友くん。
どうやらお説教は後回しにするようだ。
それくらい疲れてるって事でもあるんだろうが。
まぁ、ここまで彼を疲弊させた張本人は他でもない俺だ。
その責任を取れるのも俺だけだろうし、そろそろれっちゃんにも
世界を救って俺も救って、本当にマジで良く頑張った。
ステージクリアのリザルト評価はSで間違いない。
「れっちゃん、とりあえずメシ食いに行こうぜ。積もる話もあるだろ」
「い、いや、それより怪我は大丈夫なの? 病院を抜け出して来たらしいじゃないか」
「体力全開! オールオッケー!!」
「数日前まで寝たきりだったのに、何でこんな元気なんだ……?」
困惑するレッカを半ば引っ張るような形で部室を後にした俺は、そのまま近所のファミレスへと直行していった。
もちろん今回は全部俺が奢るつもりで。
世界を救ってくださった勇者様を、金欠高校生なりにおもてなししようってわけだ。……あっ、待って、ステーキはちょっと高いから無しで……。
「ポッキーはお土産なに買うの?」
「え、木刀」
「中学生かよ……」
「はぁ!? いいじゃん木刀! 逆にこういう機会じゃなきゃいつ買うんだよ木刀!」
「いやそもそもいらないだろ木刀!」
確かに、しっかりと大事な話はした。
レッカがどういう解釈をしていて、俺はどんなふうに誤魔化すのかとか、真実はどれくらい伝えておくべきなのかー、とか。
共有するべき情報と教えない真実だったりと、いろいろ吟味して最初はそれらを考えて会話していたんだと思う。
「待ってれっちゃん、五泊六日? それホントに修学旅行?」
「結構いろんな場所を巡るっぽいよ」
「長すぎない……? もはや旅行じゃなくて合宿じゃん……」
「それは僕も思った」
しかし気がついた時には、そんなこと話していなかった。
必死に考えた嘘を口にすることはなかったし、彼が謎の美少女について深く追及してくることも、いつの間にか無くなっていて。
なんか修学旅行に関しての会話しかしていなかった。
クソ程どうでもいい、ほとんど実の無いやり取りを。
まるで学校の一大イベントを前にした──普通の男子高校生の様に。
「ポッキー、店員さんが睨んできてるんだけど」
「……ドリンクバーだけで二時間は粘り過ぎたか」
「そろそろ行こっか」
「ちょいまち。最後に一杯だけ」
「そのセリフ四回目だよ。ほら、もう会計するから……おい! コーラ注ぐのやめろ!」
……いやまぁ、一応普通の男子高校生のハズなんだけどな。
他に話さなきゃいけないことは沢山あったけど、もしかしたら俺たち二人とも
だからもうそんな事は忘れて、ただ普通に楽しい事だけを話題にしていたんだ。
世界を救ったりとか。
勇者だとか魔王だとか、突然生えて出てきた謎の女の子だったりとか。
んなよく分からないのは一旦放置して。
「うわっ、空暗い……早く帰らないと寮の門しまっちゃうな」
「今日れっちゃんの部屋泊まっていいか? 着替え持ってくるからさ」
「いや病院に戻れよ、入院患者だろ」
「はい……すいません……」
俺もれっちゃんも働きすぎたし、少なくとも修学旅行が終わるまでは──ただの高校二年生でいようと決めたのだ。
◆
で、本日は修学旅行の当日です。
アレから一ヵ月ちょっとが経過したわけだが、光陰矢の如しって感じであっという間だった。
完全回復を果たし退院、それから学園の寮で世話になる事となって。
両親が生活している賃貸にも顔を出しつつ、いわゆる普通の学園生活というものを過ごしていた。
マユが個性的な外見に変わって俺もほとんどコクに変身しなかったこともあるのか、悪の組織の残党もほとんど現れなかった。
そもそも奴ら残党自体がほとんど残っていない、という可能性もあるが……ぶっちゃけ気にすることはほとんどなくなった感じだ。
もちろんヒーロー部がちょっとした面倒ごとに首を突っ込むことは多少あったものの、全体的に見れば極めて平和な一ヵ月だったと言えるだろう。
こういうのでいいんだよ、こういうので。
結局何か大事件が起こるなんてこともなく、気が付けば新幹線に揺られて関西の方へ訪れていた。
絶賛修学旅行の真っ最中である。
謎の美少女ごっこだのエセ主人公ムーブだの、妙なことをし続けてきた俺だが、心配性な後輩から受け取った高機能クナイをリュックに忍ばせている事を除けば、騒がしい周囲の連中と同じく至って普通の高二だ。
「それじゃあウチのクラスも自由行動な。二時間後に駅前の噴水広場に集合だから忘れんなよー」
『はーい』
隣にはレッカ。
班は二人以上ならそれで良いとのことだったから、俺たちはいつも通り二人きりでの行動をすることに決めたのだ。
別に友達が少ないわけじゃないもん!
トトロいたもん!
「コオリたちのグループは人多いね……」
レッカの一言で視線を横へ向けると、そこには七人ちょっとの大所帯が。
中心には氷織とヒカリがいる。
どうやらアレは彼女たちが纏め上げた精鋭部隊のようだ。
ホントに友達が多いなアイツら……。
「れっちゃんも色んな奴らに誘われてたろ。何で断ったん」
「いや、あれはその……僕って良くも悪くも名前と顔が知られてるだけだから。一緒にいてつまんない奴だと思われたら嫌だし……」
世界を救った勇者くんも我らと同じく”陰”の者だったらしい。
有名にはなっても友達自体は増えてないんだね。
置いてかれてなくて安心しました。
「行こうポッキー。街中をうろついてたら囲まれちゃうからさ」
「うわ言ってみてえそのセリフ~~っ! やっぱ有名人のイケメンは格が違ぇわ」
「まぁね、それほどでもある」
「否定してほしかったな」
れっちゃんが最強になってしまった。
ピュアッピュアだった主人公のキミは一体どこへ。
「ほらあのバス乗るよ、ポッキー」
「置いてかないでぇ!」
てなわけで、修学旅行はヒーロー部も悪の手先も出自不明な謎の少女も交わることなく、むさ苦しい男二人だけで巡る事になりました。
これがデートってやつか?
絵面に華が無さすぎるって……。
一応ペンダントは持ってるけど、騒ぎになったら面倒だし変身は自重しとこう。
かわいい成分を足したい気持ちは我慢して、コクちゃんの出番は一旦お休みだ。
バスに乗って揺ら揺ら~。
「コオリたちはどこに行くんだろうね。観光名所ってなるとある程度は限定されるから、やっぱり途中で再会しちゃったりするのかな」
「俺といるときに他の女の話? ひどい……」
「お前は何の立場なんだよ」
ていうか他のヒーロー部との再会より気になる事があるぞ。
「れっちゃん、このバスどこに向かってんの?」
「少し先にある神社の前で止まってくれるんだ。あんまり人気がない所だけど」
有名人のレッカが煩わしい思いをせずに観光するとなったら、やはりメジャーな観光スポットではなく、マイナーな秘境を巡る旅になってしまうらしい。
それはそれで楽しそうだけどな。
一風変わった旅行って感じで。
──到着したようだ。
ささっと料金をぶち込んでバスを降りると、なかなかに険しい石造りの階段が目の前に聳え立っていた。
もしかして今からこれ登るの?
見るからに心臓破りの坂なんだけど。
「れっちゃん?」
「何してんの、早く登ろうよ」
「いや頂上が見えねぇよこの神社。マジでこの階段登る気か」
「置いてくからねー」
「一人にしないで!」
なんやかんやレッカに食らいつきながら階段を上った先には、割と大きめな境内が広がっていた。
マイナーながらも豪華な神社ではあるな。
「あんまり参拝客いないね」
「そりゃ、そう……だろっ、! ハァ……っ!」
訪れる人が少ないのは、あの登山を彷彿とさせる様な急斜面の激ヤバ階段があるからだと思う。もうエスカレーター作っちまえってレベルだった。
なんでレッカはあれだけ長距離の階段を駆け上って息切れ一つしてないんだ。ポケモンの主人公かお前。
「ネットの情報だとこの神社の端っこに面白いものがあるんだって」
「そりゃ……はぁ、楽しみだな。ふぅ……」
息を整えながら、彼の後ろを付いていく。
奥に入れば入る程いかにも『秘境』って感じの風景に変わっていって、気が付けば俺たち以外の参拝客は見当たらなくなっていた。
大丈夫かな、これ。幻想郷に行っちゃったりしそう。
「赤い縄が巻かれてるらしくて……あっ、アレかな」
れっちゃんが指差した先には──
「……えっ」
どこからどう見ても
大きさ的には成人男性の身長と同じくらいで。
何だか言い知れぬ威圧感を放ちながら聳え立つご立派さまが、俺たちの前に姿を現したのだ。
「れっちゃん、なにこれ」
「一応調べてみるね。たぶん見たまんまの物だと思うけど」
「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲?」
やけに完成度高けー作品だ。
まさに古の芸術って感じだな。
神社に祀られてるだけあって……なんか、こう、神々しい。
「調べたけどちんこだね、これ」
「ちんこかぁ」
まさに古き時代の産物って感じだな。
現代で作ったら許されねーよコレ。
「ふざけた建造物ではないよ? えーと……男性器の象徴だから、子宝に恵まれるんだって」
「遠い未来の話だな」
「あと
「珍棒無敵バリア……ってコト!?」
ワァ……っ!!
こうしちゃいられねぇ!
「最強の神社だ。お賽銭入れなきゃ」
チャリン、と五円玉を賽銭箱に落とし込んだ。
するとあら不思議、身体中から力が湧き上がってくるではありませんか。
凄まじい効き目だ。
これが神の御加護ってやつかよ。
「やった……! 珍棒無敵バリア完成だぁ!」
「良かったね」
「れっちゃんは?」
「僕は別にいいかな……」
流石は勇者だ。
人間の頂点に君臨する英雄の血を引いていれば、神に頼るまでもないらしい。
ハイパームテキなバリアを手に入れたところでこの神社は後にして、一旦昼食を取る事にした。
階段を下りたあとの道沿いで老舗っぽい蕎麦屋を見つけたので、そこでモグモグ。
あと三十分で駅前に戻らなきゃ──といったところで、不意に寂れた神社が視界の端に写り込んだ。
旅行でいささかテンションが高くなっていた俺たちはその神社へ突入。
境内はそんなに広くなく、また雑草も所々に生い茂っていた。
が、最奥に鎮座する拝殿は静謐な空気と相まって、異様にも荘厳な雰囲気を醸し出している。
なんだか有名な神社よりも遥かに神が住んでいると思わせてくれるスポットだ。
「見てポッキー、立札があるよ」
「んーと……縁結びか」
雰囲気に反して祈りの効果自体は割とメジャーだった。
「でも見逃せないぜ」
「うん、これは僕もお祈りしなきゃ」
「れっちゃんは縁結びの加護いらなくない?」
ただでさえ氷織・ヒカリ・カゼコの三つに分かれて混沌を極めてるってのに、まだモテたいと申すのかキサマ。
欲望に溢れすぎているだろ。グリードかよ。
……ていうか今更だけど、子宝に恵まれる神社とか縁結びだったりとか、男二人で来るような場所ではなくない?
「とりあえず俺はご縁があるようにって5円玉──」
「フッ、甘いねポッキー」
な、なにっ!?
「僕が使用する手札コストは50円玉さ。これで縁結びの効力は50倍ッ!」
5円の50倍なら250円じゃね……?
い、いや、そんな細かい事を気にしてる場合じゃないぞ。
先にレッカが彼女を作って自慢してくるなんざ言語道断だ。
負けるワケにはいかねえ!
「僕は50円玉を賽銭箱へ送り、縁結びの効果発動! これで高校卒業までに彼女が出来る! 悪いねポッキー、先に入れた僕の勝ちだ……」
「──それはどうかな」
「何っ!?」
俺は素早く財布の中から最大の硬貨をドローした。
こいつが俺の切り札にして最強の僕、
「ま、まさか……」
耐えてくれよ、俺の身体!
これが未来の彼女へ繋ぐラストターンだ!
界王拳──
「100倍だぁぁぁぁぁぁァァァァッッ!!!」
「ちょっ、落ち着いてポッキー! 500円はやり過ぎ! 待って僕が悪かったから!!」