メインヒロイン面した謎の美少女ごっこがしたい!   作:バリ茶

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裏の方も書き進めております


体験版・個別ルート 前半戦

 

 

 

「では撮影を始めまーす。ヒーロー部さん宜しくお願いしますねー」

 

 

 衣月にとんでもない事をされた週の土曜日。

 

 俺たちは休日なのにも拘らず学園の制服を身に纏い、部員みんなでとある場所へ訪れていた。

 なにやらテレビ局から出演を依頼されていた番組の撮影があるらしく、それが本日だったらしい。

 やってきたのは特殊魔法研究所という、ショッピングモールに匹敵するほどの大きさを誇る施設だ。

 俺の両親の現在の勤め先でもある。

 

 経緯を軽くまとめると、市民のヒーロー部の一日に密着しつつ、彼らが研究の協力を買って出ている特殊な施設を一部公開──みたいな感じだとかなんとか。

 つまり最後の撮影場所がここであり、番組スタッフから様々な無茶ぶりをされてきたヒーロー部の過酷な一日もようやく終わりが見えてきた、というわけである。

 

「監督、画角調整ばっちりです」

「よーし。じゃあ正門前に七人で並んでもらえるかな?」

 

 当然だが『ヒーロー部』に俺は含まれていない。

 主にカメラに映るのは、部長であるライ会長と黒一点でヒーロー部の顔でもあるレッカの二人。

 他のメンバーは各所での見せ場作りやリアクションなどの担当が割り振られている。カゼコとかは結構な頻度で面白い顔になってたりするので、彼女なんかはこの放送を通して別の意味で人気を獲得しそうだ。

 

「あら? レッカ様、あちらにアポロさんが」

「ホントだ、何してるんだろう。……顔が虚無ってるけど、コクになってたりしないだろうな……?」 

 

 で、この俺ことアポロ・キィはただの部外者である。

 そもそも撮影に付き添って来たわけではなく、こっちは別の事情があって研究所へ訪れている。

 それは衣月・太陽・マユの三人──魔法とは異なる特殊な力を持っている子供たち、の健康診断だ。マユは『子供じゃないし!!』と喚いていたがそこは割愛。

 撮影の話自体は聞いていたものの、現場に鉢合わせたのは偶然だ。

 本当はもう少し早めに帰る予定だったのだが──

 

『対象、拘束します』

「うぎゃああああぁぁぁぁァァァァ゛ッ゛!!!!!」

「太陽、がんばって。マユも追いつかれないよう、ふぁいと」

「ムリぽよぉ~~~~~」

 

 なにやらだだっ広い緑の芝生で、楽しそうな鬼ごっこを続けているので、彼女たちの保護者である俺は帰れずにいる、というわけだ。

 衣月を背負って全力疾走している群青こと太陽くんと、それに追従して滝のような汗を流しながら逃げているマユを追っているのは、とある巨大ロボットである。

 彼らを追い回している巨大ロボットは完全自立思考型アンドロイドであり、誰かの指示がなくても一定範囲内の行動であれば自由に行える優れものだ。あと見た目が怖い。

 

「てか姉さんは自分で走ってよ! 忍者の修行してるしこの中で一番早いじゃん!」

「お昼ごはん食べてお腹いっぱい。なのでお姉ちゃんは動けません」

「こいつ……っ!!」

「ンゴw」

 

 あのロボットのように、この研究所では以前悪の組織が引き越した『超超規模範囲型催眠魔法』が、再び発生しても対処できるような研究が日夜進められている。

 ロボットは主人が催眠されても任務を遂行できるように設計されており、研究所内には他にも目を見張るような実験機たちが数多く存在している。

 ヒーロー部の特番の最後にはもってこいなネタの宝庫であることは間違いないだろう。

 

「……飲みもんでも買ってくるか」

 

 まぁ、俺には関係のないことだ。

 そう割り切ってポケットの中に手を突っ込み、鬼ごっこで喉が渇くであろう子供たちの飲料を買うために、俺は研究所の中へと足を踏み入れるのであった。

 

 

 

 

 自販機はどこなんだろうと所内をほっつき歩いていると、見慣れた光景が目に飛び込んできた。

 

「のっ、ノイズさん。あの、よかったら連絡先を……」

「私で良ければ! こちらこそお願いします、これからも研究所には顔を出させていただきますし」

 

 廊下の曲がり角からこっそり覗くとその先には、俺と同年代くらいの白衣を着た少年が、耳を赤くしながら必死に音無へ迫っている光景が展開されていた。

 流石は有名人だ。

 行く先々でファンやガチ恋勢などにエンカウントしているのか、ああいった人たちの対応は俺でもわかるレベルでプロ級に進化している。

 ぞんざいに扱うでもなく特別扱いしすぎるでもなく、相手が気持ちよく喜べる範囲の対応がしっかり身に付いているようだ。笑顔も自然体で素晴らしい。

 

「オレも魔法学園の生徒でして。休日は……えと、こうして研究所の手伝いをさせてもらってるんです」

「わっ、すごい。それって結構多忙じゃないですか? まだ学生なのに……尊敬しちゃいます」

「そそそっそんなことないですよ! あのっ、こういうの好きなんで!」

 

 少年くん顔が真っ赤じゃないか! 分かるぞ、その気持ち……。

 実際に目の前にするとより理解してしまうのだが、あのオトナシ・ノイズとかいう部員はめちゃめちゃに顔が良い。

 かわいい・やさしい・人当たりがいいの三拍子が揃った究極の存在なので、初対面にもかかわらず連絡先を聞いてしまえるくらい距離が縮めやすいのも納得だ。

 

「あのっ、よかったらノイズさんの忍具を拝見させていただけませんか? もしかしたら改良とか出来るかも……」

「ホントですか? 嬉しい、そういう事なら是非お願いしたいです」

「は、はい! お任せください! ……そ、それじゃあ僕の研究室に──」

 

 そのまま音無と白衣少年は廊下の奥へと消えてしまった。後輩がお持ち帰りされるの初めて見ちゃったな。

 ……いやぁ、それにしてもやっぱりモテるな、ヒーロー部。

 一番露骨に迫られてるのはレッカだけど、球技大会のときに見たアレなんかも加味すると、特にヒカリや音無のガチ恋勢が多い気がする。

 

「あれ、先輩?」

 

 ただのロリコンという扱いにまで降格してしまった俺とは大違いだ。あれ、目から涙が……。

 

「おーい。先輩ってば」

「えっ?」

 

 後ろから声を掛けられたことに気づいた。

 振り返ると、そこには数分前に()()()()()()()()()()()()()の後輩忍者こと、音無パイセンがおりました。

 

「ちょ、えっ、あれ?」

「何ですか」

「お、お前、さっき白衣の男子にお持ち帰りされてたはずじゃ……」

 

 お持ち帰りなんて人聞きの悪いことを言いますね、と呆れた様子で呟いた音無は、わざとらしく印を結ぶように両手を組んで見せてきた。なに、火遁豪火球の術?

 

「分身の術ってやつです。にんにん」

「ヤバ……」

 

 こいつ遂に分裂できるようになりやがった。

 頼むから人間は辞めないでくれ。

 

「つい最近ようやく習得したんですよ。これで忙しい時でも分担作業できます、ふふん」

「じゃあこっちがニセモンか」

「え。いや、私が本物ですけど……」

「──っ!? お、おまえなんてことを!」

 

 自分にガチ恋してくれてて武器の改良まで申し出てくれた純情な少年に偽物を充てて、適当にほっつき歩いてる俺に本物をよこすのは完全に配分ミスだろ! 今からでも入れ替わったほうがいいよ!

 

「だ、大丈夫ですって。分身とはいえ思考レベルは同程度ですし、あと数時間は消滅しませんから」

「そういう問題じゃなくない?」

「しょうがないでしょ。ヒーロー部って世間から必要以上に持ち上げられちゃってる感ありますし、ああやって躱す手段も必要なんですよ」

「……そ、そうか……そうなのかなぁ……」

「そうなんです」

 

 俺は有名人とかじゃないから、その苦労が分かんないや……。

 

「氷織センパイだって氷人形で分身作ってるし、学園の外に出るときはみんなそんなもんですよ」

「じゃあ、これからはヒーロー部の皆と話すときも偽物かどうかを疑わないといけないのか。なんてことだ」

「……一応言っときますけど、私含めてヒーロー部のメンバーは、先輩と一緒にいるときは皆さん絶対に本物ですよ」

「え、なんで?」

 

 聞き返すと音無がガクッと肩を落とした。

 

「あなたこっち側の人間でしょ……?」

「…………あ、うん」

 

 そうだった。

 えへへ、と愛想笑いして誤魔化しておく。誤魔化せてるとは言ってない。

 いや、だって最近のヒーロー部はマジで周囲の扱いが一般人を超越した”向こう側”って感じだったから、いつの間にか俺もそういう目で見ちゃっててもおかしくはないだろ。有名人すぎるんだよ君たち。

 

「……ていうか撮影は?」

「んっ」

 

 音無は返事代わりに廊下の先を指差した。

 そこには──

 

「フウナフウナ♡ ほら早くこっちへ来なさいな♡ お姉ちゃんがひざ枕して耳かきしてあげるわ♡」

「たすけてーっ!! 場を弁えない変態実姉に襲われてますーッ!!!」

 

 なにやら地獄のような光景が繰り広げられていた。

 

「大変ですライ部長! あのカゼコが強力な催眠魔法の範囲下に!」

「落ち着くんだレッカ部員。こんな時こそ研究所から預かっていたあのアイテムを使うときだ。じゃじゃん」

「さすが部長ッ!」

 

 ……テレビの撮影って大変なんだなと思いました、アポロ・キィです。よろしくお願いします。

 あいつら今後テレビの撮影の話が回ってこないようにわざとはしゃいでない?

 

「というわけであの撮影が終わったら、部長とレッカさんで締めの挨拶をやって終了。私や氷織さんたちの出番も終わってますから、あとは随時解散って感じですね」

「リアクションうすいな……じゃあ、もう帰るの?」

「折角ですから研究所を見て回りましょうよ。氷織さんとヒカリ先輩も見学してるみたいですし」

 

 意外にもすぐに帰りたいわけではなかったらしい。

 俺も両親が現在どんな研究をしているのかは気になるところではあったし丁度いい機会だ。

 では、レッツゴー。

 

 

 ……

 

 …………

 

 

 いろいろな研究室を見て回った。

 

 催眠されたら即座に『自分は催眠されたと自覚させ別の行動を取らせる催眠』で上書きするという、なんかもうよく分からない事になってる魔法をかける眼鏡など、割と面白いものを沢山見ることができて概ね満足だ。

 音無の分身の件も上手いこと誤魔化しきれたらしく、マユたちの鬼ごっこも終わって懸念点が無くなりスッキリした。

 あとは帰るだけ──というところで一つ気づいたことがある。

 

「……そういえば両親の研究見るの忘れてた」

「寄り道ばっかりしてましたからね」

 

 音無と二人で歩いているせいかよく声を掛けられ、その度に彼らの研究を拝見するハメになっていたため、それが積もりに積もっていつの間にか本来の目的を忘れてしまっていた。

 マユ辺りが『早く帰りたい』とゴネる前に、ささっと顔を出しに行くとしよう。

 

「父さん、お疲れ」

「おやアポロ。まだ研究所に残っていたのかい……っと、音無さんもいらっしゃい」

「どうもお久しぶりです。お邪魔しますね」

「母さーん! アポロと音無さんが来たぞー!」

「はいはーい」

 

 数分歩いて到着した研究室は、いままで立ち寄ったどの部屋よりも面積が広く、他の部屋が学校の教室一つ分だとしたらここは体育館くらいの広さがあった。

 こんな巨大な施設を任されるなんて、ウチの両親この研究所でどれ程の地位にいるのだろうか。もしかしてえらいひとなのかな。

 親父に声を掛けられた母さんが遠くからこちらへ向かってくると同時に、音無が部屋の奥に鎮座する巨大な装置に気づいて感嘆の声を漏らした。

 

「ふわぁ、すっごい大きい……」

「コレって何の装置なんだ?」

 

 聞くと、親父は白衣をバサァっっと翻しながら声高らかに宣言した。恐怖のマァッドサイエンティストかな?

 

「これは未来予測装置さ! 使用者の脳を解析し、あり得たかもしれない未来、もしくはこれから起こるかもしれない未来を映像として算出するのだっ!」

 

 お父さんたのしそう。

 

「まだ試作段階だけどね! 試しにやってみるといいよ!」

「えっ、ちょっ、何だよ母さん頭に変な装置つけないで……!」

「まぁまぁ物は試しって言うじゃない。頑張ってアポロ」

 

 うちの両親こわい!

 

「せんぱいがんばれー」

 

 ……頑張る!

 

 

 

 

 俺が見た未来はいわゆるIFルートと呼ばれる様なものだった。

 

 前提が異なる可能性の未来の事だ。

 めちゃめちゃリアルに体験できたせいか現実との境界が曖昧になってしまうところだった。

 それほどまでに高クオリティでプレイする事が出来たIFの未来──その一部を振り返ってみよう。

 

「……別に、コクさんが好きだからって理由だけで、こうして一緒にいるわけじゃないんですよ?」

 

 一番最初に見た人物は風菜だった。

 なにやら俺はアポロの姿で、俺たちは二人きりで夕方のバスに乗っていた。

 何だコレどういう状況なんですかと質問する前に、俺の手に彼女の手がそっと重ねられて。

 

「キィ君。あんまり他の女の子に現を抜かしちゃイヤです。ちゃんとあたしの事を見てください」

 

 なにやら独占力全開の風菜に終始振り回されてしまい、このルートの俺がどういう道筋を辿ったのかを聞くことは出来なかった。

 まさかあの控えめな風菜をここまで変えてしまうだなんて、この世界線の俺は一体何をしでかしたのだろうか。

 

「あっ、そういえば男性器を生やす魔法が完成しましたよ!」

 

 それから風菜はとんでもない事も口にしていた気がする。

 

「これでようやくコクさんを満足させてあげることができますね……いやいや、キィ君の事も勿論考えてますってば。ちょっと一回試してみませんか? いや大丈夫! キィ君が初めての時にあたしに優しくしてくれたみたいに、こっちも最大限優しくしますから! ねっ! お尻使ってみませんか!!」

 

 急に目をキラキラさせ始めた頭イカレ女に大変なナニかをされる前に、俺は装置によって自動的に別の世界線へと飛ばされるのであった。

 正直ここにはもう二度と来たくない。

 

 ……

 

 …………

 

 お次はバスではなくヒーロー部の部室だ。

 まるで円卓会議のように全員が座って集結しており、何故か俺の隣にはライ会長が座っている。

 直前まで何かを話していたのか、既に会長は耳まで真っ赤で顔を両手で覆い隠していた。

 状況を飲み込めない俺を前に、氷織が話の続きを切り出した。

 

「あのですね部長? アポロ君と仲が良い事自体は大いに結構なんですよ。私たちも後押しをした身ですからそこに文句はありません」

「はい……」

 

 叱られてる子犬の様な反応を示すライ会長。

 あの厳格で頼りになる会長がどうしてこんな赤面して追い詰められる事態に……?

 

「でも()()は部室なんですよね。……再三になりますけど二人の事は応援しています。でもやっぱり節度は守ってほしいと言いますか……というかバレないようにやってほしいというか」

「はい……申し訳ありません……」

 

 おっと氷織の口ぶりからして嫌な予感がしてきたな?

 会長が真っ赤になってるのもだいたい予想できた気がする。

 こ、こっ、これはまずい世界線だ。

 

「──放課後のこんな時間に部室でえっちしないでください!!」

 

 ヒェーッ!!!

 

「お姉ちゃん……」

「その目はやめてあげなさいフウナ。……わたしはあまり二人の事を怒る気にはなれないわ」

 

 ひぇっ、ひぇぇ……。

 どうしてこんな事になってるのこの未来……。

 

「二人が愛し合ってるのを目撃しちゃった私とヒカリはどんな顔すればいいんですか!」

「お、落ち着いてくださいまし、コオリさん。お二人とも十分に反省なされてますし……」

「ダメだよヒカリ! もし部室の扉を開けたのが部員以外の人だったら大変なことになってたんだよ!? 分かってるんですか部長! 部室はえっちする場所じゃないんです!!」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 というかあのライ会長をこんな事態に陥らせるほど、俺は彼女を攻略しきっているという事になるのだが、そのビジョンが全くと言っていいほどイメージできない。

 

 さっきの風菜といい今回の会長といい、まるで俺がエロゲの主人公になったみたいだ。

 IFルートというか、完全に部員の中の一人を攻略した個別ルートみたいになっている。なんてものを見せやがるんだ、あのクソ未来予測装置。

 部室で情事に及ぶのは発情しすぎじゃないかな……? これ俺と会長のどっちから誘ったんだろう。というか本当にあり得る未来なのかコレ。試作段階とか言ってたし絶対バグだろ。

 

「CG回収は捗ったかい、ポッキー」

 

 レッカにこんなこと言われる世界線は嫌だ。

 何で俺が茶化される側に回ってんだ。

 

「す、すまないアポロ。私が転んでしまったばっかりに……パンツを見たキミを興奮させてしまって……こんな事に」

 

 発情したの俺かよ!? 場を弁えろよ俺ぇ……ッ! 本当にエロゲみたいな青姦してんじゃねぇよ俺……ッ! ひぃ……っ。

 

 ──あっ、視界が歪んできた。また別のルートに移動する合図だ。

 ヤダ、もう見たくない! 修羅場というか恥ずかしい場面が多すぎる! 現実に帰りたいよぉ!!

 

 


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