メインヒロイン面した謎の美少女ごっこがしたい!   作:バリ茶

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普通ができない三人

 

「……わっ。……アレ、氷織センパイたちじゃないですか?」

 

 

 デート(?)が始まって数分後。

 妙に人だかりが多いと思いながらショッピングモール内を進んでいると、案の定ヒーロー部とエンカウントしてしまった。

 場所はフードコート。

 メンバー構成はレッカ・氷織・ヒカリの三人で、なにやらワチャワチャしている。

 見つからないよう咄嗟に隠れてしまったが……なにやってんだアイツら。

 

「ほらコオリ。冷たい氷だよ~」

「ひぎゃあああああァァァァッ!!!」

「コオリさん!? お気を確かに!」

 

 コンビニやスーパーで売っているロックアイスの袋からレッカが氷を一つ取り出し、氷織の顔に近づけている。

 すると氷織はたちまち青ざめ、涙目になりながら無意識に反撃。

 見事にレッカが氷漬けにされてしまった。かわいそう。

 

「あわわ、レッカさんが凍ってしまいましたわ……」

「僕なら大丈夫だよ」

「い、一瞬で溶けた……」

 

 あの人たち往来で何やってんの……?

 

「ご、ごっ、ごめんねぇ……レッカくん……」

「もうっ、コオリさんったら。トラウマ克服の練習がしたいと言い出したのは貴女ですわよ」

「うぅ……冷たいものが、まだこんなに怖いなんて」

 

 トラウマ、と言うとあれか。

 確か氷織は俺と一緒に遭難した時、極寒の雪山で瀕死になりかけた影響から、寒い場所や冷たい物が苦手になってしまったんだったっけか。

 氷魔法の使い手なのに、厄介なトラウマを抱えてしまったものだ。

 

「アポロ君と手を繋いでるときは、なんか平気なんだけどなぁ……」

「僕じゃダメかい?」

「えー。レッカ君だと緊張しちゃうし……」

「その様子だと別に緊張しそうにないと思うのですけど、コレ考えてるのわたくしだけです?」

 

 トリオ漫才はなかなか終わる様子が見えない。ほんと仲いいわねアンタたち。

 はたから見ればレッカがハーレムデートしてるように見えなくもないんだろうが、有名人すぎるのと相手が部活内メンバーというのもあって、もはや一周回って普通の光景だ。

 もしあの立場が俺だったら周囲からの目も変わっていたのだろうが、既に愛されキャラと化した彼へ送るみんなの視線は、どれも生温かく優しいものであった。さすが勇者さまだ。

 

「……行くか」

「あ、はい」

 

 彼らの日常を観察するのも楽しそうではあるが、今の俺はそれどころじゃないのだ。

 自分の隣にはなんと女子がいる。

 ハイパーかわいい後輩がいて、しかも童貞歴イコール年齢の俺からすれば信じられないような事実だが、手も繋いでしまっている。

 ここまで露骨に好意を露わにしてデートへ誘った以上、呆けてなどいないでしっかりとエスコートをするべきだろう。

 久しぶりに先輩らしいところを見せてやるぞ。

 手を繋いだことで逆に緊張が加速しまくってるけど、俺ならできる俺ならやれる頑張れイケるぞアポロ・キィ。

 

 

 とにかく学生らしい、身の丈にあった普通のデートをしよう──そう考えて一旦ショッピングモールを出たのだが。

 

「きゃあーっ! 急に雨降ってきたよ、お姉ちゃん!」

「フン、囀るな妹よ。我が力をその目に焼きつけるがいい。……てや~ッ!!」

「おぉー……お姉ちゃんの風魔法で雨どころか雨雲が吹っ飛んだ」

 

 どうも今日の俺は、仲間たちとのエンカウント率が高すぎるらしい。

 というかあの女勝手に天候を変えちゃってるけどセーフなのか。

 

「ふはは、唯我独尊」

「自分で言う事じゃなくない……? 武士が活躍する映画見たからって、お姉ちゃん影響受けすぎでしょ」

「囀るな妹よ」

「それ気に入ったんだね」

 

 逃げよう逃げよう。

 別に見られて困る事なんて何もしてないが、顔を合わせたら何かと面倒なことになりそうだ。特にあの戦国武将モードになってるカゼコとか、扱いが難しそうだし。

 

「……い、行くぞ」

「はーい」

 

 

 と、そんな感じで面倒なイベントを避けながら街を移動し続ける俺たち。

 ……避けながら移動し続けているという事は、つまり行く先々で知り合いとの遭遇やイベントの発生などが起きているということなのだが、それでも挫けずに音無をエスコートする俺。

 エスコートしたい俺。

 したいのにできない俺。

 

 動物園から逃げ出したライオンを追いかけるライ会長や、ジェットパックを身に付けてフハハーと空を飛んでいる親父。

 突然現れた元死刑囚の敵キャラに加え、迷子の子供や大荷物を抱えた老人に、果てはコンビニ強盗にまでエンカウントしてしまい──それら全ての事件を解決していった。

 

「……う、うぅ」

 

 泣きたい。

 デートのデの字も見当たらない。何だよこの街物騒すぎるだろ、治安どうなってんだバカ野郎がよ。

 俺はいままで自分に寄り添ってくれていた後輩に、なにか恩返しができたらと思って誘ったのに、どこに行ってもイベントに次ぐイベントが襲ってきて、肝心の音無ちゃんとのイベントを漏れなく潰してきやがる。ゆるせねえ……だれか助けて……。

 これは罰か、それとも試練か。

 美少女ごっこをしてきたからこそ、今のヒーロー部たちとの関係性を手に入れることが出来たのだから、男の姿で甘んじてデートなどしようものならそれ相応の対価としてイベントを消化しないといけないってのか。

 

 ──いや、違う。

 そうだ、今までの事なんざ関係ねえ。知った事じゃないぞ。

 俺は音無とデートがしたいんだ。

 付き合ってすらいないのにデートとかよく考えたら意味不明だが、とにかく彼女の好感度を上げたいのだ。

 何者にも邪魔はさせない。

 今日は何があっても絶対に、音無からの評価を一ミリでも上げるんだ。

 がんばれポッキー!

 

「そ、そうだ音無、もうお昼時だろ。ここら辺におすすめの店が──」

「キャアアアア!! ひったくりよォ! 誰か捕まえてェ~っ!!」

 

 だああああああアアアあぁぁ゛ぁ゛!!!! クソがよォーッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

「……あの、ごめん」

「いえいえ、気にしないでください」

 

 結局、今日一日はボロボロだった。

 気がつけば彼女とも手を離してしまっているし、すっかりオレンジ色になった陽の光が後ろから降り注いで、濃い影をコンクリートの地面に映している。

 今歩いている場所は住宅街だ。

 遊べる場所はおろか、飲食店や暇をつぶせるような施設も存在しない。

 今日五回目くらいの迷子を家に送り届けていたら、いつの間にかこんな場所でこんな時間になってしまっていたのだ。本当に凹む。

 

「ハァ……」

 

 俺は彼女に対して何ができただろうか。

 当然、何もできなかった。

 ただ相次ぐ面倒ごとに振り回していただけで、とてもとてもデートと呼べるようなモノではなかった。

 露骨に嫌われるまでは無いにしても、やはり呆れられてしまったのは確実だろう。アポロ君の一日はこれで終了です。

 

「……ふふっ。なぁに落ち込んでるんですか」

「えっ? そりゃ、お前……」

 

 後ろに腕を組んだ音無が、イタズラめいた微笑を浮かべながら、そんな事を言ってきた。

 まさか分からないワケではあるまい。

 呆れを通り越して、逆に笑いが出てきてしまったのだろうか。空回りしまくる俺が滑稽に見えていたのかも。

 

「私は楽しかったですよ? 市民の方々や街の平和も守れましたし、一石二鳥って感じで」

「治安維持はそうだけど……いや、楽しかったか?」

「えぇ、そりゃもう」

「はえぇ……あんた変わった子だね……」

 

 唯一少しだけゆっくりできた昼飯だって、急に暴れ始めた不審者の魔法で、店がボヤ騒ぎになって中断されちゃったし。

 半分も食べる前に事件が起きて、二人でそれを解決したはいいものの、料理はひっくり返って食えなかった。ハッキリ言って最悪だった。

 なのに『楽しかった』とは、どういう……?

 

「先輩、あの旅と同じように過ごそう、って言ってましたよね」

「う、うん」

「今日の忙しさは、まさしくあの旅の時と同じくらいだったなって、そう思いません?」

「……う、うん?」

 

 何が言いたいのでしょうか。

 

「まあ、普通にどこかで遊んで、美味しいもの食べて、映画をみて……とか、そんなのもアリだとは思います。でもやっぱり私たちって、こういう()()()()()()のがデフォじゃないですか」

「……確かにあの旅は普通じゃなかったな」

 

 怪人たちから逃げ回って、日本中を駆けながら三人でこっそりお忍び生活。

 少なくとも普通ではないだろう。

 俺たちと同じ形の、あの妙な青春を体験した高校生は、恐らく他には存在しない。

 

「文句言いながらもヒーローをやってる先輩、カッコよかったですし」

「思ってもない事を言うんじゃないよ」

「……本心ですって」

「からかうなってば」

「え、ウザ……自己評価が低すぎませんか? 謙虚も度が過ぎると失礼って知ってます? ばーか」

 

 そんな慇懃無礼な態度を取ったつもりは無かったのだが。

 ていうか喜んでいいのか分からない絶妙なラインだったぞ今の。ただ状況に振り回されていただけとも言えるし。

 あとチクチク言葉はやめようね……。

 

「いや、本当に申し訳ない。デートとか言っといてトラブルに振り回しただけだったし……マジ、ごめん」

「ふふん。先輩と一緒にいられたら、それだけで十分幸せなんです。実は」

「えっ!? お、音無ちゃん……!」

「チョロい……」

 

 良い子すぎないかこの後輩。

 笑顔が眩しいよ。結婚してくれないかな……。

 

 

「──うん。それじゃ、また学校で」

 

 

 遠くに友達を見送ってる衣月を発見した。

 もうこの程度のエンカウントじゃ驚きはしない。

 

「……あっ」

 

 そして俺たちを視認した衣月は、焦った様子で物陰に隠れてしまった。

 どうやら二人きりで歩いている様子を見て、空気を読んでくれたらしい。成長したわね衣月ちゃん。

 しかし……まぁ、小学生に気を遣われて、それに甘んじるというのも微妙な気がしてくる。ましてや相手があの衣月で。

 

「そうそう……先輩」

「ん?」

「今日はもちろん楽しかったんですけど、やっぱり何か足りないなーとも思ってたんです。

 ──衣月ちゃん、おいでー」

 

 音無が手を振ると、十字路の塀からコッソリこちらを覗いていた衣月が、遠慮がちに周囲を見渡している。

 それでもなお彼女が声を掛けるものだから、ふっ切れた衣月はパタパタと俺たちの方へ駆け寄ってきてくれた。

 

「私たち、あの旅はいつだって三人だったじゃないですか。旅のときみたいに、って言うならやっぱり衣月ちゃんがいないと」

「……確かにそうだな」

 

 思い返してみればその通りだ。

 悪の組織から身を隠しながら日本横断をしていた時や、ホテルで音無と怪しい雰囲気になった時でさえも、いつもそこには衣月という少女の存在があった。

 それ以前に、まず大前提として俺と音無を引き合わせてくれたのは衣月だ。

 そもそも旅の始まりは俺と衣月の二人からだった。

 音無を味方に引き入れる理由を作ってくれたことや、俺たちを繋ぎ止める存在になってくれていた事実を踏まえると、アポロ・キィとオトナシ・ノイズの二人の間には、やはり彼女が──藤宮衣月という少女が必要なのだ。

 

 ……うん。

 きっと衣月を蔑ろにして二人きりでキャッキャウフフしようとしたから、今日は異常な量の邪魔が入ったんだな。

 それにあんな露骨に気を遣われては、デート(笑)の続きなど出来るワケがない。

 

「紀依、音無っ」

「はい衣月ちゃんゲット。ふふん、先輩には渡しませんので」

「キサマ……」

 

 ぽてっ、と抱きついてきた衣月を撫でまわす音無。

 髪の色なんて白と黒でまったくの正反対なのにもかかわらず、やはりこの二人は仲の良い姉妹に見えた。

 

「かわいい〜」

「音無、くすぐったい」

 

 音無と二人きりになるとやけに緊張してしまうのに、そこに衣月が加わるだけで実家のような安心感を得られるのは何故だろうか。

 

「……私と紀依と音無、もしかして三角関係?」

「なんてことを言い出すんだお前は」

「先輩と私たちに至ってはただの三角形じゃない?」

 

 意味不明なこと言ってんじゃねえぞ!

 

「……ハァ。衣月を連れて遅くまで出歩くわけにもいかないし、もう帰るか」

「そうですね、帰りましょ」

「じゃあ今日は紀依の家にお泊まり」

 

 何でそうなるんだよ。

 

「ほら、先輩も衣月ちゃんと手繋いで」

「紀依はやく」

「おい、まって何このフォーメーション。兄弟でもやらなくない?」

 

 まるで幼い子供がいる親子みたいな体勢だ。

 小さい子を間に挟んで三人で手を繋ぐの、ちょっと仲良し過ぎるでしょ。ヒーロー部のファンとかに見られたら在らぬ誤解を生み出しそうで怖いんだけども。

 

「先輩のご自宅にきったく〜♪」

「紀依の家に帰宅〜」

「きみたち帰宅って言葉の意味知ってる? ていうかまだ泊めるなんて一言もおおぉっ引っ張る力強いっ♡♡」

 

 この三人が揃うと、どうやらチーム内ヒエラルキーにおいて俺が最下位になってしまうらしい。

 されるがまま、振り回されるままに、結局俺は二人を連れて帰宅する事となったのであった。

 

 

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