転生したら山内でした。 作:鴨の加茂
ようこそ、憧れのこの世界へ
4月。入学式。俺は学校に向かうバスの中、座席に座りゆらゆらと揺られていた。景色の変わりゆく町の様子を、意味もなく車窓から眺めつつ過ごしていると、バスへの登場客は、じわじわと増えていった。
乗り合わせたその殆どの乗客は、高校の制服を身にまとった若者たちだ。
そして気が付くと、仕事に追われフラストレーションを溜めたサラリーマンが、ついうっかり痴漢しちゃおっかな?と間違いを覚えてしまいそうなほどに車内は混雑している。
俺の前───いや、目の前では無いが少し離れた所に立つ老婆なんて、今にも転びそうなほどに足元がフラフラしていて危なっかしい。この乗客率を知ってて乗り込んできた以上自業自得だが。
運よく席を確保できた俺にとっては、混雑などどこ吹く風。
気の毒な老婆のことは忘れ清流の如く清らかな心で目的地への到着を待つことにしよう─────いやいやいや、少し待てよ?俺ってこんなキャラだったか?何故だか頭の中に浮かび上がった物語の書き出しの様な文章に違和感を覚えた。まぁいいか、たまには物事を細かく考えたくもなるのかもな。
それにしても何となくではあるけど何か起こりそうな気がする。
「席を譲ってあげようって思わないの?」
急に車内に声が響いた。そっちの方を見てみると優先席にドッカリと腰を下ろしたガタイの良い若い金髪の男。というか高校生。彼の真横にはさっきの年老いた老婆。その老婆の隣にはOL風の女性が立っている。
その出来事を見て俺は勢いよくその場で立ち上がった。別にそれはOL風の女性の言葉に感化されたと言う訳では無い。今俺の中で起こった事実がそれ程に衝撃的だったからだ。
咄嗟に周りを見渡す。先程までの通り高円寺に詰め寄るOL風の女性、その傍らには老婆が女性を宥めている。そしてそこに参戦する櫛田。後は・・・バスの後ろの方には綾小路と堀北が座っていて、このバスの中だけでも他にも知っている人達がいる。どうやら間違いでは無いらしい、ここは俺がかつて夢見た世界。『ようこそ実力至上主義の教室へ』の世界らしい。前世とか、転生とかって話なのだろうか?それにしてもなんで思い出すのがこのタイミングなのか、もっと早ければ必死に勉強もしたし運動も頑張っただろう。
「あ、どうぞ。」
とりあえず、俺は席を譲った。理由としては俺が席を立った事によって櫛田が此方を見てきたからだ、状況的にもここで譲らない方が難しいだろう。
けど、そんな事よりも俺はこのままだと今年中に確実に退学する。それもこのバスに居合わせた綾小路と堀北によってだ、せっかくこの世界に来れたのに3年間の充実した高校生活を送れないなんて悲し過ぎる運命だ。
そこで俺は決意する。どうせなら退学しない様に頑張るだけではなくAクラスを目指してやる、と。
「席譲ってくれてありがとうっ!ところでその制服、高度育成高等学校のだよね?」
自分の事では無いのに偉いな〜と考えるけどこれも演技なのかと思うと少し悲しく感じる。
「お、おう。俺は山内 春樹だ、よろしくな」
「うん、山内くんだねっ!私は櫛田 桔梗だよ」
そう言って彼女とは同じクラスだといいねだとかどんな学校なのかな見たいな話を色々とした。
…何だこの良い子は。
裏の顔を知っていても心を許してしまいそうだ。