転生したら山内でした。 作:鴨の加茂
周りを見るとクラスメイト達、当然変わり者の高円寺ですら同様に、ひとり残らず固まっている。
「なんだ?これは·····どうしたんだ·····いったい何があった?」
綾小路に駆け寄り、肩を揺さぶる。
「綾小路?おい、綾小路」
だが、まるで反応がない。
「ははは」
どこからか笑い声がした。男とも女ともつかない無機質な声。込められた感情もよく分からない。ただ笑うべき場面であったから笑っただけ。そんな笑い声が。
「よくできていますね」
淡々とした声に気付いてそっちを向くと、さっきまで閉まっていた教室の扉を誰かが開けて入ってくる。
陶器のようにのっぺりした顔と、そこに切り込みを入れただけといった風情の目。透明な体には、所々、線を露わにする程度の紺青色が付着していて、それはガラスを伝う雨粒のように流動していた。
捉え所のない体だ。レンガのような石作りとも、機械のような鋼鉄製とも違う。唯一、手足の末端だけは粘土のような質感で───
その奇妙な『誰か』はすぐ近くに居た生徒に手を伸ばし、ぺたぺたと、手触りを楽しむように触っている。
「さすが最新テクノロジーです」
言葉の意味は理解出来たが、関連性が思い浮かばない。
「なんの·····ことだ·····?」
「ですが所詮プログラム」
そう言われ、掌で胸を押された生徒はその部分から無数のポリゴンに分解され、泡のように消えていった。
「ああっ!」
「見せてあげましょう。世界の真実を」
パチンッと、指が鳴る。
「マッピング、オフ」
そうつぶやかれた瞬間、世界から色が失われはじめた。
教壇が、教室の机が、窓から見える外の景色までも、無機質な白一色に変わっていく。建物や地形だけではない。綾小路や堀北、周りにいるみんなからも色が失われ、ただの人形のようになっていく。
「な·····何をしているんだ!?」
オレの質問は無視され、再び指が鳴る。
「グラビティ、オフ」
今度は重力が消えた。
無重力の世界で、みんながふわりと浮かび上がっていく。
「綾小路!」
オレは目の前にいた綾小路の手を咄嗟に掴んだ。が。
「コリジョン、オフ」
綾小路に触れていた手がすり抜ける。慌てて何度も掴もうとするが、触れることはおろか、まるで空気をかき混ぜるように、何の抵抗も返ってこず───綾小路は教室の壁も突き抜け、そのまま上空に浮かんでいった。
「綾小路?綾小路ィ──ッ!」
「もっと処理を軽くしましょう」
突然、教室が崩れはじめた。なんの音も衝撃もなく、最初に犠牲になった生徒がそうなったように、細かな立方体と化っして消滅していく。
「ああぁ!止めろ!」
消滅はみんなにも及んでいた。
綾小路が、堀北が、高円寺が、平田や櫛田が、そして軽井沢も、虚空に解けるように消えていった。
「やめてくれええ───ッ!」
「ははははは」
何もなくなった白一色の世界に取り残され、オレは絶望に打ちひしがれた。
「お前は·····月城理事長代理なのか?」
俺の問いに、はじめて反応があった。
「正確にはそうではありません。私は月城理事長代理のキャラクターコードに擬態し、侵入した·····ウイルスです。坂柳理事長は薄々気づいていたようですがね」
自身をウイルスと自称する存在が続ける。
「かつて、『ようこそ実力至上主義の教室へ』という絶大的な人気を誇った小説が世に出ました」
そう言って、ウイルスはオレに手を差し向ける。そこに見覚えのある小説が浮かび上がった。『ようこそ実力至上主義の教室へ』シリーズの記念すべき1巻だ。
オレが触れようとした瞬間、やはりそれも分解されて消えてしまった。
「それから数十年が経ち·····このような最先端のバーチャルシステムが完成し、一般に普及した時、『ようこそ実力至上主義の教室へ』の世界はこれまでに無い、新しいバーチャル世界として制作されました」
ウイルスの顔に、はじめて感情らしい感情が現れた。冷たい笑みを浮かべ、オレを見下ろす。
「そうです。この世界です」
戸惑うオレをよそに、ウイルスが言葉を続ける。
「あなたはあまりの懐かしさに、このシステムに入ることにしたのです。ですから、あなたがこのシステムに入ってから、まだ数時間しか経っていないのですよ──」