クライムトリガー   作:百合の間に男を挟むα

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アフトクラトル②

 春が過ぎ、夏に突入した頃。

 

 日課である筋トレを行っている僕を訪ねてきた幼馴染と話した事がある。

 

「──勉強に飽きたわ」

 

 彼女は器用だった。

 僕もそれなりに何でもできる自負はあったが、それに付随する程度には彼女は出来た。

 

 脳を動かす知識的な試験も、身体を動かすスポーツもそれなり以上に熟す。勿論習熟度に差はあれど、全体で見れば高い水準を満たしていた。

 

 来年度には僕がいる高校に進学してくる──筈だが。

 

「そりゃまた……まだまだこれから。高校の勉強は退屈では無いよ?」

「科目が増えるのは知ってるけど別に楽しみじゃないのよ。ただ、進学したから何があるのかわからないのよね」

 

 将来の不透明さに不安を抱いている訳では無さそうだ。

 僕もそこそこ不安ではあるけどそこは覚悟している。今の社会の情勢とかそういう事に興味がある訳では無いが。考えるのは良い。考えている間は自分を失っていられるんだ。

 

「学ぶ事に意義があるんじゃなく、学ぶ事そのものに意味があるんじゃないかな?」

「わかりづらい例えね。魚を与えるか獲る方法を教えるかって事?」

「そういう事。数学を勉強するのは必要な事だから、でも将来的に必ず深い数学の知識を使うとは限らない。でも、使わないことはない」

 

 四則計算はどんな世界に飛び込んでも存在する絶対のルールだ。

 金銭を管理するため、定められた。

 

 しかし時代は進み、変化していく。

 

「その時に『学び方』を知らないと、何も出来ないよね」

「……そうね。納得したわ」

「それはよかった」

 

 窓を開けて、わずかに入る風を楽しむ。

 夜特有の空気感が心地よく、それは彼女も感じていたのか何も言うことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「──オイ、起きろやクソ野郎」

 

 目覚めの一声で罵られ、ゆっくり意識が覚醒する。

 なるほど、角を外部品として取り付けるとこう言う副作用が存在するのか。これは興味深い結果が出せそうだ。

 

「やあエネドラ、今日もご機嫌ななめだね」

「チッ、気色悪い」

 

 黒い角が額から二本生えた前髪アシメの男性、エネドラ。

 素行の悪さはピカイチで差別的な発言が後を経たない過激な気性を持つ。僕のことを異常なまでに嫌っていて侮辱してくる。

 

 それはそれで楽しいからいいけどね。

 

「最近は夢をよく見るんだ。これ(・・)を付けてからね」

 

 自分の額から生えた角を指差す。

 エネドラやミラとは違って白い色が目立つが、黒い髪の毛と白い角だから組み合わせとしては綺麗だろう。

 

「君は記憶の混濁とかある?」

「ねえよンなもん、イカレサイコと一緒にすんな」

「ひどいなぁ、全く。僕だって罵倒してくれる人は選びたいんだよ?」

「こっちは話したくて話してる訳じゃねーんだよ!」

 

 扱いの酷さに興奮してきた。

 僕はエネドラに対して害を与えたことはないが、きっと本能的に彼は拒否しているんだろう。本質を捉えて根幹を嗅ぎ分けるその嗅覚は素晴らしい。

 

「施術の記録(ログ)は残してある。無駄に手を加えた様子はなかったから脳を弄られたってことはないだろうけど、君たちに比べれば研修に近い形で行われたのは事実さ」

 

 僕が望んで行った事ではあるが、手術を受ける無防備な様を他人に見られるのは結構恥ずかしい。

 何度も繰り返し確認したから余計目に焼き付いてる。

 

「やっぱり玄界の科学知識が欲しいなぁ……」

「ケッ、どうせ数年したら猿狩りがあるだろうがよ」

「いやー、ちょっと観光させてもらえないかな。どう言う風に変わったのか知りたいからさ」

 

 数年後、僕は故郷を襲撃する。

 これは確定事項であり、揺るがない事実だ。

 

 そこに思う事がないわけではない。

 倫理的にとか、正しい正しくないの二元論ではね。

 

 でもどうでもいい。強いて言うならばちょっと様子だけ見たいな、とは思っている。

 

「玄界の文明は素晴らしいよ? 本当に、近界より発展の差が大きい」

 

 それは文化であり科学であり、トリオン技術に頼って発展してきたこことは違う歴史を持つ。

 

「トリオン技術はまだまだかもしれないけど、あそこはすぐに成長する。必ずね」

「はっ、な訳ねーだろ。どんだけやったところで俺達には勝てねぇ」

「成長速度は個人差がある。君が子供の頃から戦闘を重ね、トリオン体による戦いに慣れているのはわかるけど──さてさて、どうなるかな」

 

 僕は器用ではあった。

 でも別に天才ではなかった。

 

 異常ではあったが、それを捉える事ができた程度の凡夫である。なんでも熟せた訳じゃない。なんだってひたすら反復の繰り返しだった。

 

 割り切りと忍耐。

 僕が他人より優れていたのはこの二つだろう。

 

「現に僕は二年ちょっとで此処まで来た。まだまだ頭打ちじゃない、伸び代しかないさ。君を追い抜くのも近いかもね」

「舐めんなザコが。強化トリガーと角生やした程度で俺に勝てる訳ねぇだろ」

「それは相性次第さ。君専門の対策を練れるのも強化トリガーの強みだろう?」

 

 そんな風にエネドラと会話を続けながら待つ事五分程度、僕が寝ていた原因とも言える男がやってくる。

 

「いや、急に呼び出してすまんな」

「気にしないで、エネドラと交友を深めていたところだから」

「そうか、それはよかった。馴染めるか心配していたが全く問題なさそうだな!」

「誰が誰と交友深めてるだってクソ野郎が死ね!」

 

 事実を述べただけでこの罵倒である。やれやれ、ゾクゾクしちゃうね。

 

「…………気色悪ぃ」

「ガチの声はやめてくれないか? 僕も傷つく」

 

 そして悦ぶ。

 

「はっはっは、水と油だな!」

「それ絶望的に合ってないよね。火に油の方がマシだよ」

 

 思わず顔に出ていたようで、多分それがエネドラインに引っ掛かったんだろう。(エネドラの感情的限界ラインを指す)

 まいったな、悦びを隠さなくていい環境に慣れてしまったから難しい。

 

「努力するよ」

「早く死ね」

 

 売り言葉に買い言葉というより一方的な拒絶である。

 ああ、かつて故郷で本性を隠し続けてよかった。こんな目に遭ってたら絶対耐えられなかった。悦びを抑えきれない的な意味で。

 

「それで──ランバネイン。僕らに何の用かな?」

 

 このままでは埒が開かないので、ひとまず呼ばれた要件を聞く事にする。

 男の名前はランバネイン、僕の主人である領主の弟──つまりお偉いさんである。本来ならこんなフランクに言っていい人間じゃないんだけど、この星の連中はそこら辺適当だ。年功序列は存在してるが、それ以上に立場上の権力の方が上。

 

「ああ、次の遠征の話だ。調査の結果が出たからな」

「んなもん無くたって余裕だろうが。所詮ザコの集まりだ」

「それで、どんな中身だった?」

 

 エネドラに喋らせると永遠に文句と罵倒を繰り返す羽目になるので、此処は一つ本題に軌道修正する。

 僅か数ヶ月の付き合いだが既に慣れてきた。

 

 それが正しいのか悲しいのか。

 

「うむ──端的に言ってしまえば、弱い!」

「言ってんじゃねーかよ、ザコだって」

「弱いって言っても種類があるじゃないか。そこを教えて欲しい」

 

 弱い。

 言葉で表すと簡単だが、その意味合いは広い。辞書には載ってない、現代ならでは。

 

「戦力が弱い。トリガーが弱い。国力も弱い」

「ふーむ……ああ、なるほど。だから僕達二人なのか」

 

 察しがついた。

 要するに僕とエネドラ、そしてランバネインの三人で遠征を行えということか。

 

「実験台にされる程に弱いのにうちの近くを通らなきゃいけないのは同情するね」

 

 角との適合実験──簡単に言うと、今回の遠征の目的はそれになる。

 アフトクラトルでは幼い頃にトリオンを成長促進させる効果を持つ角を埋め込むんだが、今回特例として成人している僕に取り付けた。

 

 これによってどんなデータの変化が出るか、実戦で確かめたいと言う事だろう。

 

「僕のトリガーは」

「既に角との同期が済んでいる。後付けだと角そのものに仕様をつけれるのは便利だな」

「オッケー、エネドラ後で模擬戦付き合ってよ」

「そのまま殺していいならやるぞ」

「構わないよ。どうせ死なないし」

 

 僕のトリガーは特別性だ。

 味方との連携をした上でソロでの戦いが向いている矛盾。切り込み隊長ではなく、なんと言うか……対人間、そこに重きを置いている。

 

「君じゃ僕は殺せないよ」

「……上等じゃねぇか、本気で殺しに行くぞ」

 

 舐められたと判断したのか、エネドラは額に青筋を浮かべる。

 そこから滲んでくる本気の殺意に、つい身震いしてしまう。ああ、この後どれほどの刺激が待っているのだろう。一体どれだけ受け止め切れるだろうか。

 

「──それはそれは、愉しみだ……!」

 

 思わず口角が吊り上がる。

 嗤いが抑えきれない。

 

 早く早くと本能が急かしてくる。

 実に久しぶりだ、この国に来る前に殺し合った以来だから──数ヶ月ぶりの全力戦闘。

 

「──後悔なんざさせねぇ! 速攻でぶち殺してやる!」

「──さあ、存分に嬲ってくれ! 僕を満たしてくれ、君の本気で!」

 

 ──トリガーオン。

 

泥の王(ボルボロス)!」

罪の鎖(アリシダ)!」

 

 溢れ出したエネドラのボルボロスから距離をとり、そのまま外へと飛び出した。

 流石に室内で殺し合いをするのはランバネインに申し訳ない。彼がトリオン体なのは認識していたが、仮にも偉い人間の目の前で殺し合いを展開するわけにもいかないだろう。

 

 僕は倫理観が欠如しているけど、常識は持ってるからね。

 

「どこに行きやがるクソ猿が──!」

「差別意識が出てるよ、エネドラ!」

 

 流体と固体の境目を反復横跳びしながらボルボロスが襲い掛かってくる。

 

 両腕から鎖を射出し、反動をつけて前に移動する。

 速度自体は僕の方が上、範囲はあちらが上。

 

 僕のトリガー、罪の鎖(アリシダ)は強化トリガーと呼ばれるアフトクラトルの最新トリガーだ。

 対人において、『確実に負けはない』と言うコンセプトをもとに作られたらしい。そこにチョチョイっと細工をして僕好みに変更した。

 

 エネドラが使用しているのは黒トリガー泥の王(ボルボロス)

 強化トリガーとは違い、トリオン能力に優れた人間が命を捨てて作り出すことができる唯一無二の武器である。その性能は根本的に凄まじく、並のトリガーではいくら数を揃えたところでボルボロスには勝つことはできない。

 

 市街地で戦闘は避けるために、一応町外れの方まで高く跳ぶ。

 

 鎖での移動にも大分慣れてきた。

 射出の感覚、重力から外れる瞬間。かかる負荷、それらが身に染み付いてきた。

 

 周りが草原になった辺りを目標に鎖を一刺し、そのままグルリと弧を描くように飛んでいく。

 

 後ろを見ればしっかりとついてきているエネドラ。殺意に身を任せているとは言え、流石に市民を手にかけるつもりは無いらしい。

 まあ罰則とか言われて反抗しても、ね。

 

「さて、どうする……」

 

 確認したいことは無数にあるが、一つずつ纏めて行こう。

 

 先ずは実戦におけるトリオン量の変化。

 僕が保有するトリオンは大まかな数値で表せば10。これはかなり高い方で、かつて身を置いていた国でも重宝されていた。三回程度までなら連戦可能なトリオン量である。

 

 今の僕は角による拡張機能で少なくとも5は増加していると見ていい。

 完全に馴染んでいるエネドラとかミラに比べると微々たるものだが、それはこれからに期待する。

 

 鎖は先端部分が鏃のようになっており、突き刺さると抜けづらい性質を持つ。

 

 突き刺してその分だけ切り離して再生成して、と言うやり方で補充している訳だが──トリオンにはまだまだ余裕がある。

 

「閉所なら陣地形成とか出来るんだけど、草原だからなぁ」

 

 相手の情報を知っているからこその模擬戦である。

 初見相手にもどれだけ引き出しを作成できるか、それが目的。エネドラは僕を殺したいようだけど、僕は殺したい訳じゃない。こんなどうでもいいことで殺すなんて勿体無いだろう? 

 

「シンプルに近接戦で行こうか」

 

 決めた。

 空中から落ちてきたエネドラは息つく暇も無く攻撃を放ってくる。

 

 スライムのようにドロドロと、それでいて水のようにぬるりと緩慢な動きをしていた液状の物質が固体になる。

 この操作もなかなかに緻密な作業が要されるのだが、流石はエネドラ。

 

 先端部分だけ硬質化して、後は流体。

 

 鎖を部分的に展開して両手足に巻き付け防具のような扱いにする。

 

 攻撃が来る順番を数え、それに向かって対処する。

 一体一は余程の実力差がない限り理論が通用する。理詰ほど戦闘を表しているものはない。

 

 一本捌く。

 二本に増える、それも捌く。

 三本に増える、受け流す。

 

 感触(・・)が鎖ごしに伝わり、流しきれなかった分の運動エネルギーは僕の体に流れてくる。

 その物理法則に従うように反転、エネドラへと掌底を放つ。

 

「──チッ」

 

 大きく後ろに下がるエネドラ。

 流石に情報を知られていると嫌がるよね、そうだよね。

 

「悲しいなぁ、ミラは受け入れてくれたのに」

「強制的にやったんだろうが」

 

 鎖を射出し、勢いを殺さないまま振りまわす。

 最大限の威力で当たるようにエネドラに振るうが、ボルボロスの汎用性は流石と言うべきか。

 

 横薙ぎに見えて反対から挟み込むように当てたのに、そこもカバーされる。

 

「残念、もうちょっとだったのに」

「俺に触れることはねぇよ、カスが」

 

 大きく広げるように、それでいて逃げ道を塞ぐようにボルボロスが這ってくる。

 

 正直なところ、ここは鎖で逃げるのが最善手だ。

 アリシダとボルボロス、互いに相性が良いようで悪い。

 

 僕は決定打に欠け、ボルボロスは火力で押し切ろうにも速度が足りない。

 

 逃げ性能もそれなりに評価されているアリシダ相手じゃ、速度が遅すぎる。それを覆す手段もあるにはあるけど、エネドラはやってこないだろう。

 

「──でも、それじゃあつまんないよね」

 

 正面から、拳を持って。

 たとえ肉が裂け骨が砕け血が流れたとしても、僕はそれを受け入れる。そのためにトリオン体にも細工をしたし、勝つための戦いじゃないのなら好き勝手やるさ。

 

「行くよアリシダ、我慢してね(・・・・・)

 

 斜めに突き刺さるように鎖を射出し、巻き取る。

 ジャラララ! と音を鳴らしながら渦巻くボルボロスへと突撃していく。

 

 無論いろんな方向からボルボロスの攻撃が飛んでくる訳だが、身を捩り鎖を射出し空中での自分の制御を必死に行う。

 

 時々僕の身体に傷をつけていく攻撃があって、それがまた刺激的で堪らなくて興奮する。

 

 そうだ、これだ。

 この戦いの緊張感。

 故郷では絶対に得ることのできなかった、受け止めきれないほどの多幸感。

 

 僕の苦しみ、相手の感情。

 全部僕にとっては喜びになるのだ。

 

「────く、ははは!」

 

 笑う。

 ついつい口から漏れてしまう。

 

 痛みで麻痺する脳味噌、取り繕う思考回路。ガンガン回せ、エネルギーを全て使いきれ。

 生きているとはこう言うことだ。意味のないことをするだけ、息をして水を飲み飯を食うだけのことを生きているとは言えない。他人がどうかは知らない、少なくとも僕にとっては死と同じ意義だ。

 

 エネドラの目の前にたどり着き、その時点で全身が訴えてくる痛みに堪えながらも蹴りを放つ。

 

 放ちながら、足先から射出した鎖で絡めとることも視野に入れる。

 

 興奮と冷静を常に繰り返す。精神安定なんて知ったことか。

 脳内麻薬が多分に分泌される。

 

「──ッッたぁッ!?」

 

 左腕から奔る激痛に喜色を滲ませつつ、エネドラに鎖が巻きついたのを確認する。

 

 アリシダが効果を発揮するより先に殺し切れると判断したか? 

 いくら黒トリガーとは言え、それは舐めすぎだ。

 

「──ふうううぅぅ……」

 

 一度飛び退いて、息を吐く。

 

 危ない危ない、目的は達成したから状況を整えよう。

 

「いやあ、参ったね。あまりにも切断の痛みが激しすぎて(・・・・・)つい興奮しちゃったよ。ね──アリシダ」

 

 一言呟き、未だ警戒を止めないエネドラの表情が変化するのを目視する。

 

「がッ……!」

「う、はは、あははは! そうそれ! それだよエネドラ!」

 

 アリシダが『対人戦闘において負けない』と言うコンセプトの所以──これだ。

 

 鏃を刺した他人のトリオン体の規格に干渉できる。

 流石に大きさとか強度とかそう言うのは弄れないけど、ちょっとした痛覚設定程度なら弄れる。

 

 離れておらず、直接繋がっているのなら自由に。

 既に鏃と鎖が独立している場合は事前設定が適応される。

 

 僕が今回設定したのは、痛みの共有。

 

「最高のトリガーだ! 僕の知識と、アフトクラトルの技術の叡智!」

 

 トリオン体の規格に差は大きく存在しない。

 それを逆手にとったトリガーだ。

 

「それが左腕が千切れた痛みで──これは、人差し指が折れる感覚だ」

 

 右手を見せつけるように目前に出して、親指で人差し指をへし折る。

 トリオン体だから実際に折れてるわけじゃないけど、それでも視覚情報では確かに折れている。

 

 骨が折れた時特有の熱と痛みが襲ってきて、広角が再度吊り上がる。

 

「はあぁあぁ……本当に、この国に来てよかった」

 

 恍惚とした表情を隠す気も起きない。

 自分を偽る必要は一切ないから。この世界はトリオンが全てだ。どれだけ陰湿でどれだけ性悪だったとしても、トリオンさえ高ければなんとでもなる。

 

「クソイカれ野郎が──!」

「人の趣味を否定するのは良くないなぁ!」

 

 左腕の断面から鎖を射出し、断面がぐずぐつに痛めつけられる感覚が入る。

 エネドラにそれが共有されたのか、顔を顰めて即座に流体化した。

 

「なるほど、それは便利だ!」

 

 流体化すれば同一部位だったとしても共有できない。

 やはり経験値の高さは侮れない、今のままでは負けない戦いができない。もっと選択肢を増やして、もっと強敵と戦うべきだ。

 

「エネドラ!」

 

 叫びながら鎖を射出、肉薄する。

 

 近接格闘に関しては僕の方が上だ。

 エネドラも理解しているのだろう、攻撃を出しながら下がろうとするが──それはさせない。

 

 自らの膝部分を殴り壊して、エネドラが動きを止める。

 

 過剰分泌されたアドレナリンが興奮と快楽を与えるのを認識しつつ、鎖をエネドラの頭部目掛けて射出した。

 

「僕たちは──まだまだ強くなれる!」

 

 頭部に鏃が刺さるより先に流体に変化した。

 全身を一瞬にして流体に変化させたエネドラは、そのまま硬質化した攻撃を放ってくる。

 

 腕を、足を、胴を、頭蓋を。

 

 一分の躊躇いもなくトリオン体に突き刺さった攻撃と、それと同時に襲いかかってくる例えることのできない激痛。

 死ぬとは、こう言うことか。

 

 痛みと苦しみの中で受け入れる終わり──今がその時ではないけれど、これは……抗い用のない快楽かもしれない。

 

 興奮と絶頂の中で、過剰に増幅された感情に包まれて僕は気を失った。

 





この後めちゃくちゃ怒られた
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