クライムトリガー   作:百合の間に男を挟むα

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アフトクラトル③

「──それで、何か言いたいことは?」

「特には。領主特権で取り消したりとかしてくれない?」

「止む無き事情があったのなら聞き入れる程度の事は配慮するが、今回は出来ない。何故なら、遠征メンバーに支障が発生しているからだ」

「ですよねー」

 

 見逃してはくれないよね、そうだよね。

 

「……正直頭が痛くなる内容だ。遠征の事前情報を伝えるだけでどうして戦闘になる?」

「いやあ、つい。血が疼いたんですよ、わかりませんか?」

「わからないな」

 

 我らが領主サマは陰険な人間なので、僕たちみたいな振り切った異常者の気持ちはわからないと切って捨ててきた。

 これなら僕たちのほうがまだマシだね。何故なら、僕たちは理解できるから。 

 

 理解して尚共感せずに自由にしてるだけで。

 

「以降戦闘が行いたくなったら申請するように。場所を作るからそこで暴れろ」

「おや、案外寛大ですね。てっきりトリガー奪うとか、そういう罰則あるのかと思ったよ」

「トリオン器官は使用すれば使用する程育つ。君は既に成人を迎えているが、角の事もあり実験体としての意味合いも兼ねているからな。暴れること自体は構わない、場所は選べ」

「やだなあ、ちゃんと人がいない場所選んだじゃないですか」

「移動くらい我慢しろ」

 

 ごもっともである。

 正論は時に暴論になる、今が正にそうじゃないか? そうに違いない。

 

「はいはい、了解しました。では二時間後には戦闘を行いたいのですが」

「…………ミラ、後を頼む」

「わかりました」

 

 溜息と共に吐き出された言葉に、傍らに控えていた女性が応える。

 

「あまり隊長に苦労かけないでね」

「立場が偉い人間がどうして優遇されてるか知ってるかい? その分仕事をしないといけないからさ」

「あら、それなら私も仕事をしなきゃいけないわ」

「勘弁してくれ、冗談だ。僕と君の仲だろ?」

 

 くすくす笑うミラに負けだとアピールしつつ、部屋を退出する。

 

「エネドラはどうだった?」

「強かったよ。接近戦でエネドラに勝つのは難しそうだ」

 

 相性が絶望的に良くて悪い。

罪の鎖(アリシダ)』はトリオン体の規格がほぼ統一されている事を利用した武器(トリガー)である。

 

 使用者と相対する者、互いの規格がある程度一致していれば情報を弄れるから通用するのだ。

 

 相手の姿形が違えばただの鎖で殺傷能力は低いし、立ち回り次第で同士討ちとか纏めて無力化とかできる強い武器ではあるんだけど如何せん難しい。

 エネドラの泥の王(ボルボロス)のようにせっかく刺しても流体になられるとお手上げである。

 

「味方に天敵がいるのはいい。幾らでも対策を作って造って創って確かめられるから」

「怒られるわよ?」

「嫌われることで幸福になれるなら本望さ」

 

 エネドラが僕を嫌う。

 僕はエネドラを頼る。

 合理的に考えれば協力しない手立ては無いので、嫌々付き合ってくれるだろう。

 

 その度に嫌悪の視線や罵倒を浴びせられ、殺意を向けられる。

 

「なんて素晴らしいんだ……!」

「本当に壊れてるわね」

「でも否定しないだろ?」

「そうね。寧ろ私も楽しみにしてるわ」

 

 それは僕の破滅の瞬間か、それともまた別の意図か。

 何にせよ憶測でしかわからないが、ミラもまた何かを見たいと願っている。ならば僕はその光景を見せられるように努力しようじゃないか。

 

「他人の為に努力するのは気持ちがいいねぇ」

 

 ふう、セーブしていこう。

 冷静沈着、余裕綽綽。心がけるのは何時だって冷静な自分だ。最強の自分とかはどうでもいいけど、何時までもこの快楽を享受できる方が楽しい。だから冷静に考えられるようにする。

 

 どれだけ興奮しても根底は変わらない。

 怒りに塗れても奥底にある願いを固定する。

 

「まあでも、僕とミラが組むのが一番相性がいいかな」

 

 ミラは軽いワープが出来るので、鏃を一杯渡してワープでぶっ刺してもらう。

 後は僕が自傷しながら戦えば勝ちだ。

 

 唯一欠点があるとすれば僕にも他人の痛みがフィードバックする被虐仕様なので、あまりにも多い人間と接続するとキャパオーバーの可能性がある事。あの死ぬ間際の感覚、ちゃんと情報化しておいてよかったよ。

 

 お陰でそっくりとまではいかないけどかなりの再現度だった。

 

「ふふふ、あ、ヤバい。思い出したら興奮してきた」

「貴方を見るたびに玄界がどういう魔窟だったのか気になってくるのよね」

「僕は玄界じゃ大人しい一人の人間だって言ってるじゃないか。社会的に自分が外れているのを理解して、だから社会に入り込もうとした。入る直前で攫われてこんなにいい場所まで来ちゃったけどね」

 

 攫われたなんて言ってるけど、滅茶苦茶感謝している。

 

 僕が僕らしくあれる世界に連れてきてもらったのは良い事だ。それが例え全てを捨てなければならないものだとしても、僕にとって最良だった。

 

「これで科学技術が発展してたら文句ないのになぁ」

「そんなに玄界の技術が良かったの?」

「そうだね、科学は偉大な人間の歴史だよ。僕は科学者じゃないからあっさりとしか理解してないけどね」

 

 色んな文献が無料で見れる現代、中々捨てがたいモノだ。

 知識を好き放題貪れるのは平和の象徴。情報を管理でき、王に権利が集中するこの国に比べれば圧倒的に自由度が高い。

 

「数年後に玄界に接触か……」

 

 楽しみだ。

 何もかもが楽しみだ。言葉に言い表せない程の感情の昂ぶりだ。きっとその時、世界を越えて僕は愛を叫ぶ。誰かに対してか、概念に対してかは謎だけど何となく思うんだ。

 

 楽しんで愉しんで──その果てに待つ真実の死。

 

 虚空に堕ちるあの虚無感に感嘆を吐きながら死ねるだろうか? 

 

「君も一緒に堕ちてみる?」

「あら、言わないと置いてくの?」

「僕は他人に押し付けはしないさ」

 

 僕と同じ感性を持つ人間に会ったことは無い。

 既に幾つか星を廻っているのにも関わらず見当たらないという事は、そういう事だ。僕が異常者という事実はもう変わらない。

 

 でも寂しくはない。

 

 どうしようも無い位に楽しいから。

 

「一人で死ぬのも一興だよ」

 

 誰にも悟られず、ひっそりと息を引き取る。

 それもまた良し。

 

 未来は無数に存在して、僕はその選択権を無数に所持している。

 素晴らしい事この上ない。我が人生は今が幸せの絶頂期ではないだろうか? 

 

「逆に僕の事を追いかけてきてくれる?」

「さあ、それはどうでしょう。その時の貴方次第ね」

「なるほど、ラブコールを謳えばいい訳か。見た目に反して情熱的だよね」

 

 ミラはクールな女性である。

 快活に笑うタイプではなく、口元を薄く変化させる程度。

 感情豊かにボディランゲージを行う性格ではなく、手を叩いて笑うなどの行為も無し。

 

「愛を謳おうか?」

「問われてやるものじゃないでしょう」

「それもそうだ」

 

 感動的に、衝動的に、情熱的に。

 計画何て一つもないけど、なんとなくそう思う。

 

 決断しなきゃいけないときは人生に於いて何度か存在する。

 僕は既に一度決断をして、世界を越えた。

 

 次もきっと存在する。

 

「さて、こうしちゃいられない。改善点は沢山ある、考える時間が足りないや」

 

 トリオンを利用すれば三大欲求も解消できたりしないかな。

 食事を不要に、睡眠を不要に、性欲を不要に。人間的要素をどんどん消していけば僕はどうなるのだろうか。

 

 アンドロイドのように精密になれるのか、それとも生きる意味を失って愚鈍になるか。

 

 僕のトリオンと相談して、機能を積み込んでいこう。

 強化トリガー、いい性能だ。

 

 鎖を単品で扱うのは性能を殺しているな。

 鎖そのものに副次的な効果を持たせた方がいいかもしれない。例えば爆発する鎖にするとか。

 

 アリだな。

 

 僕の脳味噌の機能も弄ってみたいけど、そこを弄ったら元に戻れ無さそうだ。

 せめて玄界ぐらいの科学技術が発展しないと厳しいね。

 

 人体構造とか、殺しとかそこら辺は発達してるんだけどなぁ。

 

「そう言えばアフトクラトルにもあの言葉はあるかい?」

「あの言葉?」

 

 ふと頭の中に浮かんだ言葉だ。

 

「そうそう、愛を謳うのに適してる言葉だ。詩的で華麗で、僕はとても好きなんだよね」

 

 月が綺麗ですね(I love you)

 ああいう言葉を思いつける人間は素晴らしい教養を持っていると思う。僕は全てを台無しにする終末感とか、虚無感を好むが別に他が好きでは無いわけじゃない。

 

 文学も好みの内だ。

 

「その内教えてあげるよ(・・・・・・・)

「あら、じゃあ楽しみにしているわ」

 

 

 

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