クライムトリガー   作:百合の間に男を挟むα

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百合と共に①

 左手側に大人しく佇む茜色の髪を一つに束ねた幼さの残る少女。

 僕が肩越しに回した手が彼女の頬を撫でつけ、年頃の柔らかさを堪能する。男に触れられる事など無かったろうに、僅かに身を震わせているその姿が愛おしい。

 

「……やめてください」

「えー、どうしようかな。アロエはご飯作ってるしねぇ」

「…………」

 

 ちょっとだけ反抗の姿勢を見せて、僕の言葉から意味を読み取って黙る。

 

 あんまり期待してなかったんだけど掘り出し物だ。

 この姉妹は頭の回転も良く柔軟で聡い。

 

 今の会話には複数の意味がある。

 順を追って味わうならば、まず一つ。

 

 ・反抗の姿勢を見せたのは『僕がどう言えば喜ぶか考えた結果』である。

 

 ここ数日共に過ごした事で僕が真正の屑だと理解したんだろう。

 暴力的にも性的にも手を出されてないが、まだ揶揄う程度で済まされている。それは何故かを考えて、一先ずこれ以上悪化させない為に現状で満足させることにした。

 

 僕を満足させるには、僕の要望を聞かなければいけない。

 

 でも僕は自分から全部を要求してる訳じゃ無い。

 アロエの身体を触ったり、エリカの身体を触ったり、口で罵ったり色々試しているだけだ。

 だから取り敢えず僕の性質を理解して、それに則って行動しているわけだ。

 

 長く語ったが結論を述べると、『反抗的な姿勢を見せつつ従順で居ればいい』と判断したわけだ。

 

 そして先程の会話、『やめてください』と嫌がる姿勢を見せつつ僕の反応を伺っていた。

 僕は『どっちとも取れる』発言をしたから彼女は黙った。

 

 その、『黙る』という行動まで悦ばせると理解したうえで。

 

「君は賢いのに、あんなに弱いのはかわいそうだねえ」

「……余計なお世話です」

「ハハハ、言うじゃないか。でも此処での暮らしの方が清潔だろ?」

「あなたは、私の家族じゃない」

「家族が幸せに繋がると言うのは未発達な文化の証明さ。現に僕は家族が居ないけど満足に生きていて、家族が居た君達が不幸に見舞われている」

 

 まあ、別に玄界での暮らしに不満があった訳じゃ無いんだけどね。

 それは言わなくていいや。

 

「自分の視点でのみモノを語るのは良くないよ」

「──ごはん、出来ましたからっ!」

「おっと、ありがとうねアロエ」

 

 ゴスンと音を立てて机に置かれた料理に手を付ける。

 エリカが居る方途は逆、つまり僕を挟むようにして椅子に座った二人も同じように料理を口に運び始めた。

 

「なんか百合の間に挟まれてるみたいだなぁ」

「事実です」

「そういうの否定されがちじゃない? 硬派な人はそういう事言うよね、僕は興奮出来れば何でもいいけど」

「…………キモ」

 

 百合とは抽象的な言葉であり、僕の故郷では女性同士での絡み合いの事を指していた。

 まあ姉妹の間に入り込むのも母娘の間に入り込むのも僕が得をするからいいんだけど、よくインターネットで争いをしている人はいた。

 

 やれ百合がどうだの純愛がどうだの寝取り寝取られがどうだの。

 

 僕は全部興奮するから全部肯定するけどね。

 

「彼氏が出来たら教えて?」

「なんでよ」

「え、寝取るから」

「最低すぎませんか?」

「逆に僕から寝取られてもいい。それはそれで興奮するから推奨するよ」

「いや、そもそも身を許してません」

「本当? じゃあこれから許してもらおうかな」

「え──」

 

 食事中のエリカの腕を押さえつけて、そのまま顔を近づける。

 一応抵抗するために力は入れているけど、必死さがない。内心諦めてはいるんだろうね、現実に。

 

 折れた心をズタズタに引き裂くのもそれはそれでいいんだけど──絶望ってのは緩急があるからいいんだ。

 

「…………しないんですか?」

「気が向いたらね」

 

 手を放してそのまま食事を続ける。

 完全に死んだ目をするエリカを無理矢理やるのも楽しめるけど、どうせならそこから立ち直らせて──もう一度折る。廃人になるくらい、もう人間として再起できないくらいに使い古した雑巾の如く。

 

「ほらほら二人とも、早く食べな」

 

 ある程度の自由を許されているとはいえ本質的に囚われている事に変わりはない。

 僕のような世間一般で言えばサイコパスと同じ家で暮らすのはそれはさぞかしストレスになるだろう。いつ手を出してくるか分からず、殺されるかもしれないし女として辱められる可能性もある。

 

 けれど気丈に、現実を諦めていてもまだ自我を保つ。

 

 そういう姿を見るだけでも興奮出来る。いやあ、遠征で捕まえてよかった。

 

「んふ、ふふんふふふ」

「…………」

「…………」

「一人で笑うのをスルーされるのもいいんだけどさ、僕は共に笑ってくれる人も欲しいんだよね。この国で唯一笑ってくれるのミラだし」

 

 食べ終えた皿を持って、そのままキッチンへと向かう。

 

 どうするかなぁ。

 

 手を出そうにもまだ子供。

 大人と子供の境目の異性に手を出すのはそれはそれでいいんだけど、前の国で遊んでたからな。味は知ってる。

 性的欲求は最近満たせてるからもう少しこう、やはり、違う方向での欲求を満たしたいね。

 

 そこまで考えて、少しだけ思いついた。

 これは非常に合理的で無駄が無く、何をとっても得が生まれる。

 

 リビングでちまちま飯を食ってる二人の間に再度挟まって、一言告げる。

 

「ね、強くなりたい?」

「……何を企んでんのよ」

「え、アロエちゃんわかんない? エリカは分かってそうだけど」

 

 笑いながら話しかける。

 

 トレードマークの髪の毛だけは崩さないようで、エリカは一つに束ねた髪を揺らしながら僕の顔を見る。アロエも側頭部で纏めたツインテールを揺らしながら、僕のことを見る。

 

「強くならなきゃいけないのはわかってるでしょ」

 

 この子達は未来がない。

 未来を手に入れるまでに守ってくれる親は既に無力、彼女ら姉妹二人でどうにか生きていかなければいけない。僕の庇護下に入る? こんなサイコパスの下に? 

 

 その選択肢だけは取らないだろう。

 

「……私達が反抗するとは思わないんですか?」

「別に反抗してもいいと思うけどなぁ、僕故郷玄界だし──それに、君ら弱いもん。二対一でも負けないさ」

 

 そう、この方法なら僕らは互いに利点があるのだ。

 

 彼女らは強くなることができて、僕は戦える相手が増える。

 しかも中途半端にしか育たなくても問題ないし殺しても文句はあまり言われない、幾らでも実験に使える貴重な人間だ。

 

「強くなれそうだったらトリガー角だって付けてあげるよ。どうかな?」

 

 提示はしているが実質一択。

 間にいる僕を無視するように顔を見合わせた姉妹は僅かな間逡巡する様子を見せて、頷いた。

 

「…………受けます」

「受ける? 何を?」

「っ……お願いします、強くしてください」

 

 エリカの一瞬の苛立ちと、それを隠すような無表情に悦を感じながら僕はにっこりと笑顔を作る。

 頭を下げたまま動かないエリカの頭を撫でながら、振り向いてアロエの顔を見た。

 

「君は?」

「……ほんっ……とーに……性格が悪い……!」

「あれあれ? そんな態度で良いのかな〜?」

 

 エリカの髪を引っ張って、顔を近付ける。

 僅かな動揺が瞳で揺れる最中に、思い切り平手打ちを放った。

 

「やめてっ!!」

「じゃあ早く言いなよ。どっちがいい? ってわざわざ選択肢上げてるんだからさ」

「………………絶対、絶対、絶対に……許さないから」

「あはは、臨むところだよ。君らじゃまだ楽しめないからなぁ」

 

 はあ、楽しい。

 口で煽って、暴力で嬲って、好き勝手やって。相手の悪感情も僕の感情も全部全部ぜーんぶ快楽につながる。

 

 こんな勝手を玄界でやっていたらどうなっただろうか? 

 幼馴染みで、僕を■■■■と慕ってくれた彼女はどんな顔をするのだろうか? 絶望するかな、それとも信じられないと困惑するかな。

 

「ごめんね、痛くない?」

「平気です……」

「良い子だ。アロエも見習いなよ?」

 

 ケラケラ嗤って侮辱する。

 怒りに身を支配されても逆らえない、ああ、なんていい文明なんだ。法律はあるが僕はトリガー使いとして高い適性を持ち、その法のもとに守られている。

 

「いつか逆らえるようになれると良いね」

 

 そこまで彼女達が生き残れるかどうかは、僕に知る術はない。

 

 

 

 

 




百合の間に男を挟め
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