ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ   作:夜鳥空

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 自宅に引き籠ると筆が走るので初投稿です。

 前話で盛大なガバを起こしてしまい、一部変更が発生しております。投稿直後にお読みいただいた方には申し訳ありませんが、若干内容が変わっておりますのでご確認いただければ幸いです。



セッションその14-9

 前回、堕ちた英雄との戦いが始まったところから再開です。

 

 

 血に呑まれ、獣と人の歪に混ざり合った異形の姿となった初代狩長……死灰神のリスペクト先に倣って"醜い獣"と呼びましょうか。彼の捩れ肥大化した右腕の一撃によって開幕が告げられ、肉腫蠢く床を陥没させるその威力に一行が冷や汗を流していますね。

 

 

 数多の犠牲を払って討伐された初代狩長、手厚く葬られていたその亡骸を死霊術で蘇らせ、儀式の守護者とする手口……一連の騒ぎの首謀者である死霊術師(ネクロマンサー)はなかなかに良い性格をしていると思います。この都市にいたであろう冒険者は皆ゼリーマンと化してますし、中途半端な実力の持ち主では返り討ちに遭うのは必定。西方辺境の精鋭が相手取るのは自然な流れと言えるでしょう。

 

 

「チッ……まともに受けられるのは俺ぐらいか……」

 

「テメェ以外は掠っただけで重傷だよチクショウ!?」

 

「……こうも速いと狙いが定まらんな」

 

 

 叩きつけるような巨腕の一撃を愛用のだんびらで受け、刀身で滑らせるように受け流す重戦士さんの苦い声。"黒騎士の鎧"による身体能力増幅(パワーアシスト)を加えてなお軋みを上げる身体に苛立ちを隠せていません。複数の馬脚と左腕を駆使した突進は槍ニキのそれに匹敵する速度、迂闊にカウンターなどと考えていたらあっというまに挽肉(ミンチ)一直線です。2人ほどの筋力や敏捷性を持っていないゴブスレさんは既に大きく距離をとり、火炎壺による援護に徹するつもりのようですが、巨体に似つかぬ俊敏さに攻撃の糸口が掴めていない様子。ですが、そうやって攻める機会を窺っていると……。

 

 

「「オ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」」

 

「こっちこないでよ~!」

 

「クッ、隙あらば此方狙い……吸血鬼への恨みが肉体に染み付いているんじゃあないのか!?」

 

 

 頭部と右肩、ふたつの口から悍ましい咆哮を上げ、天井すれすれまで跳躍して吸血鬼侍ちゃんを狙ってきます。抱えられている女闇人さんの言うように牙狩りとしての使命感が亡骸に宿っているのか、あるいは死霊術師(ネクロマンサー)によってターゲットの優先順位が設定されているのか……微妙なところです。狙いが吸血鬼侍ちゃんなら女闇人さんは放り出したほうが安全なんじゃないかと視聴神の皆様に言われてしまいそうですが、残念ながらそれも危険なんですよねぇ。

 

 

「ガキと女ばっか狙ってんじゃねぇよこの馬面野郎……って危ねッ!?」

 

「迂闊に突っ込むなよ元童貞! ……つっても、アレを何とかしないと俺も近付けないしなぁ」

 

 

 少年魔術師君が悔しそうに呟くその理由は、醜い獣の一撃に付随する追加効果に悩まされているからですね。相手の繰り出す攻撃は主に叩きつけと薙ぎ払い……攻撃自体は大振りなのですが、攻撃に巻き込まれた床や壁材、それに亡者のパーツがまるで葡萄弾のように周囲に炸裂し、他の亡者や棺を粉々に砕いています。"生ける風"である女幽鬼(レイス)さんを展開している間は無防備になってしまう少年魔術師君や、鎧を纏っていない不良闇人さん、それに一糸纏わぬ姿の女闇人さんは掠っただけでも致命傷になりかねません。吸血鬼侍ちゃんがエヴェリンで飛来する危険物を撃ち落としていなければ、女闇人さんは既にハンバーグに変身していた可能性が高いです。

 

 

「俺の槍じゃ威力不足で、盾役(重戦士)は攻撃に回せねぇ。そっちの兄ちゃんの炎が一番効いてそうだが、一発貰っちまったらそれで仕舞い。ゴブリンスレイヤー! なんか上手い手は無ぇのかよ!?」

 

 

 ふーむ、一撃離脱を繰り返してヘイトを集め、何とか隙を作りだそうとしている槍ニキにもあまり余裕は無さそうです。一撃貰ったらオワタ状態なギリギリの戦いは彼好みではありそうですが、相手を倒す手段が無ければいずれ消耗して被弾してしまうことでしょう。暗視付きの兜越しに醜い獣を観察していたゴブスレさんですが……お、何か思いついたのでしょうか? 絶え間なく飛んでくる飛礫や人体のパーツを翼で払い除けている吸血鬼侍ちゃんへと近付いて行きました。

 

 

「長期戦は此方に不利だ。一気に勝負を決めたい。()()()()()()()()使()()()()?」

 

「! えっと、あのこからどくりつしてちをすわなくてもできるようになったから、だいじょうぶ! きせきのかいすうにはよゆうがあるから、えんごもまかせて!!」

 

 

 ゴブスレさんからの問いに眉を立てた笑みで返す吸血鬼侍ちゃん。翼に包んだ女闇人さんをお姫様抱っこした立ち姿で万知神(わたし)への祈りを紡いでくれています……ああ^~推しからの祈りが気が狂うほど気持ちええんじゃ^~。……コホン、失礼しました。奉ずる神(わたし)への祈りが鍵となり、盤外を通じて異界の知識へと接続(アクセス)。それは吸血鬼君主ちゃんから独立したことで正式に万知神(わたし)の愛し子となり、吸血をしなくても膨大な魔力(スパチャ)を世界の外から汲み上げることが出来るようになった彼女だからこそ可能な、単独での儀式魔法(Enchantment)の行使です……!

 

 

 

 

 

 

「……!? こいつぁ……!」

 

「力が湧いてきやがる……こりゃチビ助の援護(バフ)か?」

 

「ああ、今なら俺でも普段のお前たちと同等の技量になる。お前たちならそれ以上の効果が有るだろう。……一気に決める」

 

 

 淡い光に包まれた身体を不思議そうに眺める槍ニキに、だんびらの握り(グリップ)を握り直し歯を見せる笑みを浮かべる重戦士さん。そんな2人に並びながら、腰に佩いた"小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)"を抜き放ったゴブスレさんが何処か自慢げに呟いています。キョトンとした顔の2人がやがて爆笑とともに背後の吸血鬼侍ちゃんにグッとサムズアップした後、一斉に醜い獣へと駆けて行きます!

 

 

「ハッ! 急に力が増したからって調子に乗るんじゃねぇぞ!!」

 

「ホレ、追い付けるモンなら追い付いてみやがれ!」

 

「……む」

 

 

 揶揄いまじりの激励?に一瞬硬直するゴブスレさんでしたが、2人が醜い獣へと跳びかかるのを見て無言で後を追っていきました。もしかして、照れてるんですかね? 一緒に≪集団的祝福(Collective Blessing)≫の対象となった牙狩り組もその効果に驚いているみたいです。

 

 

「オマエ……どんだけ隠し玉があるんだよ……」

 

「えへへ……ないしょ! 『きりふだはさきにみせるな、みせるならさらにおくのてをもて』ってかみさまがいってた!!」

 

「うへぇ、性格悪ィ……。まぁ、これなら俺らも攻めに回って大丈夫だろ。良い仕事だぜチビ!」

 

 

 むむむ、失敬な。由緒正しき万知(マンチ)の考えなんですよ? 可能な限り不確定要素を削り取り、有利な条件を整え、急に襲い掛かる不運(ファンブル)に備えるのが、偉大なる上位者≪固定値≫の信者にして骰子(ダイス)に嫌われている我ら『2d6の期待値は3』な民の心得なんですから!

 

 


 

「オラァ!」

 

「そらそらそらッ!!」

 

「……ッ!」

 

 

 斬撃、刺突、殴打……。血刀と母子妖精(K子さん's)による火炎に加え、"生ける風"が持つ邪悪特攻の付与された追う者たち(射撃攻撃)まで加わった怒涛の攻勢。驚異的な耐久力を見せた醜い獣も徐々に動きが鈍くなってきたようです。途中右肩の口から光とともに吐き出された濁液が連撃に夢中になっていた不良闇人さんに命中しそうになり、間一髪吸血鬼侍ちゃんの≪聖壁(プロテクション)≫で防ぐという場面もありましたが順調に削っているみたいですね。……まぁ、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙……」」

 

「だいぶ弱って来たみてぇだな。ったく、初代パイセンの亡骸をボロボロにさせやがって……」

 

「……!? おい、なんか様子が変だ……」

 

 

 一行の連撃に耐え切れず地に伏せる醜い獣。炎によって大剣を身体に括り付けていた革帯に火が点き、膝を着いた衝撃でブツリとそれが千切れ、崩れ落ちた"彼"の眼前へと大剣が突き立ち……。

 

 

 

 

 

 

「ああ、そうか。私は()()大切な仲間を失うところだったのか……」

 

 

 

 ――墓所全体を包み込む眩き光の奔流。輝きの海に呑まれもがくように蠢いていた亡者たちが、次々に安らかな顔で天へと召されていく非現実的な光景。やがて翡翠の輝きは一点へと収束し、そこには先程までとは違い、確かな人間性(ヒューマニティ)を持つ""聖剣の担い手"が、異形でありながらも清廉なオーラを纏った姿で大剣を構えています……。

 

 

「アンタ、意識が……?」

 

「ああ。だがすまない、私を縛る呪いは未だに続いているようだ……」

 

 

 警戒を解かずに槍を構える槍ニキの問いに顔を歪ませて苦笑のような表情を浮かべる聖剣の担い手。その言葉が示す通り大剣を握る手は小刻みに震え、切先を吸血鬼侍ちゃんへ向けようとしています。

 

 

「もう間もなく私の意識は消え、今度はこの聖剣を君たちへと向けるだろう。数多の吸血鬼を滅ぼしてきた月光の刃を、牙狩りの後継たちに使いたくはないのだがね……」

 

 

 大剣を握る巨大な右腕を矮小な左腕で必死に抑え込みつつ、掠れた声で笑う聖剣の担い手。その言葉の裏に隠された意図を汲み取ったのでしょう、少年魔術師君が隠し切れないやるせなさとともに口を開きます。

 

 

「だから、アンタをもう一度殺せって言うのか? 何か他に手があるかもしれないじゃないか!?」

 

「キヒ……青臭く、そして若いな、"生ける風"と共に歩む少年よ。人界に仇なす存在を先んじて滅ぼすのが我らの在り様、私が獣性に呑まれてからでは遅いのだよ……」

 

 

 今この時も、そこの小さな吸血鬼(ヴァンパイア)に斬りかかるのを抑えているくらいなのだから、と乱杭歯の隙間から漏らすように自らを嘲り笑う聖剣の担い手。それでも、と少年魔術師君が反論しようとしたその時、ギリギリ穏やかさを保っていた異形の瞳が真紅に染まりました!

 

 

「オ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

「グゥッ……!? どうやら私の身体を弄んだ輩は、後輩とのささやかな歓談も気に入らないようだ……! は、早く……私が意識を保っている間に……ぐ……ギィ……ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

 

 本能に身を任せるように暴れ出す右肩の口、それに引き摺られるように頭部の瞳も再び蕩け始め、目には獣性が宿り始めています。手を伸ばしかけた少年魔術師君の首を咄嗟に不良闇人さんが引っ掴んで後退しなければ、彼の身体は床のシミへと姿を変えていたことでしょう。悔し気に土煙の向こう側を睨みつける少年魔術師君が見たものは……。

 

 

 

 

 

 

「「グオ゙オ゙オ゙オ゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」」

 

 

 頭部と、そして右肩から生えた口内に蠢く無数の瞳から血涙を流し、両手で月光の聖剣(MOONLIGHT)を構える悲しくも怖ろしい獣が、その身に焼き付けられた吸血鬼に対する殺戮の使命に突き動かされるままに一行へと襲い掛かる姿です!!

 

 


 

 

「速ぇ! 重ぇ!! そして何よりも……上手ぇ!!!」

 

「マズイな……あんだけ超重武器だってのに、攻撃後に隙が見つからねぇぞ!?」

 

「クソが! 副長(傷あり司祭)みてぇな動きしやがって、思い出させんな!!」

 

「俺たちの遠距離攻撃じゃ、牽制にもならないってのかよ……」

 

 

 右腕の時と同様の振り下ろしと薙ぎ払いに加え、聖剣のリーチを生かした突きに柄尻を用いた打突。膂力に任せた力押しではなく確かな『技』を感じる攻撃に、重戦士さんが感嘆の声を上げるのも頷けます。同時に行っている複数の足をフルに活用した狩人特有の歩法(やーなむステップ)は間合いを測る槍ニキの感覚を微妙に狂わせ、一方的な攻勢を維持するのに一役買っているようです。少しでも注意が逸れればと不良闇人さんと少年魔術師君が炎と闇の塊で援護をするものの、あっけなく聖剣で切り払われてしまいこちらも有効とは言えない状態です。

 

 

「ん……だいじょうぶ? まだいたい?」

 

「問題無い、助かった。……だが、厄介だ」

 

 

 お、剣戟を躱した際にやーなむステップに巻き込まれ、右足が変な方向に曲がってしまったゴブスレさんでしたが、吸血鬼侍ちゃんが触手を伸ばして回収し、≪治療(リフレッシュ)≫の奇跡で回復してもらったみたいですね。その場で何度か飛び跳ねて具合を確認しつつ、どう攻めたものかと考えている様子。

 

 

「呪文は何回残っている?」

 

「んと、しんごんが3かいと、きせきがあと2か……あぶない!!」

 

 

 おっと、横薙ぎの一閃で槍ニキと重戦士さんを壁際まで弾き飛ばした聖剣の担い手が眼前に翡翠色に煌めく剣身を掲げ、大技の体勢に移りました! 爆発的な光を放つ大上段からの一撃が向けられているのは、言うまでも無く仇敵である吸血鬼侍ちゃんと、その傍らにいる女闇人さん、そしてゴブスレさんです!!

 

 

 射線上にある全てを飲み込むような月光の奔流。その迫る輝きを見て、抱えていた女闇人さんをゴブスレさんへと託し、2人の前に立ちはだかる吸血鬼侍ちゃん。

 

 

「≪えいちもとめしわがかみよ(叡智求めし我が神よ)たんきゅうのみちさまたげし(探求の道妨げし)かかるきょういを(斯かる脅威を)うちはらいたまえ(打ち払い給え)≫!!」

 

 

 祈りの聖句と共に展開される≪聖壁(プロテクション)≫。しかし何物をも退ける筈の防壁はあっというまに罅だらけとなってしまい、重ねるように張られた2枚目の≪聖壁(プロテクション)≫すらも食い破らんとしています。

 

 あ、ちょっと!? お願いは嬉しいのですがそんな無理したら……! このままでは危険と判断した吸血鬼侍ちゃんが3枚目を限界突破(オーバーキャスト)で唱えることで何とか防ぎ切りましたが……。

 

 

「お、おい貴様。血が……!?」

 

んぐ……。ん、だいじょうぶ。まだまだこれから!」

 

 

 限界突破(オーバーキャスト)の反動でこみ上げてきた血を喉を鳴らして嚥下し、心配そうに声を掛けて来た女闇人さんに無理矢理な笑みを返す吸血鬼侍ちゃん。吸血鬼の能力によって生命力は自動回復しますが、限界突破(オーバーキャスト)の代価である『消耗』は運命力(エッジ)、或いは魂を燃やすのに近い行為。如何に吸血鬼と言えど繰り返せば存在の消滅に繋がりかねません。……あ、口元から赤い一筋を流す吸血鬼侍ちゃんを見て、ゴブスレさんが決断的に立ち上がりました! 竜革の外套を女闇人さんの肩に掛け後方に下がるように告げた後、そっと吸血鬼侍ちゃんに手を伸ばし……。

 

 

「――あまり無理はするな、戦友。俺たちは一党(パーティ)だ、相手がどれ程強大であろうとも、攻略の糸口は必ずある」

 

「――ん、わかった」

 

 

 籠手(ガントレット)越しの不器用な手付き、くしゃりと頭を撫でるゴブスレさんの気遣いを目を細めて受け入れる吸血鬼侍ちゃん。小さな戦友から手を離した【辺境最優】の瞳は、何としても勝利を得るのだという強い意志に満ち溢れています……! 懐から取り出した瓶を手の中で転がしながら、ひとつひとつ確認するように言葉を紡いでいきます。

 

 

「今までの戦いから考える限り、物理的な攻撃は効果が薄いようだ」

 

「そうだね。まほうのぶきでもいまいちきいてないみたい」

 

「お前を狙うのが最優先なのは間違いないが、それ以外に狙われていたのはあの炎術師だな」

 

「けものにちかいそんざいだから、ほのおがきらいなんだとおもう」

 

「現状で火を攻撃に使えるのは、炎術師とお前の血刀、それにアイツの≪火球(ファイアボール)≫。俺も油と火炎壺は持っているが……」

 

「あんなにはやくうごいてたら、あてるのはむずかしいよね」

 

「だが、方法はある」

 

 

 眼前の攻防を見据えながら、視線を交わさずに言葉を交わす2人。聖剣の逆袈裟を後方へ大きく跳躍することで回避した槍ニキが隣に着地するのを見て、入れ替わりとばかりに駆け出しました!

 

 

「時間は稼ぐ、呪文でヤツの動きを止めろ!」

 

「おねえさんのごえいもよろしく~! あ、さわるとしんじゃうからきをつけてね?」

 

「あ、待てコラ! ……ったく、信用されてるってことで良いんだよなぁ……ッ」

 

 

 気を抜けぬ攻防によって消耗し、荒く息を吐く槍ニキ。翼で受け流しながら、或いは無様にローリングを繰り返しながら必殺の一撃を躱し続ける2人を見て、口の端を吊り上げて笑っています。戦闘を見守る裸マントの闇人(ダークエルフ)を一瞥し、彼女の盾となるような位置に動きつつ、魔法の発動体である耳飾りに触れながら呪文を唱え始めます……!

 

 

「≪アラーネア(蜘蛛)≫……≪ファキオ(生成)≫……≪リガートゥル(束縛)≫ッ!!」

 

 

 

 

 

 

「「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?!?」」

 

 

 突然頭上から降ってきた≪粘糸(スパイダーウェブ)≫によって拘束された聖剣の担い手。呪文の有効範囲内には近接戦闘状態の一行もいましたが、互いのサイズ差が仇となり粘体に絡めとられたのは彼1人だけです。ダメ押しの2発目が身体中を覆い隠したところで何とか抜け出そうと試みていますが、本職ではないとはいえ金等級にまで上り詰めた術者の達成値は伊達ではありません。そして、その隙を見逃すほど【辺境最高】の頭目(リーダー)は甘くないのです!

 

 

「うおぉぉりゃぁぁぁああ!!」

 

 

 轟ッ!と風を斬る一閃で、片側2本の馬脚を斬り落とす重戦士さん。効果が薄いとはいえ、超重武器による斬撃は巨体を支えるには細すぎる脚を切断するには十分過ぎる威力です。一撃後に≪粘糸(スパイダーウェブ)≫に絡めとられた愛用のだんびらを惜しげも無く手放し、腰にマウントしていた長剣と円盾に装備を切り替え追撃の構えを取る姿はまさに歴戦のHFO! もう女騎士さん(パラディン)の馬の世話が一番の仕事だなんて言わせませんとばかりの気迫ですね。

 

 

「相手が動かないのであれば、当てるのは容易いことだ。……蛇の目(ファンブル)さえ出なければな」

 

 

 バランスを崩し、突き立てた聖剣にもたれかかるように立つ異形に投げつけられた幾本もの瓶。割れた瓶から零れた油が≪粘糸(スパイダーウェブ)≫へと沁み込むのを見て、空中に待機している吸血鬼侍ちゃんを残し聖剣の担い手から離れるゴブスレさんと重戦士さん。代わりに前へと進み出るのは、現代に受け継がれし牙狩りの末裔である2人です。

 

 

「いい加減楽にしてやろうぜ? クソッタレな死霊術師(ネクロマンサー)に操られる姿なんざ、他の奴らに見せたかねぇ」

 

「わかってる。……少し引っ込んでてくれ、これは俺が自分の意思でやるべきことだから」

 

 

 空中で血刀を胸に突き立て、刀身を形成している吸血鬼侍ちゃんを見ながら自身の愛刀を構える不良闇人さん。少年魔術師君も"生ける風"の2人を送還し、呪文の詠唱を始めました。粘体の隙間から覗く先達の目に微かな人間性を見出し、その忌々しい呪縛から解き放つために、持てる最大火力を発揮せんと3人が覚悟の咆哮を叫びます!

 

 

「ばいばい、ぼくたちのてんてきにして、いだいなるかりうどさん……!」

 

 

「≪カリブンクルス(火石)≫……≪クレスクント(成長)≫……≪ヤクタ(投射)≫ァ!!」

 

 

「燃えっちまいなァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 ――墓所の天蓋を貫き、地表まで達するかのように立ち昇った炎の渦。呪いを燃やし尽くす業火の消えた跡から、微かに聞こえる声。

 

 

「ヒュー……ヒュー……。見事だ、現代の牙狩りたち……!」

 

 

 頭部だけの姿でありながら、未だ死に切れぬ聖剣の担い手。その傍らには寄り添うように月光の聖剣が突き立っています。巻き込まれないように下がっていたゴブスレさんと重戦士さん、それに竜革の外套を肩に掛けた女闇人さんと一緒に槍ニキも偉大なる先達の最期に立ち会うべく彼の下へと集まって来ました。不要な筈の浅い呼吸を繰り返す彼の頬に吸血鬼侍ちゃんがそっと手を触れると、そこから塵のように崩れ去っていきます……。

 

 

「"生ける風"を連れた少年はいるかな? すまないが、もう目が見えなくてね……」

 

「……ああ、いるよ。俺は此処に居る」

 

 

 白く膜の掛かり始めた瞳を動かす彼の傍にしゃがみ、そっと触れる少年魔術師君。血の通った温かな手を感じ、安心したように目を瞑る聖剣の担い手が、掠れた声で告げたのは……。

 

 

「君に、我が師……導きの月光を託そう……。そこの小さな吸血鬼が過ちを犯そうとした時、止める手立てとなる筈だ……」

 

 

 剣に触れ給え、という彼の声に従い、未だ輝きを保ち続ける背丈より大きな刀身に手を伸ばす少年魔術師君。その指先が触れた瞬間、辺りに光が満ち、輝きが収まった後には少年魔術師君の体格に相応しいサイズへとその大きさを変えた月光の聖剣が彼の手の中に在りました。

 

 

「決して血に酔うこと無く、己の信念に従い力を振るい給え。さもなくば、行き着く先は私と同じ、獣なのだから……」

 

 

 そう最後に言い残し、サラサラと崩れ去った聖剣の担い手。完全に灰となった彼の身体はもう二度と弄ばれることは無いでしょう。聖剣を脱いだローブで覆い、しっかりと抱え直した少年魔術師君が、自分を見つめる吸血鬼侍ちゃんに対し決意に満ちた声で宣言します。

 

 

「オマエが間違ったことをしようとするなら、俺は必ずオマエを止める。たとえその隣に姉さんがいたとしてもそれは変わらない。姉さんは、オマエとともに歩むことを決めたんだから……!」

 

「――うん。もしぼくたちがにんげんにぜつぼうして、きばをむけるときがきたのなら……。そのときは、きみがくるのをまってる。……えへへ、きみがとめられなかったら、み~んなごはんにしちゃうからね? あいたっ」

 

 

 牙を見せる笑みでドヤ顔を披露する吸血鬼侍ちゃんの頭に炸裂するげんこつ。続けて伸びて来た籠手(ガントレット)がほっぺたを両側から引っ張り、ドヤ顔を涙目に変えてしまいました。

 

 

「馬鹿言うな、そんときゃまず俺たち金等級に依頼が来るに決まってんだろうが!」

 

「竜に魔神、大物喰いは俺の専売特許だが、吸血鬼殺し(ヴァンパイアスレイヤー)は名乗れねェからな」

 

「…………」

 

「ご、ごめんなふぁい……」

 

 

 からからと笑う槍ニキに神妙な顔で頷く重戦士さん。無言でほっぺたを引っ張り続ける兜の奥には若干の怒りが見て取れます。辺境の最精鋭集団とはとても思えない子供じみた光景には不良闇人さんも毒気を抜かれたようですね。……お、裸身を隠すようにしゃがみ込んでいた女闇人がシュタッと手を上げています。何か言いたいことがあるようですね。

 

 

「……和気藹々としているところ申し訳無い。私の体には未だ呪いが残っているのだが、呪いを解く手段は有るのか?」

 

「もちろん! かたっぱしから≪かいじゅ(ディスペル)≫すれば……あ」

 

 

 途中まで言いかけてピシッと固まる吸血鬼侍ちゃん。どうやら限界突破(オーバーキャスト)が必要なほど奇跡を使い果たしていたことを忘れていたみたいですね。オロオロしていた彼女ですが、ふと何かを思い出したように動きを止め、周りにいる男衆を肉食獣の瞳で見渡しています。……あ、ゴブスレさんが吸血鬼侍ちゃんの考えに思い至ったのか後退りし始めましたね。

 

 

「えへへ……あのね、みんな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゅーちゅーしても、いいかな? いいよね?」

 

 

 

 ぞわり、と背筋に走る生存本能に従い蜘蛛の子を散らすように逃げ出す男たち。蠱惑的な眼差しで迫る吸血鬼侍ちゃんから必死の形相で距離を取ろうとしています。

 

 

「ね、ひとくちだけでいいから! ぜんぜんいたくないよ? むしろきもちいいよ?」

 

「馬鹿野郎、気持ち良いから逃げてんだろうが!?」

 

「みんなのおくさんはこころよくすわせてくれるよ?」

 

「アイツらから吸ってんのは母乳だろ……ハッ、まさか俺たちからも……!?」

 

「ん~……、みんながそっちがいいのなら、ぼくはかまわないけど?」

 

「やめろ。俺はあいつ一筋だ。……血で我慢しろ」

 

「は~い……ちゅー……」

 

 

 ガクガクと全身を震わせながら吸血を受け入れるゴブスレさん。唇に残った血をペロリと舐め取り艶やかな笑みを向けて来る吸血鬼侍ちゃんを槍ニキと重戦士さんが引き攣った顔で見ています。奇跡の回数を補充する為とはいえ、戦闘で昂った身体に腰の抜けるような快楽を叩き込まれたら、男の尊厳が決壊してしまうかもしれないと焦っているようですね。

 

 

 ……あ、するりと首元に抱き着いた吸血鬼侍ちゃんにちゅーちゅーされて、重戦士さんが戦闘中にも見せなかった苦悶の表情を浮かべています。首筋から唇が離れた後に安堵の溜息を吐いているところから察するに、今回も耐えられたのでしょう。一方全速力で逃げ回っていた槍ニキですが、飛行する相手には対抗出来ずあえなくタッチダウン。途中で「あっ」という声が漏れていましたので今回もダメだったみたいです……。

 

 

 辺境三勇士からちゅーちゅーし、満足したように口元を拭う吸血鬼侍ちゃん。不良闇人さんと少年魔術師君の背後で両手で×マークをしている奥様に吸わないよとジェスチャーを返し、ぽてぽてと女闇人さんの所へ帰ってきました。歴戦のHFO3人を瞬殺し笑顔で近寄る吸血鬼侍ちゃんに向けている表情は、畏敬かはたまた呆れなのか。いざ≪解呪(ディスペル)≫を唱えようとした際に彼女の表情に気付いた吸血鬼侍ちゃん。そっと彼女の長耳に口を寄せ……。

 

 

 

 

 

 

「ばんぜんをきすなら、もういっかいぶんふやしたほうがいいかな。……どうおもう?」

 

「ほ、本当に恐ろしいヤツだな、貴様は!?」

 

 

 

 ……さて、召喚儀式は無事に阻止出来ましたし、後は召喚済みの軍勢を蹴散らす作業だけでしょうね。残るは本命である吸血鬼君主ちゃんたちボス部屋特攻組です。実況もだいぶ長引いてますので、いったん休憩を挟んだ後に実況神さんにマイクをお渡ししましょうか。視聴神の皆様も、今のうちにトイレや飲み物の購入を済ませておいて下さいね。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 次が本当のクライマックスになる筈なので失踪します。

 誤字のご報告、毎回ありがとうございます。投稿してから読み直しても自分では気付けないのが不思議ですね……。

 評価や感想、お気に入り登録もお待ちしておりますので、お時間がありましたら是非お願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。
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