ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ   作:夜鳥空

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 雪、積もってたよ……(過去形)なので初投稿です。




セッションその14-10

 ふぃ~……。皆さんの協力もあって、なんとか終わりが見えて来ましたねぇ。

 

 お、新()さん! どうです? 緊張とかは……して無さそうですね! うんうん、良い感じです!!

 

 視聴神さんたちも期待してますし、あなたらしくのびのびとやれば大丈夫ですって!

 

 ……それにほら、老害っぽくてあんまり大きな声では言えませんけど、盤外(サークル)の空気を悪くするのが明らかな困ったちゃんを歓迎するほどメンバーが不足しているわけじゃありませんし、出来れば穏便に帰って欲しいかなって。

 

 いくら決闘(デュエル)で勝てなかったからって、禁止術式(カード)の使用や規約(フォーマット)違反を繰り返す悪質決闘者(デュエリスト)なんて、誰もお友達になりたいと思わないですし。

 

 ……おっと、実況神さんがマイクを持ってきましたね! それじゃ新()さん、ボス部屋組の実況よろしくお願いしま~す!!

 

 


 

 

 ――それでは皆様、最後の組となりましたボス部屋突撃チームの実況を始めさせていただきます。実況は私、最近盤外(サークル)に参加させて頂きました新()がお送りいたします。……やはり気取った口調は私には似合わないね。普段通りの言葉遣いでいかせてもらうよ。

 

 

 さて、各組とも様々なイベントを消化し絆を深めあったり経験値を獲得したりと大盛り上がりだったけど、()に腹パンをかますべく≪転移≫を妨害している拠点を潰して回っている吸血鬼君主ちゃんと愉快な仲間たちはどうだろう? ちょっと現在の様子を見てみようか。覚知神さん、映像をお願いしても良いかな? ありがとう、どれどれ……。

 

 

 

 

 

 

「せぇい!」

「グワー!?」

 

 

「とりゃあ!!」

「グワー!?」

 

 

「とおぉ~う」

「グワー!?」

 

 

「たあぁ~!」

「チッパイロリエルフママカワイイヤッター!!」

 

 

「う、うおりゃ~!?」

「オドオドケイメカクレネクロマンサーカワイイヤッター!!」

「へ、変態だ~!?」

 

 

 

 ……ふむ、ちょうど最後の拠点を護っていた塚人(ワイト)四天王を撃破したところみたいだね。然程精度の高くない複製體(トークン)だったのか、若草知恵者ちゃんと妖術師さんの攻撃に気持ちの悪い断末魔を上げながら倒れるのを見て後方の賢者ちゃんが額に手を当てているね。え、四天王なのに何故か5人いる? そりゃ四天王なんだから5人いるに決まっているじゃないか、常識的に考えて。

 

 

「……いまいち納得しかねるのですが、これで≪転移≫の邪魔をしていた拠点は全て落としたのです。みんな、お疲れ様なのです」

 

「では、補給をした後に首謀者の隠れ潜む場所へ一気に攻め入るわけでございますね」

 

「そうだね! あ~おなかすいた~!!」

 

「うむ、腹が減っては何とやら。戦の前の腹ごしらえだな」

 

 

 更地と化した拠点跡に敷物を広げ、回復用の水薬(ポーション)英雄の聖餐(ヒーローズ・フィースト)の準備をする賢者ちゃんの下へと集まる一行。おなかをおさえて空腹をアピールする勇者ちゃんに若草知恵者ちゃんが魔法瓶に入った蜂蜜と柑橘汁(はちみー)を差し出しているね。ん? ごはんとなれば真っ先に駆け付けて来るであろう吸血鬼君主ちゃんは……おや? 妖術師さんと一緒に何かを拾い集めているみたいだ。

 

 

「んしょ、んしょ……」

 

「師匠、これ何に使うんです? 死霊術の触媒にするには穢れ過ぎていると思うんだけど……」

 

「んとね、いまはまだないしょ。こんどみんなのまえでみせてあげるね!」

 

 

 バラバラに散らばった塚人(ワイト)の骨片を袋に集めている妖術師さんからの問いに、ニッコリと笑みを浮かべながら秘匿を継続する心づもりの吸血鬼君主ちゃん。いつのまにか呼び方が師匠になっているけど、もしかしたら血族(かぞく)になる前準備の一環なのかもしれないね。粗方骨片を拾い集めた後に、賢者ちゃんの呼ぶ声に返事をして2人も食事を開始したみたいだ。

 

 

「うめ、うめ、うめ……」

 

「あ、薄味だけど結構いけるんだね」

 

「でしょ~! あ、これ振りかけるともっと美味しくなるよ!!」

 

「量は多いですがしっかり食べるのです。『備えあれば()()()()』と古代の書物にも書かれているのです」

 

 

 毒、病気、呪い、麻痺、睡眠、石化、精神作用、能力値ダメージ、能力値吸収、そして即死……相手が使用してくるであろう嫌がらせに対策(カウンター)を用意するのは対魔術師戦における基本中の基本、それが界渡り(プレインズウォーク)寸前の大物相手なら猶更というもの。全員が強化(バフ)を受けたのを確認したところで、賢者ちゃんがボス戦にあたっての確認を始めたようだね。

 

 

「――というわけで、序盤は2人に攻撃を任せ、形態移行した後に一気に畳みかけるのです」

 

「りょ~かい! 任せてよ!!」

 

「ふむ、では私はいつも通り後衛の護衛だな」

 

 

 頑張るぞー!と気炎を上げる勇者ちゃんの隣で普段通り涼やかな佇まいの剣聖さん。賢者ちゃんを含め3人に気負った様子は無く、自然体なまま最高のパフォーマンスが発揮出来る状態を維持しているようだね。

 

 

「は~い……んちゅ……ちう……」

 

「ふふ……主さま、そろそろおしまいでございます。それにしても、此度の支援者は随分と気前の良い方でございますね」

 

「そ、そうだね。≪転移≫の巻物(スクロール)だけじゃなく()()()()()まで準備しておいてくれるなんて……」

 

 

 一方でこちらもある意味通常運転の子たち。若草知恵者ちゃんのちっちゃいけど愛情がギュッと詰まったお山に顔を寄せ、ちゅーちゅーと生命の雫を分けて貰っている吸血鬼君主ちゃん。赤ちゃんのように乳輪ごと口いっぱいに頬張り唇と舌で吸い上げるのではなく、乳頭だけを優しく口にして啄むように吸っているみたいだね。愛する主さまの後頭部に手を添え、授乳の補助をしている若草知恵者ちゃんの慈愛に満ちた表情に目を奪われていた妖術師さんだったけど、彼女の言葉で我に返り、()()()()()()について触れてくれているね。

 

 

「今回のように厄介な手合いが相手の場合、大抵そこかしこで恨みを買っていたりその台頭を良く思っていない存在がいるのです。わざわざ浮遊神殿(フロートテンプル)などどいう余人の目に付かない場所に秘匿していたあたり、良い性格をしているのは間違いないのです」

 

「えっと、それはどっちの意味で?」

 

「勿論、両方の意味なのです」

 

 

 いやぁそんなに褒められたら照れてしまうよ。『盤面を操ること(コントロール)』と『人の嫌がることをする(パーミッション)』が大好きな私だけど、最低限のルールは守っているからねぇ。環境(ローテ)が変われば振るえる魔術(デッキ)も変わるし、時には自慢の魔術が禁止される(マロー君が社長室に呼ばれる)こともある。そんなしがらみを受け入れたからこそ四方世界の外側から物語(キャンペーン)を見ることが出来ているのであって、傍若無人に力を振るいたいわけじゃあないんだよ。……まぁ彼にそれが理解出来なかったから、こんなことになったんだけどねぇ。

 

 

 

「……ぷぁ。ごちそうさま、これでじゅんびばんたん!」

 

「では≪転移≫の門を開くのです。環境適応(エンデュア・エレメンツ)をはじめとする極限環境への対策は行っているのですが、油断はしないようにするのです」

 

 

 強化(バフ)の残り時間を確認し、手に持った≪転移≫の巻物(スクロール)を起動する賢者ちゃん。刻まれていた術式が起動し、彼の隠れている空間への門を生み出していく。……ふぅ、万一作成に失敗していたらどうしたものかと思ってたけど、大丈夫だったみたいだね。

 

 

「じゃあみんな、いっくよ~!!」

 

「とっつげ~き!!」

 

 

 霧がかった門の向こうは見通すことが出来ないけれど、それで立ち止まるような一行では無いわけで。斬り込み役である2人が真っ先に飛び込み、後を追うように続く術者たち。最後に剣聖さんが門へと突っ込んだところで、クライマックスの舞台へ視点を切り替えていこう!!

 

 


 

 

 ――≪転移≫の門を抜けた先は広大な異空間。生物の体内を想起させる脈動する肉壁と噴き出る腐汁、そして空間全体に響き渡る囚われし魂たちの苦悶の声。おそらく廃都市の墓所はここをイメージして構築されたんだろうね。対応策を講じていなければ生者は2秒で昏倒してしまうような悪環境の中で、()()は屍をうず高く積み上げて形作られた玉座に腰掛け、招かれざる客たちに憎々し気な視線を向けているね……。

 

 

「来たか、勇者を名乗る墓荒らし共め……!」

 

「来たよ、物語を『めでたしめでたし』で終わらせる為に!!」

 

 

 

 一行を見下ろすように立ち上がる人影。骨だけの姿を闇の衣で覆い隠し、ローブから覗く左手には円盤状の籠手(デュエルディスク)。窪んだ眼窩には怒りと侮蔑、そして隠し切れない焦りの表情。揺らめくような赤の瞳が輝きを放つと、肉壁を突き破って無数の骨が組み合わさって形成された骨の壁(Wall of Bone)が現れて一行の進路を阻むように立ちはだかっているね。肉の無い指先で指し示す相手は一行の中で一番知性を感じる賢者ちゃん。声帯の無い喉から魔力を帯びた声を出し、一行へと呪言を浴びようと試みているのかな?

 

 

「思っていたよりも人数が多いな。力不足を痛感して有象無象を増やしたのか? 無駄なことを……」

 

「まったく、情報収集が足りてない(リサーチ不足な)のです。想定よりも手駒を動員せざるを得ない状況に陥ってなお拠点に引き篭もっているとは、もう少し自分を客観的に見るべきだったのです」

 

 

 まずは軽いジャブの応酬。彼からすれば『勇者』とその一党(パーティ)といえば3人が普通なんだろうか。まぁ時々ソロプレイで魔王を撃破する猛者(も〇も〇)もいたようだけど、『死の迷宮』で一般的となった6人編成は彼にとって違和感があるのかもしれないね。……なに、原典は6人じゃないのかって? そこはホラ、彼は知恵の実(アップル)得られ(持って)なかったんじゃないかな、きっと。

 

 

「まぁ良い。誰も彼も我が前では一個の生命(ライフ1点)に過ぎぬ。勇者であろうとなかろうと、その結末は変わらぬのだからな」

 

「それは此方の台詞だ。貴様は四方世界に湧き出る世界の危機のひとつに過ぎず、これまでのように、そしてこれからのようにただ無為に消えていくだけだ」

 

「その通り! あ、世界の半分とか言われても頷かないからね? この世界はお前のものなんかじゃないもんね!!」

 

 

 生命を軽んずる彼の台詞に溜息を吐き、一行に共通する本心を吐露する剣聖さん。彼女の言う通り、()()()の世界の危機は日常茶飯事。失敗すれば世界が滅びるだけでそんなのは普段と変わらないのだから。一行の淡泊な反応にギシリと拳を軋ませる彼にトドメを刺すように、吸血鬼君主ちゃんが一歩進み出て……。

 

 

 

 

 

 

「そのてにつけてるやつ、ひょっとしてネクロディスクのつもり? ぜんぜんにあってないよ?」

 

「貴っ様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 最高にクールな煽りをかまし、彼をブチキレさせることに成功した吸血鬼君主ちゃん。「()()()()()()()ときはもっとかっこよかったもん!」と追撃までキッチリ決めて上手くヘイトを集められたみたいだね。……まぁ本当は儀式魔法(エンチャント)呪物(アーティファクト)連携技(コンボ)のことなんだけど、相手に通じているから問題無いよね!

 

 

「雑魚と捨て置いていれば調子に乗りおって!! 輪廻の輪に戻ること敵わず、この閉じた世界で永劫の苦痛にもがき苦しむがいい!!」

 

 

 彼の怒号に呼応するように出現した無数の触手。人間の胴回りを超える太さのそれが一斉に卑猥な鎌首をもたげたところで戦闘開始だ!!

 

 

 

 

 

 

「屑どもが、我が魔術の前にひれ伏すが良い!!」

 

 

 火と氷、風の刃と巨岩の礫、あらゆるものを焼き尽くす無尽の光と全てを飲み込む無限の闇。矢継ぎ早に繰り出される呪文(スペル)に対し、的確に相殺を取り続ける賢者ちゃん。その余波に足を取られながら術者へと突き進む勇者ちゃんと吸血鬼君主ちゃんを援護するように後方から斬撃が飛び、邪魔をせんと立ちふさがる触手の群れを吹き飛ばしているね。時折向けられる石化の呪いを予めかけていた強化(バフ)で凌ぎ、アンデッドを滅ぼす聖なる一撃を叩き込むべく疾走する2人。

 

 

「あばれんな、あばれんなよ……!」

 

「なにそれ、変な言い回しだなぁ……っしゃい!!」

 

呪文遣い(スペルキャスター)決闘(デュエル)に横殴りとは、いよいよ以て度し難い! 叡智を知らぬ愚か者がッ!!」

 

 

 のたうち回る触手を吸血鬼君主ちゃんが引き受け、勇者ちゃんがその手に握る愛剣を一閃! 呪文の詠唱を中断し杖で受け止めた彼が忌々し気に叫ぶ声をさらりと聞き流しながら連撃を繰り出しているね。そこに触手を始末した吸血鬼君主ちゃんも加わり、ヒヒイロカネの輝く軌跡を描きながら呪文を唱えさせないよう攻め続けているけど……。

 

 

「ええい鬱陶しい! 吹き飛べ蛮族共!!」

 

 

 彼を中心に発生した負の魔力の爆発によって一挙手一投足の間合い(エンゲージ)から吹き飛ばされる2人。その隙を逃さず繰り出した即死呪文が無効化されたのを見て、どうやら一行が強化(バフ)ガン積みなのに気付いたようだね。人骨で作られた杖を向けて彼が唱えるのは、全ての呪文を打ち消す現在では失われた秘奥……!

 

 

「≪マグナ(魔術)≫……≪レモラ(阻害)≫……≪レストィンギトゥル(消失)≫ッ!!」

 

「うげ、せっかくかけてもらった強化(バフ)が!?」

 

「ぜんぶきえちゃった……」

 

「あらゆる魔術の効果を消し去る魔術の真髄、失われし叡智の恐ろしさを知るが良い!」

 

 

 指先から迸った凍てつく波動によって強化(バフ)を打ち消され、驚いた()()の2人を嘲笑いながら杖を持つのとは反対の手を突き出し、何かを潰すように拳を握りしめる彼。手を向けられていた勇者ちゃんの前に割り込んだ吸血鬼君主ちゃんが、()()()()()()()のを見て勇者ちゃんがギリっと歯を食いしばっている。≪対抗呪文(カンスペ)≫効果範囲外にいた4人が駆け寄ろうとするのを後ろ手で制し、視線を外さずにゆっくりと地に伏した吸血鬼君主ちゃんを庇う位置に移動しているようだ。

 

 

「まずは1人。呆気ないものだな、定命の者(モータル)というものは」

 

「……この子に何をした?」

 

「フン、その身に似合いの()()()()()()()()()()()()()()()だけよ」

 

 

 1つの生命を握りつぶしたことになんの感慨も浮かばないとばかりに笑う彼、しかしそんな余裕は勇者ちゃんの言葉によってあっけなく崩れ去ってしまうわけで……。

 

 

 

 

 

 

「なぁんだ、じゃあなんの心配もいらないね!」

 

「と~ぜん! しんぞうなんて、もとからうごいてないもんね!!」

 

「んなっ!?」

 

 

 滑るように接近してくる勇者ちゃんの影から何事も無かったかのように姿を現し、触れ合うような距離まで接近してきた吸血鬼君主ちゃんに驚愕の顔を向ける彼。その怯みは致命的であり、繰り出された二刀の斬撃によって跡形も無く消え去る羽目になったのは当然の代償と言えるだろうね。

 

 

「お、のれぇぇぇぇぇ……ッ!?」

 

 

 恨みがましい声を残して消滅した彼に釣られるように、動きを止める触手と骨の壁。しかしそれに油断することも無く、警戒を解かずにいる一行に業を煮やし、再び彼の声が醜悪な空間に響いて来たね……!

 

 

「少しでも可愛げというものを見せたら楽に死なせてやったというのに……」

 

「いいからさっさと出てくるのです。もったいぶったところで結末は変わらないのです」

 

「……フン、くだらぬ挑発に乗ってやるとするか!」

 

 

 嘲りまじりの賢者ちゃんの挑発に応えるように姿を現した彼の威容……肉膜を突き破って現れた金輪を持つ左右の手が勇者ちゃんと吸血鬼君主ちゃんを握りしめ、ズルリと這い出て来た上半身は拘束された2人が盤上遊戯の駒にしか見えない程の大きさ。巨大な王冠を戴いたあの姿が、彼……塚人覇王(ワイトキング)の真なる姿のようだね。

 

 

「よくぞ我が真なる姿の存在に辿り着いた。称賛をくれてやろう」

 

「結構。お前のような存在が何の策も無しに姿を見せるわけが無いのです。どうせまだ生命のストックは持っているのです」

 

「……貴様、我が不死の秘密に気付いているのか!?」

 

 

 賢者ちゃんの反応の薄さに気味悪がっていた塚人覇王(ワイトキング)、彼女が彼の不死の秘密を知っていると気付いて空間を震わせるような唸り声を上げているね。……まぁ、その辺の秘密はぜ~んぶ私が紙片(ハンドアウト)(したた)めて、巻物(スクロール)魔法の道具(マジックアイテム)と一緒に浮遊神殿(フロートテンプル)に用意しておいたんだけどさ!

 

 

「だが、気付いたところで何とする! 複製體(トークン)を作るのにいささか消費したとはいえ、永き時の間に蒐集した生命(ライフ)は優に万を超える数。先程の一撃で消費した生命も僅かに1人分()、あと何度繰り出せるかな?」

 

 塚人覇王(ワイトキング)の嘲笑に呼応するように響く幾千幾万の嘆きの声。彼に生命を奪われ、輪廻の輪に戻ることすら出来ずただ消費されるのを待つだけの哀れな魂の叫びが空間中に木霊しているね……。

 

「更にだ、念には念を入れて、貴様よりも先に此方の2人を始末してやろう。後ろで蹲っているどちらの死霊術師(ネクロマンサー)従僕(ペット)か知らんが、当代の勇者と共に口から内臓を溢れさせて無様に壊れるさまを見ているがいいッ!!」

 

 

 そう言い放ち、骨の巨腕に力を込める塚人覇王(ワイトキング)。拘束された時に備えてかけてあった強化(バフ)である移動の自由(フリーダム・オヴ・ムーヴメント)を失い、もはや2人には為す術など残っていない……!

 

 

 

 

 

 

 ……なーんて、彼は思っているんだろうねぇ?

 

 

 

「――この()をはなせ」

 

「フン、何を馬鹿な……!?」

 

 

 吸血鬼君主ちゃんの呟きを命乞いと思ったのか、嘲笑を返す塚人覇王(ワイトキング)の表情が驚愕に変わっていくね。彼の意思に反するように握りしめられていた両手がゆっくりと開き、その隙間から華麗に着地する2人。ぶよぶよとした床に着いた吸血鬼君主ちゃんの腕は黒く硬化したものに変化しているね。まったく、目の前の事態が信じられないような顔をしているいるけど……全部事前の情報収集(リサーチ)をしていれば判ったことなんだよ?

 

 

「――その()はいらない。ばいばい」

 

「わ、我が腕がバラバラに……何故だ、何故再生しない!?」

 

 

 続けて囁かれる吸血鬼君主ちゃんの言葉に従うように、音を立てて崩れ落ちる一対の巨腕。肩口から先を失い、頭部と上半身だけの飢者髑髏(ガシャドクロ)に成り果てた巨体が右往左往する姿は滑稽極まりないけれど、当人はそれどころじゃないんだろうさ。さて、察しの良い視聴神のみんなはもう判っているね? 一体どんな原理で巨腕の拘束から逃れ、果ては分解まで引き起こしたのかってことはね?

 

 

 

 

 

 

「たしか、収穫祭の日に闇人(ダークエルフ)が持っていたんだったかな?」

 

「はい。百手巨人(ヘカトンケイル)を召喚する触媒にして、その権能を秘めた特級の呪物。あの子の身体を構成する一部となった『手』を支配する力の一端なのです。通常の人型相手では大した効果は無いのですが、召喚と制御の対象であった()()()()()()()()であればその影響力は絶大なのです」

 

 

 流石賢者ちゃん、バッチリお見通しだねぇ。彼女の推測通り、吸血鬼君主ちゃんの身体を再構成する際に取り込まれた『手』の呪物。アレが塚人覇王(ワイトキング)の拘束から逃れ、その制御を奪い取った決め手というわけだね。

 

 

「おのれ……一体の人形にどれ程の資源(リソース)を投入したのだ。まったくもって非効率極まりないぞ!?」

 

「? ぼくはにんぎょうじゃないよ? デイライトウォーカー!」

 

「……は?」

 

 

 あ、巨大な顎がカクーンと落ちたね。吸血鬼君主ちゃんの存在を知らなかったってことは、やはり複製體(トークン)には情報の送受信機能を付けていなかったんだろうね。大方自分の所在(アドレス)が割れるのを防ぐつもりだったんだろうけど、それが今回は裏目に出たわけだ。……そして、それこそが彼の敗北の原因となる。

 

 

「やれやれ、視覚が魔法的なものしかないのも考えものなのです。どうせ魔力量だけで判断して、こちらの切り札を雑魚と侮っていたのです」

 

「……? なんだ、何を言っている?」

 

 

 クソデカ溜息とともに首を左右に振る賢者ちゃんに訝し気な視線を向ける塚人覇王(ワイトキング)。お前の敗因を教えているのですという彼女の言葉を笑い飛ばそうとした刹那、自分の身に何が起きているのか漸く気付いたようだね。

 

 

「ガ……ッ!?」

 

 

 肉壁に覆われた空間を震わせる一際大きな鼓動。ドクン、ドクンという震動とともに崩れていく空間をただ呆然と眺める塚人覇王(ワイトキング)。内臓を思わせる罅割れた肉の隙間から次々と貯め込んでいた魂が飛び出て来るのを見て、漸く自分の身に何が起きたのか理解したようだねぇ。後方で蹲っているばかりと思っていた2人こそが、無尽蔵の命のストックを持つ自分を滅ぼす存在だということに!

 

 

 

「――ええ、永い間、良く耐えて来られました。彼の死霊術師(ネクロマンサー)に隷属する時は終わったのです」

 

「うん、うん、わかるよ。辛かったよね。……アイツを滅ぼすのにみんなの協力が必要なんだ。まだ躊躇っている魂も説得するから、一緒に手伝ってくれる?」

 

 

 腐肉の床に手を置き、目を瞑ったまま誰かに語り掛けるように言葉を紡ぐ若草知恵者ちゃんと妖術師さん。2人の周りには肉壁から抜け出して来た魂が集まり、喜びと悲しみ、そして怒りがない交ぜになった強い感情を表すように輝きを放っているね。まさか、という塚人覇王(ワイトキング)の呟きを肯定するように賢者ちゃんが無慈悲に告げるのは……。

 

 

「死せる者との対話は善き死霊術師(ネクロマンサー)にとって必要不可欠な素質。そして、自らの未練を晴らすために力を行使する死霊術師(ネクロマンサー)に力を貸すことを躊躇う魂もまたいないのです。ただ魂を己が生命と魔力の資源(リソース)としか考えていないお前には未来永劫理解出来ないのです」

 

「グ……オォッ……ま、まだだ、まだ全ての魂が逃げたわけではない!」

 

 

 全身に走る罅割れから漏れだす魔力を無理矢理留めながら最後の悪足掻きを企む塚人覇王(ワイトキング)。「死」を恐れ、「死」から逃げるために他者の生命を奪い、「死」を超越した存在になるために四方世界の外を目指したその妄執を呪文に昇華し、盤外から力を呼び込もうとするその気概は素晴らしいと思うけど……。

 

 

「我が生命を代価に、偉大なる≪死≫に乞い願う! 我が覇道を阻まんとする蛮族を焼き尽くす、紅蓮の焔を呼び起こし給え!!」

 

 

 先程まで腕に嵌っていた腕輪に輝く緑の宝石(Mox Emerald)と、王冠に咲き誇る睡蓮の花弁(Lotus Petal)が散り際に生みだした魔力(マナ)を呼び水に、己の生命力を限界まで注ぎ込むことで形成した盤外からの魔力の導線(Channel)。虚ろな口腔に生みだした火の玉(Fireball)に全てを込め、眼前の敵を滅ぼさんと吠える塚人覇王(ワイトキング)。その魔力が解放されれば空間ごとすべてが焼き尽くされてしまうのは間違いないだろうね。

 

 

 

 ――注ぎ込む魔力があればの話だけれども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故だ、何故我が祈り(Channel)が届かない……?」

 

 

 

 うん、すまない。その祈り(Channel)決して届かない(禁止カードな)んだ。

 

 

 頼りなく燃えていた口内の火が消え、同時に崩れ落ちる巨大な飢者髑髏(ガシャドクロ)。巻き上がる塵芥が一行の視界を遮り、その後彼女たちの目に映った光景は、一面を灰色の砂で覆われた荒涼な砂漠と、腰から下を失いながらも必死に這いずって一行から離れようと藻掻く塚人覇王(ワイトキング)の小さな姿のみ。彼がその身に取り込んでいた魂たちはみなあるべき場所へと還り、後はケジメをつけるだけというところだね……。

 

 

 

「ガハァ、ハァ、ハァ……!?」

 

 

 この場から逃げることさえ出来れば再起は可能だという一心で、腕の力のみで逃亡を図る彼の目前に降り立つ小さな姿。這い蹲った姿勢から見えるのは、先刻矮小だと嘲笑っていたデイライトウォーカーの肌も露わな2本の足。それに沿って視線を上げる彼の目に飛び込んで来たのは……。

 

 

「ヒィ!? な、なんだその悍ましい()()は!?」

 

 

 黒い粗末なキャミソール一枚の服装に、顔を隠す奇妙な紋様の刻まれた。そしてその小さな背に担がれた不釣り合いなほど大きな車輪。その回転に合わせて聞こえるのは、落とし切れぬ血痕とともに染み付いた犠牲者たちの苦悶の声……。

 

 

「や、やめろ、やめてくれ……ッ!?」

 

 

 命乞いをする彼の声に応えることも無く、車輪を回す吸血鬼君主ちゃん。サイレンにも似たその回転音に惹かれるように集まって来たのは、家族や仲間、大切な人を消費され、輪廻に還るよりも復讐を望む魂たちのようだね。吸い込まれるように車輪の中へと彼らが消え、歓喜にも似た呻き声が一層高まったところで彼に視線を向ける吸血鬼君主ちゃんの返答は……。

 

 

 

「――おなじことをいったみんなに、おまえはどんなへんじをしたの? ぼくのこたえは、それとおんなじ」

 

 

 聞く耳なんぞ持たない。言外にそう言い放ち、彼女は躊躇うこと無く車輪を彼へと振り下ろし……。

 

 

「ギャアアアアアアアアアア!?!?」

「オオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 車輪の回転に身体を砕かれ、削ぎ落とされ、少しづつ小さくなっていく塚人覇王(ワイトキング)。その断末魔の悲鳴に交じって、怨敵が滅びるさまを見て歓喜の声を上げる魂たち。やがて彼の声が聞こえなくなったところで車輪の回転が止まり、犠牲者たちも満足したように再び眠りについたみたいだね。

 

 

 

 

 

「こ、これで終わったの?」

 

「とりあえず首謀者は仕留めたのです。後は残敵掃討ですが、おそらく他の組が既に動いていると思うのです」

 

 

 へなへなと座り込む妖術師さんの呟きに律儀に返事する賢者ちゃん。切り札である死霊術師(ネクロマンサー)2人に被害が及ばぬよう呪文を相殺し続けていた彼女は剣聖さんと並んで隠れたMVPだね。最大戦力である勇者ちゃんを露払いに用いることに不安はあっただろうに、それをおくびにも出さず彼との舌戦に勝ったのは流石と言えるだろう。

 

 

「よっと、ただいま~!」

 

「お帰りなさいませ。主さまもお怪我はありませんか?」

 

「ぴんぴんしてるよ~!」

 

「そうか。……ならまず服を着たらどうだ?」

 

 

 お、小脇に吸血鬼君主ちゃんを抱えた勇者ちゃんも戻って来たね。手に小さな袋を持っているのを見ると、塚人覇王(ワイトキング)の骨片も拾い集めていたのかな? 手渡しで受け取った吸血鬼君主ちゃんからを脱がし、顔色などを確認して安堵の表情を浮かべているようだ。愛刀を納めた剣聖さんがキャミソール一枚の姿を見てはしたないと頭を抱えているけど、あれが正装らしい(地底人スタイルだ)から仕方ないんじゃないかな。

 

 


 

 

「それじゃあ、みんなを回収しに出発だ!」

 

 

 負傷の確認とドロップ品の回収などを済ませ、そろそろ戻るつもりな一行。吸血鬼君主ちゃんは脳内通信で吸血鬼侍ちゃんと連絡を取り合い、合流場所を教えてもらっているみたいだね。

 

 

「はぁ……誰か他に≪転移≫の呪文を覚えて欲しいのです。結局全部の箇所を回らなければならないのです……」

 

「まぁそう言うな。鏡の併用でずいぶん楽になったのだろう?」

 

 

 ああ、鏡の呪物を利用した≪転移≫システムは、銀髪侍女さんと賢者ちゃんだけが全容を知っているんだったか。ダブル吸血鬼ちゃんや剣の乙女ちゃんはあくまで利用権を貸与されているだけだものね。大きな事件になって動員数が増えるほど彼女の負担も大きくなるし、これは何らかのテコ入れが必要かもしれないね。……おや?

 

 

「あ、あれ? 師匠、どうしたの!?」

 

「……ふぇ?」

 

「主さま、涙が……」

 

 

 慌てた様子の2人に指摘されたことで気付き、零れる涙を不思議そうに拭う吸血鬼君主ちゃん。後から後から流れるソレの理由が判らず首を傾げているようだね。

 

 

「なにか、異常でも感じたのですか?」

 

「ううん、ぼくはなんにもへんなところはないよ。……でも」

 

 

 普段の白装束に戻っていた吸血鬼君主ちゃんが胸元を抑えるように拳を握り、切なそうな顔になったのを見て、すわ何事かと周囲に集う一行。不意に顔を上げた吸血鬼君主ちゃんが零したのは……。

 

 

 

 

 

 

「……けんぞくのだれかが、こころのなかでないてるきがする」

 

 

 

 ふむ、どうやら女魔法使いちゃんの件が何らかの理由で「親」である吸血鬼君主ちゃんに伝播したみたいだね。とはいえ、彼女たちの夜の関係について私は然程詳しいわけでは無いし、そも心の機微なんてのは私にとって専門外だからねぇ。後はいつもの実況神さんに丸投げして、私の実況はここまでにさせてもらうことにするよ。次回は騒動の後始末とリザルトになるだろうから、視聴神のみんなは期待して待っているといい。……ああ、全裸待機は止め給えよ? 初心な≪幻想≫さんが真っ赤な顔で困っていたからね?

 

 

 では、今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 





 やっとセッションの終わりが見えたので失踪します。


 感想いつもありがとうございます。次話のネタが湧いて来たり、そんな展開もありだなという選択肢が浮上することがありますので、お時間がありましたら頂けますと幸いです。

 評価やお気に入り登録もお待ちしておりますので、宜しければお願いいたします。



 お読みいただきありがとうございました。


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