ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ 作:夜鳥空
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「ぼかぁねパイセン、2人のことは大好きだし、傷つけたくないと思ってるよ? だけどさぁ、毎晩毎晩(呪文回数が)枯れるまで(真言の単語発動練習に)付き合わされるのは辛いんだよぉ」
「2人とも、まだ、(単語に込める力の)加減が、わからなくて、独りよがりに、なってるのね。慣れれば、もっと、(魔力の通し方が)馴染んでくると、思うわ、よ?」
(
監督官は激怒した。必ず、かの
朝の受付ラッシュも落ち着きを見せ、後輩が休憩に出ている間代わりを引き受けている監督官の耳に飛び込んできたのは、受付そばのテーブルで繰り広げられる圃人としても小柄な少女と艶のある蠱惑的な女性の
特徴的な話し方をしているのはこの支部に所属する銀等級のひとりである魔女。依頼に対する取り組み姿勢も真摯であり、危なっかしい後輩たちへの指導も行っている優秀な冒険者。
それに相対しているのは近年稀に見る問題児。冒険者に困惑を、ギルドに疑惑を、そして監督官に奈落と娯楽を齎した災厄の化身。
監督官は嘆く。あぁ至高神さま。彼女、吸血鬼侍と関わったのが間違いだったのでしょうか……と。
「あの、先輩。ちょっと良いでしょうか?」
冒険者ギルドへ新人が多く訪れる春先、まだ固さが抜けきらない後輩が困惑した様子で相談してきたのがそもそもの始まりであった。
彼女が担当していた窓口に目をやれば、そこにはまだ成人前にしか見えない1人の圃人の少女の姿。恐らく彼女が用意したのであろう踏み台に乗って窓口に置かれた手紙を興味深げに眺めている。
「あの子、水の都で登録した白磁みたいなんですけど、あっちの至高神の神殿の封蝋がされた
なるほど、自分では判断がつかないから相談というのは良いことだけれど、その手紙を見える状態で置きっぱなしなのは如何なものかしらね? そう監督官が指摘すると、慌てて彼女は手紙を取りにとんぼ返り。手紙を見ていた圃人の少女がその勢いに酷く驚いているのが見えた……。
後輩が回収してきた手紙。封蝋は神殿のもので間違いはないようだ。それで、一体どんな内容なのだろう。監督官は手紙を読み進めた。
「うそ、これ本当?」
監督官は困惑を隠せなかった。そこに書いてあったのはどうにも信じがたい来歴。外見にそぐわない従軍経験は百歩譲ってまだ良いが、半吸血鬼、しかも堂々と吸血すると書いてあるとは……。
「何処かで偽造されたものや、或いは手紙自体が盗難に遭ったものだったりする可能性はどうでしょう?」
「あの子が半吸血鬼であるっていうことよりは可能性が高そうね。悪戯にしては迷惑なものだから、後で向こうのギルドに問い合わせてみましょう。とりあえずそれっぽく対応してあげなさい」
そう告げると、わかりました先輩! と言って受付に戻る後輩。何故か彼女は例の圃人におくちあーんをさせている。監督官は思う。違う、そうじゃない。
受付が終わった後、横目で様子を見ていた監督官、暫しの後、依頼ボードの前でウロウロしていた神官の女の子と2人して3人組の白磁等級冒険者に声をかけられているのが見えた。どうやら頭目らしき青年剣士の発案でゴブリン退治の依頼を受けることにしたらしい。白磁等級5人でゴブリン……。後輩も心配そうに見ているが、果たして何人無事に戻ってくるのか。ギルドでは日常的な光景とはいえ、ままならないものだと監督官は思った。
後輩が後詰として銀等級冒険者、ゴブリンスレイヤーを送ったのが幸いしたのか、全員無事だった。だが様子がおかしい。
青年剣士と女武闘家は完全に心が折れていると一目でわかった。あの2人は多分冒険者を続けることは出来ないだろう。
女魔法使いと女神官は、疲弊はしているけれど目は死んでいなかった。2人は運が良ければしばらく冒険者を続けられるかもしれない。
そして半吸血鬼侍を名乗る圃人の子……。アレはなんだ?
散歩帰りのような表情で後輩のお気に入りの
監督官は胸中に沸いた疑念を払拭出来ず、支部長に掛け合って特別室の手配をした。本来は事件の参考人や不正行為を行った冒険者を保護ないし隔離するときに使うものだが、無理を言って許可を得た。他の冒険者とは同室にならず、大部屋を希望していたのは好都合。後輩に手筈を伝え、上手く誘導して個室に泊まらせることに成功した。
翌日、監督官は夜通し個室を見張っていた担当の報告に絶望していた。
書類内容が出鱈目なら最良、事実なら許容。だが現実は最悪。半吸血鬼だとしても支部内で騒ぎになる事は間違いないというのに、よりにもよって吸血鬼! 混沌に属する種族の中でも危険度が非常に高い存在だ。しかも陽光を浴びても活動するデイライトウォーカー!? もしその話が真実だとしたら、神殿もギルドも混沌の手に落ちているのではないだろうか? まさか、あの剣の乙女さえも吸血鬼の毒牙にかかっているとしたら……?
疑念を解消するため、監督官は水の都のギルドと至高神の神殿に半吸血鬼を名乗る冒険者の情報開示と、
やはりアレはおかしい。白磁等級が収入と功績を得る方法は少ない。その半数を占めるのが下水関係の依頼であるが、あの圃人は下水の依頼を達成した試しがない。後輩もあきれた様子で注意していたが、下水には河童なる怪物がいて、近付くと引きずり込まれるから上手く活動できないと主張しているそうだ。只の圃人ならば特有のユーモアか虚言癖だろうで片付くが、監督官の視点からは怪しさしか感じられない。
また、白磁とは思えない技能を有していることも判明した。難度の高い真言呪文とされる≪分身≫を当たり前のように使い、生み出した分身にひたすらゴブリン退治をさせている。時には野盗や
本体はといえば、白磁冒険者を引き連れて自主訓練に励んでいるようだ。何処か運動に適した場所はないかと聞かれたときは後ろめたさから動揺が表に出てしまったが、かつて捨てられた村の跡地を紹介しなんとかその場は誤魔化せたと思う。
追記:ゴブリン退治を共にした女魔法使いとの仲が妙に良いように感じられる。女神官や新米聖女には年相応?な反応を見せているが、彼女と2人きりの空間は何かが違う。
真剣な眼差しで取り組む魔法の座学、共有スペースでの盤上遊戯、軽食を楽しむ昼下がり。
何故か目を離せないその光景に、監督官はより一層の注視を決意した。
水の都のギルドと至高神の神殿、双方から返信が届けられた。便の都合なのは承知しているが、こうもタイミングが同時だと作為的なものを感じてしまう。
意を決して封を切る。そこに記されていたものは、海千山千の冒険者を相手取り一歩も引かない監督官すら顔を青褪めさせる内容だった……。
厳重な封蝋のされた外包み。それを開いた中には質の良い羊皮紙に書かれた申請却下の文面。
それだけならばまだ良かった。却下理由に記された言葉こそが監督官の身を竦ませたのだ。
ギルドと神殿。書いた人物は違えども、ご丁寧に責任者の直筆署名入りで書かれていたのは
の四文字。そのそっけなさに込められた意味を読み取り震える手。そこから滑り落ちた神殿からの外包みを慌てて拾い上げる監督官は気付いた。まだ中に何かが入っている!
それは申請却下の通知書とは違い、脆く破れやすいパピルス紙に認められた手紙だった。
宛名は監督官。署名は剣の乙女。文体と比較するに恐らく直筆であることが監督官には判った。
読み終わったら直ぐに焼き捨てて欲しいという言葉から始まる手紙は、最早監督官の常識を超える内容であった。
「死の迷宮」奥深くに暮らす
人類の刃として闇に潜み混沌の勢力と闘う10年の歳月。
辺境で蔓延るゴブリン禍に対抗するための、身分を偽っての出奔。
どうか、
多種族で構成された銀等級冒険者が
支部の見解として、吸血鬼侍はこのまま半吸血鬼侍として取り扱うことに決定した。「六人の英雄」の1人である剣の乙女の意見に背くことほど、愚かなことは無いのだから。
数日後、森人の操る馬車に乗って一党が帰ってきた。相応に疲弊しているようだが全員無事だ。白磁の3人もなんとか生き残ったようだ。
ゴブリンスレイヤーが後輩に依頼の報告へ向かうのを眺めていると、監督官は不意に自分を呼ぶ声に気付いた。顔を向けるが誰もいない。ふと下を見ると、そこには踏み台が無いため顔が出せていない半吸血鬼侍がいた。不意に高鳴る心臓を落ち着かせつつ、踏み台を用意し要件を聞けば、冒険記録用紙に記載ミスがあったらしい。記載ミスどころか殆ど嘘じゃねえかと思ったが、手続き的には白磁のうちに言い出してくれて良かった。等級が上がってからの用紙の修正は経歴詐称に繋がりかねないため、支部長の承認が必要となり手続きが面倒なのだ。
用紙を差し出せば、サラサラと流麗な筆致で修正を書き込んでいる。文体が明らかに違うので、やはり用紙は水の都のギルドで作成されたものだったのだろう。
書き終わったのか、満面の笑みで帰された
ふと気が遠くなり、気付けば首根っこを掴み上げて
後輩曰く、あれほど怒ったのを見るのは
別室送りにした半吸血鬼侍の査問会を翌日に控えた日、アレを訪ねて森人がギルドにやってきた。身体の調子が悪いのか何処か億劫そうに椅子に座る彼女に具合を聞いたら、数日前までゴブリンの巣で暮らしていたもので、と返された。
死を待つ身だったところを彼女に救われ、先行して集落へ帰る際ゴブリンの群れに襲われた時も彼女の分身に助けられたのだという。中身はまだだけど、ガワは彼女に癒してもらったのさと笑う姿は、正視するにはあまりにも痛々しいものだった。
明日査問会を控えているので面会は出来ないと監督官が告げると、それは彼女が吸血鬼だからかい?と返される。まさか、知っていたのか!?
「彼女に教えてもらったよ。それを踏まえた上で、彼女に礼が言いたいんだ」
あと、登録票をゴブリンに取られたから再発行も頼むよ。という言葉を辛うじて拾いながらも、監督官の胸中は混乱を極めていた。
査問会当日。会場には支部長と監督官、そして立会人として槍使いを招集している。彼には
終わってみればあっけないものだった。
半吸血鬼……いや、吸血鬼侍は呆れるほどの善性であり、どうしようもないほど空気が読めない人物だった。秘匿という言葉を知らず、監督官の問いにはすべて真実で答え、隠すことなど何もないという姿勢。支部長は途中から真っ白に燃え尽き、彼を挟んで反対側に座っていた槍使いの顔色が七色に変化するのは見ていて楽しかった。
受付で白磁3人の昇進が待っていることを告げ退室を促すと、彼女は優雅に一礼して部屋を出て行った。3人、いや、隠し部屋から出てきた魔女を合わせて4人の口から同時にため息が漏れる。
「なあ、まさか本気で銀等級2人で吸血鬼を抑え込めると思っていたのかよ?」とジト目で見てくる槍使い。監督官は手当ての割り増しを約束し、支部長の髪は薄くなった。
「でも、彼女、いい子、よ」と呟く魔女の声だけが、ほんの少しの3人の慰めだった。
「まーた先輩のところで邪魔して!さっさと準備してゴブリン退治に行くわよ!」
「やはりおっきいのが好きなんだね。私ももう少し頑張らないと」
監督官が書類を書き上げた頃、女性の声が彼女の耳に入る。少々キツめの声が女魔法使い。何処かズレた発言をしているのが森人狩人。どちらも吸血鬼侍と同じ一党だ。
等級でいえば青玉等級である森人狩人が頭目になるのだろうが、彼女は一貫して吸血鬼侍を持ち上げている。物理的にも。若干依存の傾向がみられるが、事情が事情だ。止めるのは少々酷だろう。
女魔法使いもギルドに来た当初の高慢さは抜け落ちて、良い意味で泥臭い冒険者になったと監督官は思う。下手を打たなければ鋼鉄等級への昇進もすぐだろう。
そんな2人に片腕ずつ抱えられた吸血鬼侍。両側に引っ張られた瞬間に分身して2人になるのは最早芸風の域に達している。魔女に手を振って挨拶をしつつ、それぞれ相棒に抱きかかえられながらギルドの外へと去っていった。
その様子を眺めつつ、監督官は森人狩人が残した台詞を思い出す。吸血鬼侍は面倒見は良いが、女神官や見習い聖女、妖精弓手への対応と、一党の2人や魔女に対する接し方が違う気がする。
前者には手のかかる妹に対する姉のような接し方。後者には何処か甘える、庇護心をくすぐる妹のような言動。だが森人狩人の表情は姉というよりは彼氏の
「先輩もどりましたー! あれ、先輩それ何を書いてたんですか?」
後輩の声に驚き我に返る監督官。ふと視線を落とすと、人格査定に使うノートが女性冒険者の名前と矢印、それに数学記号で埋め尽くされていた。
慌てるんじゃあない。先輩としての威厳を保ちつつ、華麗に後輩の質問に答えるのだ。
「これはね、どの組み合わせが一番(妄想が)捗るかを考察していたものよ!」
「な、なるほど。(塩漬け依頼の消化が)一番捗るかを考えていたんですね!」
今日もギルドは平常運行であった。
そろそろ冬眠の準備に入るので失踪します。