ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ   作:夜鳥空

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 なんとかGW中に間に合ったので初投稿です。




セッションその15ー4

 前回、『お姉ちゃん』の衝撃的な告白を聞いたところから再開です。

 

 

 お日様が地平線へと傾き、夜の闇が近付いて来た辺境の街。篝火に照らされた広場では、商品を売り切った屋台が店じまいを始め、入れ違いになる形で立ち飲みなどの大人向けのお店が誘蛾灯のように人々を享楽へと手招きしています。

 

 ダブル吸血鬼ちゃんたちのお店も夕方には用意していた食材が無くなり、天幕(テント)を夜の部の出店者に引き継いでから奉納演舞の関係者控室へと移動。演舞の主役である2人の着替えと使用する機材の確認を行っているみたいですね。

 

 

「……ん、これで良し。引っ掛かりや突っ張った感じはしない?」

 

「ええ、大丈夫です。綺麗に纏めて頂き、とても嬉しく思います」

 

 

 若草知恵者ちゃんの腰まで届く長い髪を上手く結い上げることに成功し、満足げに頷く女魔法使いちゃん。普段は後ろでシンプルに束ねられていたソレは猫人(フェリス)の耳のような形に纏められ、金をふんだんに用いられたアクセサリーがその周囲を煌びやかに彩っています。

 

 

「それに、祖母君がご用意された装束も良くお似合いですわ!」

 

「ええ、本当に。……やっぱり経産婦には見えませんわね」

 

「そ、そうでしょうか……」

 

 

 恥ずかしそうに身を捩る若草知恵者ちゃんをキラキラした瞳で褒めちぎる令嬢剣士さんの隣で、剣の乙女ちゃんが熱っぽい吐息を漏らすのも無理はありません。肩回りと腰の部分、それに胸元が大きく露出した純白の装束は彼女のスレンダーなボディラインを強調するようなレオタードに近いタイプ。薄布を幾重にもスカートのように巻き付けることで辛うじて隠されている脚部も、いざ演舞が始まれば太股の付け根近くまで見えてしまいそうです。髪飾りに合わせて随所にちりばめられた金の装飾が清楚さと淫靡さの両方を際立たせていますね!

 

 

 

「ふむ、我ながら会心の出来と言わざるを得ないな。……そら、見て驚くがいい我が主よ」

 

「ほわぁ~……!!」

 

「ふふ、とっても大人っぽいですよ♪」

 

 

 おお、あちらでは若草祖母さんと闇人女医さんの手によるメイクを施された吸血鬼侍ちゃんが差し出された鏡を見て驚きの声を上げていますね。黒を基調にした若草知恵者ちゃんとは色違いの衣装、普段は化粧のけの字も知らぬとばかりにすっぴんな吸血鬼侍ちゃんですが、淡く温かみを感じる色合いのチークと宝石のような瞳を強調するアイライン、血のように赤いリップによって背筋がゾクりとするほどの色っぽさが生まれています。

 

 

「うわ、エッロ……」

 

「えっちですね~」

 

「いいなぁ~」

 

 

 あまりの変わりっぷりに圃人3人娘(1人は元ですが)も開いた口が塞がらない様子。手を取り合って互いの魅力を褒め合っている主役2人を羨ましそうに眺めています。盤外(こっち)でも万知神さんを始めとして視聴神のみなさんが一斉に連続撮影(カシャカシャカシャ)してますし、奉納演舞に向けての掴みはバッチリでしょう! ……あ、控室に令嬢剣士さんが入って来ました。そろそろ演舞の開始時間ですね。一党(パーティ)以外のみんなは既に観客席で待っているみたいですし、現場で撮影している無貌の神(N子)さんもそちらへ移動をお願いしま~す!!

 

 


 

 

 秋の日は釣瓶落としとは良く言ったもの。すっかり暗くなった辺境の街の一画、篝火によって照らし出された演舞の舞台を囲むようにたくさんの人が集まっていますね。その手には紙で作られた提灯、「天灯」とも呼ばれるそれは、とても遠い処にいる大切な人に想いを届ける手紙の役割を担っているものですね。

 

 

 合図と共に一斉に放たれたそれを並んで眺めている複数の人影。移動式寝台(ベビーカー)から身を乗り出して手を伸ばす双子の姉弟に、彼らと目線を合わせて浮かび上がる輝きを見上げている牛飼若奥さん。そして……。

 

 

「綺麗だね~。盤外(あっち)から見るのも悪くなかったけど、やっぱり地上から見るのが一番だよ」

 

「そうか」

 

 

 幻想的な光景を並んで見ているもう一組の姉弟。ゴブスレさんが手に持っていた天灯に火を灯しそっと手を離せば、ふわりと浮かび上がったそれは仲間と合流するように空に舞う星々に紛れていきます……。

 

 

「……先程の話、本気なのか?」

 

「うん。神様には認めてもらったし、心残りだった甥っ子と姪っ子を見ることも出来たしね。万知神の巫女ちゃんたちの演舞に便乗して()()つもり」

 

 

 互いに視線を合わさずに交わされる問答。現世に遊びに来た死者たちを送り返す神事である奉納演舞、『お姉ちゃん』以外にも同じ目的で今日この場に集まった人たちが存在します。

 

 

「あの愉快な英霊さんたちも、ようやく転生の順番が回って来たんだって。『今日が遊び納め!』って感じでみんな全力で祭りを満喫していたよ」

 

 

 ――はい、何度もダブル吸血鬼ちゃんやみんなを助けてくれた英霊さんたちですが、とうとう彼らにも輪廻の流れに還る日がやってきたみたいです。動甲冑(リビングメイル)首無し騎士(デュラハン)、果てはハリボテの姿で協力してくれた彼らに感謝するとともに、旅立ちを祝福するという意味合いもこの奉納演舞にはあったんですね。牧場夫妻と個別に契約した二柱だけは続投ですが、他の皆さんとは本日でお別れというわけです。

 

 

「姉さんは、それで――」

 

「あ、始まるみたいだよ!」

 

 

 何かを口にしようとしたゴブスレさんを遮るように、明るい声とともに舞台を指し示す『お姉ちゃん』。小さな姉弟とそのお母さんが眼を向けた先では、今まさに奉納演舞が始まろうとしていました……。

 

 

 

 

 

 

 ――リィン、リィン、リィン……。

 

 

 始めに舞台へと姿を現したのは吸血鬼侍ちゃん。夜の闇に溶け込むような薄衣と透けるような白い肌、そして煌々と輝く黄金の瞳と血の色に染まった唇の妖艶さに観客たちは一様に言葉を失っています。

 

 複雑に刻まれる歩法(ステップ)は穢れを払う浄化の歩み。踏み込みとともに振るう剣は二股の刀身を持ち、その間に付けられた鈴から響く清浄な音が、現世と霊界(アストラル)の境界を曖昧なものへと変化させていきます……。

 

 

 ――ポロン、ポロン、ポロン……。

 

 

 その後に続く若草知恵者ちゃんの手には幾本も弦の張られた白木の弓。つま弾く音に誘われるように踊り舞う精霊たちによって霊界(アストラル)への(ゲート)が開かれ、膨大な魔力(マナ)が2人へと注がれているのが見えますね。会場の熱気によって汗ばんだ肌に張り付く薄衣は既に役割を放棄し、透けた生地の向こう側に隠れていた桃色の蕾の存在を露わにしています。

 

 

 瞳を閉じたまま舞台へと進む2人。空気と魔力(マナ)の流れを感じ取るその足取りは確固としたものであり、心配そうに見守る一党(パーティ)みんなの視線をよそにゆっくりと舞台へ登場。向き合うように相対した2人が静かに伏せていた瞳を開け、剣鈴と琴弓の音を伴奏に神楽を舞い始めました……。

 

 

 

「「() () () () いつ() () () () ここの() たり() もも() () 『よろず()』……」」

 

 

 はじまり()から運命と偶然(六面体骰子)を通じ、可能性(∞上昇クリティカル)を経て、確率(%ロール)すらも超えて万知(マンチ)へと至る祝詞。状況を利用し、前提をひっくり返し、時には勝利条件すら変えてしまう異端の思想。あらゆる手を用いて己の理想を追求する、傍から見ればその教義は狂っていると思われても仕方のないものです。ですが、そんな彼らですら決して手を出さない禁忌としていることがあります……。

 

 

「「――ふるべ(振った結果は絶対)ゆらゆらとふるべ(サマダイなど以ての外!)」」

 

 

 それは、自分の気持ち(判定の出目)を誤魔化すこと。決断の前に有利を追求すること(前提条件変換)に関して一切の躊躇いを持たない万知神さんの信徒ですが、出した答え(判定の結果)台無しにするような(コッソリ変える)事だけは行いません。万一信徒がそのような行為に及んだ場合、それは最早信徒ではなく背教者(サマダイ使い)、万知神さんは決してその者を許さないでしょう。……まぁ逆に言えば、それ以外のあらゆる手を躊躇すること無く使うってことなんですけどね!

 

 

 開き直りにも聞こえる祝詞に万知神さんも大満足、推しの2人の艶姿にテンションもうなぎのぼりといった様子です。霊体となって集まってきた英霊(白霊)さんたちの反応は……うんうんと頷いているのが半数、ドン引きしているのが半数といったところでしょうか? 好き好んで助っ人として召喚されている方たちですし、だいたい予想通りの割合ですね!

 

 

「「――♪――♪♪」」

 

 

 手に持っていた武楽器をしまい、祝詞を紡ぎながら神楽を舞う2人。舞台を踏み鳴らす足音を触媒に、降り注ぐ魔力(マナ)を贅沢に消費して霊たちが還る道を造り上げていきます。今朝ダウンしてしまった若草知恵者ちゃんの体調が心配でしたが、軽やかに、そして激しさを増すステップを披露する顔は明るく、疲労の色は見えません。これはやっぱり……。

 

 

「うふふ、あの子ったら『愛しの主さま』にい~っぱい()()()もらったみたいですね」

 

「まぁ、あんなキラキラになってるってことはそうなんでしょうけど。後でギルドに菓子折り持って謝りにいかなきゃダメよねぇ……」

 

 

 可愛い孫娘の晴れ姿、一瞬も見逃さないとばかりに観ている若草祖母さんの横で昼間ギルドの休憩室で繰り広げられていたであろう行為を想像し頭を抱える妖精弓手ちゃん。一応ギルドから出る前に≪浄化(ピュアリファイ)≫は使用したみたいですが、アレ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、魔力供給の際に()()()()()()()()()を若草知恵者ちゃんが『穢れ』と考えていない場合……まぁ、そういうことです。

 

 その道の専門家である地母神さん曰く「2人の魔力は()()と違って生臭かったりせず、どろりと濃い花の蜜みたいな香りと味わい」なんだとか。まぁそうじゃなかったらみんな簡単にゴックンしたりは……おっと、≪真実≫さんがイエローカードをチラつかせているのでこの話は此処までです!

 

 


 

 

「さて、そろそろかな」

 

 

 ――祭りの終わりは何処か切なく、さみしいものです。

 

 『お姉ちゃん』の呟きと同時、たん、と2人の足跡が揃った瞬間、舞台から天に向けて一筋の光が伸び始めました! 徐々に明るさを増すそれは星に届かんとばかりに空を駆け上がり、光の道へとその姿を変えていきます……。

 

 

 彼方へと続く階梯を昇る半透明の人影たち。家族や友人の姿を見て安心したのか、誰もが安らかな表情を浮かべています。天灯に捕まってプカプカと浮かんでいくのは幼い子どもたちの霊でしょうか? かつての仲間の肩を叩き走り出した霊の後姿に、あの冒険者がいつかの再会を願う言葉を投げかけていますね。

 

 

「みんな、またね!」

 

「ワン!!」

 

「今までありがとう。――お疲れ様」

 

「皆様の新たなる旅路に、数多の幸運が有らんことを……」

 

 

 ……どうやら英霊さんたちともそろそろお別れのようですね。ブンブンと大きく手を振る吸血鬼君主ちゃんの横で女魔法使いちゃんが深々と頭を下げ、剣の乙女ちゃんが彼らの旅立ちを祝福する祈りを捧げています。揃いのカタリナヘルム(玉葱頭)を脱ぎ、素顔を覗かせた英霊さんたちを見て人々の間からどよめきが上がっているのは、もしかして知っている顔が居たんですかね?

 

 

「――行くのか?」

 

「うん。いつまでも道が残るわけじゃないし、昇り損ねて置いてけぼりになったらそれこそ悪霊になっちゃうかも」

 

 

 スカートの裾を翻し、4人へと向き直る『お姉ちゃん』。愛おしい家族1人ひとりの手を握り、優しく声を掛けていきます……。

 

 

「いつか身長で負ける日が来ても弟は弟! お姉ちゃんとして、弟が間違ったことをしようとしてたら思いっきりひっぱたいてあげてね!!」

 

「は~い! ばいばい、おば……おねえちゃん!!」

 

 

 ……どうやら教育は行き届いているみたいですねぇ。うっかり禁句を口走りそうになっていた牧場長女ちゃんでしたが、途中で気付いて言い直してます。

 

 

「自分の気持ちはちゃんと主張しないと伝わらないよ! あと、幼馴染は大事にね!! ……じゃないと、将来ケッコン出来ないかもよ~?」

 

「う、うん。わかった……!」

 

 

 うりうりと頭を撫でられながらの言葉に目を白黒させながらもちゃんと返事をする牧場長男くん。……頑張れ、選り取り見取りかもしれないけど、尻に敷かれないようにね。

 

 

「ほんとは結婚式や出産にも立ち会ってあげたかったんだけど、ちょっと間に合わなくってねぇ。まだまだ伝えたいこと、話したいことはたくさんあるんだ~」

 

「……うん。私も、もっとお姉ちゃんと話したい、教えて欲しいって思ってるよ……っ」

 

「わぷっ。……これは良いモノね~」

 

 

 そこまで言うと言葉に詰まってしまい、無言で『お姉ちゃん』を抱き寄せる牛飼若奥さん。思い出の中の彼女よりも自分が大きくなり、かつて自分がして貰ったように彼女の頭をその胸に埋もれさせています。しばらくその感触を堪能していた『お姉ちゃん』でしたが、そっと顔を上げ義妹の目に浮かぶ涙を指で払い、明るく笑いかけました。

 

 

「でも、あんまり小姑が口を出すのも悪いしね。大丈夫、2人ならどんな困難だって乗り越えられるから! お姉ちゃんが保証するぞ!!」

 

「あはは……うん。ありがとう、お姉ちゃん」

 

 

 もう一度しっかりと抱き締め合い、ゆっくりと離れる義姉妹。そして、最後に『お姉ちゃん』が声を掛けるのは――。

 

 

「あのね? 神様から『天寿を全うしたら新しい使徒(ファミリア)にならないか』って勧誘するように言われてるんだけど……どう?」

 

 

 ――って、ナニとんでもないこと言わせてるんですか覚知神さん!? 

 

 

「……悪いが他を当たってくれ。戦友には言い辛いが、あまり神とやらに干渉されるのは好まん」

 

 

 まぁ、ゴブスレさんならそう言いますよね。お姉ちゃんが無くなった原因でもありますし、今まで覚知神さんの≪託宣(ハンドアウト)≫が齎してきた悲しみを嫌になるくらい見てきてますものね。静かに、でも確かな意志を秘めた瞳でそう答えたゴブスレさんを眩しそうに見ていた『お姉ちゃん』が、やがて満足そうに頷きました。

 

 

 

「……そっか。うん、そうだね。私も、あなたには人のまま生きて人として生を終えてもらいたいな!」

 

 

 そう言いながらゴブスレさんに跳び付き、熱烈なハグをする『お姉ちゃん』。おっきくなったね~と笑う姿は深い慈愛に満ちているように思えます。『お姉ちゃん』の背中に回るゴブスレさんの手は壊れ物に触れるかのように優しく、冷たい籠手(ガントレット)越しであっても温かな想いが伝わっていることでしょう。

 

 

「あ、そうだ。最後にこれ、あげちゃう!」

 

「……これは?」

 

 

 抱擁を解き、光の道へと一歩踏み出したところで慌てて振り返った彼女を怪訝そうに見つめるゴブスレさんの手に渡されたのは、ひとつの小さな。金属と有機物どちらにも思える銀色のソレを託した『お姉ちゃん』は悪戯が成功した子どものように笑っています。……おや? 現場にいる無貌の神(N子)さんの顔が面白いくらい百面相(物理)してますね。まるでヤバいものでも見ちゃったような……。

 

 

「それは、全ての悲劇を終わらせることが出来るかもしれないもの。いつか人々が団結し、あの緑の月にまで手を伸ばす時が来たら、その鍵が≪門≫を開きみんなを月へと導いてくれるはず。たとえあなたが辿り着けなかったとしても、その先に居る誰かが必要とするだろうから。……きっとその隣には、あの可愛らしい吸血鬼(おともだち)とその仲間が一緒だと思うよ?」

 

 

 だから大事に持っててね? と≪銀の鍵≫を懐にしまい込むゴブスレさんへと笑いかける『お姉ちゃん』。言い終わると同時にその足は地面から離れ、彼女の身体はふわりと宙に浮かび上がりました。

 

 

 ゆっくりと空を舞う『お姉ちゃん』。いつの間にかその姿は半透明になっており、人々には浮遊する彼女が認識できなくなっているようです。光の道へと進む最後尾に向かう彼女に気付いたダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)が、それぞれ一番相応しいと思う感謝を彼女に向けていますね。わちゃわちゃしているみんなに苦笑しながら手を振る彼女の背へと放たれたのは……。

 

 

 

 

 

 

「――姉さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう……さよなら」

 

「――うん、それでいいんだよ。()()()じゃなくて……さよなら!」

 

 

 弟の言葉に返事を残し、振り返らずに光の道へと進む『お姉ちゃん』。勢い良く進む彼女の足を止めたのは、進む先で待ち構えていた()()()()()でした。

 

 

 逆光になって良く見えませんが、どうやらねぎらいの言葉をかけているみたいです。肩を組んだりこめかみをグリグリしたりとなんだか気の置けない関係のようですが……。あ、その中の1人が眼下のゴブスレさんに微笑み、手を振ってますね! もしかして()()()()は……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友達を待たせ過ぎだよ、姉さん……」

 

 


 

 

「んじゃ、お祭りが無事に終わったことと、奉納演舞の成功を祝して……乾杯!!

 

 

 妖精弓手ちゃんの音頭に続き、打ち合わされるジョッキの音。既に日は変わってしまってますが、深夜のギルドホールには無事の成功を喜ぶ声が響いています。

 

 

「……にしても、まさかアンタがこんな気を利かせてくれるなんてね。最初のころからは想像出来ないわよ」

 

「そうか? ……そうだな」

 

 

 なみなみと麦酒(エール)の注がれたジョッキ片手にゴブスレさんへと絡んでいるのは女魔法使いちゃん。街の有力者との会談の後、調理長に頼んで打ち上げ用の料理とお酒の用意をしてくれていました!

 

 すっかりおねむの子どもたちは牛飼若奥さんと女騎士さん、魔女パイセンの金等級奥さん組がみんなまとめて面倒を見てくれているため、ダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)は珍しく全員集合。重戦士さんのところの男性陣もみんな集まり、槍ニキと一緒に祭りの感想を語り合っているみたいですね。

 

 

「しっかし、ちみっ子も随分と化けたもんだのう!」

 

「然り、普段とは違う怪しげな魅力を感じますな」

 

「えへへ……みなおしたでしょ?」

 

「はい、主さまの新たな魅力が皆様に伝わったことでしょう」

 

 お酒とチーズあるところに2人の姿あり。一党(パーティ)といっしょに奉納演舞を観ていた鉱人道士さんと蜥蜴僧侶さんが吸血鬼侍ちゃんの艶姿を褒めちぎっています。演舞の高揚感が残り頬を紅潮させている若草知恵者ちゃんが微笑む中、空いたジョッキに火酒を注がれている鉱人道士さんの鼻の下は顎が床に付いてしまいそうなほど伸びきっちゃってますねぇ。

 

 

「あれ、レモネードなの?」

 

「うん、もともと強くなかったし、赤ちゃんが出来てからずっと飲んでなかったもの。そうしたらあんまり飲みたいとも思わなくなっちゃった」

 

 

 おや、乾杯のジョッキの中身はソフトドリンクだったんですね。あたりを見渡せば一党(パーティ)のみんなは揃ってお茶か果実水、あるいは妖精弓手ちゃんとおんなじ檸檬水(レモネード)。アルコールは女魔法使いちゃんだけみたいです。吸血鬼君主ちゃんは……ブラッディ・マリーと思わせてバージン・マリー(ウォッカ抜き)ですね。ちょっぴり胡椒を添えてアクセントとはなかなかに通ですねぇ!

 

 

「な~に? 可愛い奥さんを酔わせてナニかするつもりだったの? それとも酔い潰して浮気に走るのかしら」

 

「うわきなんてしないよ? それに……」

 

 

 ニヤニヤと笑いながら吸血鬼君主ちゃんのほっぺをつつく妖精弓手ちゃん。しかしその余裕は簡単に崩れ去ってしまうのですよ……。

 

 

 

 

 

 

「ぼくは、いつだってきみのみりょくによってるから。ぼくのかわいいおひめさま?」

 

「んなっ!? し、シルマリルの女たらし!!」

 

 

 あーあ、お酒も飲んでないのに真っ赤になっちゃってます。ビックリするほど打たれ弱いんだから……。

 

 


 

 

「あ、あの!」

 

 

 テーブルの料理が殆ど姿を消し、何人か酔い潰れて寝る者が現れ始めた頃。ダブル吸血鬼ちゃんの席に近付いてくる小さな姿。袖口を握りしめ決意に満ちた表情を浮かべた少女剣士ちゃんと、悪い笑みで彼女を後ろから押している少女巫術師さんの圃人コンビですね。既に吸血鬼君主ちゃんから話を聞いていたのでしょう、吸血鬼侍ちゃんの顔に不審げな色は見えませんね。

 

 

「その、昼間お願いしていた件についてなんですが……」

 

「ん、おはなしはきいてるよ。ぼくをえらんでくれてありがとう!」

 

「わひゃあ!?」

 

 スススーと少女巫術師さんが離れるのを見て席を立ち、少女剣士ちゃんをハグする吸血鬼侍ちゃん。ほっぺたをスリスリしながらの言葉によって少女剣士ちゃんの余裕はいっぺんに吹き飛んでしまったみたいです。その光景を楽しそうに見ていた吸血鬼君主ちゃんでしたが、不意に太股に感じた柔らかな感触に硬直しちゃってますね。

 

 

「お祭りの余韻残る素敵な時間に、こんなことを聞くのは無粋かもしれませんが……」

 

 

 太股に跨るように身を寄せ、吸血鬼君主ちゃんの耳元で囁く少女巫術師さん。微かな酒精の香りとともに囁かれたのは、いつ()()のかという甘い問い掛け。お酒の勢いを借りてなのかもしれませんが、今まで見たこともないほど積極的な彼女に吸血鬼君主ちゃんもちょっと驚いているみたいです。ですがそこは百戦錬磨の2人、脳内通信を交わし、血族(かぞく)みんなにアイコンタクトを送って出した返答は……。

 

 

 

 

 

 

「「じゃあ、いまから!!」」

 

「「えぇ!?」」

 

 

 ――ですよねー!!

 

 

 

 真っ赤に茹で上がった2人をお姫様抱っこし、一党(パーティ)のみんなの前に連れて来たダブル吸血鬼ちゃん。待ち受けるみんなの顔は既に奥様戦隊と化しています。この感じからすると次は……。

 

 

「ちょっと奥様、あのエロガキ共、浮気にならないって判った途端女の子に手ぇ出そうとしてますわよ?」

「まぁ、ひょっとして私たち、飽きられてしまったんでしょうか……」

「もう頭目(リーダー)無しでは生きていけない身体にされてしまいましたのに……」

「やっぱり同じような体格の子が良いのね。……胸は私よりおっきいけど」

「涙を拭き給えよ妹姫(いもひめ)様。その葛藤は既に終わらせたはずじゃないか」

「それに、(わたくし)たちにはあの子たちがおりま……申し訳ございません! 眷属の皆様方のお気持ちを考えずに……っ」

「そうですよぅ。愛して()()()()という証はしっかりと残ってますから!」

「えぇと……師匠たち最低です!」

 

 

 

「止めんか馬鹿共。……それに本気にするんじゃない我が主よ。悪ふざけに決まっているだろうに」

 

「「ヒック……グスッ……」」

 

 

 ……うん、無貌の神(N子)さんの貌よりも見た流れですね!

 

 

 

「お、おう。まぁお前らがそう決めたんなら、俺は何も言わん。――後悔の無ェようにな」

 

 

 ダブル吸血鬼ちゃんが泣き止むのを見計らって全員で突撃した先は圃人コンビの頭目(リーダー)である重戦士さんのところ。2人の唐突なカミングアウトに飲みかけの麦酒(エール)を噴き出しかけていましたが、事情を聞いたところで上記の台詞。……なんとなく察していたんでしょうね。

 

 

「さて、訓練生。戦闘に当たり教官の援護は必要かな?」

 

 

 卑猥なハンドサインとともに繰り出される台詞の出処は勿論訓練教官こと叢雲狩人さん。一見からかっているように見えますが、その瞳の奥には初めてを幸せなものにしてあげたいという想いが込められて……いるような気がしないでもないです。事の発端である彼女の問い掛けを受け、考える素振りを見せる2人。最初に顔を上げたのは少女剣士ちゃんです。

 

 

「はい、いいえ教官殿! 対象との戦力差は歴然。練度、技術ともに隔絶しており、私の勝算は絶無ですが……タイマンで挑ませて頂きます!!」

 

「判った。全力を尽くし給え。……ご主人様、どうか彼女を大事にしてあげて欲しい」

 

「うん、まかせて! ……『あっさり』じゃなくて『どっぷり』でいいよね?」

 

 

 俺〇かな??? 武者震いと思しき振動を発する少女巫術師さんを抱えてギルド2階の個室へと消えていく吸血鬼侍ちゃん。……おや、手を振る女魔法使いちゃんが何かを思い出したかのように手をポンと叩いてますね。一体なんでしょう?

 

 

「ああ、そういえば私がアンタの部屋に行ったのもあの2人が大部屋なのに()()()()()()たからだったっけ。懐かしいわねぇ」

 

 

 牧場に戻ったらあの2人に話して悶絶させてやろうかしら、と愉悦顔の女魔法使いちゃん。いやぁそんなこともありましたねぇ……。小さな影が階段奥に消えるのを見送った叢雲狩人さんが、まだ悩んでいる様子のもう1人の教え子へと声を掛けていますね。

 

 

「さて、君はどうする? ()()()なら選り取り見取りだよ?」

 

「そうですね。応援は無しで挑みたいと思うのですが……」

 

 

 顔を上げた少女巫術師さん、すっごい悪い顔をしています。吸血鬼君主ちゃんに抱きかかえられた体勢で、ついっと掲げられた指先。その示す先に()()のは勿論……。

 

 

 

 

 

 

「――ええ、抱き枕をひとつ、戦場に持ち込んでも宜しいでしょうか」

 

「うぇ? ……えぇぇぇぇ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 ――翌朝、2人の戦果報告を今か今かと待っていた一行の前に現れたのは……。

 

 

「お、思いつく限りの『初めて』を奪われちゃいました……」

 

「えへへ……がんばったね!」

 

 

 しっかりとアフターケアまでしてもらい、キラキラになっている少女剣士ちゃんと……。

 

 

 

「ええ。注がれる魔力に太陽の暖かさ、とっても素敵でした。……また、お願いしても?」

 

「えっと、ぼくはぜんぜんかまわないけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……色々されたけどすごすぎてなにも言えないぃ……」

 

 

 自力で歩くことが出来ない程に腰砕けの()()()を抱っこした吸血鬼君主ちゃんに寄り添うように歩く、完璧に満ち足りたもはや淫魔(サキュバス)の類にしか見えない少女巫術師さんの姿でした……。

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。 

 

 




 今更になって悪魔殺し一党のソ〇ールさんと新米戦士君の新しい呼び方が被っていることに気付いたので失踪します。


 GWが明けるとまた忙しくなり、更新速度が遅くなってしまいそうです。

 ゆっくりと続きをお待ちいただければ幸いですので、よろしくお願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。


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