ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ   作:夜鳥空

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 続けられるときに続けたいので初投稿です。



セッションその16-9

 

 前回、蜥蜴僧侶さんを本気にさせてしまったところから再開です。

 

 

 祭祀場跡の中心にある石舞台に立つ2人の人物。名誉ある戦いを前に鱗で覆われた巨大な拳で奇妙な合掌の如き印を結び、唸り声にも似た祝詞を唱える蜥蜴僧侶さんと、上着やブーツを脱ぎ捨てサイドが大きく露出した白のインナーと黒いスパッツ姿で準備運動する吸血鬼君主ちゃんが、顔に肉食獣の笑みを浮かべながら闘志を漲らせています。

 

 互いに示し合わせたかのように一切の武器を帯びず素手素足という同条件。両者とも自己バフ以外の呪文を使う気はさらさら無いようで、まさに素手喧嘩(ステゴロ)という言葉を形にしたような様相を呈してまいりました!

 

 

 戦いの邪魔にならぬようほかのみんなは舞台を囲むように設置されている石段へと上がり、先程吸血鬼君主ちゃんがインベントリーから取り出した軽食や飲み物片手に観戦モード。思い思いに2人へとエールを送っていますね。

 

 

「では……参りますぞ!」

 

「うん! しょうぶ!!」

 

 

 一度コツンと合わせた後、全力で繰り出される2人の拳。大鎌の如き軌道を描く吸血鬼君主ちゃんの右スマッシュが蜥蜴僧侶さんの打ち下ろしの右(チョッピングライト)とぶつかり、花火が炸裂したような爆裂音が祭祀場跡に響き渡ります。アイサツは終わったとばかりにニヤリと笑う2人が、足を止めた打ち合いに興じていますね。

 

 

「――んでよ、どっちが勝つと思う?」

 

 

 お、トトカルチョの口火を切ったのはバトルジャンキーの気のある槍ニキですね。口元には笑みを浮かべていますが、真剣な目で2人のウォーミングアップを眺め、その調子を見定めようとしています。

 

 

「まぁ、何でもアリ(バーリトゥード)ならチビ助だろうよ。いくら死なねェとはいえ、あの(ケイン)を向けられて立っていられる自信は無ェ」

 

 

 干し肉(ジャーキー)を齧りながらの重戦士さんの言葉に頷く前衛たち。消耗が激しく連射は出来ないものの、勇者ちゃんの決め技に匹敵する熱量を秘めた一撃は石舞台はおろか祭祀場跡を消滅させて余りある威力を発揮することでしょう。

 

 

「それに吸血鬼(ヴァンパイア)の再生能力も厄介だな。≪聖光(ホーリーライト)≫で阻害しなければ、生半可な攻撃など再生が上回ってしまうだろう。神官の援護無しで相対するのは厳しいものがある」

 

 

 まぁ私は使えんがな! と続けてみんなの苦笑を誘う女騎士さん。魔法の武器、あるいは魔法を付与された武器以外の物理ダメージを半減する物理耐性と再生能力が組み合った吸血鬼(ヴァンパイア)の特殊能力のシナジーは魔法の武器に手の届かない中堅以下の冒険者にとってはまさに悪夢。殴る傍から回復され、スタミナ切れも起こさないという絶望感は半端ないと思います。吸血鬼君主ちゃん有利のコメントにうんうんと頷く妖精弓手ちゃん、若草知恵者ちゃん、白兎猟兵ちゃんは可愛いですね!

 

 

「ふふん、じゃあシルマリルが有利ってことよね!」

 

 

 薄い胸を張ってドヤる妖精弓手ちゃん。想い人の勝利を微塵も疑っていない顔でみんなを見渡しますが……。

 

 

 

「――3-7で戦友が不利というところか」

 

「まぁ、そのくらいだろうな」

 

「少々厳しい戦いになりそうですね……」

 

 

 ゴブスレさん、剣聖さん、剣の乙女ちゃんの分析を聞いて、むー!とふくれっ面になっちゃってますねぇ……。

 

 

 

「いいか森人(エルフ)の姫サン。まずはあの2人の能力(ステータス)の違いについてどう思う?」

 

 

 後衛組からのキラキラ視線に負け、唐突に始まりました槍ニキによる解説講座。王妹シスターズや英雄雛娘ちゃん、勇者ちゃんが興味津々といった様子で槍ニキの周りに集まっています。年下の女の子に囲まれてまんざらでもなさそうですが、あれはどちらかというと手のかかる妹を相手にするお兄ちゃんって感じですね。全員が飲み物と焼菓子を手にしているのを確認し、槍ニキが不満そうな顔をしている2000歳児に質問を投げ掛けました。

 

 

「んーと……まず敏捷(スピード)はシルマリルが圧倒的に速いわよね? 膂力(パワー)も若干上かしら。2人とも呆れるくらいの耐久力(タフさ)だけど、やっぱりシルマリルのほうが上じゃない?」

 

「正解。その3点に関してはチビのほうが上回ってるだろうさ。だが、戦いを左右するのはそれだけじゃあねェ。……嬢ちゃんは他に2人の違いは判るか?」

 

 

 妖精弓手ちゃんが指折り数えるのを聞きながら、首を左右に振る槍ニキ。傍らで耳をダンボにしていた英雄雛娘ちゃんに質問の矛先を向けると、うんうん考えながら答えが返って来ます。

 

 

「えっと、その……身体の大きさとか、重さとか?」

 

 

 周囲を見回しながら不安げに答えた英雄雛娘ちゃん。ベテラン冒険者たちの目が彼女に突き刺さり……。

 

 

「それもアリだ! 良く気が付いたな!!」

 

 

 グッと親指を立てながらの槍ニキの言葉に肩をなで下ろしながら嬉しそうに胸の前で拳をギュッとする英雄雛娘ちゃん可愛い! 重戦士さんと女騎士さんも微笑ましそうに彼女を眺めています。英雄雛娘ちゃんの背後に回り込んだ女魔法使いちゃんが彼女を抱き上げ、膝上に抱えながら補足説明を入れてますね。

 

 

「体格の差はリーチの差、体重の差は衝撃と踏ん張りの差に繋がるわ。あの子が攻撃を入れるには相手の間合いに飛び込まなきゃいけないし、下から掬い上げるような攻撃は体重の軽いあの子にとって明確な弱点。……ほら、始まったわよ」

 

 

 女魔法使いちゃんの指し示す先では地を這うような低姿勢の蜥蜴僧侶さんが繰り出したアッパーを防ぎ切れず、吸血鬼君主ちゃんが宙に打ち上げられる光景が。何時ぞやの手合わせで女騎士さんに手玉に取られた時と同じように、踏ん張りが効かずに押し負けちゃっていますね。なんとか体勢を整えようとする吸血鬼君主ちゃんですが、その隙を蜥蜴僧侶さんが逃す筈もありません!

 

 

「フンッ!」

 

「むぎゅっ!?」

 

 

 巨体からは想像も出来ない身のこなしで前転を披露する蜥蜴僧侶さん。断頭台(ギロチン)と見紛う踵はすんでのところで躱したものの、続く唸りをあげる尻尾が吸血鬼君主ちゃんをしたたかに打ち据えました! べちゃりと地面に落下した吸血鬼君主ちゃんを追撃することも無く、蜥蜴僧侶さんは悠然と構えていますね。

 

 

「普段からゴブリンを相手にしているアンタらにゃ判らねェかも知れんが、自分より極端に小せェヤツの相手ってのは意外と苦労するもんだ。一方チビ助は誰を相手にするにも自分よりデカいヤツばかり。つまり慣れてるってこった」

 

 

 大物喰らいを得意とする重戦士さんの言葉に頷く冒険者たち。巨人然り魔神然り、等級が上がれば上がるほど相手にする怪物(モンスター)は大きくなるのが常識、自分より小さな対象を相手取る頻度は少なくなるのが普通でしょう。反対に圃人(レーア)サイズのダブル吸血鬼ちゃんの相手は『おおきい』『すごくおおきい』『とってもおおきい』くらいの違いしかありません。であれば吸血鬼君主ちゃんの攻め方は悪くないと思いますよねぇ。

 

 

「ですが、実際は主さまが攻め立てられているように思えます。それは何故なのでしょうか?」

 

 

 頬に手を添え首を傾げる若草知恵者ちゃんの疑問はもっともです。もし相手が重戦士さんや槍ニキだったら吸血鬼君主ちゃんが有利に立ち回っていたことでしょう。ですが、何事にも例外というものがあるわけで……お、英雄雛娘ちゃんがその理由に気付いたみたいですね! 

 

 

「もしかして……()()()()()()()()()()()()……!」

 

 

 英雄雛娘ちゃんの呟きにニヤリと笑う前衛職のみなさん。妖精弓手ちゃんも遅れて気付いた様子。あっ!と声を上げ、蜥蜴僧侶さんを見つめながら自らの推察を口にしました。

 

 

「そっか……シルマリルと反対で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!!」

 

 

 

 

 

 

「おお、実に心躍る! なかなか拙僧では君主殿を捉えきれませんな!!」

 

「うう~……おっきいのはいいなぁ……っ!」

 

 

 唸りをあげて迫る巨腕を紙一重で躱し、懐へ潜り込もうとする吸血鬼君主ちゃん。ですが一歩踏み出した先には丸太のような蜥蜴僧侶さんの脚が待ち構えており、迂闊に飛び込めば先程のように空中へ蹴り上げられてしまいそうです。肘打ち、裏拳、正拳の三連撃を防いだのち返しの一撃を狙うものの、追加の尻尾によって間合いの(エンゲージ)外へ弾き出されてしまいました。うーむ、まったく隙がありません! ……おや、ハラハラした様子で2人の戦いを見守る妖精弓手ちゃんの隣に座る吸血鬼侍ちゃんが、自分たちの弱点についてみんなに話し始めたみたいです。

 

 

「あのね、ぼくたちのつかえるものって、どれもみんなおおあじなの。それがつかえるかんきょうならもんだいないけど、このたたかいみたいにげんていされたじょうきょうだとあんまりやくにたたないかな。それに……」

 

 

 好奇心でキラキラ輝く瞳で見つめるのは蜥蜴僧侶さん。その戦い方が変わってきたのを察知し、嬉しそうに言葉を続けます。

 

 

「ほら、とかげさんのうごきがかわってきた! あれは、ぼくたちをたおすためのたたかいかただよ!!」

 

 

 

 

 

 

「あうっ!?」

 

 

 あ! 先程までと同様に紙一重で拳を躱そうとした吸血鬼君主ちゃんの胴が裂け、血飛沫が上がってます!! 驚きで硬直する身体を大きな手が掴み、ガッチリとホールドされちゃいました。

 

 良く見れば吸血鬼君主ちゃんを握る蜥蜴僧侶さんの親指の爪が血に塗れています。ちょっとスローで再生して……むむむ、どうやら躱される直前で握り拳を開き、指を伸ばして吸血鬼君主ちゃんを引っ掛けたみたいですね。たかが指と思われるかもしれませんが、その鋭い爪と合わせれば伸びる射程は20cm以上、不意を突くには十分過ぎる長さです。

 

 

 親指に引っ掛かった吸血鬼君主ちゃんをそのまま握りしめ、万力のように締め上げつつ反対の手で吸血鬼君主ちゃんの右腕を包み込む蜥蜴僧侶さん。苦笑しながら首を縦に振る手中の相手に頷きを返しつつ、ゆっくりと力を込め……!

 

 

「君主殿、失礼仕る!」

 

 

 ――ごきん、という音とともに、吸血鬼君主ちゃんの右肩関節を引き抜きました。

 

 

「そう、それが対吸血鬼戦における効果的な戦術。単純に引き千切っては再生を許してしまうからね、意外と力加減が難しいんだよ」

 

「いやいやいや、アレは流石に痛いのでは……ん? 吸血鬼(ヴァンパイア)は痛覚が無いのだったか?」

 

「うーん、人間だった頃に比べれば鈍いけど一応あるわよ。あと≪聖光(ホーリーライト)≫は普通に痛いわね」

 

 

 したり顔で頷く銀髪侍女さんの言葉をバックに身震いする冒険者たち。力無く垂れ下がる右腕を見てその痛みを想像してしまったみたいです。闇人女医さんと女魔法使いちゃんが吸血鬼(ヴァンパイア)の痛覚について話してますけど、触覚や温感にも関係してくるから残っているんですね痛覚。

 

 

「そんで、アレが蜥蜴の旦那が有利な最大の理由。強者との戦いこそが人生と謳う蜥蜴人(リザードマン)の培ってきた戦闘経験は俺たちとは文字通り桁が違う。たとえ相手が規格外の吸血鬼だろうと嬉々として挑む連中だ、どうしようもねェ理由が無ければ連中とは()りたくねェぞ俺ァ……!」

 

 

 

 

 

 

「さて、もうおしまいですかな?」

 

「う~……まだまだ~!」

 

「ムッ!?」

 

 

 トドメとばかりに頭部へと手を伸ばしながらの蜥蜴僧侶さんの言葉に眉を立てた笑みで返す吸血鬼君主ちゃん、翼を強引に展開し、無理矢理拳による拘束から抜け出しましたね。その際無事な左手で蜥蜴僧侶さんの右腕を深く抉っているあたり、吸血鬼君主ちゃんもまだまだやる気は十分な様子。

 

 

「ハッハッハ! 流石は君主殿、拙僧もまだ甘さが残っていたようですな」

 

「えへへ……ほめられてもまけてはあげないよ……っと!」

 

 

 頑丈な鱗をものともせず骨まで達する傷を付けられながらも、牙を剥く笑みを見せる蜥蜴僧侶さん。使い物にならない右腕を引き千切りながら吸血鬼君主ちゃんも負けず劣らずの凄惨な笑みを見せています。右腕が元通りになるまで時間稼ぎをするなぞ面白くないと言わんばかりに突撃する小さな暴君、それを自慢の尻尾で迎撃せんと蜥蜴僧侶さんが身体を旋回させ、鞭のようにしなる一撃が吸血鬼君主ちゃんへと迫ります! 太く立派なブツを眼前に吸血鬼君主ちゃんが鮫のような笑みを見せ……!

 

 

「ほほう!」

 

「へへん、とかげさんのまねっこ!」

 

 

 腰部から伸びた触手を尻尾のように操り、打ち据えてくる一撃を捌いた吸血鬼君主ちゃん。そのまま間合いに踏み込むと、丁度正面を向いた蜥蜴僧侶さんの右膝をしたたかに踏みつけ粉砕しつつ跳躍、空中から体勢を崩し上を見上げている蜥蜴僧侶さんの両肩を2本の触手で貫き、ワイヤーを巻き取るように落下していきます!!

 

 

「っしゃー! いっけーシルマリル!! トドメの一撃よ!!!」

 

「おあ~……」

 

 

 吸血鬼侍ちゃんを振り回しながら叫ぶ妖精弓手ちゃん。決着の時が迫り彼女の興奮も最高潮に達してますね。目を回している吸血鬼侍ちゃんを令嬢剣士さんが回収しようと試みていますがなかなか近付けないみたいです。

 

 

「これで、おしまい!」

 

 

 残った左腕を黒く硬質化させ、固い鱗ごと全身を引き裂かんと迫る吸血鬼君主ちゃんと、それを見上げる蜥蜴僧侶さん。両肩を砕かれてなお彼の瞳には闘志が漲っています。優雅さの欠片も無いプリミティブな力と力のぶつかり合い、その勝敗を決定づけた要因は……。

 

 

「――獲りましたぞ!!」

 

「……ふぇ?」

 

 

 巨体を引き寄せる触手の力に逆らわず、自ら空中へと跳躍する蜥蜴僧侶さん。虚を突かれた吸血鬼君主ちゃんの爪を肩口で受け、鎖骨を割り砕かれながらもその(あぎと)で細い喉元に喰らい付き……。

 

 

 

「頭から抜け落ちていたな、戦友」

 

 

 

「竜の末裔の武器は……己が爪と尻尾、そして……牙だ」

 

 

 ――恐るべき咬合力で、骨ごと吸血鬼君主ちゃんの首を圧し折りました!

 

 


 

 

「すご~い! とかげさんかっこいい!!」

 

 

 溢れる鮮血を嚥下し、喉を鳴らす蜥蜴僧侶さんへと駆け寄る吸血鬼侍ちゃん。両腕の上がらない蜥蜴僧侶さんから吸血鬼君主ちゃんを受け取り、満面の笑みを浮かべています。どっかりと倒れ込むように腰を下ろした彼に神官たちが駆け寄り、癒しの奇跡をかけ始めました。

 

 

「ウム、まさに紙一重というところでしたな。先に右腕を使えなくしていなければ、拙僧のほうが革細工の原料になっていたやもしれませぬ」

 

 

 口元を真紅に染めながら呵々と笑う蜥蜴僧侶さん。文化の違いに付き合いの浅い面々は若干引き気味ですが、そのうち慣れると思います……と、ビクビクと痙攣している吸血鬼君主ちゃんを抱える吸血鬼侍ちゃんがゴソゴソ何か始めたみたいですね。吸血鬼君主ちゃんの血に染まったインナーを捲り上げ、露わになった薄い胸へと手を伸ばし……。

 

 

「それじゃあしょうぶにかったとかげさんへのプレゼントは……これ!」

 

「ぐえ~……」

 

 

 何の躊躇も無く硬質化した腕で胸を抉り、拳大の脈打ちながら輝く物体……核融合炉(心臓)を引っこ抜きました。

 

 

「えぇと侍殿? 君主殿は大丈夫なのですかな?」

 

「へーきへーき! こうやって……えいっ!」

 

 

 動かせるようになった手に核融合炉(心臓)を乗せられ困惑状態の蜥蜴僧侶さん。心配そうな視線をピクリとも動かなくなった吸血鬼君主ちゃんに送っているのを察した吸血鬼侍ちゃんが自らの影の中にその身体をシュート! トプンという音とともに身体が呑み込まれた後、波打つように影が蠕動し始め……。

 

 

「じゃーん! ぼく、ふっか~つ!!」

 

「「いぇーい!」」

 

 

 何事も無かったかのように、邪な砂の効果で吸血鬼君主ちゃんが復活してきました。

 

 

「相変わらず何度見てもデタラメよねぇ……」

 

「えへへ……たぶんみんなもふっかつするときはこんなかんじだとおもうよ?」

 

「可能な限り経験したくありませんわね……!」

 

 

 和やかなダブル吸血鬼ちゃん一党(パーティ)と対照的に他の冒険者はみんなドン引き。まぁそうでしょうねぇ……。吸血鬼の不死性は耳にしていても、目の前であっさりと復活されては常識と死生観が壊れちゃいそうです。腕をグルグル回したり身体を左右に捻ったりと調子を確かめていた吸血鬼君主ちゃん、どうやら問題は無いみたいです。ぽてぽてと蜥蜴僧侶さんへと歩み寄り、いつものふにゃふにゃ笑顔で抱き着いちゃいました。

 

 

「えへへ……それが『とってもいいもの』で『ぼくのだいじなもの』! とかげさんにあげるね!!」

 

「フム、もしや最初からこれが目的で……?」

 

「うん。ほんとうはふつうにプレゼントしたかったんだけど、たぶんこうしないとうけとってもらえないかなって。あ、でもてをぬいてなんかないよ! ほんきでやったもん!!」

 

 

 ふむ、もしかして鉱人(ドワーフ)の都市を尋ねた際に退治した若き赤竜の心臓を蜥蜴僧侶さんが食べたのを覚えていたんですかね? 倒した相手の心臓を喰らい、その身に取り込む蜥蜴人(リザードマン)の作法。相手が生きて?いるのに心臓が手に入るというのは滅多に無い経験でしょうねぇ……。

 

 

「どうやら君主殿には気を遣わせてしまったようですな。――では、有難く頂くと致しましょう!」

 

 

 手のひらで脈打つ心臓と吸血鬼君主ちゃんを交互に見やり、暫し瞑目していた蜥蜴僧侶さん。やがて心が決まったのか、心臓を前に片手で合掌し、心臓をその大きな口へと運びました!

 

 

 

 

 

 

「――ム!? 身体が……熱く……!!」

 

 

 効果は間を置かずして現れました。蜥蜴僧侶さんの全身に罅のような模様が走り、そこから煙のように魔力が溢れ始めました。内からの圧力によって膨張するようにその身体は一回り巨大化し、緑青色だった鱗が黒く染まり、互いに癒着し合い分厚くなって魔力の吹き出し口を覆い隠しているようです。

 

 元より立派であった尻尾ですが、長さと太さを増すとともにその上部に硬質な鰭のような器官が発生。根元に近付くにつれ大きくなるソレはそのまま背中に続き、司祭服を突き破ってその存在を主張していますね。

 

 体内に取り込んだ核融合炉(心臓)の鼓動に同調し、鱗の隙間から漏れる真紅の輝き。やがて変異が完了し、蜥蜴僧侶さんがうっすらと瞳を開きました。

 

 

「おやおや、随分と大きく育ったものだな亭主殿。我らが愛の結晶に合わせて成長するつもりかな?」

 

「――元より我らは成長し続ける種族でありますれば。そう、いわば今の拙僧は遅れてやってきた思春期(中二病)真っ只中! この胸の滾り、抑えきれませぬな!!」

 

 

 女将軍さんの揶揄いに冗句で応じ、天に向けてその顎を開く蜥蜴僧侶さん。背中の器官が発光するとともに、その口元に膨大な魔力が集まっていきます! 臨界に達し放たれた光は、伝説に謳われし竜王のソレと同一の輝きです……!

 

 

「カァアアアアアアア!!!」

 

 

 

「うわ、すっご……」

 

「「かっこいい!」」

 

 

 光の奔流となり突き進む≪核撃・放射(フュージョンブラスト)≫。みんなが一様に見上げる中、天に伸びた破壊の輝きは異界の境界面まで達し……。

 

 

「あ、不味いのです」

 

 

 ……パリーンという力の抜ける音を響かせ、異界を支える術式を壊してしまいました。

 

 

「……オイ、こりゃヤバくねェか?」

 

「あはは、*いしのなかにいる*は勘弁して欲しいなぁ……!」

 

 

 ぐんにゃりと歪み始めた周囲の光景を横目に呟く重戦士さん。異界を行き来する頻度の高い勇者ちゃんたちの顔が良い感じに引き攣ってますねぇ……。慌てて螺旋の刀身を持つ(火継ぎの)大剣を引き抜いたダブル吸血鬼ちゃんも右往左往しちゃってます。賢者ちゃんの胸の谷間に手を突っ込んだ銀髪侍女さんが携帯型≪転移≫の鏡で牧場に帰還する(ゲート)を驚きの早さで展開し、周囲が光に包まれゆくなか一斉にみんなが(ゲート)へと飛び込んでいきました……!

 

 


 

 

「あら、おかえり。思ってたよりも早かったわね……ってデカ!?」

 

「うおぉぉぉぉぉかっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「くろいねー!」

 

「かたいねー!」

 

「ごりっぱー! ありがたやー……」

 

 

 ……ふへぇ、どうやらみんな無事に牧場に戻って来られたみたいですね! お日様の高さからみてお昼をちょっと過ぎたころでしょうか、一行に気付いた新進夫婦が子どもたちと一緒に迎えてくれました。何故か朝よりも一回り大きくなっている蜥蜴僧侶さんに新進農婦さんが驚きの声をあげる横で少年の瞳に戻った新進農夫君が大興奮。子どもたちも大好きなとかげさんのパワーアップに大喜び、一斉に進化した巨体によじ登っちゃてますね。立ち話もあれですし、とりあえずダブル吸血鬼ちゃん一党の自宅に戻って遅めのランチにする流れになりました。

 

 

 

「ふむ、最後は締まりのないことになってしまったが、余から話すことはこれで全て。何か聞きたいことはあるかな?」

 

「お兄様、口元にソースが付いてますわ」

 

 

 おゆはんまでの繋ぎということでパパっとサンドイッチを作った一行。優雅にマスタードを拭いながら陛下がみんなを見渡しています。立て続けに明かされた真実に胸焼けしそうとはいえ、おなかが空くのはしょうがないこと。大皿に山積みになっていた筈のサンドイッチは綺麗さっぱり貪り尽くされてますね。冒険者たちが互いに目配せをする中、紅茶の香りを楽しんでいた令嬢剣士さんがスッと手を挙げました。

 

 

「ではまず私から。先にチラッと話題に上がりましたが、頭目(リーダー)たちの身分はどうなるのでしょう?」

 

 

 まぁまず気になるのはそこですよね。狂王によって孕まされた圃人侍女さんの娘を元に生み出された『吸血鬼侍』ちゃん。彼女から分かれる形で成長し自己を確立したダブル吸血鬼ちゃんですが、陛下や王妹殿下、女神官ちゃんとは異母兄妹にあたる存在と……言えなくもないというかなんというか。ガワだけ受け継いでいるといえばそうですし、魂は赤ちゃんのものだから血縁関係だと強弁すれば推し通るような気もします。ぶっちゃけ面倒臭い案件なんですが、陛下としてはどう考えてるんですかね?

 

 

「……公式には、2人の存在を認めることは出来ぬ。地母神のに託し辺境に落とした双子の片割れを認めさせるのも綱渡りだったというのに、それに異母妹が追加となればまたぞろ不満を持つ貴族どもが口を挟んで来るであろう」

 

「加えて言うなら2人の体組織は既に大きく変質し、他の3人との血縁関係は失われていたのです。外見上似通った点はありますが、それも偶然の産物と言って良い程度なのです」

 

 

 ふーむ、つまり死霊術師(おとうさん)外見(キャラ絵)をデザインされた時点で血縁関係は消滅していたってことでしょうか。となれば後は互いの心持ち次第になる感じかな?

 

 

「だが、()個人としては卿ら2人をかけがえのない妹だと思っている。近い将来貴族に叙し、城塞都市跡を任せるのはその信頼の証と受け取って貰いたい。それに……」

 

「「……それに?」」

 

「……それに、いつか私や私の子孫が心を狂わせ、我が父のように道を踏み外した時。あるいは再生を遂げつつある黄金樹の如き王国がふたたび腐敗し災厄を撒き散らさんとした時……卿らに幕引きを任せたいのだ」

 

 

 ああ、やっぱりその発想に至りますよねぇ……。森人(エルフ)吸血鬼(ヴァンパイア)のように永遠に等しい時を重ねる種族が定命の者(モータル)を統治しようとしたら碌なことになりません、狂王がその最たるものでしょう。

 

 その一方、国の行く末を見定める監察官(インスペクター)として国の理念が揺らいだ際に是正を促す立場になるのは良いかもしれません。名君と呼ばれた王の施策を子孫が引継ぎ、国を発展させ続ける限りは無駄飯喰らい呼ばわりされそうですが、暗君が生まれてしまった時、あるいは権力者層が腐敗してしまった時には活躍出来そうですし。

 

 

「でも、ぼくたちだってなんかのひょうしにわるいこになるかもしれないよ?」

 

「『とるにたらないにんげんよ、しはいしてやるぞ!』とかいいだすかもしれないよ?」

 

 

 あまりにも似合わない悪役ムーブに失笑が湧いてますねぇ……。肩を震わせていた陛下が眦に浮かんだ涙を拭い、2人の頭にポンと手を置いて首を横に振り、ゆっくりと口を開きます。

 

 

「そうはならんさ。卿らを秩序に繋ぎ止める想い人が居る限り、卿らが暴君(タイラント)となる日は来ぬよ。それに……卿らは『辺境最悪』であろう? 卿らよりも悪い奴が現れた時にそ奴らを成敗すれば良いだけではないか!」

 

「「あ!? ……えへへ、そうかな?」」

 

 

 陛下の強引グマイウェイな物言いに思わず吹き出す2人。ですがそれで胸のつかえは取れたのでしょう、不安げな表情は何処へやら、にへら~という笑みが戻って来ましたね!

 

 

「それでも馬鹿なことしそうになったら、私たちがぶん殴ってでも止めてあげるわ」

 

「そうそう! なんたって2人を終わらせる権利は私たちだけのモノなんだから!!」

 

 

 背後からニュッっと手が伸びてきて抱き上げられる2人。初期メンバーである女魔法使いちゃんと妖精弓手ちゃんが縄張りを主張するように宣言する一方……。

 

 

「ズルいですわ! 私にもその()()()()()に対する権利を分けてください!!」

 

「え、ええと、どちらかといえば妹のような気がするんですが……」

 

 

 同じく『はじめてのぼうけん』から行動を共にしていた女神官ちゃんと、何やらおめめがグルグルしている王妹殿下まで乱入してきてもうしっちゃかめっちゃかです。あーあー、森人義姉妹(エロフしまい)や白兎猟兵ちゃんまで飛び込んでますねぇ……。

 

 

「あーもう滅茶苦茶なのです……!」

 

 

 収拾の付かなくなった有様に額を抑える賢者ちゃん。でもみんな、何か大切なことを忘れてませんかねぇ? 賢者ちゃんの横であらあらうふふと頬に手を添えて微笑んでいた若草祖母さんの言葉が、どったんばったん大騒ぎなリビングに響きます……。

 

 

「うふふ、みんな元気が有り余っているみたいですね」

 

 

 

 

 

 

「でも、迷宮探検競技の本番は明日ですよ???」

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「……あ!」」」」」」」」」」

 

 

 若草祖母さんの一言で痛いほどの沈黙へと変化した一行。恐る恐るといった様子でみんなが視線を向けた先には……。

 

 

 

 

 

 

 

「ふへへ……いいんだ、どうせ私が迷宮の主(ダンジョンマスター)だなんて盛り上がらないに決まってるんだ……」

 

「わ、私は忘れてなどおりません! 明日の準備は万全、あとは高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に参りましょう!!」

 

 

 

 ……はい! 次回はいよいよ視聴神さんお待ちかねの迷宮探検競技です! 妖術師さんと若草知恵者ちゃんのコラボで生み出された迷宮、いったいどんな素晴らしいものなのでしょうか、今から楽しみですね!! 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 あ、知識神さん鍛冶神さんもうちょっとだけお待ちください! 次こそはおふたりの推しが活躍するターンですから!!

 





 もう1話か2話くらい更新したいので失踪します。

 評価、お気に入り登録ありがとうございます。読んでくださる方がいると更新が捗って良い感じです。


 感想も併せてお待ちしておりますので、お時間がありましたら是非お願いいたします。


 お読みいただきありがとうございました。
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