ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ   作:夜鳥空

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 連休は良い文明なので初投稿です。




セッションその17-5

 

 前回、一仕事終えてアトラクションを楽しんだところから再開です。

 

 

 歓待の準備を確認するために一旦母屋(スカーリ)へ向かった奥方(フースフレイヤ)と別れ、宛がわれていた住居へと戻ったダブル吸血鬼ちゃんたち。エチケットとして武装を解除し、ゴブスレさん以外は軽装の身になって会場へと向かっていますね。

 

 

「「こ~んばんわ~!!」」

 

「おお、来たか! 外は寒いだろう、早く中に入ると良い」

 

 

 頭領(ゴジ)の一行を招く声に顔を見合わせ笑うダブル吸血鬼ちゃん。分厚い両開きの扉を開けた先には、異国の空気が満ちた盛大な宴の場が広がっていました。

 

 炉床を挟んで並べられた長椅子には入り江の民(ヴァイキング)の戦士たちが並び、酒瓶を手にした女性たちがその合間を縫うように大皿に盛られた料理を次々と配膳。さながら戦場の如き活気に満ちた光景を前に、ゴブスレさんと英雄雛娘ちゃんの瞳がキラキラと輝いていますね!

 

 

『ささ、みなさまの席は此方ですよ!』

 

『おお、我らが命を救いし乙女たちの登場か!』

 

『戦神の愛娘たる白鳥人(ヴァルフェー)の顔を拝めんかったのは残念じゃが、戦死者の館(ヴァルハラ)に行くのを天女様がたに止められちまったのだから仕方ないのう!』

 

 

 ちょいちょいと手招きをする奥方(フースフレイヤ)に向かい歩を進める一行、その途中で何人かの戦士がみんなに向かって杯を掲げ、仕事を奪われた戦乙女を揶揄う乾杯の声を上げています。彼ら、ついさっき治療を終えた怪我人たちですよね? なんでもう復活しているんですかねぇ……?

 

 

「驚かせてしまったら申し訳ない。入り江の民(ヴァイキング)の戦士は死を恐れぬが、拾った命は大切にするものなのだ」

 

『すみません、みんな「絵巻物の戦乙女よりも美しいモンは初めて見た!」って興奮しっぱなしなんですよ……』

 

 

 荒々しくも温かな声に包まれながら母屋(スカーリ)の中央まで進めば、そこには高座に腰を下ろし苦笑を浮かべた頭領(ゴジ)の姿。ダブル吸血鬼ちゃんが強引に治療した右腕に微笑みを浮かべた奥方(フースフレイヤ)が両手を絡ませおり、戦士たちがその仲睦まじい姿を囃し立てていますね。

 

 2人の対面に用意された席にみんなが腰を下ろしたところで頭領(ゴジ)が指で合図をすれば、両手に何本も酒壺を抱えた戦士が現れ一行の前に次々とそれらを並べていきます。硝子瓶とは違い、中身の見えない壺から僅かに漂う香りにダブル吸血鬼ちゃんがワクワクし始めたところで、頭領(ゴジ)が訊ねてきたのは……。

 

 

「さて、この地では己の杯は己で準備するのが流儀なのだが……何か杯は持っているかな?」

 

 

 

 ……あ、鉱人道士さんがいないから、もしかして宴の作法を知ってる人いない!?

 

 

 

「……ねぇシルマリル、なんか杯になりそうなもの持ってないの?」

 

「野営で使う木のコップでは……少々無作法ですわね」

 

 

 ダブル吸血鬼侍ちゃんを膝上に抱えた正妻2人がヒソヒソと声を交わす中、頭領(ゴジ)の背後に控えている奥方(フースフレイヤ)が『すいません、伝えるの忘れてました!』とアイコンタクトを送ってきています。

 

 うーむ、これちょっと……いやかなり不味い状況かもしれません。入り江の民(ヴァイキング)の戦士たちからすれば『こっちの流儀も知らんで来たのか?』って目で見られかねませんし、頭領(ゴジ)の立場としても『王国からの使者(姪っ子)に恥をかかせてしまった』という風に感じてしまうかもしれません。

 

 同じ考えに至った女神官ちゃんと神官銃士ちゃんの顔がみるみるうちに引き攣って……おや? 吸血鬼君主ちゃんが妖精弓手ちゃんの膝から飛び降りてなにやらインベントリーから出そうとしています。やがて目当ての品を見つけたのか、にぱっと笑いながら並べ始めたのは……。

 

 

 

 

 

 

「ねぇシルマリル? なんかこの杯、みんな危険な力を感じるんだけど……」

 

 

 眼前に並べられた()を見て頬を引き攣らせる妖精弓手ちゃん。一見何の変哲もない金属製の杯ですが、その全てが怨念じみた瘴気を放っています。目に見えるほどに物質化したオーラを纏うその表面には、妖精弓手ちゃんとの初めての冒険で訪れた遺跡の壁画に刻まれていたのと同じ文字が見て取れます。あの時は女魔法使いちゃんが解読して視聴神さんたちが発狂してましたけど、今回は……あ、妖術師さんが読めるみたいですね。並べられた杯の文字を順番に読み上げて……。

 

 

「??? なんだろう、意味のある単語じゃないみたい。ええと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「9kv8xiyi、naapatbx、wyknbf8i、4pvc5kka、by68zgaj……」

 

 

 

 

 

 全盛り聖杯じゃないですかやだー!?

 

 

 

「ええと頭目(リーダー)? この杯は何処から……」

 

「えっとね、ダンジョンをつくるときにこの()()()()をおいておくといいことがあるよ!ってしりあいのピエロが……」

 

 

 ちょっと無貌の神(N子)さん? ナニ道化師(フラック)経由で特級呪物じみたブツを渡しちゃってるんですか???

 

 太陽神さんと万知神さんはを被って<ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!って叫びながら卓の周りを走り回ってますし、覚知神さんは全身から血の棘が生えて発狂中、知識神さんに至っては「血晶あたためますか……あたためますか……」ってブツブツ呟いたまま宇宙から帰って来ませんよ!?

 

 

「すぐにしまいなさい」

 

「は~い」

 

 

 おっと、実況に戻りますね。真顔の妖精弓手ちゃん言葉に従いいそいそと死臭・腐臭・呪い(全盛り)聖杯をインベントリーに格納する吸血鬼君主ちゃん。何か代わりになるものは無いかと考えているその視線が、頭領(ゴジ)の傷が癒えた右手で持っている杯へと注がれています。

 

 

「ん、これか? これは獣角を加工して作られた杯だ。()()の牙を素材にしたものとともに、この地では良く見られる品だよ」

 

()()()()()の……そうだ!」

 

 

 たぶん()()違いを想像している吸血鬼君主ちゃんが取り出したのは1フィート(約30センチ)を越える長さの大きな()。人数分取り出したソレを敷布の上に乗せ、吸血鬼侍ちゃんと一緒に黒く硬質化した爪で中をガリガリと削っていきます。素材の()()()に気付いた妖術師さんの「削りカスは魔術の触媒になるから捨てないで!?」という叫びをバックに内部を綺麗にくり抜いた後、署名代わりに杯の縁に噛み跡を付ければ……。

 

 

「できた~!」

 

()()()()()()()のきばはいのかんせ~い!」

 

『『『『『……え?』』』』』

 

 


 

 

「――同胞と友、そして新たなる隣人に!」

 

「いつでもみんなをみまもってくれているおひさまに!」

 

「みんなのゆめをあとおししてくれるかみさまたちに!」

 

 

 めいめいが自分の好きな言葉を叫び、始まった盛大な(ドレッカ)入り江の民(ヴァイキング)は牧場産(ウォトカ)の口当たりの軽さと度数の高さに驚嘆の声を上げ、ダブル吸血鬼ちゃんたちも王国では珍しい林檎酒や蜂蜜酒に舌を躍らせていますね。あ、飲酒には寛容な四方世界ですが、流石に英雄雛娘ちゃんはまだ早いということで、彼女は南洋産の神の実(カカオ)を使ったお砂糖たっぷりのホットチョコレートを飲んでいますのでご安心を。……冒険中に飲む水で薄めた葡萄酒はノーカンということでひとつ。

 

 

「うわぁ、貝の中身がこんなにどっさり……っ!」

 

『ここいらの海は豊かでの、こんなモンいくらでも獲れるわい!』

 

 

 山羊の乳と潰した豹芋(ジャガイモ)をベースに二枚貝の剥き身やベーコン、キャベツを入れて煮込んだクラムチャウダーを頬張り幸せそうな神官銃士ちゃん。王族という出自から一般人には手の届かない高級な食材に慣れ親しんでいる彼女ですが、こういった地元ならではの料理というのはまた格別なもの。陛下が見たら顔を顰めるような大口を開けて食べる姿を見て、強面の戦士たちも顔を綻ばせています。

 

 

「さ、魚を生で食べるんですか……!?」

 

『おうよ! まぁ生っつってもいっぺん凍らせてあるから腹中虫(寄生虫)の心配はせんでええぞ』

 

 

 大皿に綺麗に盛り付けられた鮭のルイベにおっかなびっくり手を出す女神官ちゃん。周りのニヤニヤ笑いを見て覚悟を決めて一口にパクリ、シャリシャリとした食感の後、口の中で融けていく脂の乗った味わいに陶然とした表情になってますね。

 

 おや、ダブル吸血鬼ちゃんと令嬢剣士さん、それに妖術師さんは戦士たちに混ざって一際大きな皿の周りに座ってますね。男たちの不安げな表情を余所に小刀で茹でた肉塊から一口大に肉を切り取り、白っぽい何かと一緒に口へと運んでいます。自分が食べるのを忘れたようにその様子を見ていた男の1人が、恐る恐るみんなに訊ねるのは……。

 

 

『な、なぁ。無理に食わんでもええぞ? 馴鹿(トナカイ)と違って、海豹(アザラシ)の肉は癖が強いもんでな?』

 

 

 ああ、あんまり見たこと無い肉だと思ったらアザラシだったんですね! かつて野菜が手に入らなかった頃はビタミン補給のために生で食べられていたこともあるアザラシですが、非常に生臭く火を通すと固くなるという性質を持っているんだとか。慣れない人が食べると栄養豊富過ぎてお腹を壊すこともあるそうですが……。

 

 

「「おいし~!!」」

 

「言われた通り、生の脂肪を添えると味わいが増しますわね!」

 

「わざわざ生臭くしてるだけの筈なのに、なんでこんなに美味しいんだろう……?」

 

 

 どうやら吸血鬼(ヴァンパイア)的にはOKみたいです。瞬く間に消えていく肉塊を前に困惑しっぱなしの戦士たちでしたが、自分たちの料理を美味しそうに食べてもらえば悪く思う訳は無く、そんなら腹いっぱい喰わせてやるかと次々にお代わりを用意してくれています。あ、誰かが昔は生で食べていたことを口を滑らせたのか、ダブル吸血鬼ちゃんが茹でる前の肉にまで手を出し始めちゃいました。まぁ一度屋外で凍らせてますし、毒病気無効なのでぽんぽんぺいんになる心配はありませんから大丈夫でしょう、きっと!

 

 さて、肉を好まない森人(エルフ)の2人は……あ、いました! 炉床から離れたちょっと寒いところで2人とも若い男たちの背後から何かを覗き込んでいます。座り込んだ男たちの輪の中心に置かれている金属製のボウルの中には……おおう、なんかピンク色の卑猥な物体が沢山。これモザイクかけたほうが……あ、駄目ですね、余計卑猥に見えちゃいます。

 

 

『その、なんだ、アールヴ(エルフ)のお嬢さまにゃちょっと刺激が強いと思うんじゃが……』

 

「そう? 幼虫とか普通に食べてるし、別に気にならないけど」

 

「いや、多分そういう意味ではないと思うぞ???」

 

 

 海の中にも虫はいるのねぇと興味深げにボウルの中身を観察する妖精弓手ちゃん。そんな彼女とは対照的に、若い男たちは何処か落ち着かない様子でチラチラと妖精弓手ちゃんを見ています。男たちの心情を察知した闇人女医さんが呆れたとばかりに首を振ってますが……いや、これは仕方が無いでしょう。ねぇねぇこれなんて名前の虫なの? という致命の一言に男たちが凍り付き、互いに目配せをし合う緊張に満ちた空間。やがて視線の圧に負けた1人が顔を赤らめながらその名を口にしました……。

 

 

 

 

 

 

『ええとな、お嬢さま。こいつぁその……〇enis fish(〇んこ魚)って呼ばれとるんだ』

 

「え、これ魚なの!?」

 

 

 違う、そうじゃない。

 

 

 

 

 

「なんだ、そんなコト気にしてたの? 一児の母なんだから別に騒いだりしないわよ!」

 

『いや、そう言われても……なぁ?』

 

『『『『『――!!(無言で頷いている)』』』』』

 

 

 闇人女医さんから彼らの心情を聞き、あっけらかんと笑う妖精弓手ちゃん。気まずそうに顔を見合わせる男たちですが、物語か春画の中でしか想像したことの無い森人(エルフ)への淡い幻想をもうちょっと大切にしてあげても良いんじゃないですかねぇ……。

 

 というわけで、彼らが調理しようとしていたのはちん……もとい、ユムシと呼ばれる生き物ですね! その見た目から共通語(コイネー)以外でもだいたいおんなじ意味の名前が付けられるというある意味レジェンドな生き物ですが、冷たい海に面した地方では食材として認識されている軟体動物です。大きさは10~30センチほど、頭と肛門を切り落とし、中身を扱き出して綺麗に洗った身はほのかに甘く、貝に似た食感が楽しめるんだとか。シンプルに塩で頂くのも良いですが、胡麻油や柑橘の汁を絞っても美味しいそうです。

 

 

「あら、柔らかいと思ってたけど意外と硬いのね」

 

上の森人(ハイエルフ)の姫ともあろう者がまたそんな……」

 

 

 好奇心に満ちた瞳でボウルの中のユムシに触れる妖精弓手ちゃん。僅かに膨らんだ先端を突いたりツツーと表面に指を滑らせる絵面は完全にアウト。闇人女医さんの溜息まじりの声が虚しく響く中、男衆の視線は妖精弓手ちゃんの艶やかな手付きに釘付けです。ですがそんな彼らの心を粉砕する一言が、一番大きな個体を親指と人差し指で挟み込むように擦っていた妖精弓手ちゃんの口から発せられました……。

 

 

 

 

 

 

「ん~……でもシルマリルとヘルルインの魔剣ほどおっきいのはいないのね」

 

「そういうとこだぞ、姫様」

 

 

 言葉も無く前のめりに崩れ落ちた男たちを不思議そうに眺める妖精弓手ちゃん。なおこの後調理されたユムシはダブル吸血鬼ちゃん一行が美味しく頂きました。

 

 

 

 いやぁ、無自覚妖精弓手ちゃんは強敵でしたね……と、そういえばゴブスレさんは楽しんでいるのでしょうか? 原作(ほんへ)よりは心身ともに余裕があり、牧場の後継者として、また騎士位を授与された金等級冒険者として活動しているため、コミュニケーション能力は鍛えられていると思うんですが……あ、いました! 何時の間にか高座から降りて戦士たちの輪の中に座っています。なかなか会話が盛り上がっているみたいですし、ちょっと聞いてみましょうか!

 

 

『ほほう、そんじゃオルク(ゴブリン)を絶滅させるのがお前さんの夢なのか』

 

「そうだ。ゴブリンは弱い。だが放置していれば際限無く増え、人々の生活を脅かす。奴らに知恵を持たせず、時間を重ねて数を減らし、この世から根絶させる。それが俺の……」

 

 

 途中まで言いかけたところで自らに注がれる視線に気付き、言葉を区切るゴブスレさん。見ればダブル吸血鬼ちゃんたち冒険者が頬を膨らませて彼を見ています。その様子を見たゴブスレさんが微かに苦笑しながら続けたのは、呪いじみた使命感ではなく、自ら望む未来を見据えた決意です。

 

 

「いつか、誰もがゴブリンに脅かされることの無い生活を送れるような世界を作る。それが俺()()の目指す『めでたしめでたし』だ」

 

 

『……そうか。難しいとは思うが、そんな世界が来ることをワシらも願っておるよ』

 

 

 ちょっと呆れたような、でも断固たる決意を応援するような戦士の言葉にヘヘンと鼻の下を擦るダブル吸血鬼ちゃんたち。たとえゴブスレさんの代でそれが敵わなくとも、既に土壌は出来つつあります。歩む速度が遅くとも、確実に世界を良い方向へ変えていくでしょう!

 

 

 

 

 

 

『ちと聞きたいんだがの。お前さんの着ているその鎧下、もしかして竜革を使っておるのか?』

 

『そういやその杯も竜の牙だったの。 もしやお前さん竜殺し(ドラゴンスレイヤー)なのか!』

 

 

 良い感じに酔いが周り、砕けた雰囲気になってきた頃。顔を赤らめた戦士たちがゴブスレさんの装備に興味を示し始めました。()鬼の姫から譲り受けた"小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)"の魔剣こそ置いてきたものの、竜革の鎧(ドラゴンハイドアーマー)真銀(ミスリル)にダブル吸血鬼ちゃんの血を混ぜて生み出された部分金属鎧の組み合わせである複合素材鎧(コンポジットアーマー)、そして砂漠の赤竜戦で役目を全うしたのち、その赤竜から新たに作られた竜革の外套(ドラゴンハイドクローク)。竜素材で固められたそれらは戦場に身を置く入り江の民(ヴァイキング)たちの目にも素晴らしい装備に見えるようです。戦士たちからの熱い視線に若干気圧された様子のゴブスレさんでしたが、グイと杯を傾けた後ゆっくりと口を開きました。

 

 

「いや、この鎧は結婚祝いに戦友が用意してくれたものだ。だが、この外套は戦友と……同じ冒険者の()()()()と協力して倒した赤竜を素材にしている」

 

『おお、そんならやっぱり竜殺し(ドラゴンスレイヤー)でねぇか! 是非そん時の話を聞かせてくれい!!』

 

『いやいや、せっかくだからお前さんたちの「冒険」っちゅうやつも話してくれ!』

 

 

 おお、予想以上の喰い付きにゴブスレさんの目が泳いでますね! 助けを求めるように視線を彷徨わせてますが……残念ながらダブル吸血鬼ちゃんたちはニヨニヨしているばかりで味方は1人もいない様子。いつの間にか高座から降りて来ていた頭領(ゴジ)奥方(フースフレイヤ)まで集まってきて、もはや逃げ場はありません。

 

 

「俺は、話下手だ。上手く伝えられるかは判らんが……」

 

 

 そう前置きし、語り始めたゴブスレさん。途中途中で補足や茶々が入りながらの冒険譚は、淡々とした口調でありながら臨場感に溢れ、冒険、そして『冒険者』と縁遠い入り江の民(ヴァイキング)を夢中にさせるほどに魅力的なものでした……。

 

 

 

『なるほど、「冒険」っちゅうのは血沸き肉躍るもんじゃのう!』

 

『こいつぁ負けてはいられんぞ! ワシらの武勲歌(サガ)を聞けぃ!!』

 

 

 

 ゴブスレさんの冒険譚で火が点いたのか、戦士たちが歌い出したのは入り江の民(ヴァイキング)の間で伝わる古の歌。伴奏も無く、ただ声のみを重ねて紡がれる雄々しい歌声に冒険者たちも息を呑み聴き入っています。杯と酒壺を持った頭領(ゴジ)がどっかりとゴブスレさんの隣に座り込み、牙杯に林檎酒を注ぎながら話しかけています。

 

 

「この地は生きるのに厳しい場所だ。夏は短く、暗い夜と寒さが容易く人の生命を奪っていく。だが、それでも此処には人の営みがある。強く生きる人々がいる」

 

「ああ、そうだな。此処は誰もが強く在る場所だ。互いに助け合い、共に戦い、そして次代に営みを繋いでいく……」

 

 

 普段よりも少しだけ饒舌なゴブスレさん、吞み慣れぬ林檎酒が酔いを齎したのかもしれませんね。高らかに歌う男たちを見る目は憧れにも似た光を湛え、いつも見せる攻撃色とは異なる色合いを見せています……おや? 戦士たちの歌が終わったところでスクっと立ち上がるあの薄いシルエットは……!

 

 

「よ~し、それじゃ次はこっちの番ね! あ、ちょっとその弓貸してちょうだい!!」

 

 

 そう言って手を伸ばしたのは入り江の民(ヴァイキング)たちが使っている短弓。普段彼女が愛用しているイチイの弓とは異なる動物の腱や骨を組み合わせて作られた合成弓(コンポジットボウ)を手に高座へと優雅に座り、ちょいちょいと闇人女医さんを手招き。やれやれといった様子の彼女が隣に腰掛けたところで弓の弦を爪弾き始めました。

 

 

 bon  bon  bon……

 

 

 何度か感触を確かめた後、静かに響き渡る鳴弦の音。それに合わせるように闇人女医さんさんが爪先でリズムを刻み始めます……。

 

 

 bon ti bon  bon bon bon ti bon……

 

 

 誰もが見惚れる笑みを周囲に向け、目配せをする妖精弓手ちゃん。自然に発生した手拍子(ハンドクラップ)母屋(スカーリ)全体に波及したところで、2人の歌が始まりました……!

 

 

 

 夜が来て(When the night has come)

 あたりが暗闇に包まれ(And the land is dark)

 

 

 甘く響くハスキーなアルト。普段はムッツリと無表情なことが多い闇人女医さんですが、内に秘めた情熱は決して他の子たちに引けを取りません。吸血鬼侍ちゃんへと向けられた視線の流れ弾に当たり、歴戦の戦士たちも思わず前屈みになっちゃってます。

 

 

 月明かりしか見えなくなったって(And the moon is the only light we'll see)

 だいじょうぶ 怖くなんてないわ(No I won't be afraid Oh I won't be afraid)

 あなたが隣にいてくれればね!(Just as long as you stand, stand by me)

 

 

 後に続くのは伸びやかなソプラノ。爪弾く指先はそのままに、首を緩やかに振ってリズムを取りながら楽しそうに歌う姿はまさに動く芸術。歌に聞き入っているみんなの頭も自然に動いてしまっています。サビを前に視線を交わした2人が、ダブル吸血鬼ちゃんを視界の中心に捉え、旋律に想いを乗せて歌い上げていきます……!

 

 

 だから ダーリン(So darling, darling)

 隣にいて わたしの隣に(Stand by me, oh stand by me)

 いて欲しいの 私の隣に(Oh stand, stand by me)

 私の隣に(Stand by me)

 

 

 今が暗くても、行く先が見えなくても、ずっと一緒にいるよという想いのこもった歌に、声を失い聴き入っていた一同。終わりを告げる弦の響きによって、我に返ったように拍手が沸き起こりました! むふ~と満足げな妖精弓手ちゃんが次に目を付けたのは……。

 

 

「ほら、次はそっちの3人! 場はあっためておいてあげたわよ!!」

 

「「「……え?」」」

 

『おお、次はお嬢ちゃん達か!』

 

『都会の歌はきっとスゲェんだろうなぁ』

 

 

 突然矛先を向けられ硬直する令嬢剣士さん、妖術師さん、英雄雛娘ちゃんの3人。まさか自分たちに振られるとは思っていなかったようで、周囲からの期待に満ちた視線によってプレッシャーに弱い妖術師さんは既に血の気の引いた……は元からですね。半笑いのような引き攣った表情になっちゃってます。

 

 

「どどどどどうしよう!? 私人前で歌ったことなんて無いってば!?」

 

「私だってありませんわ!? それに、この3人全員が知ってる歌なんて……」

 

 

 あ、それは重要なとこですね。生まれも育ちも大きく異なる3人、知っている歌も違うでしょうし、そもそもそういうものに馴染みの無かった可能性も考えられます。動揺を隠せない様子の眷属2人と……お、なにやら英雄雛娘ちゃんが決意に満ちた表情になってます。2人に顔を寄せてヒソヒソと何かを伝えているみたいですが……。

 

 

「確かに、その歌でしたら私も知っていますわ」

 

「で、でもちょっとこの場にはそぐわないような……」

 

「――でも、時間を空けたらせっかく盛り上がった場の空気が醒めてしまいます。だから、ここは勢いに任せましょう!」

 

 

 おお……先輩相手にどキッパリと言い放ちましたね英雄雛娘ちゃん! その力強さに2人も覚悟を決めたようで、揃って母屋(スカーリ)の中心へと進み出る3人。何度か深呼吸をした後、裏打ちの手拍子とともに始まったのは、王国の子どもたちならみんな知っているあの歌です……!!

 

 

 

花やくさきとおはなしが できたらうれしいとか

 

空をとびたいなんて まかせておくれ簡単さ

 

 

 まず先陣を切ったのは令嬢剣士さん。凛とした姿から繰り出される可愛らしい歌詞は破壊力抜群! 何処からか≪託宣(ハンドアウト)≫を受け取ったのか、一部の戦士たちが両手に小さな松明(サイリウム)を持ち歌声に合わせて振り出しています。

 

 

 

うかんだ雲をわたがしに かえて食べちゃうことも

 

できるよ チョット待ってね ポケットをさがしてみるよ

 

 

 続いてガチガチに緊張した面持ちの妖術師さん。本人はすっかり頭から抜け落ちているようですが、今の姿はダブル吸血鬼ちゃんをトレースした圃人(レーア)形態。お遊戯会の如き微笑ましさに奥方(フースフレイヤ)も顔を綻ばせ、その美貌を笑みの形に変えてます。

 

 

 

きかせて その大きな夢を せいいっぱいキミの声で

 

その夢 忘れないでいてね そうボクが かなえてあげるよ

 

 

 トリを務めるのは英雄雛娘ちゃん。一生懸命歌う彼女の視線の先には……目を丸くしているゴブスレさんが! どうやら先程の決意表明に対する彼女からのメッセージみたいですね。牧場に身を寄せてからこっち何かと英雄雛娘ちゃんを気に掛けていたゴブスレさん、もしかしたら彼女のことを妹か娘のように見ているのかもしれませんね。

 

 

「――ああ、懐かしいな。昔、姉さんと()()が歌っていたのを思い出したよ」

 

旦那(おど)様……』

 

 

 ひとり目を瞑り過去に想いを馳せる頭領(ゴジ)化狸(タヌキ)……じゃなかった、耳の無い猫人(フェリス)と気弱だけどやる時はやる只人(ヒューム)の少年が織り成す冒険譚は、とても古くから親しまれている子供向けのお話し。伯爵夫人(おねえ)さんと圃人侍女さんが知っていても不思議ではありません。眦に浮かんでいた涙を奥方(フースフレイヤ)に指先で拭われたことでハッと我に返り、心配そうに見つめる彼女を優しく抱き寄せていますね。

 

 

「「「あ、ありがとうございました~!」」」

 

『『『『『ウオォォォォォォ!!』』』』』

 

「ふっふっふ、それじゃあそろそろ貴女たちの出番よ~?」

 

 

 野太い歓声に若干引きつつも合いの手や応援に感謝を伝える3人が母屋(スカーリ)の中心から離れたところで不敵な笑みを浮かべる金床P。残る面子は王妹殿下1号2号とダブル吸血鬼ちゃん! 宴の盛り上がりが最高潮に達しつつある状態で、果たしてどんな活躍を魅せてくれるのでしょうか!!

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 





 連休明けは悪い文明なので失踪します。

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