前回、蜥蜴僧侶さんが吶喊したところから再開です!
令嬢剣士さんの支援を受け、前傾姿勢で海面を疾駆する巨体。その速度は非常に速く、秋刀魚頭の部下たちが足止めを試みても反応しきれないほど。一直線に魔蟹の群れへと突き進む蜥蜴僧侶さんの背後から秋刀魚頭の焦りを孕んだ怒号が響きます。
「ええい、目障りな……! やれ、魔蟹ども!!」
「「「「「ZGOOOOOOOOOK!!」」」」」
召喚者の命に従い、威嚇のために振り上げていた両の鋏を迫る蜥蜴僧侶さんへと向ける魔蟹たち。そこから一斉に放たれた無数の蟹光線が次々と彼に着弾し、黒煙に包まれてしまいました! 獲物の姿が消え勝利のポーズを決める魔蟹たちですが、黒煙の中から浮かび上がるシルエットに気付き、ブクブクと口から泡を吹き出し始めてますね!!
「温い、温過ぎる! 斯様な攻撃では拙僧の鱗一枚焦がせぬと心得よ!!」
相対した者の精神を折るような咆哮を上げ迫る蜥蜴僧侶さんに再び蟹光線を乱射する魔蟹。ですが無数の光の矢は彼の身体に触れる直前にその殆どが弾かれるように霧散し、僅かに不可視の障壁を突破したものも減衰がひどく、かすり傷すら与えることが出来ていません。吸血鬼君主ちゃんから星の力を譲り受け、竜への階を登り始めた蜥蜴僧侶さんには恐るべき竜や吸血鬼君主ちゃんが持つ呪文抵抗が追加されたんですね!
「次は此方の手番ですな! コオオオオオオ……!!」
蟹光線が効かないと判断し鋏を振り上げながら押し寄せる魔蟹の群れを見て、深く息を吸い込む蜥蜴僧侶さん。背中部分にスリットのある新衣装から突き出た背鰭が紫電を帯びて明滅、同時に大きく開かれた彼の口内に膨大な熱量がチャージされていきます。独特な発射音とともに繰り出されるのは、怒れる竜神の放つ破壊の息吹……!
「カァアアアアアアア!!!」
海面を割り、魔蟹へと伸びる極太の閃光。隊列端の1体を蒸発させた破壊の奔流は蜥蜴僧侶さんの首の動きに連動し、蟹歩きで回避しようとする他の魔蟹たちを次々に飲み込んでいきます。輝きが通過した後に残るは僅かな鋏や脚の先端のみ、両手の指を超える数の魔蟹が≪核撃・放射≫の一撃によって海の藻屑へと姿を変えました!
「「「「「ZGOOOOOOOOOK!!」」」」」
おっと、海中に退避して≪核撃・放射≫から逃れた魔蟹たちが蜥蜴僧侶さんの背後に回り込んでますね。鋭い爪なら強靭な外皮を貫けると考えているのでしょう。ブレスのチャージタイムを狙う目の付け所は悪くありませんが、残念ながら蜥蜴僧侶さんに隙はありません!
「まだまだ未熟! ――殺ァッ!!」
背鰭に溜まっていた紫電を尻尾へと流し、豪快に振り抜く蜥蜴僧侶さん。音速を超える尾の先端から射出された光刃は魔蟹の強固な殻を紙のように切り裂き、偶然射線上に存在していた神殿跡の尖塔までも両断……あ、透明になって撮影の補助をしていた扁桃頭の1体が不運にも巻き込まれて地面に落下しました。N子さん、みんなにバレないうちに回収お願いします!
「おっと、拙僧うっかり。これでは過食部分がなくなってしまいますな」
「Z、ZGO……!?」
ぼたぼたと海面に落下する魔蟹のパーツを前にてへぺろな蜥蜴僧侶さん。両手の爪をカチカチと鳴らしながら最後に残った赤い魔蟹へとにじり寄っていますね。仲間の惨状に恐慌状態に陥った魔蟹の振り回す鋏をガッチリと抑え、海中からその全身を引き摺り出しました。残る四対八本の脚でなんとか逃れようと藻掻く魔蟹の腹部、ふんどしと呼ばれる部分に噛みつき、一気に引き千切ります!
「ZGOOOOOOOOOK!?!?」
「死ぬとすぐに臭みが出る故、活けで持ち帰るのが上策というもの。……フム、あちらも派手にやっているようですな」
ブクブクと口から泡を吹きぐったりとした魔蟹を背に抱え船へと眼を向ける蜥蜴僧侶さん。魔蟹は殲滅しましたので、次は幽霊船防衛戦を見てみましょう!
「次、11時方向から来るわ!」
「はい!! ≪いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守り下さい≫」
揺れる船上という不安定な足場をものともせず得意の弓で前衛を援護していた妖精弓手ちゃんの声を受け、≪聖壁≫を展開する女神官ちゃん。数々の冒険で鍛錬を積み重ね、帝王切開の技術確立のために技術や知識を吸収した彼女の神官としての位階は並の神殿長を超え、聖人尼僧さんに匹敵するもの。放物線を描いて飛来する巨大海栗の棘の着弾にも揺らぐこと無いその護りは、ダブル吸血鬼ちゃんたちとともに険しい道を歩むことを決めた彼女の決意を表しているのかもしれません。
「どうした、そんな襤褸船さっさと沈めてしまえ!」
ゴブスレさんと頭領相手に巨大な三又槍を振るう秋刀魚頭の怒声が響くと、それに呼応して俄かに泡立つ船の周囲。急浮上してきたのは人間とほぼ同じ体格の鰓人、若干丸みを帯びた顔立ちから恐らくは若魚と思われる集団が船に群がり始めました。彼女たちにとって秋刀魚頭の命令は絶対なのか、入り江の民の戦士や半透明の乗組員たちの矢で隣の個体が海に落下してもよじ登るのを止めようとはしません……あ、船側面から突き出した櫂に取り付いた鰓人が腰に下げた袋から見るからに危険な色をした液体の入ったガラス瓶を取り出しました! 十中八九毒であろうそれを船内に放り込むべく腕を大きく振りかぶったところで……。
『――今です!』
「き、近接防御用触手、起動ッ!!」
タイミングを見計らっていた奥方の号令で妖術師さんが秘密兵器その1を起動! 船の側面に並んだ櫂が一斉にぐにゃりと姿を変え、吸盤の付いた触手へと変貌しました!! 足場にしていた櫂が急に姿を変えたことで姿勢を崩した鰓人が海面に落下していくのを太い触手が打ち据え、彼女を真っ赤なシミに変えてしまいました。他の触手もそれぞれが独自の意志を持つかのように動き、鰓人たちを打ち据え、貫き、絞り上げ、次々に屠っていきます……!
「オノレ、ヨクモ若魚タチヲ……!」
若魚たちの無残な姿に怒り狂った大型鰓人の1体が矢継ぎ早に指示を出す奥方を司令官と判断し、触手の届かない船首から近付いてきました! 海面から高い位置にある甲板からでも見上げるほどの巨体、何本もの矢が命中していますが、全身を覆う鱗と粘液に阻まれ掠り傷にもなっていませんね……。船主に据え付けられた咆哮する獅子を模した像の傍に立つ彼女にむかって、水かきの付いた手を伸ばしてきます。
「忌々シイ鱗無シメ。神ヘノ供物ニ……イヤ、コノママ踊リ食イシテクレルワ!」
恐怖を煽るように大きく顎を開き、鋭い牙の並んだ口を見せる鰓人。ですが残念ながらその口に収まるのは瑞々しい奥方の肢体ではありません。船内から重低音が響くとともに、少しづつ震動が船首に向かって近付いていきます。掴んだ船の縁からその振動を感じ取った鰓人が訝し気に瞬膜を瞬かせていますが、既に彼女の運命は決まっています。大きく腕を前に突き出した奥方が、秘密兵器その2の使用を高らかに宣言します!
『――船首火炎舌、発射ッ!!』
「ギャアアアアアアアアアア!?」
獅子の口から伸びた火炎放射によって口内を焼かれ、のたうち回る巨大鰓人。海水で火を消そうと海面に頭部を突っ込みますが……それは最悪な選択なんだよなぁ。
「ミ、水ヲ……!?」
『メディアの火』に含まれる成分と水が激しく反応し、辺り一帯に響き渡る爆音と衝撃。寒風によって煙が吹き散らされた後には、焼き魚の臭いを放つ頭部を失った巨体が力無く海面にプカリと浮かんでいました……。
「うわ、えっぐ……っと、そろそろ栗みたいなのに接敵しそうね。――頑張りなさい!」
≪聖壁≫の効果範囲外に着弾しそうな棘を矢で迎撃するという神業を披露していた妖精弓手ちゃんが、巨大海栗に向かって疾走する英雄雛娘ちゃんを援護しながら歯を剥く獰猛な笑みを浮かべてますね。先の宣言通り眼部や鰓を狙って放たれた矢は既に何体もの巨大鰓人を斃しています。ジャイアントキリングを繰り返す彼女を狙って若い鰓人たちが投網や銛を投げつけてきますが、メインマストを中心に蜘蛛の巣のように張り巡らされた黒い紐を足場に、空中を駆けるように位置を変える妖精弓手ちゃんを捉えることは出来ません。しかも、張り巡らされているのは目に見えているものだけではありません……。
「ギィ!?」
「随分とあの幼娘に無茶をさせるものだな……ふむ、これでつ抜け達成か」
「鱗に覆われている外側は硬いけど、内部はけっこう脆いのかな……オラァッ!」
なんとか這い上がってきたところで神編の綱紐からこっそりと枝分かれしていた極細の糸に絡めとられ、甲板に倒れ伏す鰓人。巣の主である闇人女医さんが慈悲の短剣片手に無造作に近付き急所である首筋の鰓蓋に切先を突き入れると、ビクンと痙攣した後に動きを止めました。まわりには同じように鰓から血を流す鰓人たちの死体が幾つも転がっていますね。彼女の言葉が確かならば撃破数はつ抜け……つまり九つを超え十に達したみたいです。隣に降り立った妖精弓手ちゃんに呆れたような視線を向けながら、短剣に付いた血を拭っています。
船尾側にはこっそりと登ってきていた鰓人のボディに重い一撃を叩き込んでいる神官銃士ちゃんがいますね。周囲には口から血を吐いて倒れ伏す鰓人が数体、彼女の両手には隻眼鍛冶師さんの作品であるヒヒイロカネ製の鎧貫が握り込まれてますね。素材の提供者……といいますか素材そのものである吸血鬼君主ちゃん曰く「ヴァンパイアのACだってぬけるよ!」らしいので、なかなかにヤバイ代物っぽいです。
「あら、あの娘だって私たちとおんなじシルマリルとヘルルインのお嫁さんよ? この先も2人と肩を並べるなら、このくらいの脅威なんて笑いながら突破して貰わないと!」
「ハァ……まぁ即死さえしていなければ如何とでもなる。最悪手足の1本までは授業料といったところか」
うわぁ……なんか怖いこと言ってますね2人とも。まぁ自分よりも強大な相手にローリスクで挑む機会なんてそんなにありませんからね。痛くしなければ覚えないことだってあるでしょう! ちょうど巨大海栗の前に辿り着きそうですし、次は英雄雛娘ちゃんのシーンです!
「やぁあああああッ!!」
自らを奮い立たせるように雄叫びを上げ、前に進む少女。上空から大口を開けて突っ込んでくるサメを前ステップで避け、水平に飛んでくる海栗の棘を首を傾げることで躱し、立ち塞がろうとする鰓人が妖精弓手ちゃんの放った矢に貫かれ倒れる横をすり抜け、ただひたすらに前へ、前へ、前へ! みんなの援護のもと英雄雛娘ちゃんの進撃は何者にも阻まれる事無く完遂され、今まさに巨大な海栗の前へと辿り着きました!
射出した棘を補充するように内側から次々に棘を生やす異形を前にして、恐れることなく剣を構える英雄雛娘ちゃん。そびえ立つ壁のような巨大海栗は上半分を海面上に露出したドームのような見た目ですね。特大剣を右腕の延長として海栗を指し示すように水平に、逆手にパリングダガーを握った拳を右肩に触れさせる独特な構え。それは鎧による防御が意味をなさない人狼や吸血鬼と言った人外の存在を滅するために磨き上げられた牙狩りの業、その血統を受け継ぐものです。
「――≪鍛冶神さま 私の息吹が鋼を輝かせるところ どうぞご覧ください≫」
特大剣の刀身にパリングダガーを擦らせながら鍛冶神さんへの祈りを唱え、二刀に炎を纏わせる英雄雛娘ちゃん。周囲の温度を上昇させるほどの赤熱化した刃ですが、使い手である彼女を害することは決してありません……あ、熱を感知した巨大海栗がゆっくりと彼女に向かって転がり始めました!
眼前の小さき存在を轢き潰そうと迫る巨大海栗。ですが彼女に迫った瞬間、何か硬いものにぶつかったように水飛沫を上げながらその動きを止めました。宙を舞う海水が収まった後に見えてきたのは、突き付けた特大剣の切先によって巨大海栗が転がりを止められている驚きの光景。よく見れば切先を中心に透明な壁が展開され、巨大海栗を受け止めているのが判ります。……そう、英雄雛娘ちゃんの唱えた≪聖壁≫が、自身より何十倍も大きい巨大海栗を完全に抑え込んでいます!
「まずは、棘をなんとかします!」
巨体であるが故に初動が遅いという弱点を抱えてる巨大海栗の分厚い外皮へと≪聖壁≫越しに剣先を突き刺す英雄雛娘ちゃん。突き立った部分を始点に剣から炎が燃え移り、巨大海栗の外皮を焼いていきます。悶え苦しむように棘を蠢かせる巨大海栗ですが燃え盛る炎を消すことは出来ず、やがて炭化した棘がボロボロと海面に落下し、デコボコの本体が露わになりました。悪足掻きなのか、海面下にあったために炎から逃れていた半面を海面から出そうと巨大海栗がゆっくりと回転し始めますが……。
「これで……終わりッ!!」
「urrrrrchiiiiin……!?」
半分ほど回転したところで鍔元まで特大剣を突き立てられ、断末魔の悲鳴……悲鳴?を上げる巨大海栗。英雄雛娘ちゃんが狙った部分は偶然にも巨大海栗の口部分、そこから体内を焼き尽くす炎が送り込まれ、消化管を通じた反対側の出口……肛門からも炎が噴き出しています。一際強い磯の香りを残し、黒焦げになった巨大海栗は海中に沈んでいきました!
「やった!……っと、まだ終わってないよね。いったん船に戻ったほうがいいかな……!?」
おっと、可愛らしくちっちゃなガッツポーズをしていた英雄雛娘ちゃんが上空から落下してきたサメの死体を慌てて避けてます。1匹や2匹といった数ではなく数十匹単位で降り注ぐサメはどれも皆穴だらけ。ということは……ちょっと映像を巻き戻して確認してみましょう!
「「「「「Shaaaaaaaaaaark!!」」」」」
>「「おあ~……」」
「ああもう、鬱陶しいですわね!? 頭目も遊んでいてはいけませんわよ!!」
弾幕のように飛来するサメの群れに向かってお嬢様らしからぬ悪態を吐く令嬢剣士さん。海面から渦巻き天高く伸びる巨大な竜巻に風を乱されてしまい、上手く飛べないみたいですね。軽量なダブル吸血鬼ちゃんは竜巻にキャプチャーされ、グルグルと渦の外周を回っています。風の勢いを利用してとんでもない速さで体当たりを仕掛けてくるサメたち、回避されてもそのまま海へと落下し、竜巻に入り込んで上空まで帰ってくる頭脳プレイに3人は翻弄されちゃってますねぇ。オマケに順番待ちのサメは口から炎や雷のブレスを吐いて嫌がらせまでしてくる始末、製作者の悪意が感じられますよクォレハ……。
>「「ただいま~!」」
「ハイハイおかえりなさいませ! で、如何いたしますの? 竜巻が邪魔して思うように動けませんし、魔剣もブレてしまいますの……」
お、影の触手をしゅぽ~んと伸ばして令嬢剣士さんに巻き付かせ、ダブル吸血鬼ちゃんが竜巻の中から脱出してきましたね。胸元に顔を擦り付ける2人に塩対応しつつ、大口を開けて突っ込んできたサメの横っ面を魔剣の刀身でぶん殴りながら竜巻を睨む令嬢剣士さん。まずは竜巻を何とかするのが攻略の第一歩でしょうか。
>「ふかふか~……うん、チャージかんりょう! たつまきはぼくにまかせて!!」
>「よろしく~! ふわぁ……ふかふか……」
お、たわわ補給を完了した吸血鬼君主ちゃんがフンスと眉を立てた笑みで竜巻に向かっていきました! それを見送る吸血鬼侍ちゃんは昼間なのでちょっとおねむらしく、令嬢剣士さんのたわわに後頭部を預けた姿勢で彼女の胸元にすっぽりと収まっちゃいました。現状一党内で一番日光に弱いのは吸血鬼侍ちゃんなので仕方ないですね!
「「「「「Shaaaaaa……aark!?」」」」」
空中でガ〇ナ立ちする吸血鬼君主ちゃん目掛け殺到するサメたちを突如襲う衝撃。鼻っ面を強打し海面へと落下していく彼らを見送るように吸血鬼君主ちゃんの周囲を歪な金属球が旋回しています。どうやら詠唱を邪魔されないよう自動迎撃状態にしているみたいですね。なおも飛来するサメたちを勾玉に任せ、吸血鬼君主ちゃんが唱えるのはもちろん、その場の天候を雲ひとつない晴天へと変更する太陽神さん専用の奇跡です!
>「≪たいようらいさん! ひかりあれ!≫」
祈りの形に組んだ両手の間に生み出された翠玉色の光球を、竜巻目掛け勢いよく投擲する吸血鬼君主ちゃん。荒れ狂う風塊と接触した輝きは達成値争いに勝利し、鈍色の雲に覆われていた空を冬晴れへと変え、同時に巨大竜巻を消滅させることに成功しました! 流石は≪晴天≫、天候に関する現象なら問答無用で晴れにする浪漫と実用性を兼ね備えたナイスな奇跡ですね!!
速度を生み出していた竜巻を失い、自力で飛行しなければならなくなったサメたち。そもそも自力飛行している時点でどうかと思うという意見は聞こえません。尾鰭を振って加速していますがその速度は目に見えて落ちています。巨体に付随する重さを活用した突撃は脅威ですが、当たらなければ意味はありませんよね? 追い討ちを掛けるように銀閃が煌めき、尾鰭を始めとする各部位の鰭を斬り裂かれたサメたちがその動きを鈍らせていきます。
>「ふわぁ……こんなかんじでいい……?」
「ええ、十分ですわ! ――さぁ、お仕置きの時間です!!」
村正と暗月の剣の二刀を肩に担ぎ欠伸をする吸血鬼侍ちゃん。風に流されないよう令嬢剣士さんに触手を巻き付け、ふよふよと眠たげに浮遊する姿に苦笑しながら令嬢剣士さんが魔剣に魔力を注ぎ込み始めました。どうやら触手を通じて吸血鬼侍ちゃんも魔力を供給しているらしく、いつもより多く銃身が回転している気がしますね。迫りくる死の恐怖に怯えたサメが破れかぶれに繰り出すブレスを鋼の如き強靭さを持った翼で打ち払い、令嬢剣士さんが魔剣の切先をサメたちへと向け、キメ顔で言い放つのは……!
「――これが、『栄纏神官魂』です!!」
ヒューッ! 毎分3900発の魔弾の雨によって次々に撃ち落とされていくサメたち……と、そういえば落ちてく死体はどれも原形を保っていますね。どうやら威力を落とす代わりに装弾数、連射時間を延長することに成功したみたいです! これには視聴神席に座っている破壊神さんもニッコリ、何もかも吹き飛ばす最大出力モードと切り替えることで汎用性が高まり、一層の活躍が期待できそうですね!!
「う、嘘だ、こんなことはあり得ない! これは何かの間違いだ!?」
「――『ありえない』なんて事はありえない。戦友の好む言葉だな」
「はは、この世界の真実に迫る名言だなそれは!」
魔力を帯びた巨大な三又槍を振り回しながら、辛うじて聞き取れるほどに歪んだ共通語で絶叫する秋刀魚頭。兜の奥で仏頂面をしているであろうゴブスレさんの呟きを耳にした頭領が豪快な笑い声を上げています。2人とも無傷というわけにはいかず身体の彼方此方に血が滲んでいますが、飛来するサメや棘を避けながらの戦いでこの程度の負傷は、十分に褒め称えられるレベルの善戦でしょう!
「狂いの原因である硬貨を引き渡し、降伏しろ。これ以上の戦いは此方としても望まん」
太刀の切先を海面に向け、静かに言い放つ頭領。多くの雌と若魚たちを失い、もはや群れとして再起するのは不可能な損耗でしょう。死兵による損害を厭う頭領の発言は至極まっとうなものですが、その言葉が届くほど秋刀魚頭の正気度は残って……。
「まだだ、まだ終わってなどいない! 雄さえ生きていればいくらでも群れは再起できる!! ……どうした雌ども、群れの危機ぞ!立て、立って戦え!!」
「「「ギィ……アァァ……ッ!」」」
「アンタたち、もうおよしなさい! そんな奴の言うことなんて聞く必要ないのヨ!?」
秋刀魚頭の声に従い、操り人形のようにふらつきながら立ち上がる生き残りの鰓人たち。その痛ましい姿に族長姉貴兄貴や配下の戦士たちも穂先を向けるのを躊躇っていますね……。
「駄目だな。アイツを殺らねば戦いは終わらん……グッ!?」
「クソ! 民の命を預かる長のやることか、それが!?」
あ、鰓人たちに視線を向けていたゴブスレさんが秋刀魚頭の繰り出した横殴りの一撃を貰っちゃいました!? 辛うじて盾は間に合ったみたいですが、大きく後方へと弾き飛ばされてしまいました。横を吹き飛んでいったゴブスレさんに視線を向ける暇もなく、完全に正気を失った瞳の秋刀魚頭の連撃を頭領が受け流していますが、先程まで2人で防いでいたものを単独で、しかも理性を失い全力で動き続ける相手に防戦一方、これは不味いですよ!? 上段から連続で振り下ろされる重い連撃に膝が落ちそうになる頭領、それを隙とみた秋刀魚頭が三又槍の穂先を彼に向けた刹那、背後から2つのモノが飛んできました。
「――後ろに跳べッ!!」
ひとつはゴブスレさんの声。その声に応じ太刀で三又槍を打ち払い、後方へと飛び退る頭領。忌々し気に舌打ちし追撃の構えをとった秋刀魚頭へともうひとつのモノが飛来し、柄尻でそれを迎撃すると……油壺いっぱいに詰められていた燃える水が秋刀魚頭の全身に降り注ぎ、追撃の黒火炎壺が彼を火達磨に変えました!
「があああああ!?!?」
「……どうやら呪文の対象になった時に身に着けていた物は、身体から離れても暫くはそのままの大きさを保つらしいな!」
全身を保護していた粘液を失い、直接肌を焼く痛みにのたうち回る秋刀魚頭。海中に逃げ込もうとしたその身体を頭領の太刀が貫き、火を消すのを妨げています。チリチリと身に纏う毛皮が焦げるのも厭わず、歯を食いしばって暴れる巨体を抑え込む膂力は驚嘆に値しますね! 後方からゴブスレさんが駆け付けた時には、皮が焦げ身の焼き上がった状態で、ヒクヒクと痙攣を繰り返すだけになっていました……。
「――あのオーなんとか並の生命力だな」
まだ覚えてなかったんですねゴブスレさん……。頭領が身体を縫い留めていた太刀を引き抜くと、海面に触れてジュッ……という音を立てる秋刀魚頭の身体。これで決着が付いたというところですが……船上から戦いを見守っていた族長姉貴兄貴が叫び声を上げました!
「まだヨ! まだ終わってないわ!!」
「キャアアアアア!!!」
背後から響く突然の金切り声に振り返る2人。全身を燻らせている秋刀魚頭が熱によって白濁した瞳でゴブスレさんや、族長姉貴兄貴、冒険者たちを睥睨しています。震える手で腰に下げていた取り出したのは、巨体の掌に収まるほどの大きさの脈動する赤黒い器官です。あれって、まさか心臓……!
「偉大なる蛸神の落とし子よ! この身を苗床に、再びこの世界に顕現したまえ!! ギィ、ギャアアアア!!!」
己の胸を抉り、肉体を失ってなお動き続ける落とし子の心臓をその身に埋め込む秋刀魚頭。心臓から突き出た血管が全身を侵蝕し、肥大する肉体が内側から彼の身体を引き裂き、悍ましい落とし子が再誕を果たしました!! 産まれたばかりで空腹であろう落とし子は眼下に駆け付け跪く鰓人たちで腹を満たそうとねじくれた腕を伸ばし……。
「――いいえ、もうおしまいです」
幽霊船から響く凛とした声に凍り付いたように、その動きを止めました。
船主に並び落とし子を見つめる女性たち。その中心にいるのは決意に満ちた表情を浮かべた神官銃士ちゃんです。ゆっくりと腰帯から引き抜くのは清浄な神気を感じさせる短筒、蟲人英雄さんから託された、吸血鬼君主ちゃんが持つ杖とともに太陽神さんの神器として名高い伝説の武具です!
『あなた、それ……!?』
「このくらい……なんでもありません!」
膨大な力を制御する反動か、両の目から涙のように血を流しながら片手で銃を構え、照準を定める神官銃士ちゃん。心配そうな奥方に笑顔を返し、戦場に満ちる悲しみを感じ取り、その元凶を討つために引き金を引く姿は神々しささえ感じさせるものです。
銃口から放たれた光の奔流は砂漠の国で吸血鬼君主ちゃんが赤竜の翼をもぎ取ったあの一撃を超える輝き……光の海に飲まれた落とし子は、その細胞の一片たりとも四方世界に残すことなく浄化されていきました……!
さて、ラスボス後のイベント戦闘が終わったところで次回はエンディングです! プルトニウム硬貨の回収もしなきゃいけませんし、帰り道で訓練組とも合流しないとですね。それに突然召喚されて兎人の集落から姿を消してしまった蜥蜴僧侶さんについても説明しなければいけませんし、やることが……やることが多い……!!
今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。