ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ   作:夜鳥空

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ちょっと短編集みたいに書きたくなったので初投稿です。


かのじょたちからみたはなし その1

1.女魔法使いからみたはなし                             

  

「んぅ……ふあぁ……」

 

 瞼越しに感じる日の光に刺激され、気怠げな声をあげながら目を覚ます女魔法使い。季節は夏となり、朝から気温は高く寝起きの身体は既にじっとりと濡れている。主に汗で。

 

 顔を動かすことなく目だけで左右を見回せば、大きな寝台に様々な種族の女が眠りの神(ヒュプノス)の腕に抱かれているいつもの光景。

 昨晩の吸血担当だった年上の義妹(森人少女)が、吸血鬼侍(一党の頭目)と互いを抱き締めるような体勢のまま寝息を立てている。たぶん吸血の最中に寝てしまったのだろう、噛み跡から一筋の血がシーツに向かって線を引いている。洗濯して落ちないようなら吸血鬼侍に≪浄化≫を使わせなければならない。

 

 頭の横に生えているしなやかな脚は、独創的な寝相を披露している義姉(森人狩人)のものだ。

 毎晩同じ方向に頭を揃えて寝ているのに、何故朝を迎えると艶やかな踵と挨拶するのだろうか?

 

 哲学的な思索に没入しかけていた彼女の耳に、微かに魘されているような声が入ってきた。

 義姉の脚をよけながら上半身を起こす。呻き声の主はすぐ傍にいた。

 

 ボタン留めの寝具を身に纏って寝ていた筈のもう一人の吸血鬼侍。前部ははだけ、平坦な身体が露わになっている。その突端に顔を埋め、ちうちうと音を立てている剣の乙女(クソ重女)の寝姿が目に毒だ。

 

 赤子が母に乳を求めるが如き絵面。不思議と淫靡さは感じさせない……いや、言葉を取り繕うのはよくない。正直ドン引きである。

 無垢な表情で行為を続ける剣の乙女(ペット)と対照的に、彼女の口が動くたびに顔を歪ませ口から不明瞭な音を垂れ流している吸血鬼侍(飼い主)。それでも目を覚まさない辺り訓練されてしまっているのだと女魔法使いは思う。

 

 引き剥がしてしまうべきか、それとも放置するか。しばし考えた後、今日の朝食当番が自分であったことを思い出す。日々ストレスと闘っているのだ、せめて朝食が出来上がるまでは好きにさせてやろう。そっと共同寝室(サバト会場)を抜け出し、彼女は台所へと向かった。

 

 

2.森人狩人からみたはなし                              

 

「DEMOMOMOMOMOMO……」

 

 もう……召喚()べません……と言っているであろう上位魔神(グレーターデーモン)の頭に雷光を纏った戦棍(トニトルス)を叩きつけ、森人狩人は魔神狩り(養殖作業)に終止符を打った。

 周囲には無数の魔神の残骸が散らばり、上の義妹(女魔法使い)魔力を帯びた討伐証(ドロップ品)をせっせと拾い集めている。この惨状を準備した吸血鬼侍(ご主人様)といえば、途中から観戦モードに入り、今は魔神召喚の供物(エサ)に使ったゴブリンの頭で自分の分身と蹴鞠を始める始末。

 

 ふぅ、と身体に籠った熱を逃がすように一息。だが胎の奥に燻るものは治まらず、むしろ燃え上がらんとしている。

 

 戦いの興奮に因るもの? 否、これはそんな単純なものではない。

 あぁ、森人狩人は気付く。これは吸血鬼侍の血に酔っているのだ。

 

 切っ掛けは些細なもの。偶々臭い消しが不足してしまい、さてどうしたものかという時に、吸血鬼侍が以前オルクボルグ(ゴブリンスレイヤー)にゴブリン汁塗れにされたことがあると話してくれたことだった。只人や森人の女の匂いは気付かれやすいため、臭い消しはゴブリン退治の必需品だ。

 だが、そこで上の義妹があることに気付いた。吸血鬼侍の血はアンデッド、それもとびきり強力なものだ。それを臭い消しの代わりにできないものか、と。

 

 最初は嫌がっていた吸血鬼侍だったが、森人狩人が臭い消し無しで巣に入ろうとすると必死に呼び止め、仕方がないとばかりに愛用の湾刀(村正)を手に突き立て、溢れ出る血を跪いた森人狩人の頭上から聖別するかのように注いだ。

 

 こうかはばつぐんだ! 僅か5フィート(1マス)まで接近してもゴブリンは気付くことなく、アンブッシュによってゴブリンは塗料へとクラスチェンジした。

 魔神召喚の前に滑るといけないからと≪浄化≫されてしまったが、まるで吸血鬼侍に包まれているような匂いと感触は、今でも脳裏に焼き付いている。

 

 上の義妹にも教えてあげよう。そして今夜は激しくなるな……!

 愛用の武器を収めつつ、森人狩人は抑えきれぬ猛りを肉食獣の笑みに換えて花の如きかんばせに浮かべるのだった……。 

 

 

3.森人少女からみたはなし                              

 

「その書類が終わったら、今日はもう上がっちゃっていいですよ!」

 

 教育担当(受付嬢)の声に返事をして、森人少女は書類の確認を行っていた。

 公文書の書式は森人のそれと大差無く、慣れてしまえば実家で処理していたそれと変わらぬ速度で仕上げられるようになった。

 間違いがないことを確認し、んーと背伸びをする。

 既に身に刻まれた傷は癒え、体力も随分と戻ってきた。皆に勧められて食べていた獣の肉も、最近は自分で料理できるまでになった。通常の食事の必要が無い吸血鬼侍(主さま)も、楽しみとして食事を共にしてくれるので手を抜くことは出来ない。

 冒険者は須く健啖家で、体型維持に気を遣っている下姉様(女魔法使い)も森人少女の倍近い量を平らげている。況や森人狩人をや。

 いっぱい食べてくれるのは嬉しいが、自分よりも少ない量しか食べない吸血鬼侍には美味しいものを食べてもらいたい。そのために日々研究しているのだ。

 

 否、美味しいだけでは不足している。食べて美味しく()()()()()()()()()()なければならないのだ。

 吸血鬼侍の生命を繋ぐ血の味を高めるため、皆の健康に気を遣わなければならない。依頼をこなすために身体を動かしている姉たちはともかく、激しい運動の許しがでていない森人少女は軽い散歩程度しか身体を動かす機会がないのだ。

 

 ただ腹を満たすだけでは吸血鬼侍に捧げる極上の料理を作ることなど不可能である。美味しく、身体に良く、毎日食べても飽きの来ない、ひとたび口にしたら病みつきになる逸品。日替わりで提供しているが、本当に選んで欲しいものはただ一皿。

 

 依頼から戻ってきた吸血鬼侍たちに呼ばれ、嫋やかな笑顔で向かっていく森人少女。今晩は()()()()()()()()()()日だ。一晩中堪能してもらおうじゃあないか。

 

 

4.剣の乙女(女司教)からみたはなし                              

 

「ぬわああああん疲れたもおおおおん」

 

 真夏の夜、へろへろになって≪転移≫の鏡から現れた剣の乙女が発した言葉は妙な御国言葉に毒されていた。

 まあ、暑かったからねと返す森人狩人はパピルス紙を黒く塗り潰し、吟遊詩人のセリフだけ白く強調して残す不思議な絵画(新婚さんシリーズ)を描いていた。さてはローディストだなオメー。

 

 流れるような歩法で寝台へと近づきダイブ。若干目測を誤ったか目標である吸血鬼侍を逸れ女魔法使いに着弾。ボリュームのある肢体同士がぶつかり合い、双方声にならない悲鳴を上げている。

 

 暫し痛みに悶えた後、剣の乙女が顔を上げればそこには味わい深い表情を浮かべた森人少女。今日は彼女が吸血担当だ。

 一晩で複数人を吸血するのは吸血鬼侍が嫌がるため、淑女協定により同意がない限り彼女と添い寝するのは1人だけ、順番制である。剣の乙女は昨晩~今朝にかけて彼女を堪能して(味わって)いた。

 

 だが待って欲しい。乙女の長年溜めていたフラストレーションは一晩程度では発散できないのだ、剣の乙女だけに。それに見ろ、そこの森人狩人(ハンター)を。もう我慢できないという目をしているじゃあないか。

 他意はないのだけれど、今日は呪文回数残っているのかしら? まだ使える。じゃあ事態は解決だ。さぁ吸血鬼侍よ、分身ちゃんを呼びだしたまえ、すぐでいいよ!

 剣の乙女の熱心な説得により呼び出された分身。呆れ顔の女魔法使いは早々に寝入ってしまい、本体は森人少女と給餌の時間。

 熟れた身体を持て余した美女2人、強く出れない吸血鬼侍(ご主人様)、真夏の汗ばむ夜、何も起きないはずがなく……。

 

 

5.吸血鬼侍からみたはなし                              

 

 いったい何時(いつ)からだろうか? こうやって自分を客観的に見るようになったのは。

 陽光を浴び、早朝だというのに既に蒸し暑い部屋の中で吸血鬼侍は考える。

 額の上には森人狩人のしなやかな脚が乗り、胸元では剣の乙女が飽きもせずちゅぱちゅぱ。

 

 脚を乗せたまま横を向けば、小柄な体格の2人が抱き合うような体勢で夢の国の住人となっていた。吸血途中で寝てしまったのか、肌を伝って零れた血がシーツを赤黒く染めている。後で女魔法使いに怒られるのは間違いないだろう。変色したそれを眺めるうち、吸血鬼侍はふと昔のことを思い返した。

 

 

 

 死の迷宮で目覚めた時、自分が何者であったのか、何故此処にいるのか等という記憶はすっぽり抜け落ちていた。何度も死に、凌辱され、時には骨まで物理的にしゃぶり尽くされ、それでも魂は解放されることなく迷宮内で復活する日々。あらゆる手段を用いて強くなり、いつしかロードと呼ばれ、そしてあの日「六人の英雄(彼ら)」と出会った。

 

 彼らの輝きに魅了され、共に語らい、そして迷宮を出て夕闇の世界へ飛び出した。

 彼らが笑って生を謳歌する世界を作る手助けがしたい。その一心で、只管に暗夜を駆け抜け続けた10年間。

 理解されないこともあった。迫害されることもあった。うっかり当代の白金等級と鉢合わせして滅ぼされそうになったこともあった。その後誤解が解けて友人と呼べる関係になったけど。

 

 

 

 走って、走って、走って。そしてふと歩みを止めた時、黎明の中に吸血鬼侍は≪祈り≫を得た。

 

 高次元の存在が魂に触れる感覚、流れ込む上位者の叡智、作り変えられていく身体と精神。

 

 いつのまにか眼前には自分と同じ姿をした人物が立っており、自分へと手を差し伸べながら高らかに言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、冒険だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、もう起きてたの? まだ寝ててもいいのに」

 

 朝食の準備をしていた女魔法使いの声に頷きを返しながら吸血鬼侍は思う。

 はたして自分が本体なのか、それとも魔法によって生み出された影法師に過ぎないのか。

 

 ……まぁ、どっちでもいっか!

 

 執拗に攻めてくる剣の乙女を引き剥がし、寝台の反発を利用して女魔法使いの胸に飛び込み、太陽のような笑みとともに彼女に告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう! 今日もきっといい日になるよ!!」

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 




次回のネタを探す旅に出るので失踪します。

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お読みいただきありがとうございました。

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