ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ 作:夜鳥空
その日、
前回、王宮に吸血鬼侍ちゃんが凸した結果から再開です。
華美な装飾の、それでいて実用性に重きを置いた内装の執務室。踝まで埋まるようなふかふか絨毯の上で吸血鬼侍ちゃんは正座させられています。首から下げられた「わたしは王宮にアポなしで乗り込んできたアホの子です」プレートが罪状を主張していますね。
応接用のソファーに腰かけているのは金髪の青年とその脇に侍る背の高い赤毛の男性。向かい側にはガチガチに緊張した様子の女魔法使いちゃんが座っています。扉の横には呆れた様子の銀髪侍女さん。手に工作道具を持っているあたり先のプレートは銀髪侍女さんのお手製なのかな?
「ふむ、卿が頭の良い馬鹿ということは昔から知っていたつもりだが、どうやら過小評価していたようだな。認識を改めることとしよう」
頭の良い大馬鹿者だ、と続ける金髪の青年。お、開幕から辛辣ぅ! 言葉こそキツいものの、それを口にした彼……国王陛下の頬が緩んでいるあたり、吸血鬼侍ちゃんとは気の置けない関係のようですね。軍を動かさずに死者の軍勢を処理するために国庫の宝物を貸し出すあたり、有効活用しているというほうが正しいかもしれませんが。
恐れながら……と口を挟もうとした女魔法使いちゃんを笑みを浮かべながら制し、野に放たれた
銀髪侍女さんに連れられて、女魔法使いちゃんが退出していきました。報酬の前払いとして、先に≪転移≫の鏡で自宅まで送ってくれるそうです。それで、吸血鬼侍ちゃんは何をやればいいんですかねぇ?
「とある貴族領で、圧制を敷く領主とそれを打倒せんとする反乱同盟が戦端を開く寸前になっている。数の優位こそ同盟にあるが、領主は恐るべき怪物を使役する力をもっているらしい」
民が磨り潰されるのは好ましくない話であろう、と曰くありげに吸血鬼侍ちゃんを見る陛下。
うーん、まさかこのタイミングで「蜘蛛の巣の大逆襲」が始まるとは……。しかもソロプレイは想定外ですねぇ。まぁ始まってしまったものは仕方が無いですし、断る理由もありませんので進めちゃいましょう! ええと、つまり戦闘が起きる前に
じゃあ早速行きましょうか。吸血鬼侍ちゃんが窓枠に足をかけたところで赤毛の枢機卿からストップが。ここから飛んでいくよりも、貴族領近くの
「貴女が来てくれて助かりました。陛下がまた
バレてないとお思いなのでしょうが、とこめかみを抑えながら話す赤毛さん。うーん、(陛下のストレスが)たまってる、ってやつなのかな? いいわけないよ!
赤毛の枢機卿に案内された場所には水の街の地下で見つけた巨大な鏡が設置されていました。なるほど、これを拠点に≪転移≫ネットワークを構築したんですね! 鏡の前には先程女魔法使いちゃんを送りに出て行った銀髪侍女さんの姿が。どうやら送り出しは終わって、吸血鬼侍ちゃんが来るのを待っててくれたみたいです。
「そうか行くのか
帽子を深く被り、何故かパイプを咥えている銀髪侍女さんの激励?を背に鏡へと足を踏み出す吸血鬼侍ちゃん。
鏡を潜った先は鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた中で、そこだけぽっかりと開けた一画でした。後ろを振り向けば閉じゆく≪転移≫門の向こうに親指を立てた赤毛と銀髪のいい笑顔。吸血鬼侍ちゃんもサムズアップを返してますね。君らやっぱり仲良しでしょ???
さて、とりあえず地形を把握したいので上空へ。眼下には黒々とした森が絨毯のように広がり、その近くには領主の住処であろう城が鎮座しています。森を挟んだ反対側には天幕が並び炊事の煙が上がっている陣がありますね。あれが蜂起した軍勢でしょうか。
手っ取り早く情報を集めるなら反乱軍の陣へ行くのが良いのですが、今回は別に陛下の書状や身分証明など便利なものは何も無い
地面に降り立ち音のするほうへ向かうと、華麗な装飾が施された甲冑を身に纏う女騎士を、蜘蛛の巣の描かれた上衣を身に付けた複数の騎士が包囲していました。女性の足元には呻き声を上げる複数の兵。いずれも蜘蛛の巣の紋章が刻まれた武具に身を固めています。
そういえば赤毛さんに貰った資料に載っていた領主の紋章は確か蜘蛛だった筈。ということはあの女騎士さんは反乱同盟の人でしょうか? 一対多で立ち回ってるあたり優秀なのでしょうが、脇腹に矢傷を受け動きに精彩を欠いています。……矢傷? ということは、あれがシナリオヒロインの姫騎士さんですね! このままだと危なそうなので、ちょっと介入しましょう。認識票を服の中に隠して、それからわざと音を立てるように枝を踏んでっと。
「!! 誰だ、其処に隠れているのは!」
おお、即座に反応するとは領主の兵たちも優秀ですね。ゆっくりと木陰から出て行きましょう。
「? なんだ圃人か。まさかとは思うがコイツを助けに来た反徒どもの一員か?」
「クッ、何をしているのです! 私がこ奴らを足止めしている間に疾くお逃げなさい!!」
吸血鬼侍ちゃん見た目は年若い圃人ですからねぇ。こちらを侮るような視線と焦燥感に溢れた視線、両方が向けられてます。ここは陣営をはっきりさせちゃいましょうねー。
>「ねぇ、おねーさんはわるいりょうしゅからみんなをかいほうするきしさまであってるかな?」
「え、ええ。そうですけれど……痛ぅ!?」
「その物言い……。きさま、はんらんぐんだな!」
そうわよ(便乗)。吸血鬼侍ちゃんに剣を向ける騎士たちと、こちらを庇おうとするも傷が痛み膝を突いてしまった姫騎士さん。全員剣や槍に持ち替える際に弓は放棄したのか持っている兵はいない様子。流れ矢が姫騎士さんに向かわないのなら遠慮する必要はありませんね。
静止状態から踏み込み、一気にトップスピードまで加速。剣を振り上げた状態の部隊長と思しき装備の整った騎士の懐に飛び込み、黒く硬質化した拳を腹に打ち込む吸血鬼侍ちゃん。
全身鎧の騎士がボールの如く跳ね飛ばされたのに気を取られた2人目に近付き、露出している顎先を掠めるようにハイキック。脳を揺さぶり行動不能にさせます。
恐怖を打ち消すように雄叫びを上げながら突き出された槍は蹴り終えた脚を降ろすついでに踏み付け、穂先を深く地面に固定。バランスを崩した3人目に先を丸めた外套を叩きつけて無力化に成功しました。
武器を放り投げ、悲鳴を上げて逃亡を図る4人目へ向かって地面に斜めに刺さった槍の柄を踏みつけジャンプする吸血鬼侍ちゃん。空中で前回転し兵士の後頭部にドロップキック、そのまま美しいY字ポーズで着地して戦闘終了です!
念のため確認しましたが、全員ちゃんと息はしていました。暫くすれば気絶組が目を覚ますと思うので、重傷組を回収してなんとか自力で生存していただきましょう。
さて、姫騎士さんのほうですが……ポカンと口を開けたまま吸血鬼侍ちゃんを見てますね。まぁ、そうなるな。吸血鬼侍ちゃんが近付くと立ち上がろうとしますが、戦闘の興奮が消え傷口が痛むのか蹲ってしまいました。うーむ、お話を聞く前に治療を済ませちゃいますか。ちょっと失礼しますねー。
傷口を露出させるために爪で服を裂き、外套の裾を姫騎士さんに噛んでもらいます。目で確認すれば、覚悟を決めた表情で頷きぎゅっと目を瞑りました。本来なら傷を切開して鏃を引き抜くのが正しいのですが、滅茶苦茶痛いらしいのでズルしちゃいましょう。
何をしているか見られないように、外套を姫騎士さんの顔に巻きつけ視界を遮り、傷口の傍に噛みつく吸血鬼侍ちゃん。一瞬ビクリと身体が跳ねましたが、徐々に力が抜けていきます。吸血の際、獲物が逃げないよう感覚を麻痺させるためのものですが、どうやら痛覚も鈍くなるようです。森人狩人さんで実験して効果を確認しておいて良かったなぁ。
十分に脱力したところで爪で傷口を切開し、鏃を引き抜き即座に≪小癒≫を唱え、出血を最小限に抑えます。失った血液は≪小癒≫では戻らないので注意が必要な点ですね。
傷跡周辺の血を舐め取り、破れた部分を隠すように吸血鬼侍ちゃんのフードを巻き付けたら治療完了です。視界を覆う外套を外し、まだポーっとしている姫騎士さんの頬をぺちぺち。
「……ふぁ!? す、すみません。危うい所を助けていただいたばかりか、傷の治療まで……」
意識のハッキリしてきた姫騎士さんに事情を聞けば、やはり賢竜の庵に向かう途中で領主の手勢に捕捉されて戦闘になっていたようです。何卒ご助力をと懇願されちゃいましたが、いつも通り報酬も聞かずに二つ返事で引き受けちゃいました。
急ぎ向かおうとする姫騎士さんですが、まぁ落ち着き給えよ。素早く脚を払い、バランスを崩したところをお姫様抱っこし天高く舞い上がる吸血鬼侍ちゃん。それで、庵へはどっちに飛べばいいですか?
「え!? ええと、あちらの森の外れの……あ、あの石塔だと思います!」
おお、たしかに森の中にちょろっと頭が見える建物がありますよぉ。じゃあ急ぐのでしっかり掴まっててくださいねー。ひゃあと可愛らしい声が聞こえましたが気にせず飛行する吸血鬼侍ちゃん。暫くすると腕の中から姫騎士さんの素性を問う声が。一応冒険者ですが、今回は金剛石の騎士の先触れみたいなものです。領主を捕縛して王都に……と、あっという間に到着しました。
翼をしまいこんで姫騎士さんを降ろすと彼女は扉へ近付き、中の人とやり取りをしているようです。うん、入ってOKみたいですね。姫騎士さんの後に続いてお邪魔しまーす。
「ようこそ、予言を継ぎし人の子よ。そして……んん???」
あー、賢竜さんが吸血鬼侍ちゃんを見てフリーズしてます。そら(サンプル4人の≪
また走者かと思ったらもっと悍ましいのが来ました、と中空を見つめながらブツブツと言ってますが、あのー大丈夫ですか?
「え、ええ何も問題はありません。わたしはかしこいので」
……ヨシ! 何も問題はないですね。ちょっとちのうしすうが下がってそうなオーラを感じましたが、キリっとした表情で姫騎士さんの助言を求める嘆願を聞いています。おや、領主が使役するという怪物を倒す術を姫騎士さんが乞うと、何故か吸血鬼侍ちゃんに視線を向けてきました。
「怪物を恐れる必要はありません。貴女は既に悪を断つ剣を、その手に握っているのですから」
賢竜さんのお墨付きをいただいたので早速城へ乗り込もうとしたのですが、姫騎士さんから流石に無謀だと止められてしまいました。常識的に考えてそうですね(できないとはいってない)。
一度反乱軍の陣へ戻り今後の作戦を考えるとのことですので、姫騎士さんを抱えて再び空の旅へ。ハイライトさんが家出してしまった目で手を振る賢竜さんに別れの挨拶をしつつ、安全運転で飛びましょう。
「フム、先走って領主の居城へ突撃はしなかったか。実に気の利く奴よ」
な ん で へ い か が こ こ に い る ん で す か ね ぇ ?
反乱軍の陣に戻れば、手慣れた様子で指揮を執っている陛下金剛石の騎士が。伝令役として銀髪侍女さんも忙しそうに動き回っているのが見えます。ああ、赤毛さん止められなかったんですね。お労しや枢機卿ェ……。
金剛石の騎士はごく自然に反乱軍の指揮系統を掌握し、姫騎士さんや部隊長と作戦を決めているようです。お、どうやら終わったみたいですが、ちょいちょいと吸血鬼侍ちゃんを手招きしています。なんです陛下? ここにいるのは貧乏貴族の三男坊であって爽やかイケメンでドラゴン殺しなサイコーにかっこいい国王陛下じゃない? いや、そういうのいいですから。
まったく、ここは陛下のストレス発散の場じゃないんですがねぇ? え、上手く指揮を執るものが居れば被害は少なくて済む? まぁたしかにそうですが、それなら吸血鬼侍ちゃんが単独で首狩りにいったほうが……あ。姫騎士さんの領地継承には実績がいるからか。
じゃあ攻め込むときは姫騎士さんと2人で別行動ですかね。軍勢で守りの兵を引きつけている間に、彼女が知っている地下の脱出路から忍び込め? たしかに大勢の前で空を飛ぶのはダメですもんね。じゃあ明日払暁とともに行動開始ってことで。
「あの、少しよろしいですか?」
夜も更けてきたころ、寝ずの番を兼ねて焚火の面倒を見ていた吸血鬼侍ちゃんに姫騎士さんが声をかけてきました。甲冑は外し、鎧下の上に毛布を引っ掛けた姿ですね。まだこれから冷え込んでくるので、良かったら火の傍へどうぞ。それで、なにか御用ですか?
「はい。……此度の戦で勝利した後、私は領主としてこの地を改革せねばなりません。あの男の圧制で荒廃し、土地も人心も荒れ果てた我が領地を」
非常に困難な道ですよねぇ。何年かは収穫も満足に見込めないでしょうし、治安も地に落ちた状態が続いていたみたいですから。
「文官は賢竜さまが相談役として力を貸してくださいますが、騎士団も綱紀粛正が必要になります。……貴女のお力を、この領地を救うためにお貸しくださいませんか?」
あー、武官としての
「そうですか……。いえ、突然すみませんでした。あした、頑張りましょうね」
ちょっと寂しそうに天幕へと戻っていく姫騎士さん。吸血鬼侍ちゃんはまだ冒険者として活動したいので、ごめんなさいね。
「糞、こんなところまで忍び込んで来おって! 貴様に父を殺された我らが恨み、思い知らせてくれる!!」
はい、悪徳領主と姫騎士さんの煽り合いから始まり、
分身ちゃんを呼びだし村正を渡すところまでがデフォになってきた今日この頃。いえ、最近分かったんですが、明らかに分身ちゃんのほうが本体よりも刀の扱いが巧いんですよね。
「ハッ! どうやら魔術に長けているようだが、かつてこの者の父を殺した魔剣はどうした! あの剣なくばこの化け物を倒すことなど……!?」
おまえは≪
一方的な解体ショーに呆然としていた領主ですが、怨嗟に満ちた雄叫びを上げながら背の大剣を姫騎士さんに振るわんと吶喊してきます。姫騎士さんの構える片手剣では受けてもそのまま体ごと両断されてしまいそうですね。慌てず騒がず突撃ラインに割り込み、
そのまま大剣を奪い取り、蹈鞴を踏んだ顔面に大パンチ。意識を失った領主は解体を終えた分身ちゃんが担ぎ上げ、2人でハイタッチしてます。ほら姫騎士さん、早く地上に出て勝利宣言しないと。……ありゃ、また目の前の光景に理解が追い付かず魂がAFKしてますね。とりあえず地上まで運んじゃいましょうか!
「今回は良い働きであった。前領主の不正蓄財を用いれば、あの領地の復興も早まるであろう」
いい感じに暴れられて満足したのか、陛下の機嫌は非常に良いですね。それとは裏腹に枢機卿の目は死んでおり、銀髪侍女さんは恨みがましく陛下を睨んでいます。いや赤毛さん、陛下を止められなかったのは吸血鬼侍ちゃんじゃないんですからそんな目で見ないでくださいよ。
「これで他の貴族共も暫くは大人しくなるだろう。≪転移≫の鏡の使用料以上の成果を上げた卿には、追加の報酬を渡さねばならんな」
うわ、気持ち悪いくらいに上機嫌ですね今日の陛下。とはいえあんまり希少なものは無理でしょうし、何か良いものはないですか……あ。陛下、魔法の遺物の一時貸与とかお願いしてもいいですか? ……を春までお借りしたいんですけど。
「ほう? 確かに希少品故貸与までしか認められんが、一体何に使うつもりだ?」
いえ、これからの時期おなかを空かせた民が大勢出ますので、ちょっとデリバリーをしようかと。民が飢えるのを回避する手段があるなら、陛下も採用しますよね?
「よかろう。成果如何によっては貸与期間を延長することもやぶさかではない。精々励むことだ」
ヨシ! これで次のイベントを犠牲無しで突破できるかもしれません。……でも上手くいったら長く貸してくれるって、それつまりその後も扱き使われるってことですよね?
うーん背に腹は代えられませんし、ここは陛下の思惑に乗ってしまいましょう! それじゃ国庫から借りていきますねー。
ふぇー、漸くおうちに帰れますよ。女魔法使いちゃんを先に送り出してから3日も経ってしまいました。姫騎士さんの領主就任式典への参加は
「おかえり。随分時間がかかったみたいだけど、どこでナニをしていたのかしら?」
その説明をする前に今の四方世界の状況を理解する必要がある 少し長くなるぞ(震え声)
今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。
給湯器が凍結したので失踪します。
いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
お気に入り登録や感想、評価についても併せて入れていただければ幸いです。
お読みいただきありがとうございました。