ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ   作:夜鳥空

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鏡開きを忘れて賞味期限が切れかかっていたので初投稿です。

日刊ランキングに出たり入ったり、多くの方にお読みいただき感謝の念でいっぱいです。

今後ともよろしくお願いいたします。



セッションその6ー3

 前回、目的の寒村に到着したところから再開です。

 

 村の中心の広場から声が聞こえたので向かってみた一党。そこには村人と思われる数人の男と、彼らに何かを要求している優美な拵えの剣を腰に下げた見目麗しい女性の姿。令嬢剣士さんですね。髪が長いということは、恐らく食料が尽きて村へ無心に訪れたタイミングだと思います。

 

 令嬢剣士さんの必死な訴えに村人たちは冷ややかな目を向けています。ゴブリンの脅威に怯えていたところに、退治するためとはいえ村の貯えを買い占められて困窮は増すばかり。そのうえ更なる支援をと言われれば、とても友好的に接することは出来ないでしょうね。

 

「お取込み中のところ失礼。ギルドの依頼を受け緊急支援物資を輸送してきた一党(パーティ)なんだけど、馬車はここ(広場)まで入れて構わないかな?」

 

 ふぅ、良い意味で図々しく森人狩人さんが会話に割り込み、剣呑な雰囲気はとりあえず払拭されました。物資の引き渡しやギルド作成の書面手続等は森人狩人さんと女魔法使いちゃんにお願いして、吸血鬼侍ちゃんは森人少女ちゃんと一緒に令嬢剣士さんのフォローに行きましょう。

 

 

「……主さま、≪託宣(ハンドアウト)≫にて(わたくし)たちに任された救うべき人物(シナリオヒロイン)はこの方でございます」

 

 令嬢剣士さんを見て確信したのか、森人少女ちゃんがいつになく強い口調で教えてくれました。突然現れた一党に困惑した様子の令嬢剣士さんですが、村に戻ってきた理由を思い出したのか2人に噛みつくような勢いで話しかけてきます。

 

「村へ物資を運んできたということは、食料をお持ちですわよね!? どうかそれをわけてくださいませんか!」

 

 どうどう、落ち着いてください。先にお聞きしたいのですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!? ……今日で約1か月。5日前に食料が尽き、狩りの獲物や白湯で凌いでおりましたが、燃料も底を付いたために私が調達のために村まで下りて参りましたの」

 

「……補給が途絶えた冒険者の末路は決まっている」

 

 荷下ろしをしながら令嬢剣士さんの話に耳を傾けていたのでしょう、ゴブスレさんが抑揚のない口調で呟きます。おそらく村人から彼女たちが購入したものを聞き、何をしていたかの察しは付いているのでしょうね。反論しようと口を開きかける令嬢剣士さんですが、山中での口論を思い出したのかそのまま沈黙してしまいました。

 

 彼らの生存を確認するにしろ、まずゴブリンを排除する必要があると思うんですが、どう攻めますかゴブスレさん?

 

「……呪文はあと何回残っている? それと()()()()()()()()()()()?」

 

 今日は分身ちゃんを呼んだだけなので、真言3回の奇跡4回ですね。呪文を使い切ってから分身ちゃんを再召喚するならもっと増えますけど。夜営道具は一党で使用する分は格納してあるので、6人までなら対応できますよ!

 

「足の速い戦力で速攻をかける。そちらは侍2人と狩人。こちらは戦士、野伏(レンジャー)、神官。夜営を挟んで払暁とともに仕掛けるぞ」

 

 本来ならば日暮れ時を狙っていくのが定番ですが、少しでも彼らの生存の可能性を高めるために早さを採るようですね。吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが不寝番しても問題ないため夜営の安全は確保できるのが救いでしょうか。

 

 それから、と呟くゴブスレさんの視線は量産型ゴブスレさん……もとい首有り首無し騎士(デュラハン)の2人に向けられていますが、できれば彼らは温存したいんですよね。あくまでも騎兵として召喚されているために徒歩(かち)では本領を発揮できないので、今回は休息組や村人の護衛をお願いしたいなぁと。そのぶん吸血鬼侍ちゃんが頑張りますので。

 

 わかった、と言って先発組の招集に向かうゴブスレさん。女神官ちゃんの体力が若干不安ですが、吸血鬼侍ちゃんか分身ちゃんが背負って……は無理なので、抱きかかえる形で運べば問題ないでしょう。

 

「わ、私も参ります! 巣穴までの案内が必要でしょうし、残っているのは私の一党ですもの!」

 

 うーん、令嬢剣士さんの申し出は有難いんですが、下山直後の体力が尽きた状態では行軍に着いてこられないと思うんですよねぇ。ゴブスレさんも口には出しませんでしたが、残留組は恐らく手遅れでしょうし……。やはり村に残ってもらうほうが良さそうですね。

 

「ちっこいのの言う通りよ。行軍速度が落ちて間に合いませんでしたじゃそれこそ本末転倒じゃない。あんたが今できる最善は、巣穴の位置をこの地図に記すことよ」

 

 村人に書いてもらったんでしょう、山中の地図を手で弄びながら妖精弓手ちゃん(同志耳長ちっこいの)がやって来ました。首元の銀等級の証とベテランの風格で令嬢剣士さんを圧倒し、登頂ルートや行軍時に気付いた点を聞き出しています。ここは任せて吸血鬼侍ちゃんも準備を整えてしまいましょう。

 

 

「アンタには不要かもだけど、人数分温石(おんじゃく)を用意したから一応懐に入れておきなさい」

 

 装備の確認を終え、いざ出発というところでサプライズプレゼントが。他の人が落としたり冷えたりしたら交換してあげなさい、と言いながら女魔法使いちゃんが簡易炬燵に使っていた石を個別に包んでみんなに配ってくれました。古典的な懐炉ですが、手がかじかんで武器が持てないといった事態を防ぐためには有用ですね!

 

「あの……どうか皆をお願いいたします」

 

 妖精弓手ちゃんに諭されて同行するのを思いとどまった令嬢剣士さんが、先発組に深く頭を下げています。善処はしますけど、最悪の想定は覚悟しておいてください。それと、()()()()()()()()()()()()()()()()、しっかりと休息を取って明日以降に備えておいてください。

 

 顔を曇らせる令嬢剣士さん。森人少女ちゃん、申し訳ないけれど彼女のフォローよろしくね? ≪託宣(ハンドアウト)≫で示された本番は、恐らくこの程度ではないでしょうから。

 

 

 

「うう、さむぅい……。けど、随分器用な真似できるのね、ちっこいのは」

 

 正午ごろ村を出発し、縄で数珠つなぎとなって雪中行軍に挑んでいる先発組。妖精弓手ちゃんのボヤキも白い吐息とともに風に飛ばされていきます。

 

 先頭を歩く吸血鬼侍ちゃんは左右の外套(つばさ)を前方へ鋭角的に突き出し、ラッセル車のように雪を掻き分けています。雪が避けられた地面を目視し、岩や窪みがあれば声を上げて後続に注意を促してあげましょう。

 

 最後尾の分身ちゃんも外套を広げ、吸血鬼侍ちゃんとの間に挟まる一党の風除けとなっていますね。直で風が当たらないだけで体感温度は随分変わりますし、しもやけや凍傷の危険も低くなるでしょう。万が一誰かが滑落しても、短時間であれば全員を引っ張って飛行することは可能ですので安全面もカバーできるのがこの隊列の良いところです。

 

「はい、それにこの温石……とても暖かいです」

 

 女神官ちゃんが懐に手を当て、顔をほころばせています。簡単な仕組みですが、また石を温め直せば使えますので夜営の時に仕込み直しておきましょうね。

 

「それにしても、やっぱり便利だねご主人様の手袋(ソレ)

 

 鉱人道士さんから分けてもらった火酒をちびちびとやりながら吸血鬼侍ちゃんの後姿を眺めている森人狩人さん。彼女を含め、みんな即座に戦闘に臨めるよう荷物はすべて≪手袋≫にしまってあります。陛下が貸し出しに難色を示す程度には貴重且つ使い方を誤れば王国の経済が崩壊する代物なので、春には陛下に返しますからね、これ。

 

 

 

「そろそろ夜営の準備をするぞ」

 

 巣穴まであと三分の一という地点まで進んだところでゴブスレさんから声がかかりました。ここで食事と仮眠を取り、夜が明ける前に行軍を再開し払暁とともに巣穴の攻略に乗り込む算段ですね。

 

 吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん、ゴブスレさんは手袋から取り出した夜営道具で寝床の準備を始めています。風除けの岩陰に防水布を敷き、岩に沿う形で天幕を設営。あとは山ほど毛布を放り込めば簡易寝床の完成です。

 

 森人狩人さんは天幕の前に即席の竈を拵え、妖精弓手ちゃんが行軍中に拾っていた松ぼっくりを着火剤代わりに薪に火を点けていますね。女神官ちゃんはベーコンや馬鈴薯、人参に玉葱を切り分け、次々と鍋に投下。そこに牛乳とチーズを加えて暫く煮込み、温かいシチューを作ってくれました。火で軽く炙った黒麺麭を添えれば、寒い夜にぴったりな夕食の出来上がりです!

 

 天幕の中で鍋を囲む一党。みんなハフハフいいながらシチューを口に運んでいます。あれ、手が止まってますけどどうしましたゴブスレさん? あそっか、シチューに入ってるベーコンや牛乳、チーズは牛飼娘さんのところで購入したものでした。材料も出来上がったシチューも、作った人の愛情がたっぷり入ってますから美味しいですよね!

 

「あ、愛情ってそんな!? 私はただみなさんに美味しいものを食べてもらいたくて……」

 

 おやおや、女神官ちゃんが真っ赤になっちゃいました。シチューに浸した黒麺麭がでろでろになってますよー。森人狩人さんと妖精弓手ちゃんは黙々と手と口を動かしてますが、2人共そんなに燃費悪かったでしたっけ? 何時にも増して食べているみたいですけど。寒すぎて食べなきゃやってられない? そりゃ脂肪が付いてないからじゃないですかねぇ? ご主人様と分身ちゃんのぶんも食べてるから……って、もしかしてこの後ちゅーちゅーしろってことですか? 

 

「……外の警戒をしてくる。早く済ませろ」

 

 あ、変に空気を読んで出て行かないでゴブスレさん! 無言で自分の両隣を手で叩く森人狩人さん。これは分身ちゃんと2人とも来いということでしょうね。吸血鬼侍ちゃんが分身ちゃんとアイコンタクトを試みるも返ってきたのは諦めのサイン。2人とも粛々と指定の場所に座りました。

 

 上着を捲り上げた森人狩人さんの姿を見て、天幕に響くゴクリと生唾を飲み込む音。持たざる者2人の視線が、森人狩人さんのお山に注がれていますね。あ、吸血鬼侍ちゃんじゃありませんよ。

 

「フフ、何故顔を赤くしておられるのかな妹姫(いもひめ)様? これはあくまで食事だというのに」

 

 ちゅー×2 

 

 吸血鬼侍ちゃんたちを抱き寄せ、吸血を始めさせる森人狩人さん。あうあう言いながら口を開閉させている妖精弓手ちゃんと、最初は顔を真っ赤にしていたけど少しずつ微笑ましいものを見る表情に変わった女神官ちゃん。何か面白いところでもありました?

 

「あ、いえ。なんだか子猫とミルクを与えている母猫みたいに思えちゃって……」

 

 女神官ちゃんの感想を聞いた瞬間に手袋からカチューシャ(ネコミミ)を取り出し装備する2人。ちゅーちゅーしながら子猫が授乳時に母猫を促すように、両手でお山をぷにぷに。

 

「「もっとみるくをのませるにゃー!」」

 

あ、見ている2人とも堪え切れずに吹き出しました。笑いがとれたのでヨシ!としましょう。頭上から聞こえてくる「覚えておきたまえよご主人様」という声は耳に入らなかったことにします!

 

 

 

 さて、随分お待たせしてしまったので、早くゴブスレさんに天幕へ戻ってもらいましょう。何処に行ったかなーっと……お、天幕の風除けにしている岩の上で警戒してくれていました。すいません、吸血終わりましたにゃー! おっと、カチューシャ取らなきゃ。

 

「……そうか」

 

 後は暫く吸血鬼侍ちゃんが警戒に当たって、呪文回復の休息時間だけ直前に再召喚した分身ちゃんにお願いする形になります。天幕が一つなので寝られないかもしれませんが、身体だけでも休ませておいてくださいね。

 

「ああ」

 

 そう吸血鬼侍ちゃんに応えながら、岩の上から動こうとしないゴブスレさん。やっぱり女所帯に男ひとりは入りづらいです? それは冒険者だから気にしない? じゃあ何か気になる事でも? え、吸血鬼侍ちゃんに聞きたいことがある?

 

「お前は、何故ゴブリンを殺す?」

 

 ……これは随分とゴブスレさんの根幹に触れるような質問ですね。吸血鬼としては獲物(エサ)を横取りされるのが迷惑だから。冒険者としては人間に一番被害を与えているのが奴らだから。吸血鬼侍ちゃん個人としては……。

 

>「じぶんがたいせつにおもうひとがクソどものおもちゃにされつづけて、なきねいりしていられるほどにんげんができてないからかなー?」

 

 人間じゃないけどねーと、鮫のような笑みを浮かべながら続ける吸血鬼侍ちゃん。前髪に隠れて見えませんが、その目は恐らくゴブスレさんと同じ色をしていることでしょう。

 

「……俺にも姉が()()

 

 ポツリポツリと話し始めるゴブスレさん。生まれ育った村のこと、お姉さんのこと、圃人の師匠(クソマンチ)のこと、助けることができた人や、間に合わなかった人たちのこと。

 

「いつか俺はゴブリン殺しの途中で野垂れ死ぬ。その結末は既に許容しているが、ゴブリンを殺しきれなかった()()が残るだろう」

 

 その時は……と言い始めた時点で兜にヘッドバットをかます吸血鬼侍ちゃん。流石に金属は痛かったのか頭を押さえて蹲っていますが、ゴブスレさんの言葉を中断させることに成功しました。

 

 ゴブスレさん、その考えは絶対にダメですからね。恐らく行軍中の首有り首無し騎士(デュラハン)さんを見て考えてしまったんでしょうけど、確かに疲労せず、視覚的ペナルティを受けず、毒にも病気もならないのはメリットにしか見えないでしょう。でも、【死霊(アンデッド)】なんて自分からなるようなもんじゃありませんし、それは彼らにとっても侮辱です。吸血鬼(アンデッド)が言うんですから間違いありません!

 

 それよりも、ゴブスレさんの持つ知識や技術、経験それに意思を継ぐ人を育てることを考えましょう! ギルドに掛け合って新人が学ぶ訓練場を設営したり、初心者(ノービス)の引率を行う冒険者を募ってみたり。

 一番いいのはさっさと子供を作って跡取りを育てることでしょうね。家業を継ぐならそれも良し、ゴブスレさんの意思に賛同してくれるなら徹底的に仕込めば良いんです。……あの3人なら、どなたでもきっと賛同してくれますよ?

 

 そこで言葉を切り、ゴブスレさんの兜へ口を近付けそっと囁く吸血鬼侍ちゃん。

 

 

 

 

>「もし、こどもやまごにかこまれて、てんじゅをまっとうしそうになったとき。まだゴブリンがみなごろしになっていなかったら。……そのときはけんぞくにしてあげる」

 

 

 

 

 もっと強くならないとただの吸血鬼(ヴァンパイア)になっちゃうから気をつけてねーと続ける吸血鬼侍ちゃん。なんの保証もない口約束ですが、これで少しは今後について考えてくれると良いのですが。

 

 質問に答えたことへの礼を言いながら天幕へ戻っていくゴブスレさん。冷気を伴って入ってきた彼に早速食って掛かる妖精弓手ちゃんと、それを宥める女神官ちゃんの声が吸血鬼侍ちゃんのところまで聞こえてきます。明日の出発は早いですが、みんなちゃんと休めるんでしょうか……。

 

 岩の上で星の見えない夜空を眺める吸血鬼侍ちゃん。ゴブスレさんには言いましたが、最低でも1人、自分の後継者として吸血鬼希少種(デイライトウォーカー)を生み出すのが吸血鬼侍ちゃんの目的のひとつなんですよねぇ。さてどうしたものか。

 

 分身ちゃんが再召喚を促しに来るまで、吸血鬼侍ちゃんはひたすら雲の向こうに浮かぶ緑の月を睨んでいるのでした……。

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 




納豆餅が美味しかったので失踪します。

いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
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お読みいただきありがとうございました。

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