ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ   作:夜鳥空

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 四連休を錬成したので初投稿です。


セッションその8ー4

 前回、新人たちが血の洗礼を受けたとことから再開です。

 

 吸血鬼侍ちゃんと女幽鬼さんの合作による不思議なダンジョンを活用した訓練が始まり一か月ほど。マンネリを防ぐのと、思うように武器が振るえない状況を体験してもらうために、≪幻影(ビジョン)≫と触手による障害物を配置したことによって新たにシチュエーション戦闘も可能になりました。洞窟の壁面に武器を引っ掛けたりするのは致命的ですからね、原作的に考えて。

 

 また、空き時間を利用した新人同士の交流も盛んになり、少年魔術師君の態度にも若干の変化が見られるようになりました。さほど年齢の変わらない少年斥候君や新米戦士君から牧場防衛の話を聞いて、ゴブリンの数による攻勢の恐ろしさとそれを殲滅した冒険者側の悪辣さ、それに吸血鬼侍ちゃんの理不尽さに目を丸くしていました。

 

 実戦経験は積んでいるものの、牧場防衛には参加していなかった蜥蜴人の戦士さんも話に加わり、初めての冒険でやらかしたこと、実戦で感じた恐怖などを打ち明けたためにグッと仲間意識が強くなったようです。

 

 距離感が近くなり、気の置けない者同士。若い男子が集まったとなればそういう方向に話が進むのは自然なわけで……。

 

「なんというかこう、甘えさせてくれる感じが堪らないんだって!」

 

「そうかァ? 俺ァやっぱ喰らうんなら肉付きの良いほうが好きだけどなァ。性的な意味で」

 

「大きいは正義、はっきりわかんだね」

 

 休憩の合間に女性陣のランニング姿を見ながら自分の性癖を暴露している青春男子たち。ギルド支給の運動着姿で躍動するうら若き乙女へチラチラと視線を向けていますが、それ女性からしたらガン見なんだよなぁ。

 

 お付き合いしているらしい交易神の侍祭さんに目を向けている蜥蜴人の戦士さんと、それに同意するよう頷いているのは新米戦士君。少年斥候君は飲み物や汗拭き用の手拭いを準備している森人少女ちゃんに熱い視線を送っています。

 

 彼らにジト目を向けている少年魔術師君は呆れたように溜息をついて興味ありませんという顔をしていますが、残念ながら3人にはバレバレのようです。

 

「なに僕は興味ありませんて顔してんだよ。さっきからチラチラ見てんのは分かってんだぞ?」

 

「ほー、実の姉がでっかいと反動でちっぱいが好きになるもんなのか……」

 

「肉が少なくて食いでが無さそうなんだよなァ」

 

 男子たちの視線の先には遅れがちな見習い聖女ちゃんをフォローしながら走る女神官ちゃんの姿。汗で身体に張り付いたシャツが、その華奢なラインを浮かび上がらせています。

 

「バッ・・・・・・そんなんじゃねえよ!? あの貧相な身体のどこにあんな奇跡を使う力があるのかって考えてただけだ!」

 

 うんうん、青春してますね。でも大声を出したから女性陣から凄い目で見られてますよ少年魔術師君。特に圃人の少女ちゃんあたりから。それにほら……。

 

 ゾクゾクッ

 

 突然首筋に走った悪寒に身を震わせていますが、()()()()()()()()異常はありません。

 

「そろそろきゅうけいおわりだよ~」

 

 今日の教官役である分身ちゃんの呼びかけに慌てて駆けだす男子たち。少年魔術師君の背中にはピッタリ寄り添うように女幽鬼さんが頬擦りしています。……どうやらストーキングは順調なようですね(白目)

 

 

 

 

「……そういや、アレはどうなんだよ」

 

 一応分類は女だろ? と言いながら、距離を空けて一党を先導するようにランニングする分身ちゃんの背中を眺めながら只人2人に問いかける少年魔術師君。

 

「いや、夕飯を買う金が無い時には何度もお世話になったし、悪い人じゃないことはわかってるんだ……」

 

「ああ、めちゃくちゃ強いし、オマケにゴブスレのおっさんとマトモに話が出来るのもすげえんだけど……」

 

「「女にしか興味が無さそうなんだよなあ……!!」」

 

 でっかい溜息を吐きながら返答する2人。そりゃ非生産的なと率直なツッコミをいれる蜥蜴人の戦士さんと対照的に、やっぱ滅ぼすべきでは? と物騒なことを呟く少年魔術師君。そんな会話が聞こえたのか、くるりと振り向き器用に後ろ走りしながら分身ちゃんが3人に向かって一言。

 

「おとこのひとがきらいなわけじゃないよ? ちゅーちゅーしておいしいのがおんなのひとのほうがおおいだけで」

 

 だからみんな、はやくおいしくなってね? とチロリと舌を見せながら笑い、そのまま前を向いてランニングを続ける分身ちゃん。後ろを走る若者4人が若干前屈みになっているのは仕方がないことでしょう。分身ちゃん、罪作りな女よ……。

 

 

 

 さて、分身ちゃんは教官役を務めていますが、本体である吸血鬼侍ちゃんは何をしているのかというと……。

 

「……で、円匙を探してた職人がゴブリンを見かけたのがこの辺りなんだが……」

 

「トーテムなし、ゴミためあり、ほりかえしたつちあり。たぶんなかにはいりこんでる」

 

 先にも話を聞いていた顔見知りの現場監督さんとともに、訓練場から少し離れた草原を探索している吸血鬼侍ちゃん。日が傾いてきたころ、斜面にぽっかりと口を開けた怪しい穴を見つけました。入り口近くの痕跡から、内部でゴブリンが掘削していると判断したようです。本来ならソロで突っ込んで制圧するのが手っ取り早いのですが、どうやらこの機会を利用して新人たちの教育を行おうと考えているみたいですね。

 

「こんばんはてつやでみはりをするから、しょくにんさんはねんのためにぜんいんまちまでひきあげて。あすもおやすみでいいから、これでみんなといっぱいやって?」

 

 ≪手袋≫から金貨袋を取り出し、現場監督さんに渡す吸血鬼侍ちゃん。一度分身ちゃんの維持を中止して再召喚し、新人たちを引率して一党とともに街へ戻り、ギルドへ報告するようお願いしています。明朝ギルドから討伐の依頼が出た後に行動を開始するつもりみたいですね。

 

 おや、分身ちゃんが自分が残ったほうが良いのではと確認していますが、吸血鬼侍ちゃんが残るの一点張り。ちょっと珍しいですね、効率重視の吸血鬼侍ちゃんなら不測の事態に備えて分身ちゃんを見張りに残すと思ったんですが……。分身ちゃんも不思議そうにしていますが、気を付けてねと言い残して訓練場へ飛んでいきました。

 

 

 

 

「いまかえったら、またみんなをいやなきもちにさせちゃうから……」

 

 うーん、どうやら悩み事を抱えているみたいですね。自宅で原因が分かれば良いのですが……。

 

 

 

 

 

 

 新人たちをギルドまで送り届け、ついでに受付嬢さんにゴブリンの痕跡を見つけたこと報告した一党。訓練場の建設と運営の妨害となるため、ギルドからの依頼という形で討伐の許可が下りました。明朝新人たちに実戦を経験させるために、ベテランと組んで一気に殲滅する方向で話が決まりました。

 

 ダブルカップル組はいつも通り重戦士さん一党として、蜥蜴人の戦士さん率いる多種族一党には槍ニキ&魔女パイセンがフォローについてくれるそうです。

 

 吸血鬼侍ちゃん一党は少年魔術師君と圃人の少女ちゃんを預かり、人数が多いので2チームに分割することに。吸血鬼侍ちゃん、女魔法使いちゃんが少年魔術師君と圃人の少女ちゃんと組み、分身ちゃんと森人狩人さんが一党の白磁2人と組んで四人組×2で行動となりました。それ以外の新人たちも適宜割り振られ、1組あたり新人が10人程度の集団になりそうです。

 

 出来ればゴブスレさんや妖精弓手ちゃんたち銀等級一党にも声を掛けたかったのですが、牛飼い娘の依頼で牧場にお泊りされているそうなので残念ながら今回は不参加ということに。女神官ちゃんは回復要因として重戦士さん一党が声をかけ、無事引き取り手が見つかってなによりです。

 

 

 

 

 

「……で、だれかあのこがへこんでいるりゆうをしらない?」

 

 おゆはんの席で吸血鬼侍ちゃんのいつもと違う様子を話し、原因を知る人がいないか周りを見る分身ちゃん。どうにもピンとこないのか、一党の面々は首を傾げていますね。

 

「おおかた悪いモンでも喰ったか、腹でも空かしてんじゃねえの?」

 

 森人少女ちゃん特製シチューを掻っ込みながらぼそりと呟く少年魔術師君。よく食べよく運動しているためか、辺境の街にやって来た時に比べると体つきがしっかりしてきたように見えます。どうしても座学に重きを置く学院と違い、身体を動かす機会が多いですからね。成長期も相まって一回り大きくなったかのようです。

 

「毒が効くような甘っちょろい身体じゃないし、最近は空腹でもない筈なんだけどね……」

 

 ぺしりと少年魔術師君の頭を叩きながら、っていうか貴女が分からないんじゃ誰も思いつかないんじゃないの?と女魔法使いちゃんが言葉を続けます。

 

「アザーセルフでわかれているときのかんじょうは、きょうゆうしてないからわからない、おたがいにね」

 

 だから考え方も好みもちょっとずつ変化していくよと告げる分身ちゃん。やっぱり人格の分割……というか独立が進行しているんでしょうかね。これも成長の一つのカタチなのかなぁ。

 

「……あの、もしかしたら私、心当たりがあるかもしれません」

 

 おずおずと手を上げたのはおゆはんを求めて一党宅を訪れていた剣の乙女。眼帯を外した虚ろな瞳で女魔法使いちゃん姉弟のほうを見つめています。視線で先を促す女魔法使いちゃんに微笑みを向けながら、剣の乙女が自分の考えを話し始めました……。

 

 

 

 

 

「……ということではないかと、私は思うのですが」

 

 

 剣の乙女の考えを聞いた一党の反応は様々です。ははぁご主人様らしいやと頷くもの、ええ……?とちょっと引き気味なもの、生暖かい笑みを浮かべるもの……。

 

「ああ、うん。あの子ならそういう思考のドツボに嵌っても可笑しくはないわね」

 

「いや、やっぱりアイツ馬鹿だろ? 吸血鬼がそんなこと……痛ぇ!?」

 

 どこか納得した様子の女魔法使いちゃんに再び頭を引っ叩かれ蹲る少年魔術師君。これは明日お話しないとねと呟きながら、蹲ったままの少年魔術師君に頭上から質問を浴びせます。

 

「で、あんた本当についてくる気? 週明けまでに学院に帰らなきゃ行けないんでしょ」

 

 ひらひらと刻印入りの封筒を弄ぶ女魔法使いちゃん。どうやら学院から少年魔術師君に帰還命令が出たみたいですね。ゴブリン退治が終わってからだと乗合馬車に間に合わないので、出発はさらに伸びそうなんですが。おや、分身ちゃんが送って行ってくれるみたいですね。女魔法使いちゃんの時も王都での馬車を含め5時間ほどで着きましたし、門から徒歩でもなんとかなるでしょう。

 

「当たり前だ! アイツが本当に姉ちゃんを守れるくらい強いのか見定めてやる!」

 

 フンスフンスしている少年魔術師君を一同は優しい目で見て……あ、1人だけ熱い視線を送ってました。やはり私の王子様? うん、もうそれで良いと思いますよ。

 

 

 

 

 それじゃあ明日も早いから、ということでいそいそと就寝の用意を始める一党。予想通り分身ちゃんはスケベ森人(エロフ)義姉妹に捕獲され、その後を令嬢剣士さんが顔を真っ赤にしながら追いかけ、4人は共同寝室へ消えていきました。分身ちゃんがんばえー。

 

 少年魔術師君を来客用寝室へ放り込み、夜戦場(あそこ)で寝るのは嫌ねと呟く女魔法使いちゃん。そこに近付く影が。普段の服装よりも露出が減った寝間着姿の剣の乙女が、何かを決心したような顔つきで女魔法使いちゃんの前に立っています。

 

「あの、すこしお話ししませんか? あの子のことについて……」

 

 そう切り出した剣の乙女と相対し、二言三言会話を交わした後に首肯する女魔法使いちゃん。少年魔術師君の寝る部屋から間を空けた来客用寝室に2人で入って行きました。果たしてどんな話し合いが行われるのでしょうか。夜は(一部を除き)静かに更けていきます……。

 

 

 

 

 

 

 

「ひがくれてからいっぱいゴブリンがはいっていって、よあけまえにくんれんじょうのしほうをかこむようにいりぐちがかいつうしたよ。とちゅうでひきあげてったゴブリンはぜんぶころしてあるから、のこりはなかでねてるとおもう」

 

 分身ちゃんが差し出した竜血(スタドリ)をちゅーちゅーしながら訓練場周辺の地形図に印を付けていく吸血鬼侍ちゃん。首無しチキン事件が発生した広間を臨時の作戦本部にして集まった冒険者に状況を説明しています。四つの入り口から同時に攻め入って、一匹残らず殲滅するつもりみたいですね。

 

「外へは一匹たりとも逃がさず、なるべく中に追いやっていく感じか。新人に見せるには随分地味な絵面になりそうだぜオイ……」

 

「一番盛り上がるのは最後だからな。調子に乗って数を減らしすぎるなよ?」

 

 槍ニキと重戦士さんは吸血鬼侍ちゃんが言わずともやりたいことを理解してくれていますね! 分身ちゃんも頷いてますし、あくまで今回()()を張るのは新人たちですから。各組ともベテランが少数を引率して突入し、クリアリングが終わった段階で入り口を見張ってもらっていた残りの新人を呼ぶ段取りで進めます。無駄に怪我をしないように、油断せずに頑張りましょう!

 

 

 

 

 

「……随分地味なんだな、ゴブリン退治って」

 

「馬鹿、あんたたちに分かりやすいようにやってんのよ。普段ならもっと手早く済ませてるわ」

 

 吸血鬼侍ちゃん組の受け持ちとなった最初に発見した入り口に到着し、改めて周囲を探索している様子を見て愚痴をこぼす少年魔術師君の頭にまたもや愛の一撃が。蹲る弟を無視し圃人の少女ちゃんに顔を向ける女魔法使いちゃん。あ、そのちょっと女教師っぽい仕草を見て吸血鬼侍ちゃんのテンション上がってますね。

 

「さて、あの子が何をしているか説明できるかしら」

 

「は、ハイ! ゴミの中から攫われた人がいないかの推測と、上位種がいるかどうかの判別としてトーテムの有無を調べています。あと、まともにエサを食べているのかもわかる……かも?」

 

 圃人の少女ちゃんの回答に頷きを返し、吸血鬼侍ちゃんに視線を向ける女魔法使いちゃん。どうやら昨日から変わりなさそうですね。

 

 只人(ヒューム)では2人並ぶと武器を震えそうにない狭い通路ですが、吸血鬼侍ちゃんと圃人の少女ちゃんなら十分な広さです。小柄な2人が前衛に、真ん中に松明持ちの少年魔術師君、最後尾に女魔法使いちゃんという隊列で進んでいきます。

 他の新人たちには入り口の警戒を任せ、後ほど圃人の少女ちゃんが呼びに来ると伝えてあるので問題はないでしょう。

 

「ゴブリンのけはいがしたらすぐにうしろにさがってね。ぜったいにとおさないから」

 

「了解です教官殿! ……!? そこ、その壁面なんか変です!

 

 圃人の少女ちゃんが指差す先、僅かに土が壁面からこぼれている場所があります。後ろへ下がるよう手で指示し、そっと近づく吸血鬼侍ちゃん。おもむろに右腕を壁面に突っ込み……。

 

「GOBGOB!?」

 

「せいかい。よこあなをほってかくれていることがあるからちゅういしてね」

 

 おお、ナイスキャッチ(物理) 不意打ちを企んで潜んでいたゴブリンを頭を鷲掴みにして引きずり出し、左手で毒付きナイフを持つ腕をへし折って地面に放り出す吸血鬼侍ちゃん。そのまま血刀を起動させ、横穴に向けて火を放ちます。

 

「「「GOBGOBGOB!?」」」

 

 横穴の中から聞こえてくる悲鳴に恐れをなしたのか奥へと逃走を図るゴブリン、追いかけようとする少年魔術師君を制し、横穴の中へと消えていく吸血鬼侍ちゃん。再びゴブリンの叫びが響いた後、通路の前方から姿を見せました。どうやら横穴を踏破してきたみたいですね。

 

「しんだふりをしてることもあるから、かならずとどめをさしてね。よこあなはぜんぶそうじしたから、さきにいこっか」

 

 事もなげに笑う吸血鬼侍ちゃんに引き攣った顔を向ける新人2人。ゴブスレさんならもっとスマートに出来るんでしょうけど、吸血鬼侍ちゃんだとどうしても大味になっちゃうのが欠点ですねぇ。

 耳を澄ませば奥から同じような悲鳴と冒険者の喊声が聞こえてきます。先に進むにつれゴブリンが外へ逃げ出そうと次々に一党へ向かってきますが、近寄る傍から吸血鬼侍ちゃんに殴り倒され、奥へと逆戻りさせられています。その頻度は奥に進むにつれて増し、最終的には目を合わせながらゴブリンがじりじり後退するようになってしまいました。

 

 

 

 

 

「随分遅かったじゃねえか。お前さんとこがビリだぜ?」

 

「よこあながあったからそうじしてたの。いっぴきもにがしちゃダメだから」

 

 そりゃ災難だったなあと笑う槍ニキ。既に他の3組はこの四辻の集結点に到達していました。圃人の少女ちゃんに外で警戒に当たっている他の新人を呼んでくるようお願いし、彼らの到着を待ちます。

 

 内側に視線を向ければ、おそらく休息場所にするつもりだったのでしょうか。食べかけの死肉や毒を作るのに用いられている壺、盗まれた円匙が乱雑に置かれた10メートル四方ほどの空間が目の前に広がっています。

 部屋の中心には顔や腕を腫らしたゴブリンの集団が、他の個体を盾にしようと内側へ内側へと入り込もうとしている醜悪な光景が。すべての通路を塞がれ、なんとか生き延びようと足掻いています。

 

「ゴブリンを殺した経験の無いヤツ、前へ出ろ」

 

 吸血鬼侍ちゃん組の後続が到着したのを確認し、重戦士さんが新人に声を掛けます。躊躇いがちに進み出る新人、その中には少年魔術師君や圃人の少女ちゃん、それに交易神の侍際さんの姿があります。

 

 一歩踏み出そうとした槍ニキを視線で止め、スタスタと部屋の中心へ歩き出す吸血鬼侍ちゃん。いいのか?と言わんばかりの目に笑みを返すと、でっかい溜息を吐かれてしまいました。

 

 先ほど吸血鬼侍ちゃんに殴り飛ばされたヤツでしょうか、顔を押さえたゴブリンが命乞いをするように地面に手を着いて何度も頭を下げています。

 

 村正に添えていた手を離し、目線を合わせるようにしゃがみ込む吸血鬼侍ちゃんを見て、顔を上げたゴブリンは前衛姿勢から突進、隠していたナイフを吸血鬼侍ちゃんの腹部に突き立てます!

 

 ニヤリと笑みを浮かべるゴブリン。毒に悶える姿を想像しているのでしょう、馬鹿な冒険者を嘲笑うように喚き、それにつられて他のゴブリンもゲラゲラと笑い声を上げ始めました。

 

 五分後に逃れられぬ死が待っていようと、今この瞬間の悦楽の前にはきっとそんなこと考えられないのでしょう。毒に苦しむ吸血鬼侍ちゃんを人質にと考え、盾として抱えようとしていますが、ナイフを握った手が微動だにしないことに気付き焦ったような視線を吸血鬼侍ちゃんに向けていますね。

 

「こんなふうにゆだんをさそって、どくないふでこうげきしてくるのはにちじょうさはんじ。ふよういにちかづかないことと、げどくやくはかならずもちあるくこと」

 

 ニッコリと笑ったままナイフを握った手を掴んで腹から引き抜き、持ち主の顔の前まで持ち上げる吸血鬼侍ちゃん。そのまま眼前で腕を捩じ切り、悲鳴を上げるゴブリンの肩を押さえ、黒く硬化した右手を腹に抉り込みます。薄い腹筋を貫き、内臓を引きずり出したそれをゴミでも捨てるようにゴブリンの集団の中心に投げ入れました。

 

「ふいうちにしっぱいしたゴブリンは、あいてをおこらせたヤツをころして、ごきげんをとろうとする。わるいのはコイツだけで、オレはわるくないというじぶんかってなかんがえ」

 

 吸血鬼侍ちゃんが口にしたそのままの光景が新人の前で行われています。もはや声すら出せない状態のゴブリンを怪我の少ない連中が石や棒で滅多打ちにし、動かなくなったそれを放置したまま卑屈な笑みを冒険者に向け始めました。

 

「ここまできたらあとひとおし。ぼくがゆるしてもほかのひとがゆるさないことをおしえてやるだけ」

 

 その言葉が紡がれた瞬間、吸血鬼侍ちゃんの背後から投擲された長槍がゴブリンを3匹纏めて刺し貫きました。部屋の隅まで吹き飛び、壁に縫い付けられた末路を見て今度こそゴブリンたちの心はへし折れたようです。

 

 他の奴が先に死ねば、もしかしたら自分の番が回ってくるまでに飽きて帰るかもしれない、そんな考えなのでしょう。我が身可愛さに他の個体を差し出すように重傷のものを冒険者側に押しやっています。押される側も抵抗し、押してきた相手を殴りだす陰惨な状況を目撃して、新人たちの顔色は悪くなる一方ですね。

 

 

 

「クソっ、こんなのが冒険であってたまるか……ッ!」

 

 躊躇する新人の中から進み出た少年魔術師君。新米戦士君から借りたのでしょう、棍棒を振りかぶり、命乞いをするゴブリンの脳天に叩きつけました。頭部から血と脳漿を噴き出しながら倒れたところに支給されていたナイフで心臓を突き、完全に死んだのを確認。フラフラと戻ってきたところを女魔法使いちゃんが抱き留め、よくやったわねと頭を撫でています。

 

 

 

「どうしました? 抵抗しない相手を殺すことはできませんか?」

 

 口元に手を当て、蹲ってしまった交易神の侍祭さんの肩に手を添えて問いかける森人少女ちゃん。無言で頷く姿に困ったような笑みを浮かべ、それでは荒療治でいきましょうと告げながら、持っていたナイフで侍祭さんの喉元から腹部にかけて服を切り裂きました! 悲鳴を上げる肌も露わな侍祭さんの姿に、周囲の目が一気に集中します。

 

「オイ、いきなり何てことしやが……ッ!?」

 

「ちょっとだまってて」

 

 (つがい)の肌を衆目に晒され怒りの声を上げる蜥蜴人の戦士さん。森人少女ちゃんに詰め寄ろうとしますが、鼻先に突き付けられた分身ちゃんの持つ村正の切先と、その姿からは想像もできない程の圧迫感に気圧されて動けなくなってしまいました。外気に晒された胸元を隠そうとする侍祭さんの腕を背後から押さえ付け、前髪で隠れた表情のまま肩越しに話しかける森人少女ちゃん。

 

「よーく見てください。こんな状況であっても、いえ、こんな状況だからこそ貴女を見て欲情しているケダモノたちの姿を」

 

 森人少女ちゃんの指差す先に侍祭さんが揺れる視線を向ければ、股間を膨らませたゴブリンたちの雌を犯す事しか考えていない瞳の群れ。さっきまで命乞いをしていたとは思えないその変貌に、歯の根が合わないほどの恐怖を感じているようです。

 

「もし殺せないというのなら、このまま貴女をあの群れに投げ込みましょうか。自分の股座(またぐら)からゴブリンの赤子が顔を出すのを見るのは、なかなかに得難い経験ですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(わたくし)が保証いたします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉に声を無くす冒険者たち。

 

 一党以外では森人少女ちゃんを救助した女神官ちゃんが知っているくらいでしょうか、それ以外のベテランも薄々気付いていたようですが、新人のなかには自分がそうなった光景を想像してしまい、嘔吐している女性もいます……。

 

 村正を突き付けていた分身ちゃんが≪手袋≫からシーツを出し、侍祭さんを包んで抱き上げて蜥蜴人の戦士さんに手渡し。受け取った蜥蜴人の戦士さんも動揺を隠せず、彼女に声をかけることも出来ない様子です。

 

 そのまま分身ちゃんは森人少女ちゃんに歩み寄り、抱き締めるや否や長い耳や頬、首筋にマーキングを。感情が抜け落ちたような顔つきだった森人少女ちゃんでしたが、分身ちゃんのアプローチで徐々に表情が戻ってきました。2人の触れ合いを見て滾る欲望を我慢できずに襲い掛かってきたゴブリンを影の触手で串刺しにしつつ、分身ちゃんは新人に向かって笑いながら告げます。

 

 

 

「てにあせにぎるわなのかずかず、そらをまうどらごんとのたたかい、きらびやかなざいほう。すごくかっこいいよね」

 

「でも、みんなのいちばんめかにばんめのぼうけん、あるいはさんばんめ。すくなくともこくようにあがるまえに、かならずごぶりんたいじがまっている」

 

「そこにあるのは、ちと、おだくと、けがされたひとのそんげんと、ごぶりんだけ」

 

「そうぞうして? なかまを、かぞくを、こいびとを。たいせつなひとをそんなめにあわせたくないのなら、やることはひとつ。わかるよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴブリンは皆殺しだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が頂点から僅かに外れた頃にギルドへ帰還した冒険者たち。ぞろぞろと戻ってきた集団に、別の冒険から帰ってきていた一党が気付き、声をかけようとして動きを止めました。

 

 戻ってきた新人の顔はやつれ、動きは精彩を欠いた有様。でも、その目はギラギラと輝き、ただの初心者(ノービス)には無い凄みが生まれています。

 

 訓練で何をやって来たんだと一党の頭目が集団の代表と思しき重戦士さんに問いただすと、肩を竦め、何でもない様子でこう返事が来るのでした。

 

 

 

 

 

「なに、()()()ゴブリン退治さ。お前らも散々経験してきただろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 




 連休中にもうちょい更新したいので失踪します。

いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がりますのでよろしくお願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。


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