ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ   作:夜鳥空

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 ジオン残党兵ばりに待っていたゲームが配信されたので初投稿です。



セッションその9ー6

 前回、吸血鬼侍ちゃんが油まみれになりかけたところから再開です。

 

 いやー危ないところでした! 殆どのダメージは一回休み(邪な土)コースで済む吸血鬼侍ちゃんですが、流石にこれは想定外です。死亡ではなく生命そのものを変容させるファイレクシアの油は残念ながら防ぎようがありません。しかも侵蝕スピードが速いアンデッド()森人()がメンバーの半数を占める集団ですので、ちょっとした油断が一党(パーティ)崩壊に繋がる危険性を秘めています。

 

 万が一付着したらどうなるかを吸血鬼侍ちゃんの尊い犠牲によって周知出来たのは不幸中の幸いですね。何も知らずに攻撃して、返り血を浴びでもしたらその時点でアウトでしたから。

 

 とはいえ被害は決して軽くはありません。なかなか再生が始まらない吸血鬼侍ちゃんは戦力ダウンですし、前述のとおり近接戦闘はリスクが高すぎます。魔法ないし遠距離攻撃のみで相手をするには厄介な相手でしょうね……。

 

「あの、これが先程の亡骸の近くに落ちていたのですが……」

 

 おや、女神官ちゃんが何かを発見したようですね。両手にそれぞれ持っているのは半球型の呪物でしょうか。油は付着していませんが、吸血鬼侍ちゃんに分かるほどの魔力を秘めているみたいです。魔法の品となると、やはりここは一党の頭脳担当にお願いするべきでしょうね。

 

「これ、なんだかわかる? なにかをいれるものっぽいけど」

 

「ちょっと見せて頂戴。……ん、多分直接触れないで何かを運ぶための呪物ね。内側に≪浮遊(フロート)≫に近い術式が刻まれてるわ。」

 

「あ、なんかいやなよかん……」

 

 女魔法使いちゃんの横から呪物を覗き込んでいた吸血鬼侍ちゃんの顔が引き攣っています。おそらくその想像は正しいでしょうね。何処かで油を封印した呪物を見つけた森人がゴブリンに捕まり、嬲られている際に見つかったのでしょう。中にあった感染源はおそらく巣に持ち去られてしまったに違いありません。

 

 

「さっきのでおわりならいいけど、もしここでなきがらをもてあそんでいたゴブリンが、かんせんにきづかないで()にもどってたら……」

 

「……病気を巣に持ち帰らせて蔓延させる。俺もよく使う手だ」

 

 ゴブリンに対する嬉しくない信頼性が、ゴブスレさんによって真実味を帯びてきましたね……。もしかしたら昨日の筏襲撃や先程吸血鬼侍ちゃんが蹂躙した群れは、巣に帰れなくなったゴブリンの成れの果てだったのかもしれません。となれば閉鎖された空間で油はどんどん汚染を広げていくので……。

 

 

 

 

 

 

 

「ちっこいのの予想通りね。物見塔にいるヤツ、目からあの黒いの流してるもの」

 

 妖精弓手ちゃんが目を凝らして見つめる先、はるか古代に築き上げられた城塞は予想通り既に油によって汚染されているようです。定期的に通用口を出入りするゴブリンはみな一様に眼窩から黒い油を滴らせ、見回りというよりは生前の行動をなぞるが如く淡々と決まった道を歩き回っています。手に持つナイフや石斧も油に塗れ、あらゆる生物を同化させようとする邪悪極まりない意思を感じさせますね……。

 

「……アレはゴブリンではないな」

 

 そう呟くゴブスレさんの言葉に一党の気持ちは集約しているでしょう。愚かで醜悪、卑小極まりない言動は消え去り、狂気的なほどに静謐なまま行動する姿は既にゴブリンではないもっと悍ましいモノに成り果ててしまったことをまざまざと冒険者に見せつけてきています。

 

「しかし、そうなるといつもの小鬼殺し殿の手筈は使えませんな。幸い呪文遣い(スペルスリンガー)は潤沢におりますが、一匹ずつ相手をしていては焼け石に水というもの」

 

「それに、だいたいこういう時は汚染の大本が何処かにあると相場が決まっているものさ。それを何とかしないことには、根本的な解決にはならないだろうね」

 

「それでは、内部へ侵入し調査を行いましょう。道中の障害は主さまと炎術師さまに焼き払っていただく方向でよろしいかと」

 

「……慎重そうにみえて意外と脳筋なんだな若草の嬢ちゃんは。まぁ力技で解決できるならそれが一番か」

 

 しゃがみ込んで何かを削っていた蜥蜴僧侶さんと、それを興味深そうに眺めていた森人狩人さんが問題を提起し、森人少女ちゃんが一党の意見をまとめ解決法を提示しています。不良闇人さんもツッコんでいますが、こういう場合下手に小細工を考えるより正攻法で押し切ったほうが良さそうですからね。城塞外縁部で遭遇した油漬けの動物で試してみたところ、炎属性の攻撃であれば汚染対象ごと油を焼き払えることと、≪聖壁(プロテクション)≫で流れ出た油をカットできることは確認済みです。

 

 現状一党で炎属性攻撃が可能なのはまず前述の2人+分身ちゃん。それと女魔法使いちゃんが爆発金槌および≪点火≫の単語発動で呪文の消耗無しで攻撃可能なので主戦力となります。ゴブスレさんが油壷を持っているので、数は限られますが只人はそれを投擲することも可能ですね。

 

 相性は悪くないものの遠距離攻撃手段に乏しい鉱人道士さんと蜥蜴僧侶さんには一党の援護をお願いするかたちになりそうです。また、森人三人娘は油に触れたら一発アウトなので、可能な限り後方支援に徹してもらいましょう。リスクを考えれば吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんも下がったほうが良いのですが、火力と自切による感染阻止を鑑みて戦力として数えることになりました。

 

「ちっこいの、さっきみたいな無茶したら絶対ダメだからね?」

 

「まえむきにぜんしょさせていただき……おあ~……」

 

 まあ本人たちが下がろうとしないのが一番の要因なんですけどね。妖精弓手ちゃんにほっぺたを引っ張られても首を横に振ろうとしない姿を見て、女魔法使いちゃんも諦めたのか分身ちゃんに注意を促していますね。

 

「ダメージで消えるだけならいいけど、汚染されてそのまま戻れなくなったら大変だから、無理しちゃダメよ?」

 

「ん、わかってる」

 

 たしかに、そこは懸念事項ですね。再召喚で何事も無ければ良いのですが、半ば自立した存在になっているため汚染されてそのまま死亡とか洒落になりませんから。今回は2人とも安全第一で頑張りましょうね。

 

 

 

 

 

「これは、予想以上に汚染は広まっているようですわね……」

 

 分厚い木を抜けた先の光景を目の当たりにして、令嬢剣士さんがため息交じりに呟くのも無理はありません。長い年月を経て草木が生い茂っていた筈の中庭は異様な植生に変貌し、蜜がわりに黒い油を滴らせる大輪の花や獲物を求めて這いまわる蔓草、短筒の弾丸のように種子を撃ち込んでくる樹木など悪夢のような植物に溢れていました。幸い火に弱いのは共通しているようで、不良闇人さんを含めた3人がかりで燃やし祭りを開催し、なんとか被害を出さずに済みました。

 

 途中で油に汚染される前に死んだと思われるゴブリンの死体を見付け、改めたところ数字の刻まれた札が括り付けられた鍵を発見。これで小鬼呪術師(シャーマン)が待ち構えている屋上への昇降機(エレベーター)を使えるようになりました。これ番号が毎回ランダムらしいので、万が一拾いそびれるとクッソ長い階段を上るか、外壁をよじ登るか、空を飛ぶかの三択が待っているらしいです。

 

 先程燃やし祭りと言いましたが、本来であれば森人によって施された火除けの加護によって火を使う行為は阻害される筈なのですが、遺跡のあちらこちらに油を塗りこめた跡があり、何事も無く使用することが出来てしまいました。といっても楽観は出来ません。おそらく遺跡そのものを侵蝕しようとしている可能性が高いので、早急に原因を排除しないと大変なことになりそうです。

 

 

 

「うへぇ、こりゃあ内部はもっとヒデェ有様になっているに違いねえ……」

 

「つかれた~」

 

「おなかすいた~」

 

 呪文こそ使っていませんが、肉体的精神的疲労は如何ともしがたいようで、歩く火炎放射器と化していた3人はだいぶグロッキー状態です。不良闇人さんは岩の上に座り込んで賦活剤(エリクシル)をがぶ飲み、分身ちゃんは今回働き場所が少なそうな森人狩人さんにちゅーちゅーさせてもらっています。竜血(スタドリ)を飲むという手もあったでしょうが、どうやら森人狩人さんに押し切られてしまったみたいです。

 

「……ちっこいのは吸わなくて平気なの?」

 

「だいじょうぶ。まだおなかはへってないから」

 

「……そ、ならいいけど」

 

 ≪手袋≫から取り出した水袋の薄めた葡萄酒で喉を湿らせていた吸血鬼侍ちゃんに妖精弓手ちゃんが心配そうに声をかけていますね。視線が注がれている左腕はまだ再生が始まらないようで、肩口から湿気を多く含んだ風によってひらひらとなびいています。

 

「しんぱいしなくても、そのうちはえてくるからだいじょうぶ。……とかげさんのしっぽもはえてくるの?」

 

「はっはっは、残念ながら拙僧そこまでの再生力は持ち合わせておりませんので。これは大事な一張羅ということでひとつ」

 

「あはは、ちっこいのみたいに直ぐ生え変わるわけないでしょうに!」

 

 沈んだ面持ちの妖精弓手ちゃんを元気づけるように冗談を飛ばす吸血鬼侍ちゃん。それとなく察してくれた蜥蜴僧侶さんも話題に乗ってくれて、大きな口を開けて笑いながら尻尾をくゆらせています。2人に気を使わせたと思ったのか、妖精弓手ちゃんも無理矢理笑みを浮かべて付き合ってくれていますが、やはりどこかいつもと様子が違います。ちょっと気にしておいたほうが良さそうですね……。

 

 

 

「ほいでかみきり丸よ、お前さんとしては上と下、どっちだと思う?」

 

「上だな。下であったならば、既に川に油を流しているはずだ」

 

 囂々と音立てて流れ落ちる人造の瀑布と、それを生み出している巨大建造物を交互に見ながらゴブスレさんが鉱人道士さんの問いに答えています。もし持ち主が賢いものであるならば川を利用して汚染を広げようとするはずですが、遡上してくる間にそのような傾向は見られませんでした。

 

 となれば、面白半分に仲間に向けて効果を確認している可能性が高いです。今はまだ城塞外周を回るだけに留まっていますが、これが外に解き放たれたらパンデミック間違いなしです。早急に汚染を食い止めましょう!

 

 

 

 

 

「……よく考えたら、全員乗れませんよね」

 

「かといって分散して乗り込むのも危なそうだし、どうしたものかしら……」

 

 ええと、城塞内部で昇降機の入り口を発見した一党ですが、ここにきて最大の危機に瀕しています。原作でもギリギリと思われる定員ですが、どう考えたって乗り切れるわけないですよね……。下手すると2回でもダメかもしれません。かといって女魔法使いちゃんの言う通り分散して乗り込むのもリスクが高そうですし、どうしたものでしょうか……おや、昇降機の近くにあった小部屋を探索していた人たちが戻ってきました。森人狩人さんが手招きしてますね。

 

「どうかな妹姫(いもひめ)様? おそらくここの内部図面だと思うんだけど」

 

「ええ、これを見る限り昇降機は吹き抜けになってる屋上へ繋がってるみたい。これなら外から飛んでも回り込めそう!」

 

 警備員詰所(こべや)の入り口近くに掲示してあった木製の地図。流麗な森人語で記されたそれはどうやら城塞(ダム)の避難経路図だったようです。ほっそりとした指先で表面をなぞりながら妖精弓手ちゃんが声を弾ませてますね。吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん、女魔法使いちゃんと、特製水薬(ポーション)を服用すれば蜥蜴僧侶さんも飛行出来ますので、重量的に厳しい蜥蜴僧侶さんが外組にまわれば人数的にもゆとりが生まれますね!

 

「とはいえ双方の連絡手段は欲しいので、主さま2人と妹姫様、それに上姉様には別の班に分かれていただくことになるかと思います」

 

「りょーかい、それじゃ私はちっこいのと外組に回るわね。狭いところ好きじゃないから」

 

 まだ片袖をプラプラさせている吸血鬼侍ちゃんを抱え上げながら、妖精弓手ちゃんが名乗りを上げています。それなら私はご主人様と狭い部屋で密着しようと言いながら分身ちゃんを捕縛する森人狩人さん。火の攻撃が可能な人数の割り振りも考慮した結果、以下のような組み分けになりました。

 

 

 

外側飛行組吸血鬼侍ちゃん&妖精弓手ちゃん                     

女魔法使いちゃん&令嬢剣士さん

蜥蜴僧侶さん&ゴブスレさん

昇降機利用組分身ちゃん 森人狩人さん 森人少女ちゃん

女神官ちゃん 鉱人道士さん 不良闇人さん

 

 

 

 飛行組は女魔法使いちゃんの魔法とゴブスレさんの油壷、それに令嬢剣士さんの≪稲妻(赤3点)≫で、昇降機組は不良闇人さんの炎術とやはり森人狩人さんの≪稲妻(赤3点)≫で油を防ぎながら駆逐する構成ですね。鉱人道士さんにも油壷を持ってもらい、火の効果を高めてもらうことになりました。

 

「油対策はこれで良さそうだけど、どうやって汚染されたゴブリンの群れとその源を滅ぼすつもり? 流石に攻撃に回せるほどの余裕はないと思うわよ」

 

 一般の冒険者一党に比べて呪文と奇跡の回数は格段に多いこの混成一党ですが、それでも火属性だけで油を焼き尽くすのは難しいでしょう。何かアイデアはないの?と無茶振りをしてくる妖精弓手ちゃんに、抱き上げられた吸血鬼侍ちゃんがある人物を見つめながら答えます。

 

 

 

「えっとね、……で、……するつもりなんだけど、だいじょうぶ?」

 

「え、そんなこと出来るんですか!? でも、そんなこと万知神はお許しに……」

 

「そのへんはもんだいないからへーき。あとはきみのしんこうしだい」

 

「……わかりました。この汚染は決して広めてはならないもの、地母神様もきっと認めてくださいます!」

 

「ん、ありがと。……そっちも頑張って、でも無茶はしないでね?」

 

「かしこまりました。主さまの希望に沿えるよう、万知神さまの巫女として頑張ります」

 

 吸血鬼侍ちゃんの作戦に最初は驚いていた女神官ちゃんですが、油の危険性を目の当たりにしたためでしょう、決意を秘めた表情で頷いてくれました。同様に森人少女ちゃんも胸元に手をあてて頭を下げています。他の面々も納得してくれたようで、次々に頷きが返ってきていますね。

 

「昇降機の扉が開いた瞬間に作戦開始ね。みんな気張っていくわよ!!」

 

 妖精弓手ちゃんの掛け声とともに2組に分かれる一党。さあここからはタイミングと勢いの勝負です!

 

 

 

 

 

「しょうこうきとうちゃくまで3……2……1……いま!

 

 分身ちゃんと連絡を取り合っていた吸血鬼侍ちゃんの掛け声で、屋上から見えないように城塞(ダム)外周を飛行していた3組が上昇を開始。予め確認していた場所目掛けてゴブスレさんが油壷を投げ、令嬢剣士さんの放つ≪稲妻(ライトニング)≫でゴブリンを排除。同時に火の壁で侵入されない橋頭保を確保しました! 向かい側の昇降機入り口でも同様に火が放たれ、森人少女ちゃんが入り口前に待機。護衛として森人狩人さんを引き連れた分身ちゃんが走り、吸血鬼侍ちゃんを含めてちょうど三角形の配置になる場所へ到着しました。そして、その中心となる場所へ走る2人の人物……。

 

「しっかり着いて来な、勝利の鍵の嬢ちゃん!」

 

「は、はいっ!!」

 

 道を切り拓く様に炎を放ち、中心点に向かう女神官ちゃんを先導する不良闇人さん。床面を擦りながら振り上げられる血刀は炎を噴き出し、緩慢な動きで接近しようとする汚染されたゴブリンを寄せ付けません。

 

「GOBOIL、GOBOOOILLLL!?」

 

 分身ちゃんに近い位置にいた小鬼呪術師(シャーマン)だったと思われるゴブリンが振り回す杖の先、周囲に黒い油を飛び散らせているあれが件の源でしょうね。呪文を授かる程度には優秀だったためでしょうか、汚染されているにも拘わらず、その目には嫉妬と欲望の光がギラついています。不良闇人さんに導かれて走る女神官ちゃんに目を付け、自慢の≪眠雲(スリープクラウド)≫を唱えようとしますが……。

 

「そうはさせないよ? ……≪雷電(トニトルス)≫!」

 

「GOBOI!?」

 

 森人狩人さんが放った一筋の雷光がそれを貫き、詠唱を中断させます! 威力こそ≪稲妻(ライトニング)≫に及ばないものの、戦棍の補助があるとはいえ瞬時に≪ショック(赤2点)≫を与えられるのは非常に有用ですね。女神官ちゃんが三角の中心点に辿り着き、それを囲うように不良闇人さんが火を放つのを見て頂点に待機していた3人が動き始めました!

 

 

「≪はながさきほこり≫……」

 

「≪みのなれば≫……」

 

「≪二度の星夜で≫……」

 

「「「≪いとしいひとと(愛しい人と) よあけのかねに(夜明けの鐘に) もりのとり(森の鳥)≫」」」

 

 

 

 目を瞑り、両手を広げ朗々と歌い上げる3人。屋上に響き渡る清澄は歌声は神の奇跡を称え、その効果を増幅させる≪聖歌(ヒム)≫の奇跡。ですがその詠唱は万知神のものではなく地母神に捧げられる内容。信仰とは異なる神に祈りを捧げても何ら効果は発揮しない筈ですが……。

 

「凄い、地母神様への祈りで場が満たされています……。これなら……!」

 

 周囲に溢れる神気に後押しされるように錫杖を強く握り、奇跡を願い始める女神官ちゃん。その姿に危機感を覚えたのか汚染されたゴブリンが一斉に群がってきますが、蜥蜴僧侶さんの背に乗ったゴブスレさんが上空から油壷による爆撃を行い火の海を作り出しています。

 

 

「≪いと慈悲深き地母神よ、どうかその御手で、我らの穢れをお清めください≫!!」

 

 

 

 

 

「「「「「「GOBO……IL……」」」」」」

 

 女神官ちゃんを中心に広がる暖かな光が、屋上はおろか城塞(ダム)とその外縁部、磔が乱立していた川縁すらすっぽりと包み込み、範囲内の穢れ……ファイレクシアの油を消し去っていきます。油に浸食された部分を失い崩れ落ちるゴブリンだったもの。すでに侵されて脆くなっていたのでしょう、床面にぶつかった衝撃で粉々に砕け散っていきます。光が収まった屋上には、じんわりと表面から油を滲ませるひび割れたオーブがひとつ残されているだけです。

 

「あとはソレを砕けば……みんな離れなさい!」

 

 キリキリと矢を引き絞りながら叫ぶ妖精弓手ちゃん。その鏃は普段の木の芽とは違い、白い小さな欠片のようなものが使われています。

 

「毒を以て毒を制す……。異界の毒と神獣の牙が秘めた毒、どっちの神秘が上かしっかりと味わいなさい!!」

 

 放たれた矢は過たず命中し、砕けたオーブはしゅうしゅうと音を立てながら融けていきます。蜥蜴僧侶さんが削り出した、神獣の牙を用いた鏃の毒が、ひび割れた呪物に勝ったようですね!

 

 

 

「にしてもすんげえ効果だったな娘っ子。まさかここら一帯を纏めて浄化しちまうとは想像もつかなかったわい!」

 

「ええ、私も正直驚いてます。それに3人の≪聖歌(ヒム)≫がしっかりと地母神様に届いていたことも……」

 

 バテバテになってしゃがみ込んでいたところを一か所に集められ、焼菓子(レンバス)竜血(スタドリ)で補給している3人を見ながら女神官ちゃんが苦笑しています。当たり前のことですが、その神を信仰している神官以外の祈りは、神に届くことはあっても奇跡を起こす力など持っていません。じゃあ何故3人の≪聖歌(ヒム)≫は効果を発揮したのでしょうか? あ、ちょうど女魔法使いちゃんが吸血鬼侍ちゃんに焼菓子を咥えさせながら訪ねてますね。

 

「お疲れ様、上手いこと≪浄化(ピュアリファイ)≫を増幅させられたみたいね。なんて言ったかしたら、万知神の奇跡の……」

 

「≪もほう(イミテーション)≫。ほかのかみさまのきせきをまねるものだけど、せんだつへのリスペクトをわすれないのがばんちしん(マンチキン)のたしなみなんだって」

 

 なるほど、専用奇跡を含めた他の神の奇跡を唱えられるから≪模倣(イミテーション)≫なんですね。しかも詠唱の際には他の神の信者としても扱われると。やっぱり回数増加と対象コピーはマンチキン御用達なんですねぇ。わかりみ……。

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ探索を続けましょう。もしかしたらお宝とか眠っているかもしれないしね!」

 

 暫しの休息の後、妖精弓手ちゃんの発破で休憩から気持ちを切り替える一党。呪文や奇跡は半分ほど消耗していますが、既に≪浄化(ピュアリファイ)≫で油塗れ勢は排除していますし、探索をするくらいでしたら問題ないでしょう。相変わらず吸血鬼侍ちゃんの左腕は返ってきませんが、一晩休めばきっと生えてくるでしょう!

 

「よっこい……おっとっと」

 

「ちょっと、あんたは休んでなさいよちっこいの。さっきはしょうがなかったけど、片腕が無いんじゃバランスがとれないんじゃない?」

 

 立ち上がる際にバランスを崩し、妖精弓手ちゃんのおなかにポフリと顔を埋めてしまう吸血鬼侍ちゃん。普段ならあっという間に再生するぶん、もしかしたら部位欠損による姿勢制御は苦手なんですかね……って、おや? なにやら吸血鬼侍ちゃんの足元に白い魔法陣のようなものが……。

 

「え、待ってよちっこいの。またどっかに行っちゃうわけ!?」

 

「あ~…たぶんゆうしゃちゃんたちによばれてるんだとおもう。たぶんせかいのきき?」

 

 徐々に光に包まれ姿が薄くなっていく吸血鬼侍ちゃん。させないとばかりにきつく抱きしめる妖精弓手ちゃんの腕が、するりと身体をすり抜けてしまいました。ああ、この間賢者ちゃんに頼まれた召喚サインによる呼び出しですね。

 

 泣きそうな顔になっている妖精弓手ちゃんを見て、悪戯を思い付いたような表情を浮かべた吸血鬼侍ちゃんが、そっと顔を寄せて触れ合うことのないちゅーをしています。

 

「もどってきたら、ほんとにしてもい~い?」

 

「いいわよ。戻ってきたら覚悟しなさい。だから……」

 

 それ以上は口に出さずに笑って見送ってくれる妖精弓手ちゃん。吸血鬼侍ちゃんも一党を見渡し、無事な右手を大きく振って出発の挨拶をしています。半ば呆れた顔で見ていた不良闇人も、肩を血刀でトントンと叩きながら死ぬんじゃねえぞと応援してくれました。分身ちゃんを見れば深く頷きを返してくれてますので、こっちは任せても大丈夫ですね。

 

「それじゃ、ちょっとせかいをすくいにいってくるね!」

 

 

 

「心配しなくても、きっとすぐに帰ってくるわ。そんな顔してたらまたアイツにからかわれるだけよ?」

 

「だって……」

 

 光の粒子となって消えた吸血鬼侍ちゃんを見てへたり込む妖精弓手ちゃんの肩に手をやり、安心させるように話しかける女魔法使いちゃん。眦から零れるものを見て、視線を合わせるようにしゃがみ込み、女の顔で問いかけています。

 

「そんなにアイツが大事なら、あらゆる手段を使って繋ぎ止めてみる? アイツも貴女を気に入っているみたいだから、重しが増えれば自重するようになるかもしれないわよ?」

 

「ふぇっ!? そ、それってもしかして……」

 

 慌てて見返す妖精弓手ちゃんですが、女魔法使いちゃんの目に宿る力に気圧されて言葉が出てこない様子。ふと視線を和らげた女魔法使いちゃん、まあ貴方達には幾らでも時間があるのだから、後悔だけしないようにねと言い残して離れていきます。

 

 その後姿を見つめる妖精弓手ちゃん。ゴシゴシと涙を拭い立ち上がったその顔には、今までにない決意が宿っているように見えました……。

 

 

 

 

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 




 漆黒のステイヤーが可愛すぎるので失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がりますのでよろしくお願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。

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