ゴブリンスレイヤー モンスター種族PC実況プレイ   作:夜鳥空

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 なんとか年度内に更新できたので初投稿です。


セッションその9 いんたーみっしょん その2

 前回、吸血鬼侍ちゃんが捕食されかかっているところから再開です。

 

 いやー、わかっているつもりでしたけど、剣の乙女の愛もなかなか重いですねぇ。豊満な肢体で物理的に抑え込まれて、吸血鬼侍ちゃんはもはや俎板上の鯉。あとは美味しく頂かれてしまうだけで……おや、誰か来たようですね? 玄関のドアが開いて2人の人物が入って来ましたが、吸血鬼侍ちゃんを調理するのに忙しい剣の乙女は気付いていない様子。助けを求める吸血鬼侍ちゃんの視線を受け止め、音もなく近寄り剣の乙女の耳元で両側から囁きました。

 

「おゆはん作るの面倒だったからギルドで調達してきたんだけど……」

 

「その様子じゃあシルマリルをおなかいっぱい味わうつもりだったみたいねぇ?」

 

「ひゃうっ!?」

 

 慌てて飛び退る剣の乙女。振り返る目に映ったのは、揚げ物や酒瓶をテーブルに置いている女魔法使いちゃんの呆れた表情。幸せな束縛から解放されたものの、腰が抜けて動けない吸血鬼侍ちゃんの口に鶉の卵のフライを押し込みながら、妖精弓手ちゃんもひらひらと手を振っていますね。

 

 

「おかえりシルマリル。ずいぶんおっきなお土産を持って帰ってきたじゃない」

 

「むぐむぐ……おもちかえりされたのはぼくなんだよなぁ……」

 

「ほら、そこのエロ大司教サマもさっさと席に着きなさい。4人分には少ないけど、あとは朝食で余った麺麭でも出せばいいわね」

 

 妖精弓手ちゃんが吸血鬼侍ちゃんを椅子に移すのを確認して、食器棚からカトラリーとグラスを取り出す女魔法使いちゃん。ちゃんと4人分用意してますね。真っ赤な顔であわあわしている剣の乙女を見て、やれやれといった様子で首を振りながら席に着くよう促しています。逡巡していた剣の乙女も、ここは黙って従うべきと判断したのでしょう。4人が揃ったところでグラスに葡萄酒が注がれ、ちょっと気まずいおゆはんタイムが始まりました。

 

 

 

 

 

「回りくどいのは嫌いだから率直に聞くけど、なんでコイツを襲ってたの?」

 

「そりゃもういろいろたまってたからじゃない? 最近私たち全員忙しかったし」

 

 卓上の料理が粗方片付き、皆が牧場産のチーズを肴にグラスを傾けていたところで女魔法使いちゃんが先制のジャブ……ではなく、いきなりフィニッシュブローを叩き込みました。一口飲んだだけで酔いが回っているのか、どストレートな理由を挙げる2000歳児。大人の階段上ってから、わりとそのへんおおらかになりましたね。良いか悪いかは別として。

 

 問われた剣の乙女はグラスを弄びながら、気まずそうに吸血鬼侍ちゃんをチラチラ眺めています。先ほどの痴態凶行を悔いるような視線に気付いた吸血鬼侍ちゃんが、身を乗り出して剣の乙女の頭を抱き寄せ、頭を撫でながらあやすように語り掛けます。

 

「だいじょうぶ。ちょっとびっくりしたたけで、ぜんぜんおこってないし、こわがってもいないから。だから、わけをおはなししてほしいな?」

 

 それに気持ちよかったしと続ける吸血鬼侍ちゃんの顔が赤いのは、ほんとに葡萄酒のせいなんですかねぇ……?

 

「あの、その、わたし、≪託宣(ハンドアウト)≫を賜りまして。至高神様は、自分の気持ちに素直になりなさいと……それがたとえ人から外れることになったとしても、信仰を忘れなければ構わないと仰って下さいました。それで、この子と2人きりになった瞬間どうしても自分の気持ちを抑えきれなくなってしまい……本当に申し訳ありません」

 

 しゅんとした様子で撫でられるがままの剣の乙女。その姿を見て至高神さんもグッとガッツポーズをキメています。ほら、そんなに神気(オーラ)漏らしてるとまた地上で奇跡が頻発して大騒ぎになっちゃいますって。

 

「そうすると、おっぱい大司教も覚悟を決めたってことでいいのよね? おっぱい眼鏡と同じように、永い時間をシルマリルと歩む覚悟を!」

 

 そんな乙女ちっくな告白に目を輝かせるのは我らが2000歳児。上の森人(ハイエルフ)の人生という永遠に等しい旅路に新しい道連れが増えることに長耳をピコピコさせ、喜びを隠しきれない様子です。あ、女魔法使いちゃんに引っ叩かれた。後頭部を抱えてのたうち回る2000歳児に一瞥をくれ、驚いて硬直している剣の乙女の顎に手を添えて、その顔を覆う眼帯を取り去りました。僅かに焦点の合わない剣の乙女の瞳を覗き込み、何かを確認するように頷いています。

 

「……うん、ちゃんと本気みたいね。一時の狂騒に呑まれたわけでも、焦燥感に駆られて勇み足を踏んだわけでもない。正気でもないのは間違いないでしょうけど」

 

 まあそれは私たち全員に言えることよね、と続け、満足そうに笑う女魔法使いちゃん。喜びを全身から溢れさせ満面の笑みで剣の乙女に頬擦りをしている吸血鬼侍ちゃんのほっぺたをつついて、良かったわねーこのスケコマシとからかっています。ふう、どうやらこの場は丸く収まりそうですね!

 

 

 

 

 

「……あ、でもあんたが大司教辞めちゃったらその後釜はどうするのよ? 流石に吸血鬼の眷属が神殿長を続けるのは問題だろうし、だからといって『私、吸血鬼(この子)と添い遂げます!』で出奔したら不味いんじゃない? ……ヒック

 

 お、めでたいめでたいと騒ぎつつ、瓶から直で葡萄酒を飲んでいた妖精弓手ちゃんが気付いてしまいましたね。そのあたりの引継ぎをちゃんとしないと、また混沌の勢力に付け込まれる隙を生み出しかねませんからねぇ。至高神さんが≪託宣(ハンドアウト)≫に付記してた方法で上手くいけば良いんですが。

 

「はい、ですのでこの子にお願いするのは現状の『赤い手』による騒動が終息した後、私の後継者を指名してからとなります」

 

「いや、後継者って言ってもあんた金等級でしょ。その後を継ぐとなれば、生半可なヤツじゃ重責に潰れるのが目に見えてるわよ?」

 

 剣の乙女の膝の上に座る吸血鬼侍ちゃんの口に落花生の牛酪炒め(バタピー)を放り込みながら問う女魔法使いちゃん。その心配はごもっとも。単なる腕っぷしだけではなく、海千山千の実力者との交渉や政治に関する知識も要求されますからねぇ。そんな懸念を抱く女魔法使いちゃんに笑みを返しながら、剣の乙女は爆弾発言をかましてくれました。

 

「日々の務めに関しては、実務の中で学べば宜しいかと。幸いなことに神殿付きの侍祭は皆優秀ですので。不足している力量(レベル)は、近々至高神様が専用の≪試練(クエスト)≫を用意してくださるそうです。『赤い手』の問題が片付き次第、私と次代の()()となる()が≪託宣(ハンドアウト)≫を賜ることになりますわ」

 

 そういえばぁ、辺境にぃ、あまり冒険(セッション)に参加してない聖女いるらしいっすよ(ねっとり)。剣の乙女の発言から察してしまったのか、あの()も可哀そうにと呟く女魔法使いちゃん。流石にいきなり高難易度≪試練(クエスト)≫はあんまりなので、その前にちょうどいいタイミングで強化合宿(パワーレベリング)してあげましょうか……。強く生きてね、見習い聖女ちゃん。

 

 

 

 

 

「ん、だったらこれはしばらくつかわないようにしないと……」

 

 おや? 話がひと段落したところで、吸血鬼侍ちゃんが剣の乙女の膝から降りて例の指輪をコトリと机の上に置きました。突然の行動に、吸血鬼侍ちゃんを除く3人の目が指輪に釘付けとなっています。

 

「ええと、それはどういう意味かしら。魔力供給は止めるってコト?」

 

 視線で互いに牽制し合い、代表して女魔法使いちゃんが咳ばらいをしながら問いただすと、フルフルと首を横に振る吸血鬼侍ちゃん。どうやら別の理由があるみたいですね。

 

分身ちゃん(ぼく)がいってたんだけど、だれかをけんぞくにするときは、ものすごくちからをつかうんだって。だからみんなにまりょくをおくるのはひかえなきゃいけないし、いままでよりもたくさんすわせてもらって、ちからをたくわえないとダメなの」

 

 分身ちゃん(むこう)も指輪は外しちゃったんだって、と告げる吸血鬼侍ちゃんの顔と指輪の間を行き来する3人の視線。ゴクリと鳴る生唾を飲み込む音は、誰の喉から響いたものでしょうか。スッと伸びた白い繊手が指輪を摘まみ上げ、震える手で反対の手の指に近付けていきます。

 

「……ひとつ、確認なのですが。この指輪を用いれば、私でも魔力を注ぐことが出来るのでしょうか?」

 

「あ、やっぱりきづくよね? うん、できるよ。むこうもそれでまりょくをためはじめたって」

 

 ……なるほど、すぐに≪手袋≫に格納してしまえばいいのにわざわざ机の上に置いたのは、それに気付かせるためだったんですねぇ。リボンタイをポッケに入れ、シャツのボタンを上からひとつづつ外し始める吸血鬼侍ちゃん。臍上まで外されたことで生まれた隙間から覗く青白い肌が作り出す煽情的な光景は倒錯的な色気を伴っており、視線を外す事の出来ない3人の脳をゆっくりと蕩けさせていきます。

 

「……私たちのチャージを消費しちゃったときは、また()()()してもいいのかしら?」

 

「もちろん。じゅもんのぶんかつえいしょうは、このさきぜったいにひつようになるから」

 

「わ、私は遠慮しておくわ。ほら、私呪文使えないし……」

 

「んとね、せいれいとのしんわせいがたかいエルフは、まほうがつかえるかどうかにかかわらずたかいまりょくをひめてるんだって。それがハイエルフなら……ね?」

 

「わぁい、逃げ場なんて最初から無かったのね……あ、別に嫌なわけじゃないの」

 

 吸血鬼侍ちゃんの無慈悲な宣告に頭を抱える妖精弓手ちゃん。やっぱり気持ち悪い?と眉を下げる吸血鬼侍ちゃんの見て、慌てて頭をわしゃわしゃと撫でながらフォローに入ってます。

 

「馬鹿ねえ、気持ち悪いなんて思ってたらあんたにしてもらうわけないじゃない。むしろ嬉しいのよ、シルマリルを支えてあげられるんですもの」

 

「……ほんとに?」

 

 ほんとよほんとと笑いながら、ジト目の吸血鬼侍ちゃんと視線を合わせる妖精弓手ちゃん。その目に嘘がないことを認め、頭を撫でる手を取りそっと口付け。寝室のある二階への階段に近付くと、3人に向かって振り返り、幼い容姿に似つかぬ艶やかな笑みで誘います。

 

「みんな、ありがとう。なれないとたいりょくがすっからかんになっちゃうから、ゆっくりとおねがい。……だいじょうぶ、ぼくはじょうぶだから、ちょっとらんぼうでもへいきだよ?」

 

「うぅ……はぁ……。い、いつもこんな衝動に耐えていたのですか、貴女は……っ」

 

 誘蛾灯に吸い寄せられるようにフラフラと立ち上がり、吸血鬼侍ちゃんに近付く剣の乙女。既に指輪を嵌めているその息は荒く、普段乱暴にちゅーちゅーしようとしない吸血鬼侍ちゃんの強固な理性と自制心の強さ、それに対して自分たちがどれだけ挑発的な行為をしていたのかを文字通り身を以て味わっているみたいです。可愛い女の子を好き勝手弄んでいるように見えて、実は滅茶苦茶気をつかっていたんですねぇ……。そんな剣の乙女の変わり様を見て2人の顔が引き攣っていますが、安心してください、この後2人も体験できますよ?

 

 そんな3人の今にもプッツンしそうな理性の糸は、あどけない笑みと素直な好意をミックスした吸血鬼侍ちゃんの一声で、あっさりとを断ち切られてしまうのでした。

 

 

 

 

 

「ぼくがぜんぶうけとめるから。みんなのおもいも、よくぼうも。だから……きて?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、3人とも本能に負けて足腰が立たなくなるまで致してしまったと。……同じ轍を踏んだ者としては全くもって笑えませんわね」

 

「うんうん、それだけ普段ご主人様は頑張ってたということだよ。流石底なしのスタミナを誇る夜の王」

 

「それぜったいほめてないよね???」

 

 翌朝、久しぶりに家まで帰ってきた分身ちゃん分隊(ゴブリン絶許チーム)が見たものは、キングサイズベッドの上で身動きが取れなくなっている3人のあられもない寝姿と、それを甲斐甲斐しく世話しているお肌ツヤツヤな吸血鬼侍ちゃんの笑顔でした。

 

 後で確認したところ、女魔法使いちゃん、妖精弓手ちゃん、令嬢剣士さんは一発。森人狩人さんは二発。剣の乙女はちょっと頑張って三発でダウンしたそうです。これは貫禄の金等級。

 

 ……え、まだ名前の出ていない()がいるじゃないかって? 2人がダウンした後に、延々と分身ちゃんを貪っていた彼女でしたら……。

 

「うぅ、お恥ずかしい限りです。主さまと繋がっているだけで幸せな気持ちでいっぱいになってしまいました……///」

 

 とのコメントを残しています。一晩で二桁とか、白金等級ですか? なんて怖ろしい()ッ!?

 

 

 

 

 

 さて、なんとかお昼ごろになって動けるようになった3人を起こし、リビングで昼食をとる一党の面々。大皿に山盛りになったミートボール入りパスタ(カリオストロの城のやーつ)をメインにシチューを添えたそれを下品にならない程度に腹へ流し込むように食べているあたり、よっぽど体力を消耗したんでしょうねぇ。

 

「それで、軍と神殿の動きは分かったけど、冒険者(わたしたち)は今後どうやって動くつもり?」

 

 吸血鬼侍ちゃんの口元をナフキンで拭いながら剣の乙女に問いかける女魔法使いちゃん。他のみんなの目も同じように彼女に向けられています。

 

「今、陛下直属の密偵が内通者を暴発させようと動いています。こちらの感知するなかで蜂起させて、一気に殲滅する考えのようですわ」

 

「ふーん、でも犯人が分かっているなら、さっさと捕まえればいいのに」

 

「所詮王宮に潜んでいるのは末端ですから。彼らに話を持ち掛けた人物を表舞台に引き摺り出すのが真の狙いなのですよ」

 

 剣の乙女の言葉にうんうんと頷いている吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃん。分身ちゃんはともかく吸血鬼侍ちゃんは多分理解してないですね。

 

「おそらく、そう遠くないうちに内通者に対する依頼が来るでしょう。それに備えて、皆様も力を付けなければいけません。ですので……」

 

 そう言いながら剣の乙女が机の上に置いたのは……羊皮紙ですね。一党の名前が書きこまれていますが、何に使うつもりなのでしょう。

 

「私を含めて、現在この一党には6人の真言呪文遣いがいます。その内で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この二点を目標にしたいと思いますの」

 

 なるほど、たしかに今の段階では決まった組み合わせでしか分割詠唱が上手く行えていないみたいですし、それは重要ですね。でも、呪文の威力を抑えるっていうのはどういうことなんでしょう?

 

「あの、組み合わせの多様化については理解できますけど、呪文の威力を抑えることの必要性はなんでしょうか?」

 

 お、令嬢剣士さんが聞いてくれました。現状分身ちゃんを組み合わせに入れないと詠唱が行えない彼女にとって渡りに船な目標ですし、疑問点は早めに解消しておきたいですもんね。

 

「分割詠唱の技術自体は、一定以上の力量を持つ者であれば習得は然程難しくありません。では何故冒険者の間で広まっていないのでしょう? それは、発動した呪文の威力に術者が耐えきれないからです」

 

 剣の乙女はそう言うと、認識阻害の眼鏡越しに吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんを見つめています。おや、何かやましいことでもあるのでしょうか? 2人が目を逸らして下手糞な口笛を吹き始めました。

 

「制御出来ない呪文は術者へと逆流(バックファイア)してしまいます。……皆さんに内緒で身体の内に呪文を受け入れていましたね?」

 

「「……はい」」

 

 確信めいた口調の圧に負け、素直に認める2人。再生するのを良いことに、黙って反動ダメージを許容してたんですね。でもそれは吸血鬼侍ちゃんたちだから出来る芸当であって……。

 

「ええと、2人への説教は後回しにするとして。つまりこの子たち2人を含めない組み合わせで分割詠唱をすると、3人のうち誰かが吹っ飛ぶ可能性があるってことかしら?」

 

「……いえ、()()()()()()()()()()()()。分割詠唱を習得した術者の呪文というものは、それだけの威力を秘めているのですから」

 

 女魔法使いちゃんの質問に溜息とともに返答する剣の乙女。一歩間違えれば起きていたであろう大惨事を想像して、呪文遣いたちの顔色が一気に悪くなってます。負傷を隠していた2人に注がれる視線も増し、居心地が悪そうに身体を縮こませています。

 

「分割詠唱の真髄は、3人掛かりで三倍以上の威力を出すのではなく、三倍以上の継戦能力を確保する事にあるのです。それが、あの【死の迷宮】で私たちが得た教訓ですの」

 

 

 

 実体験を伴う重みのある言葉に、声を失う面々。それを払拭したのは、妖精弓手ちゃんの明るい声でした。

 

「つまり、私や若草ちゃんの役目は詠唱に入って無防備なみんなを守り抜く事ね! なあんだ、いつもと変わらないじゃない!!」

 

「はい、主さまや皆さまをお守りするのが(わたくし)の役目でございます。安心して背をお預けくださいませ」

 

「もちろん、詠唱に参加しない場合は私やお嬢さんも護衛に回るからね。そっちの入れ替え(スイッチ)もしっかり訓練しておかないと」

 

 続けざまに声を上げる森人三姉妹。その様子を見て剣の乙女も笑みを深め、どこか懐かしいものを見る表情を浮かべています。気炎万丈な仲間たちに号令をかけるように、片手を突き上げた吸血鬼侍ちゃんの声が響きます。

 

「みんなでがんばって、もっともっとつよくなる! そうして、ゴブリンをこのせかいからほろぼしてやる!!」

 

 みんなから放たれるおー!という声に分身ちゃんもうんうんと頷いています。さらに結束の深まった一党の成長に、今後も期待できそうですね!

 

 

 

 

 

「まあそれはそれとして、痛いのを隠していたそこの2人はお説教なんだけどね」

 

「「……やさしくしてね?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで時は過ぎ、日々の業務(ゴブリン退治)の合間に訓練を重ねていたらめっきり秋も深まってまいりました。山沿いでは雪がちらつき始めた地域もあるみたいですね。

 

 忙しい職務の合間を縫って剣の乙女が参加してくれたことで、分割詠唱の精度も随分上がりました。最初は制御に失敗して逆流を一手に引き受けた吸血鬼侍ちゃんと分身ちゃんが爆散する珍事も起きていましたが、今ではそれも笑い話に……するには随分血生臭いですねぇ。とりあえず致命的失敗(ファンブル)しなければ問題ないレベルまで引き上げられたので、実戦にも十分耐えられるでしょう。

 

 同時に進められていた魔力貯蔵計画も順調な様子。依頼で消費しなかった余剰の魔力を注いでいるので溜まる量は微々たるものですが、継続していれば馬鹿にならなかったみたいです。分身ちゃん曰く、このペースなら遅くとも春までに1人分の儀式に必要な魔力は溜まるとのこと。

 

 只人(ヒューム)の3人で話し合った結果、やはり最初は剣の乙女が良いのではという結論に至ったそうです。眷属化の際にデイライトウォーカーになるためには対象の素養が重要なので、自分の力量(レベル)に不安がある女魔法使いちゃんと令嬢剣士さんはもう少し研鑽を積んでからにしたいそうです。

 

 ……決して剣の乙女の年齢が一番上だからじゃないですよ? 吸血鬼侍ちゃんと歩いているときに「可愛い娘さんですね!」って言われて剣の乙女が凹んでたなんて事実はありませんから。

 

 

 

「収穫の時期に入ったけど、今年はゴブリン退治の依頼は例年より少ないってオルクボルグが言ってたわ。春からこっち新人たちと一緒に駆除して回ってた効果が出たのかもね」

 

「各地の神殿も協調して小鬼禍に対処してますので、そちらも成果を出しているようですの」

 

 朝食の麦粥(ポリッジ)をスプーンでかき混ぜながら、互いの仕入れてきた情報を交換する一党の面々。軍も組織だって『赤い手』の軍勢の雑兵たるゴブリンに対処しているでしょうし、ゴブリンの絶対数が減少しているのかもしれませんね。

 

「このあいだ2人が呼び出された火石に擬態していた原型生物(シング)退治。本格的に目覚める前に別の異形が滅ぼしちゃったんだっけ」

 

「うん、ただでさえややこしいじたいなのに、これいじょうふかくていようそをふやされてたまるかっておこってた」

 

「おじぎをしてかえってった無貌の神(つきのまもの)さんをみて、ゆうしゃちゃんたちもにがわらいしてたね」

 

 シングは犠牲になったのだ……盤面を整理したいというGMの願い、その犠牲にな……。

 

 散々舞台を引っ掻き回されて激おこな神々の仕置きも最骨頂。そろそろ耐えきれなくなって暴発すると思うのですが……お、≪転移≫の鏡が波打っています! これはもしかしなくても……。

 

 

 

 

 

「おはよう諸君、随分待たせてしまったね。君たちと西方辺境の銀等級に、王国からの指名依頼だよ。依頼内容は『狐狩り(フォックスハント)』。漸く尻尾をだした黒狐を狩ってもらいたい。……悪いけど、ギルドまで案内してもらえるかな?」

 

 

 

 今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。

 

 

 




 新年度が忙しくないのを期待しつつ失踪します。

 いつも誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
 お気に入り登録や感想、評価についても執筆速度が上がりますのでよろしくお願いいたします。

 お読みいただきありがとうございました。

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